課題番号:3017

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

(独)防災科学技術研究所

(2)研究課題(または観測項目)名

SAR干渉解析による地殻変動把握技術の高度化およびその活用に関する研究

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 3.新たな観測技術の開発
      • (2)宇宙技術等の利用の高度化
        • ア.宇宙測地技術

(4)その他関連する建議の項目

  • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
    • (1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化
      • ア.日本列島域
      • イ.地震発生・火山噴火の可能性の高い地域

(5)本課題の5か年の到達目標

陸域観測技術衛星「だいち」の活躍による火山・地震に関する地殻変動検出例がつぎつぎと報告されており,SAR干渉法は火山・地震研究において欠かすことの出来ないツールになりつつある.しかし,いまだ大気等によるノイズの補正方法は十分に確立されておらず,現時点においても地殻変動モデルの推定に大きな影響を及ぼすほどのノイズが重畳する場合があるという問題が残されている.そこで,これまでの誤差軽減手法を効率よく併用したSAR干渉解析手法を確立させ,地殻変動検出精度を向上させることが本課題の目標である.また,長期的な地殻変動をより精度良く検出する高精度SAR干渉解析手法(PS-InSAR法やSBAS法など)の活用について着手する.さらに,火山活動の活発化や地震が発生した場合には,SAR干渉解析を実施し,マグマの動きや断層モデルの推定を行う.

(6)本課題の5か年計画の概要

平成21および22年度においては,これまでに開発した誤差軽減手法を併用したSAR干渉解析手法を実施し,検出された地殻変動の精度評価を行う.平成23から25年度においては,長期的地殻変動の検出のための高精度SAR干渉解析手法(PS-InSAR法やSBAS法など)について着手する.また,火山活動の活発化や地震が発生した場合には,適宜SAR干渉解析を実施し,マグマの動きや断層モデルの推定を行う.

(7)平成21年度成果の概要

 今年度においては,SAR干渉解析結果から地殻変動の時系列を求める解析手法についての研究を進め,さらに,その手法を適用して三宅島の地殻変動を検出した.その解析手法と三宅島における解析結果について報告する.また,陸域観測技術衛星「だいち」のPALSARデータを用いて,イタリア中部の地震(2009/4/6, Mw6.3),ニュージーランド西岸の地震(2009/7/15, Mw7.8),アンダマン諸島の地震(2009/8/10, Mw7.5),駿河湾の地震(2009/8/11, Mj6.5),スマトラ中部沖および内陸の地震(2009/9/30, Mw7.5; 2009/10/1, Mw6.6),スンバワ島の地震(2009/11/8, Mw6.6),ハイチの地震(2010/1/12, Mw7.1)に関するSAR干渉解析を実施した.その結果,イタリア中部の地震,ニュージーランド西岸の地震,スマトラ中部内陸の地震,ハイチの地震に伴う地殻変動が検出された.これらの解析結果についても報告する.
 
地殻変動の時系列を求める解析手法および三宅島における解析結果.
 PALSARの画像領域は,隣り合う軌道パスから観測される画像領域と重なっており,さらに,標準オフナディア角(34.3度)だけでなく,オフナディア角41.5度による観測も年に1度ほどの頻度で実施されているため,10km程度の領域は,複数の軌道パス・オフナディア角で観測されたSAR画像に含まれる.ただし,各軌道パスに関するレーダ波の入射方向(LOS:Line-of-sight)ベクトルはそれぞれ異なるので,それぞれの軌道パスの干渉画像が示す地殻変動成分は異なる.しかし,これらのベクトルにもっとも適合する面を最小二乗法で求めると,LOSベクトルの共通面からのずれは1度以下である.つまり,すべてのLOSベクトルは,一つの面に含まれると仮定することができる.よって,各干渉画像で得られるスラントレンジ変化は,共通面における水平成分(東西成分)およびそれに直交する成分(準上下成分:垂直から南に約10度傾く)の合成によって記述することができる.逆に,それらの成分を複数の干渉画像から逆解析によって求めることが可能である.さらに,各観測日のずれを考慮した観測方程式を用いることにより,より正確に全期間の地殻変動を同時に推定することができる.また,DEMの誤差も同時に推定する.さらに,この解析においては,時間的に高周波のノイズを抑制するために,地殻変動は時間方向に滑らかに変化するという拘束条件を用いた.また,入力する干渉画像の解析においては,気象庁メソスケールモデルを用いた大気遅延誤差の軽減手法やGPSによる地殻変動を用いた長波長誤差の軽減手法を適用し,高精度化を試みた.
 三宅島への適用においては,6つの軌道パスから観測されたSAR画像を解析した.推定された地殻変動において火口付近に注目すると,火口底の北西域を中心とする沈降が求まった.2008年までの時間変化はほぼ等速であり,速度は14cm/yrと求まった.また,その東部では西進,西部では東進が見られる.これは収縮する地殻変動と考えられる.2009年の初め頃から沈降速度の低下が推定され,2009年における速度は10cm/yrと求まった.一方,水平成分における変化は見られない.本解析における推定値の標準偏差は1cm以下と求まり,また,GPSによる地殻変動との比較においても,ほぼ1cm以内の一致が得られた.これは,推定された変化量よりも有意に小さい.さらに,2009年度からは,島内における地震の増加が観測されており,そのような変化と関連する現象である可能性が考えられる.以上のことから,2009年に見られた沈降速度の変化は,ノイズに起因するものではないと考えられる.
 
イタリア中部の地震に関する地殻変動.
 2009年4月6日にイタリアのラクイラ付近で発生した地震(Mw6.3:USGS)に関する地殻変動を調査するため,PALSARデータおよびEnvisatのASARデータを用いたSAR干渉解析を実施した.地震発生時を挟むPALSARの3組の干渉ペア(すべてアセンディング軌道)を解析したところ,それぞれの干渉画像において,震央の東方約8km付近を中心とするスラントレンジ伸長パターンが求まった.その最大変化量はおおよそ20cmである.次に,ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のホームページで公開されているEnvisat/ASARのディセンディング軌道に関する干渉ペアを解析したところ,PALSARの干渉画像と同様の位置に中心を持つスラントレンジ伸長パターンが求まった.その最大変化量はおおよそ27cmである.また,スラントレンジ伸長の東側に,最大8cm程度のスラントレンジ短縮パターンが求まった.それらの境界においては,N139°Eに向く明瞭なスラントレンジ変化の急変帯が求まった.その方向はGlobal CMT解の走向(N120°E)とおおよそ一致することから,断層面の地表延長におおよそ一致するものと考えられる.
 次に,長さ60km,幅30km,走向N139°Eの断層面の上端を干渉画像から推測される位置に設定し,その面内で断層すべり分布を推定したところ,震源付近の約20km×20km領域にほぼ正断層方向のすべりが求まった.最大のすべり量は0.7mであった.また,断層の傾斜角は40度と求まった.地表付近においては,大きなすべりは求まらなかったが,浅い領域に大きなすべりが求まったことや,Envisatの干渉画像においてスラントレンジ変化の急変帯が得られていることから,断層すべり域の縁辺が地表に達していた可能性が考えられる.
 次に,PALSARのパス630において,地震発生から1日と20時間後に観測されたデータとその46日後に観測されたデータを用いて,余効変動の検出を試みた.その結果,Envisatの干渉解析からスラントレンジ変化の急変帯が見られた領域に沿って分布するスラントレンジ伸長パターンが求まった.その大きさはノイズの大きさと同程度であり,その有意性については議論の余地があるが,その分布から余効変動を示す可能性が考えられる.
 
ニュージーランド西岸の地震に関する地殻変動.
 2009年7月15日にニュージーランド西岸付近で発生し地震(Mw7.8:USGS)に関する地殻変動を調査するため,PALSARデータを用いたSAR干渉解析を行った.解析した干渉ペアはディセンディング軌道の2組とアセンディング軌道の3組である.ディセンディング軌道の干渉画像においては,震央付近を中心として円状に分布するスラントレンジ伸張パターンが検出され,アセンディング軌道の干渉画像においては,西方沖に中心を持つようなスラントレンジ短縮パターンが検出された.特に,アセンディング軌道の干渉画像においては,海岸付近でスラントレンジ変化量の勾配が大きくなることが特徴である.
 アセンディング軌道のパス349では,地震発生から3時間後に観測が行われている.そこで,このデータと46日後に観測されたデータとの組み合わせで,干渉解析を行ったところ,内陸に対して海岸付近のスラントレンジが短縮したことを示す干渉縞パターンが見られた.ニュージーランドのGeoNet GPS観測点においては,この期間に5cmを超える余効変動が観測されており,このスラントレンジ変化は,余効変動を示すものである可能性が考えられる.そこで,プレート境界(PB2002, Bird, 2003)とGlobal CMT解を参考にして,長さ200km,幅100km,走向N39°E,傾斜26°の断層面を設定し,その面内で地震時と地震後の断層すべり分布を同時に推定した.地震時においては,すべりが大きい領域が震源付近に求まり,最大のすべり量は2.7mであった.地震後においても同じ領域に大きな断層すべりが求まり,最大のすべり量は0.5mであった.地震後の断層すべりが有意と言えるかどうかについては,より詳細な調査を必要とする.
 
スマトラ中部内陸に関する地震.
 2009年10月1日に発生したMW6.6(USGS)の地震に関する地殻変動を調査するため,PALSARデータを用いたSAR干渉解析を行った.解析した干渉ペアはディセンディング軌道とアセンディング軌道の2組である.得られた干渉画像において震央付近に注目すると,アセンディング,ディセンディング両軌道の干渉画像において,明瞭な干渉縞パターンが見られた.その走向はN320°E方向であり,GlobalCMT解の走向(N325°E)とほぼ一致する.そこで,断層面をその走向に一致するように設定し,断層モデルを推定した.その結果,最大で1.2mのほぼ右横ずれの断層すべりが求まった.また,断層の傾斜角は80度と求まった.
 
ハイチの地震に関する地殻変動.
 2010年1月12日にハイチで発生した地震(Mw7.1:USGS)に関する地殻変動を調査するため,PALSARデータを用いたSAR干渉解析を行った.解析した干渉ペアはディセンディング軌道とアセンディング軌道の2組である.アセンディング軌道の干渉画像においては,半島の南部で24cm程度のスラントレンジ伸張,北海岸付近で35cm程度のスラントレンジ短縮が検出された.その境界は北海岸付近において東西に延びている.また,ディセンディング軌道の干渉画像においては,半島の南部で10cm程度のスラントレンジ伸張,北海岸付近では70cmを超えるスラントレンジ短縮が検出された.それらの境界も東西に延びている.この境界付近に,断層破壊が地表に達していることを示すような干渉縞は見られない.
 次に,長さ100km,幅50km,走向N265°Eの断層面の上端を干渉画像から推測される位置に設定し,その面内で断層すべり分布を推定したところ,震源の東側の深部において,右横ずれ成分を持つ逆断層すべりが求まり,震源の西側の浅部において,大きな右横ずれが求まった.最大のすべり量は右横ずれが卓越する領域に求まり,その大きさは4.6mであった.また,断層の傾斜角は50度と求まった.

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • 防災科学技術研究所,2009,PALSAR干渉解析による小笠原硫黄島の地殻変動,第113回火山噴火予知連絡会本会議資料
  • 防災科学技術研究所,2009,PALSAR干渉解析による三宅島の地殻変動,第115回火山噴火予知連絡会本会議資料
  • 防災科学技術研究所,2009,PALSAR干渉解析による三宅島の地殻変動,第114回火山噴火予知連絡会本会議資料
  • 防災科学技術研究所,2009,PALSAR干渉解析による三宅島の地殻変動,第113回火山噴火予知連絡会本会議資料
  • 防災科学技術研究所,2009,PALSAR干渉解析による小笠原硫黄島の地殻変動,第115回火山噴火予知連絡会本会議資料
  • 防災科学技術研究所,2009,PALSAR干渉解析による小笠原硫黄島の地殻変動,第114回火山噴火予知連絡会本会議資料

(9)平成22年度実施計画の概要

 平成21年度に開発したSAR干渉解析結果から地殻変動の時系列を求める手法について,適用研究を通じて精度評価を行う.また,火山活動の活発化や地震が発生した場合には,適宜SAR干渉解析を実施し,マグマの動きや断層モデルの推定を行う.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

防災科学技術研究所 火山防災研究部

他機関との共同研究の有無

(11)問い合わせ先

  • 部署名等
    防災科学技術研究所企画部広報普及課
  • 電話
    029-851-1611
  • e-mail
    toiawase@bosai.go.jp
  • URL