課題番号:2207

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

九州大学

(2)研究課題(または観測項目)名

新世代通信データ伝送システムの開発

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 3.新たな観測技術の開発
      • (3)観測技術の継続的高度化
        • イ.地震活動や噴火活動の活発な地域における観測技術

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の5か年の到達目標

火山観測においては,多種目の地球物理観測を同時に行うことから,各種のセンサーが接続可能であり,データがリアルタイムに伝送されるシステムが不可欠である.しかし,火山周辺地域は観測網を構築するための社会基盤(電力,通信,インターネット)が弱く,必ずしも十分な観測体制が取れていない.これを解決するためには火山観測に特化した通信方式の開発が必要である.
商用の無線LANシステムの利用もいくつかの火山で進められているが,消費電力の問題や長距離・高信頼度通信のために新たな無線システムが必要とされている.しかし,新規の無線帯域の使用は,無線行政の動向に左右されるため,これまで日本国内での開発は難しかった.
本研究では,多種目観測システムを接続する共通BUSとして最近利用が始まっているCANBUS規格の採用も念頭に置いて,無線や光ファイバーなども用いた小型低消費電力低価格のデータ伝送システムの開発を目的とする.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21年度 共同研究者と無線や光ファイバーを用いたデータの伝送方式についての仕様検討会を実施し,機器作成メーカを策定する.
平成22年度 機器の開発を行う.適宜検討会を実施し,仕様の再検討を行う
平成23年度 プロトタイプ機器により試験観測を実施し,量産型への検討を行う.
平成24年度 量産タイプ機器により,実地試験を行う.
平成25年度 量産タイプ機器により,実地試験を継続する. 本運用での問題点について改良を行う.

(7)平成21年度成果の概要

 火山地域などの悪条件下においての各種観測データの伝送方式の開発を目指して,以下の3つの方式のデータ伝送実験を行った.

(1)携帯電話カードの定額料金プランを用いた地震データ転送
 近年携帯電話のデータ通信に定額料金プランが設定されるようになり,データ通信専用端末(データカード)を用いて地震等のデータを連続して送信することが,現実的な価格で可能となった.先行して定額料金サービスを始めていたauのデータカードを用いて東濃地球科学研究所や東北大学地震・噴火予知研究観測センターで同様な地震データテレメータの構築が行われているが,我々はその他のdocomo社やsoftbank社,E-mobile社の製品も用いて,なるべく単純で安価なシステム構成を目標として開発実験を行った.
 各社のデータ通信カードのほか,データ通信カードを接続できるルータ(モバイルルータ)が必要となる.データ変換装置としては,白山工業社製LS-7000XT,地震計としてLennartz社製LE3Dlite(1Hz3成分)を使用した.電源として32Wのソーラーパネルを使った.
 データ通信カードはいくつかの機種をつかって試験をした結果,docomo社のL-05Aを採用した.またルータとしてアイオーデータ社製のDCR-G54/Uが最適と判断した.ルータおよびデータ通信カードの合計消費電流は約160mAである.データ変換装置および地震計の消費電流も約160mAであり,合計320mAの消費電力となる.現在32Wのソーラーパネルで屋外運用の実験を実施しているが,天候不良が3,4日続くと電力不足で停止する.安定運用のためには,60W程度のソーラーパネルを使用することが必要と考えられる.
 今回開発したシステムにより,月5000円程度の定額データ通信量を支払うことで,携帯電話データ通信サービスエリア内であれば3ch100Hzの地震データをセンターに簡便に伝送をすることができるようになった.

(2)プリペイド式携帯電話端末を用いたGPS観測網のテレメータ化
 GPS定常観測データ等のリアルタイム性を重視しない観測では,必ずしも観測データをサンプリングごと送信する必要はなく,受信機内に蓄積されたデータを定期的にftp等で回収する方式でも対応可能である.このようなデータの転送のために本課題では,プリペイド式携帯電話端末を用いたGPS観測網のテレメータ化の実験を行った.プリペイド式携帯電話端末は,購入価格のなかに,一定時間の使用料金がすでに含まれており,面倒な月払いの事務手続きが不要である.
 本研究で採用したプリペイド式携帯電話端末は日本通信社製のbモバイル3Gアワーズ180である.4万円弱の価格で大学生協で購入可能であり,180時間分の通信ができる.最大利用期間が480日となっているため,1日あたり22.5分のデータ通信が可能となる.
 この携帯電話端末をアイオーデータ社製のDCR-G54/Uと組み合わせ,電源タイマーで毎日20分程度起動することで,この時間帯にインターネット経由でルータに接続したネット対応型GPS受信機にアクセすることが可能となる.ルータのIPアドレスは接続するごとに変わるが,アイオーデータ社が無料サービスしているダイナミックDNSサービスを利用することにより,毎回ユニークなドメイン名を使ってアクセスすることでGPS受信機に接続することが可能となる.現在この携帯電話テレメータを使ったデータ回収とGPS解析ソフトの起動を毎朝自動で行い,全自動の観測・解析システムの構築を鹿児島大学と共同で行っている.

(3)低消費電力の小型小電力無線機を用いた無線LAN装置の開発

 市販の小電力無線機のデバイスとしては900MNz帯,2.4GHz帯のものがある.このうち,902-928MHz帯は米国等の第二地域ではアマチュア局を含む移動局に割り当てられているが,日本国内では携帯電話やMCA無線等に周波数が割り当てられているため,一般の使用を認められていない.そこで本課題では日本で無線LAN等の無線機器に使用が認められている2.4GHz帯の使用を念頭に置いて機器の開発を進めることとした.
 一般に市販されているの無線LAN機器は入手が容易で,価格も安価である利点はある.しかし,消費電力は数Wから十数Wと大きく,屋外で使用する場合には,大型のソーラパネルを用意する必要がある.
そこで,本課題では消費電力が1W程度と非常に低消費である小型無線機(シモレックス社製SC-PPX2400P,双方向シリアル通信機)を用いて無線LAN化することを検討した.
 阿蘇山での実験の結果,広指向性の平面パッチアンテナを使用しても,見通し範囲であれば2000mの距離でも十分ループバックの試験通信が可能であることがわかった.八木アンテナ等の狭指向性のアンテナを使用すればさらに到達距離が伸びることが想定される.
 なお,当初計画ではCANBUS規格の採用を念頭に技術開発を進める計画であったが,CANBUS規格を精査した結果,この規格では両端末間の路線長が40kbpsで1000mという条件があることが判明し,端末間のラグも考えると長距離の接続はできないことがわかった.
 長距離接続をめざすためには新たな規格の制定を目指す必要がでてくる.しかし,その場合市販のCANBUSデバイスが使用できないため,一からの作成が必要となり,多くの費用と時間が必要となるうえ,市場流通による開発費用回収も難しいと考えられる.したがって,現段階の技術水準ではCANBUS規格の採用は見送らざるを得ないという結論に達した.この理由から,当分の間,本研究課題では一般的なデバイスの流用が可能で,一般的な技術で汎用性が高いTCP/IPを使用することを今後の方針とした.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

    (9)平成22年度実施計画の概要

     平成22年度は,前年度で作成した(1)携帯電話カードの定額料金プランを用いた地震データ転送,(2)プリペイド式携帯電話端末を用いたGPS観測網のテレメータ化,の各伝送システムのさらなる改良を目指す.また(3)低消費電力の小型小電力無線機を用いた無線LAN装置の開発については,現在の双方向シリアル通信をTCP/IP化を目指す.

    (1)携帯電話カードの定額料金プランを用いた地震データ転送
     使用例を増やし,不具合の洗い出しを行う.現在見つかっている不具合としてソーラパネルを電源としている場合,停電からの復電時に地震パケットが送信されなくなるという不具合が見つかっているため,その原因調査および対策を考える.
     大地震の直後など,被災地では携帯電話のデータ通信も混雑するため,通信速度が極端に遅くなる可能性がある.この場合に地震データのパケットの伝送がそのようになるのかを把握し,対策を考える.
     また携帯電話だけではなく,衛星携帯電話を用いたテレメータに拡張する場合のリサーチおよび技術的問題の把握を行う.

    (2)プリペイド式携帯電話端末を用いたGPS観測網のテレメータ化
     前年度の試験では,一部システムがハングアップする現象が見られたため,その原因調査をするとともに,テレメータシステムと対になる自動解析システムの構築を目標とする.

    (3)低消費電力の小型小電力無線機を用いた無線LAN装置の開発
     低消費電力の双方向シリアル通信装置を用いて,TCP/IP化を目指すが,このためのデバイスをリサーチする.デバイスは,無線機よりさらに消費電力が少ないことが望まれるため,市場のデバイスを調査するとともに,必要であれば自作することも考慮に入れる.
     なお,今後のアナログテレビ放送停波に伴う携帯電話周波数の再編に伴い,900MHz帯の周波数割り当てが変更になる可能性も残されていることから伝搬距離として有利な900MHz帯の小電力無線機の利用もリサーチも続けていく.

     そのほか,噴火予知研究委員会等の各種研究集会において本開発研究の成果を公表するとともに,幅広い意見をユーザーの立場から上げてもらい,今後の開発の改良点として検討を進めていく.

    (10)実施機関の参加者氏名または部署等名

    九州大学大学院理学研究院 松島 健・清水 洋 他2名

    他機関との共同研究の有無

    北海道大学大学院理学研究院 大島弘光
    東京大学地震研究所 森田裕一・及川 純 
    京都大学大学院理学研究科 大倉敬宏
    そのほか,火山噴火予知研究グループ内で適宜意見交換し,よりよい機器開発をめざす.

    (11)問い合わせ先