課題番号:2202
九州大学
九州地域(日向灘)におけるプレート境界近傍での応力場の時空間変化
微小地震活動が活発な日向灘において、海底地震計による自然地震観測を行うことにより、地震の震源位置と発震機構解を高精度で推定する。応力場逆解析法によりプレート境界近傍での応力場を求め、アスペリティとの関係の特徴を抽出および検証する。海域を含めた観測データを用いて地震波トモグラフィ解析を行うことにより、固着域・非固着域及びその周辺域での特徴的な構造の理解を行う。また、カップリング率の大きい東南海・南海地震想定震源域との比較、また、カップリング率が日向灘と同様に中程度と考えられている千島海溝・日本海溝との比較研究を行い、アスペリティ・非アスペリティ領域における地震波速度構造の特徴の理解を進める。応力場逆解析法を高分解で行うための手法の高度化を図り、応力場の時間変化の検出を試みる。
平成21年度は長崎丸(長崎大学)を利用し、日向灘南部において4月から7月までの約2ヶ月間強の期間、自然地震観測を実施する。また、九州東部における陸上定常地震観測点の空白地域にテレメータ点を設置し、データの蓄積を図る。それらのデータを用いて地震活動及び応力場解析、またトモグラフィ法により速度構造を求める。また、応力場の時間変化を検出するための解析手法の開発に着手する。平成22年度以降も長崎丸による海底地震計を用いた自然地震観測を行い、データの蓄積を図る。応力場逆解析法を高分解で行うための手法の高度化を図り、応力場の時間変化の検出を試みる。
長崎丸(長崎大学)を利用し、日向灘南部において4月21日から7月8日までの77日の期間、海底地震計(OBS)による自然地震観測を実施した。その間、鹿児島県種子島北部と宮崎市に陸上地震観測網の空白域をうめる形でオフラインの観測点を設置した。
陸上地震観測点については、宮崎県日南市にVSATによるテレメータ点を設置した。また、宮崎県西都市にオフラインの地震観測点を設置し、テレメータ点設置のためのノイズレベル調査を行った。
1994年5月から2009年7月までの約15年間の期間について、陸上定常地震観測網の波形データを使い、M2.0以上の地震を用いて相似地震解析を行い、種子島北方の日向灘におけるプレート境界での準静的すべりについて知見を得た。図1にプレート境界で発生していると思われる相似地震グループの分布を、図2に準静的すべりレート分布とプレート境界面の法線ベクトルとσ1軸のなす角度θ[植平(2007)]との比較を示す。プレート境界での相似地震は1968 年日向灘地震のアスペリティより南に存在し、四国沖の南海地震想定震源域や豊後水道のスロースリップ領域には存在しないことが分かった。θがほぼ0°に近くプレート境界面に剪断応力が働いていないと考えられる日向灘北部と陸側よりでも相似地震が発生していないことが分かった。また、1968年日向灘地震(M7.5)や1996年10月と12月に発生した大地震(M6.8とM6.7)のアスペリティ周辺で相似地震が発生しており、アスペリティと棲み分けて分布している事が分かった。植平(2007)で指摘された、1961年の地震(M7.0)のアスペリティと考えられる宮崎県日南海岸沖のプレート境界付近の剪断応力が大きな領域においてはスリップレートがプレートの沈み込み速度よりも低く、両者の結果は調和的であることが分かった。
2006年と2008年に実施した海底地震観測のデータを使い、DDトモグラフィ法を適用して日向灘南部における精度の良い震源分布、発震機構解と地震波速度構造を求めた。その結果、速度構造はP波についてはある程度精度良く求められ、九州パラオ海嶺の沈み込みに対応する速度構造も求めることが出来た(図3)。地震は深さ10km 以深で起っており、九州東方の海岸より約40km 離れた場所までは,プレート境界付近から海洋性マントルの上部までに地震活動があることが分かった。九州パラオ海嶺の沈み込んだ場所では地震活動が活発であり,深さ15km~30km の範囲で起こっている。発震機構は、上面では低角逆断層型でありプレート境界で発生している地震と考えられ、深い方はDowndip-tension の正断層型の地震である。九州パラオ海嶺の沈み込んでいる南側では,北側と比べるとトレンチ付近まで地震活動が見られる。震源の深さと構造を比較すると海洋性マントルの上面付近で発生するフィリピン海プレート内の地震で、Downdip-tensionの正断層型の地震である。
平成22年度は長崎丸(長崎大学)を利用し、日向灘南部において4月から7月までの約2ヶ月間強の期間、自然地震観測を実施する。また、九州東部における陸上定常地震観測点の空白地域にテレメータ点を設置し、データの蓄積を図る。それらのデータを用いて地震活動及び応力場解析、またトモグラフィ法により速度構造を求める。また、応力場の時間変化を検出するための解析手法の開発を行う。
植平賢司、清水 洋、内田和也
有
東北大学、東京大学、長崎大学、鹿児島大学