課題番号:2904

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

公募研究

(2)研究課題(または観測項目)名

雌阿寒岳過去1000年間の噴火履歴と噴火推移予測

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (2)地震・火山噴火に至る準備過程
      • (2-2)火山噴火準備過程
        • イ.噴火履歴とマグマの発達過程

(4)その他関連する建議の項目

(5)本課題の5か年の到達目標

(本課題は平成21年度公募研究である)

(6)本課題の5か年計画の概要

(平成21年度公募研究計画)
雌阿寒岳は,近年小規模な爆発を繰り返し,地震活動も活発である。今後マグマ噴火に移行していくのか,水蒸気爆発を繰り返しながら,このままの状態で推移していくのか,その短中期的噴火予測は難しい。さらに,最近数百年,マグマ噴火を周期的に起こしている有珠山や十勝岳と違って,雌阿寒岳では約1000年前に中規模なスコリア噴火が起こって以降,ポンマチネシリ火口が山頂に生じた噴火が数百年前にあったものの,明瞭なテフラ層を残していないため,過去1000年間の噴火履歴は不明確である。このため雌阿寒岳では噴火予知・噴火推移予測の確度は低く,これを高めるためには,(1)噴火予測・推移をモデル化する基礎となる過去1000年間の噴火履歴を高精度で総合的に解明する,(2)噴火準備段階にあるマグマ溜まりから火道におけるマグマの物理化学状態を過去の噴出物から定量的な岩石学手法によって,現在どういう状態にあるのか推測する,ことが必要で,これらを組み合わせて短中期的な噴火推移予測を行う。
{21年度の研究計画}
(1)ポンマチネシリ火口周辺の地質を詳しく調査し,噴出物の同定・対比を行い,過去1000年間における墳火履歴を確立し,火山体構造との関連など総合的な噴火推移予測を意識した高精度な資料を作る。
(2)雌阿寒岳で最も新しいマグマ噴火と考えられる1000年前のスコリア噴火による一連の噴出物を岩石学的に調べ,マグマ溜まりからの噴火過程を明らかにするとともに,気泡組織や石基結晶度・石基鉱物及び斑晶リムの組成変化など微細組織を定量的に解析してマグマ組成及び噴火過程の推移を考察する。

(7)平成21年度成果の概要

 雌阿寒岳過去13000年間の噴火履歴を再検討するとともに,雌阿寒岳山麓におけるテフラ調査を行い,最も大規模な噴火であった中マチネシリ火砕噴火期(13000年前〜)の噴火推移の特徴を明らかにすることを目標とした。また,ポンマチネシリ火口からの噴火噴出物(約1000年前)について岩石学的検討を行った。以下にその概要を示す。
1.過去13000年間の噴火史の再検討
 これまで行われてきた雌阿寒岳の噴火履歴に関する研究をまとめ,噴火史の問題点を整理した。その上で,過去13000年間の総合柱状図及び積算噴出量の時間変化図を作成した。その結果,マグマ噴火活動期とその間の静穏期が交互に4回繰り返されている傾向が読み取れた。すなわち,13000〜11000年前の中マチネシリ火砕噴火期I,11000〜9000年前の静穏期,9000〜8000年前の中マチネシリ火砕噴火期II,8000〜6000年前の静穏期,6000〜4000年前のポンマチネシリ火山形成期,4000〜3000年前の静穏期,3000〜1000年前の阿寒富士火山形成期,1000年前〜現在の静穏期である。しかし,炭素放射年代値を今回新たに4点測定したものの,全体としてはデータが不十分なため,活動期・静穏期の規則性に関わる年代区分は不確かさが残る。さらなる年代測定の必要性がある。噴火史を通じてマグマ混合に関与した苦鉄質端成分マグマは多様性があり,活動期毎に変化してきた。今後,より詳細な岩石化学的研究を行う予定である。
2.13000年前の中マチネシリ火砕噴火期の噴火推移
 この噴火期では,潜在溶岩の上昇に始まり,溶岩破砕を伴う火砕流噴火を経て軽石・スコリア破片が共存する火砕流そしてプリニー式噴火・火砕流に至る噴火推移をたどった。大まかには発泡度が高まっていく噴火経緯であったこと,プリニー式噴火と火砕流噴火の同時性が推定されるなど,規模の大きな爆発的マグマ噴火の推移として「雌阿寒型」と仮称できる特徴があることがわかった。今後は火口近傍の調査や成分分析・噴出物の化学的な分析を行うなど,より緻密な解析が必要となる。
3.1000年前のポンマチネシリ火口噴出物
 約1000年前に噴火したポンマチネシリ火口降下スコリア層のスコリア試料(玄武岩質安山岩)8個と軽石試料(デイサイト)1個について斑晶鉱物の化学組成をEPMAによって分析した。玄武岩質安山岩マグマとデイサイトマグマが混合して形成された岩石学的痕跡を示している。噴火プロセスの解明にはより詳細な解析が必要である。

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

    (9)平成22年度実施計画の概要

    (1)ポンマチネシリ火口や中マチネシリ火口周辺を詳しく調査し,21年度で行った山麓調査の結果を合わせて噴出物の同定・対比を行い,過去13000年間及び最近1000年間における噴火履歴を編み,噴火様式の変化,火山体構造との関連など噴火推移予測を意識した,分解能を上げた高精度な資料を作る。
    (2)過去13000年間で最も大規模な噴火だった中マチネシリ火砕物,雌阿寒岳で最も新しいマグマ噴火と考えられる1000年前の火砕噴火による一連の噴出物についてXRF及びEPMA分析から岩石学的に調べ,マグマ溜り・火道・噴火に至るプロセスを明らかにするとともに,気泡組織や石基結晶度・石基鉱物及び斑晶リムの組成変化など微細組織を定量的に解析してマグマ組成及び噴火過程の推移を考察する。

    (10)実施機関の参加者氏名または部署等名

    北海道教育大学旭川校 和田恵治

    他機関との共同研究の有無

    北海道大学 中川光弘
    北海道教育大学釧路校 池田保夫

    (11)問い合わせ先

    • 部署名等
    • 電話
    • e-mail
    • URL