課題番号:2901

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

公募研究

(2)研究課題(または観測項目)名

活動火口に形成された強酸性火口湖における水温モニタリングシステムの開発

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
      • (2)地震・火山現象に関する予測システムの構築
      • (2-2)火山噴火予測システム
        • ア.噴火シナリオの作成

(4)その他関連する建議の項目

  • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
    • (2)地震・火山現象に関する予測システムの構築
    • (2-2)火山噴火予測システム
      • イ.噴火シナリオに基づく噴火予測

(5)本課題の5か年の到達目標

(本課題は平成21年度公募研究である)

(6)本課題の5か年計画の概要

(平成21年度公募研究計画)
阿蘇火山および草津白根火山の活動火口には,東京ドームの1.5倍の面積を有する巨大な火口湖が形成されている.これらの湖底では,活発な熱活動が非噴火期を通じて継続しており,草津自根の水温は20℃,阿蘇では70℃を越えることもある.湖水のpHは0-2で,高濃度のS02やH2Sガスが充満するなど,火出として見ても,相当厳しい自然環境下にある.特に阿蘇の火口湖は,高さi50mの断崖に囲まれており,人は接近できない.
これら火口湖で見られる高い水温は,湖底から噴出する高エンタルピー流体によって維持されている.このことは,火山の熱活動の変化に対して,湖水温度が極めて敏感に応答することを意味する.例えば阿蘇火山では,水温上昇→湖水の消滅→ ストロンボリ式噴火,というサイクル的な活動様式がよく知られている.また,水温変動は火山性微動の発生パターンと相関しており(Telada et al., 2008),水温をモニタリングする事で,噴火前兆現象の持つ意味を理解し,ひいては火山噴火予測へ資することが期待される.
阿蘇における水温観測には,これまで赤外カメラが用いられてきた.この方法では,湖面を標う湯気の影響を強く受ける.従って,例えば僅かな温度変化が見られたとしても,それが実際の火山活動を反映したものか判断が困難だった.また,火口まで観測者が出向く必要があり,悪天候時や活動活発化時には実施が難しい.
そこで,特殊な水温観測ブイを開発し,無線式温度計をブイの中に収め,水温データを1分程度の時間間隔で測定し,1時間に1回の頻度で任意のサーバヘ伝送するシステムを構築し,長期の定常的運用を目指す.
ここで,火口湖の厳しい環境が障害となる.寺田・吉川(2009)は,フッ素樹月旨を用いた特殊ブイを開発し,阿蘇において実験的観測に成功している.本研究では,このブイをベースとして,ソーラーパネルを組み合わせた,完全自立型の水温観測ブイを開発して,阿蘇の火口湖水温を長期にわたり連続観測する.水温ブイは,本年8月までに試作を終える.人が接近可能な草津白根において10月までテスト観測と装置改良を行ない,湖水や騒食性ガスヘの耐性を確認する.11月に阿蘇にブイを設置して,システムの定常運用を開始する.

(7)平成21年度成果の概要

 阿蘇火山中岳の火口湖「湯だまり」に投入した水温観測ブイにより,5分間隔で測定した水温(水深40cm)を,1日に1回の頻度で任意のサーバへ伝送するシステムを運用した.しかし,ブイの設置から100日が経過した頃から,温度センサの腐食が原因と考えられる異常データを示し始めた.そして120日目以降は通信途絶状態に陥ったため,運用を終了した.
 ブイの運用を進めるとともに,水温観測拠点を火口縁に整備した.この拠点は,ブイと通信を行なうための無線中継器,水温変動から気象要因を補正するために必要な気温の測定,さらに1m深地中温度計から構成される.給電に太陽電池パネルを用いたほか,機器には十分な耐火山ガス対策を施してある.得られたデータは全て,火口監視員詰所(阿蘇火山防災会議協議会所管)に設置したPCへ無線送信している.
 詰所に設置したPCからデータを回収するために,当初は携帯電話を利用した.その後,無線LANを導入したことで,7km離れた山麓に位置する京都大学火山研究センターへ,データ伝送するシステムが確立された.このシステムを用いれば,火山研から水温ブイへ,設定変更などの指令を送ることも可能である.このように,データ通信環境は著しく強化された.
 さらに,太陽電池パネルを搭載する,新型の水温観測ブイの試作を進めた.設計にあたり,ブイ搭載計器を高温から保護するために,内部温度を下げる形状を試行錯誤した.また,水温センサや太陽電池パネルの耐酸性能を高めるため,特殊なフッ素樹脂を用いたコーティングを試行した.これらの効果を確認するため,火口縁にデモ器を設置したほか,群馬県草津町内の温泉施設において実験を行なった.
 以上のように,新型ブイを完成させ,投入作業に成功すれば,本研究の目的はほぼ達成される.当初,新型ブイは年度内完成を目指していた.しかし,万全を期すために,本年度内は機器テストに重点を置いた.
 本成果の基礎となる現地作業,データ伝送系の構築,およびメンテナンスのために,京都大学火山研究センターの吉川 慎氏と大倉敬宏氏に多大なご協力を頂きました.ここに記して深く感謝します.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • 寺田暁彦,2009,山岳地域での火山観測-阿蘇火山火口湖「湯だまり」での水温観測,山岳科学総合研究所ニュースレター,19,4.
  • 寺田暁彦・鍵山恒臣・吉川 慎,阿蘇火山・中央火口丘群における熱活動の定量化,阿蘇火山集中総合観測成果報告書,印刷中.
  • 後小路義弘・寺田暁彦,カラーチャート(色見本)を用いた湯だまり表面色の色彩評価,阿蘇火山集中総合観測成果報告書,印刷中.
  • Miyabuchi, Y. and A. Terada, 2009, Subaqueous geothermal activity of acidic crater lake revealed by lacustrine sediments, Aso Volcano, Japan, J. Volcanol. Geotherm. Res, 187, 140-145.
  • 寺田暁彦,吉川 慎,2009,接近困難な強酸性火口湖における観測技術-水温モニタリング・湖水および湖底泥の採取-,日本地熱学会誌,31,117-128.
  • 寺田暁彦,阿蘇火山中岳第一火口の熱活動-2008年度の位置付け-,阿蘇火山集中総合観測成果報告書,印刷中.

(9)平成22年度実施計画の概要

 現在進めている耐酸性能試験,温度試験の結果に基づいて,1年程度の運用を目標とした新型水温観測ブイを複数台製作する.これにより,阿蘇火山の火口湖において,常時1台のブイが運用されることを目指す.得られた水温データは,京大火山研のサーバへ常時伝送する.また,水温への気象的要因を補正するための自動計算を準リアルタイムで行ない,火口熱活動の監視ツールとしての利用を試みる.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

東京工業大学 火山流体研究センター 草津白根火山観測所 寺田暁彦

他機関との共同研究の有無

東京工業大学草津白根火山観測所 野上健治
京都大学火山研究センター 鍵山恒臣

(11)問い合わせ先

  • 部署名等
  • 電話
  • e-mail
  • URL