課題番号:1814

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

京都大学防災研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

岩石摩擦の物理的素過程に関する実験的研究

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (4)地震発生・火山噴火素過程
        • ア.岩石の変形・破壊の物理的・化学的素過程

(4)その他関連する建議の項目

  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (4)地震発生・火山噴火素過程
      • イ.地殻・上部マントルの物性の環境依存性
      • ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性

(5)本課題の5か年の到達目標

高速・大変位の条件および摩擦すべり面上のアスペリティの分布(摩擦強度の時空間的不均質)のそれぞれに着目して地震発生に関わる摩擦挙動を理解することを目的とする.0.1 mm/s程度の中速から1 m/s程度の高速までの幅広い速度条件で,かつ大変位の摩擦実験を行って,様々な地殻物質について地震性すべりにおける摩擦特性を明らかにする.また,自然の断層面上に存在すると考えられているアスペリティを実験室で再現し,そのせん断応力の作用にともなう時空間変化の解析から,アスペリティの物理的背景,特に地震波の解析から提出される「応力降下量の大きいところ」というアスペリティ像と接触面上の強度の不均質との関係を解明する.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度は,高速・大変位班では,岩石試料,沈み込み帯物質などについて,すでに開発した摩擦試験機を用いた,0.1 mm/s程度の中速から1 m/s程度の高すべり速度の条件下でかつ大変位の摩擦実験を行う.速度・変位の条件を変えながら繰り返し実験することより,多様な条件下における岩石摩擦の概要を明らかにする.また,中―高速条件における速度急変実験を行うことのできる実験システム構築を目指した技術開発に取組む.アスペリティ班では,岩石試料(もしくは岩石を模擬した材料)どうしの接触面にせん断応力を作用させながら,透過弾性波,透過光などによる接触面の固着状態の可視化と,ひずみ測定,光弾性などを利用した面上のひずみ分布の2次元的な把握を同時に行なうことができるせん断時接触面モニターシステムを開発する.
平成22年度~平成25年度は,高速・大変位班では,引き続き,幅広い速度,変位条件での摩擦実験を行って,岩石試料,沈み込み帯物質などについて摩擦特性を明らかにする.また,定常摩擦の速度依存性を明らかにすることを目的とした実験を行う.さらに,摩擦面の変形組織を解析することで,物質変化や変形と摩擦特性との関係を明らかにするための研究をすすめる.アスペリティ班では,初年度に開発したシステムにより,2つの試料を接触させた模擬断層の2軸せん断実験を行いながら,接触面の固着状態と変形(すべり)速度のそれぞれの時空間分布を測定し,面上の個々の点でのすべりの構成関係を調べることができるようにせん断試験装置を調整・改良する.マクロな変位速度や応力などの測定量と接触状態の関係を調べる.実験室の透過弾性波ではmmオーダーの強度の不均質に敏感であること,自然の地震断層のアスペリティが数~数十kmオーダーであることを考慮し,実験の時空間スケールを調整する.単純にふたつの試料を接触させるだけでなく,接触面間にガウジ物質をはさんで,アスペリティをより強調した状態での同様の実験を実施する.

(7)平成21年度成果の概要

 回転式中−高速摩擦試験機を用いて,付加体物質(チャート,泥質岩)の摩擦実験を行い,すべり速度 0.87mm/s - 104mm/s,垂直応力1.5MPaの実験条件における摩擦特性を調べた.珪質岩であるチャートの中ー高速すべり時には,顕著なすべり弱化と速度弱化が認められる.摩擦生成物の詳細な分析を行った結果,断層面に水和化非晶質シリ カを含むガウジ物質が形成されることが明らかになった.今年度はまた,泥質岩の摩 擦構成則パラメータ推定を目的とした,低−中速でのすべり速度急変実験を開始した.
 岩石試料どうしの接触面にせん断応力を作用させながら,透過弾性波による接触面の固着状態の可視化と,ひずみ測定を利用した面上のひずみおよび発生するAEの分布の2次元的な把握を同時に行なうことができるせん断時接触面モニターシステムの開発を開始した.特にAE波形の高速サンプリング連続記録システムの開発を行った.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • Ujiie, K., Tsutsumi, A., Fialko, Y. and Yamaguchi, H., 2009, Experimental investigation of frictional melting of argillite at high slip rates: Implications for seismic slip in subduction-accretion complexes. Journal of Geophysical Research, 114, doi:10.1029/2008JB006165.
  • 堤 昭人,2009,高速すべり時における岩石の摩擦強度弱化の機構‐摩擦熔融を伴わ ない場合について‐,地震,第61巻,S527-S533
  • 堤 昭人・林 奈央・井上結貴,2009,プレート沈み込み帯における付加体物質の摩 擦特性,トライボロジー,54(11),738-743.

(9)平成22年度実施計画の概要

 回転式中−高速摩擦試験機を用いて,付加体物質(チャート,泥質岩,南海掘削試料 など)の摩擦実験をおこない,0.003mm/s−1m/sのすべり速度における摩擦の性質を 明らかにする.特に粘度鉱物を含む泥質付加体物質の中・高速摩擦の性質を明らかに する.また,力学データ取得に加え,断層物質の分析や変形組織の解析をするめる.
 せん断時接触面モニターシステムを利用し,法線応力を変化させながら,透過弾性波によって接触面の固着状態を可視化し,同時に測定する面上のひずみとの相関を調べる.またせん断時に発生するAEの分布を2次元的に把握する.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

担当者:加納靖之(京都大学防災研究所)
<高速・大変位班> 担当者:堤 昭人(京都大学大学院理学研究科)
<アスペリティ班> 担当者:加納靖之(京都大学防災研究所)・川方裕則(立命館大学)

他機関との共同研究の有無

(11)問い合わせ先