課題番号:2206

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

九州大学

(2)研究課題(または観測項目)名

マグマの発泡過程に注目した噴火履歴・多様性・推移の定量的把握と支配要因の特定

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (4)地震発生・火山噴火素過程
        • エ.マグマの分化・発泡・脱ガス過程

(4)その他関連する建議の項目

  • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
    • (2)地震・火山噴火に至る準備過程
    • (2-2)火山噴火準備過程
      • イ.噴火履歴とマグマの発達過程
    • (3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
    • (3-3)火山噴火過程
      • ア.噴火機構の解明とモデル化
      • イ.噴火の推移と多様性の把握

(5)本課題の5か年の到達目標

本研究では、これまでのマグマの発泡過程や結晶化過程の研究成果を利用して、選定した火山に対して、まず、1つの噴火において噴出物に記録されているマグマの経験した減圧速度を定量的に把握し、これまでにわかっている規則性を強固なものにすると同時に、マグマの増圧・減圧過程や噴火の推移の支配要因を特定することを目指す。また、比較的単純な単一様式の噴火(例えば、プリニー式、ブルカノ式、溶岩ドーム)について、噴火の推移を直接取り扱う火道内非定常モデルの作成と簡単な室内実験を試み、火道内部での素過程と火山灰生成や火山ガスの散逸など地表現象の関係を理解する。さらに、噴火履歴の中で噴火の推移の支配要因がどのように変動してきたかを解明し、噴火シナリオのデータベースに資する。本年度は、このような全体の計画を念頭に置き導入的基礎データを収集する。

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度においては、間欠泉噴火の基礎実験を行う。
平成22年度においては、物質科学的観測を用いた噴火の推移・様式・履歴の定量化のためのサンプリングを行なう。間欠泉噴火の周期性に関して実験的検討を行なう。
平成23年度においては、噴出物の分析を行い、噴煙柱崩壊に伴う、減圧速度の変化の見積を行なう。間欠泉における微動発生機構について室内実験を行い、微動データを収集する。
平成24年度においては、マグマの発泡のカイネティックスを組み込んだ非定常火道モデルの理論的検討を行なう。また、間欠泉実験の改良と、噴出物の物質科学的データの補足を行なう。
平成25年度においては、これまでの研究結果を整理し、不足分を補い、噴煙柱崩壊の機構及び間欠泉噴火における噴火様式の遷移機構を理解し、マグマの発泡のカイネティックスのモデル化を行なう。

(7)平成21年度成果の概要

間欠泉噴火の基礎実験によって、実験間欠泉の基本的性質を把握し、その結果が長期予測と短期予測に関して示唆する点について考察した。簡単な間欠泉の室内実験装置を作成し、フラスコ内熱水の温度圧力を連続的に測定した。また、自動出力天秤をPCに接続して噴出量を記録することによって、噴出から次の噴出までの時間と噴出量のデータを連続する70~100回の噴火について得た。また、ビデオカメラで噴出の様子を録画し、噴出様式と様々な変数(噴出量と噴出量分布、前駆的振動現象特徴、噴出の周期)との関係を吟味した。その結果次の事柄がわかった。
I.噴出様式と噴出量に関して
(1)観測の結果、噴出様式は大別すると、熱水が噴出口から勢いよく噴出する「Jet」と、熱水が噴出口から流れ出る「Outflow」の2種類に分類できる。
(2)噴出様式はヒーターからフラスコ内の水への熱輸送効率に依存した。すなわち、熱輸送効率が比較的大きな値をとるとき「Jet」が起こりやすい。
(3)実験においても天然と同様「time-predictable型」の現象が実現した。
(4)噴出量の頻度分布は、「Jet」が支配的な噴出様式であるときGaussian型であり、「Outflow」が支配的であるときはwhite noise型(噴出量が小さなものから大きなものまでほぼ同じ頻度である状態)であった。
(5)フラスコ内の圧力変動度(これをPPFと呼ぶ)が小さいときに噴出量は一定値(大噴出量)に集中し、大きいときに幅広い値(小~大)が測定された。
(6)噴出率(単位時間当たりの噴出量)と熱輸送効率との間に正の相関がある。
II.前駆振動現象のフラスコ内圧力変動に関して
(7)特徴的周波数は、噴出直後から次の噴出に向けて時間と伴に単調に小さくなり、1Hz付近に達すると噴出に至る。
(8)圧力変動は、大きく三つの時期に分けることができる:噴出期、噴出後活発期、噴出直前静穏期。
(9)噴出期の圧力減少では、その極小値は、噴出様式と比較的良い相関があり、Jetでは1000Pa、Outflowでは2000Pa程度である(大気圧を0とした時)。
(10)噴出後活発期では、圧力パルスは特徴的周波数をもった圧力変動の極大時もしくはそれからの減少時に起き、急激な圧力減少を伴う。
(11)噴出直前静穏期では、圧力パルスは、特徴的周波数をもった圧力変動と相関をもって発生する場合もあるがない場合もある。圧力パルスの振幅は、活動期に比べて小さく、緩やかな圧力減少を伴う。
以上の結果(2)・(4)・(5)より、PPFは熱輸送効率を代表する指標であると考えられる。ここで注意すべき点は、実験においてPPFが、機器により直接測定できる値であるのに対し、時間経過や実験状況により繊細に変化してしまうような熱輸送効率は、ヒーターからの熱効率や実験系中の流れ等により測定が困難な値である。従って、アナログ実験による間欠泉において、PPFは、次の噴出時の噴出量や噴出様式を予測する際に利用できる重要な量として期待できる。
火山噴火または間欠泉噴出の予測を、直前の前駆現象を利用する短期予測と、それを利用しない長期予測に分けて考える。今回の実験結果から、短期予測においては、噴出までの時間は微動の特徴的周波数の減少から予測可能であり、噴出量と噴出様式は、前駆期の圧力変動(PPF)から制約を与え確率予想をすることが可能である。長期予測に関しては、噴出までの時間は直前の噴出の噴出量から予測可能であるが、噴出量と噴出様式に関しては、その予測可能性はいまだ不明である。

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

    (9)平成22年度実施計画の概要

    実験間欠泉における噴出様式の支配要因や前駆振動現象の物理的メカニズムを、簡単なモデルを用いて理解し、その結果を天然の間欠泉や噴火現象への応用する。そのほかの二つのサブテーマ(1.物質科学的観測を用いた噴火の推移・様式・履歴の定量化と2.物理モデルの解析及び数値シミュレーションによる発泡・結晶化・脱ガス過程の解明)については、姶良カルデラの形成に伴う噴出物のサンプリングとメルトインクルージョンの分析とマグマの発泡のカイネティックスを組み込んだ非定常火道モデルの理論的研究を行う。

    (10)実施機関の参加者氏名または部署等名

    寅丸敦志 九州大大学院理学研究院

    他機関との共同研究の有無

    吉田茂生 名古屋大大学院環境学研究科

    (11)問い合わせ先

    • 部署名等
      九州大学大学院理学研究院
    • 電話
      092-642-2696
    • e-mail
    • URL