課題番号:2908
公募研究
衛星による地震関連電離圏優乱の検証とメカニズムの解明
(本課題は平成21年度公募研究である)
(平成21年度公募研究計画)
地震に先行する地下水変化、ラドン発生、電磁気現象、電離圏優乱などについてはいくつかの報告はあるが、大地震の同一箇所での発生頻度が極めて低いことから、統計的研究は難しい。さらに、発生メカニズムが未解明であるため、上記諸現象の存否ですらいまだ決着はついたとはいえない(e.g Kamogawa, Eos, 2006, 2007, Rishbeth, Eos, 2006, 2007, Cliverd and Rodger, Eos, 2007)。しかしながら、1980年代以降に、地上観測から検知される地震に先行する電離圏擾乱現象は、衛星でも検知可能であると推定されるようになった。衛星ならば全地球的観測が行えることから、わずか数年間で数多くの事例を捉えることが期待でき、統計的検証が行えると思われる。この目的のためにフランスCNRSは、2004年に衛星DEMETERを打ち上げ、5年間弱で良質なデータを蓄積するに至った。DEMETERは電離圏パラメータを測定するために複数のセンサーを搭載しているが、その中でもVLF帯電波測定とイオン密度・温度測定が最も良質なデータを取得している。申請者は、この2つのセンサー開発と解析を担当しているグループ(フランスLATMOS)と2007年度より共同研究を始めた。本申請においては、地震に先行して観測された変動が、測定そのものの問題ではなく、現在の電離圏物理学で知られた現象とは異なることを示し、その変動の統計的検証を行い、得られた結果から、どのようなメカニズムでその変動が生じているかを研究する。
本研究の最終目的は地震先行電離圏擾乱現象を、フランスの衛星DEMETERのデータを用いて現象存否の統計的検証および物理的機構の解明を行う。本研究では研究者に公開されているレベルのデータで評価するのでなく計測された電圧値等の生データを用いて、解析に必要な電離圏プラズマ物理量の再構築するところから行う。その後、地震前の電離圏擾乱が、計測から生じるノイズ起因ではなく、さらに既知の電離圏擾乱ではないことを示す。平成21年度では、イオン密度・温度測定値の妥当性を評価した。イオンに関しては、わずかであるが太陽光と連動するようなノイズ的変化が見受けられており、同レベルの微小強度を解析対象とする場合には十分注意が必要であることが分かった。現在はノイズ除去の方法を検討中である。計画に追加された事項としては、電子密度・温度測定についても評価を行った。電子密度および温度は計測されたデータにおいて絶対値が大きいため電極汚染による誤測定考えられるが、相対変動に着目し複数の他の衛星(FORMOSAT3/COSMIC等)のデータと比較したところある強度以上の相対値変動ならばおおむねデータとして用いれることが分かった。以上の基礎研究によりデータの使用可能範囲が明確になり、次の目標である既知の電離圏諸現象の研究が可能になった。
2010年度の研究においては、地震先行電離圏擾乱と変動が類似している2009年7月22日の皆既日食時のデータについて詳細な解析を行い、皆既日食起源の変動のメカニズムから地震先行電離圏擾乱の発生メカニズムを類推する。本皆既日食時において申請者は大気電場観測およびDEMETERによる高速サンプリング測定を行っており、データはすでに準備されている。
東京学芸大学 物理科学分野 鴨川仁
無