課題番号:2402
立命館大学
南アフリカ大深度金鉱山における微小破壊・微小地震観測
室内実験では,岩石の破壊に先行して,AEの発生が活発になることや,応力-ひずみ関係の線形性が失われることが知られている.固着-すべり実験においても,高速すべりに先行して,局所的なすべりが生じる(破壊核形成)ことが知られている.自然地震では,地震発生に先行して,このような現象が観測されたことはない.破壊核形成に伴うと思われる現象が観測されていない理由の一つとして,自然地震の破壊核がきわめて小さいことが考えられる.一般に,通常の観測網と震源断層は数十km以上離れているので,破壊核がきわめて小さい場合,その形成に伴う異常を検出することは困難であろう.南ア金鉱山では,震源断層から数m以内にセンサーを配置して断層の変形や微小破壊を観測することも,条件次第では可能である.そのため,破壊核が本当に存在するならば,たとえそれが小さくても検出できるはずである.そこで本課題では,南アフリカ大深度金鉱山における多項目観測と室内岩石破壊実験における高周波AE計測により,地震破壊現象の物理過程を明らかにし,そのスケーリング則の確立を目標とする.
(a:南アフリカ金鉱山)岩石実験により蓄積された破壊力学の知見を自然地震の発生過程に適応することの妥当性を検証するために,岩石実験と自然地震の中間的規模(cm級~数百m級)の破壊現象である鉱山地震を南アフリカ大深度金鉱山において観測する.同一サイトにおいて,ひずみ計や,AEセンサー,地震計をもちいた多項目広帯域観測をおこない,種々の地震破壊現象の規模と継続時間に関するスケーリングを確立する.同時に,高感度ひずみ観測やコア計測の結果に基づき,震源の物理的環境を推定し,地震破壊の物理モデルの構築を目指す.
(b:室内実験)主たる地殻構成岩石である花崗岩などを用いた三軸圧縮破壊試験を行い,mm~cm程度の破壊現象の素過程を明らかにし,断層形成の物理モデルの構築を試みる.具体的には,微小破壊に伴うAEの高周波数帯域計測技術を利用し,大小さまざまなAEの広帯域波形を長時間連続収録により取得する.主として経験的グリーン関数法に準じた手法によってAEの相対規模とその継続時間を推定する.また,センサーの特性を明らかにし,記録を速度のような物理量に変換することにより,AEの絶対規模推定もおこなう.これらの実験・計測により,現象論や経験則ではなく,物理モデルに基づいた破壊・摩擦現象のスケーリング則の確率を目指す.
(a:南アフリカ金鉱山)
平成21年度は,現在観測が実施されているサイトの維持につとめるとともに,得られた波形データの解析をおこなう.現在観測をおこなっているサイトでは,M>2の比較的大きな地震とその前後に発生したAEが記録されている.AEの震源を決定し,その分布や活動度の評価をおこなうとともに,周辺で記録された地震記録をもとに本震の断層面解の推定もおこない,本震とAEの発生の関係を調べる.並行して新規に展開する観測サイトの候補地を現地調査し,サイトの構築に向けての準備を進める.
平成22年度は,既存のデータ解析を進めるとともに,現行観測サイトの維持,新規観測サイトの構築を開始する.
平成23年度は,既存のデータ解析をとりまとめるとともに,現行観測サイトの維持,新規観測サイトの構築を完了する.
平成24年度は,新規観測データに関し,AEの震源を決定し,その分布や活動度の評価をおこなうとともに,周辺で記録された地震記録をもとに本震の断層面解の推定もおこない,本震とAEの発生の関係を調べる.また観測サイトの維持をおこなう.
平成25年度は、データ解析を進めるとともに,観測サイトの維持をおこなう.また,研究成果のとりまとめをおこなう.
(b:室内実験)
平成21年度は,解析の際に収録波形を較正するために,広帯域AEセンサー用の耐圧アセンブリを用いて,広帯域AEセンサーの応答特性を推定する.収録される波形記録は膨大な量となるため,効率的なデータ処理方法について検討をおこなう.
平成22年度は,並行して実施するトリガー収録記録をもとにAEの発生を同定するとともにトリガー収録のためのノイズレベルを決定する.三軸圧縮試験下での広帯域AEの連続計測を実施する.
平成23年度は,トリガー収録データを用いた震源決定をおこない,震源パラメタの推定をおこなう.連続収録記録から,イベント波形の抽出をおこなう.
平成24年度は,主として経験的グリーン関数法に準じた手法によってAEの規模とその継続時間を推定し,AEのスケーリングについて検討をおこなう.
平成25年度は,データ解析を進めるとともに,研究成果のとりまとめをおこなう.
平成21年度の成果の概要は以下の通りである.
(a:南アフリカ金鉱山):
南アフリカ金鉱山のひとつ,ムポネン金鉱山の地下3.3kmの坑道沿いに,最高で200kHzの地震波まで捉えることができるAE観測網を展開した.観測網の中には,厚さ約30mの玄武岩質ダイクがある.2007年12月に,観測網の直上約30mを震源とする,Mw1.9の地震が発生した.今年度は,AE観測網で本震後150時間以内に観測した2万個以上の余震の震源を精密に再決定した.また,鉱山会社が設置した広域の地震観測網でえられたデータから本震のモーメントテンソル解を推定した.
再決定した余震の震源は,本震の震源を含む,およそ100×80m2の面状に分布していた.この面の傾斜は約60度で,走向はダイクの走向とほぼ並行であった.モーメントテンソル解析に用いた鉱山全体をカバーする地震観測網では,センサーの極性やチャンネルテーブルが不正確であったので,隣接する鉱山で発生した遠地地震(震源距離は数km)を用いて補正をおこなった.推定されたモーメントテンソル解の節面のひとつは,余震が描き出した面と一致していた.このことから,本震は,傾斜60度の面で発生した正断層すべりであるといえる.
本震前9ヶ月間に震源域内で観測された歪変化や本震の1.5年後におこなった震源貫通掘削から,本震発生時に,震源域内では鉛直圧縮が卓越していたと推察される.
上記のことを考え合わせると,差し渡しが100m程度と,室内実験に比べて数桁規模の大きいM2級地震の断層破壊も,室内実験同様に,モール・クーロンの破壊として表現できるといえる.
この解析と並行して,南アフリカの複数の金鉱山で新規観測網を展開する準備を進めている.鉱山会社から提供された地質情報と現地調査でえられた情報に基づいて観測網の設計をおこない,不足している情報を補うための試掘を開始した.
(b:室内実験):
収録波形を較正するために,広帯域AEセンサー用の耐圧アセンブリを用いて,広帯域AEセンサーの応答特性を推定した.広帯域センサーの応答はレーザードップラー速度計を用いて精密に計測され,収録波形の補正に成功した.
これらの成果は,(6)に記した計画の概要と一致している.
(a:南アフリカ金鉱山) イズルイーニ金鉱山やモアプコツォン金鉱山等で新規観測網を展開する.ムポネン金鉱山で2007年12月に発生したMw1.9の地震の震源断層を直接観察するために,人が入れる程度の大きさの掘削をおこなう.
(b:室内実験)連続収録と並行して実施するトリガー収録記録をもとにAEの発生を同定するとともにトリガー収録のためのノイズレベルを決定する.ノイズの低減にも取り組み,三軸圧縮試験下での広帯域AEの連続計測を実施する.
立命館大学総合理工学研究機構 川方裕則・小笠原宏
有
東京大学地震研究所 中谷正生・五十嵐俊博