課題番号:5009
(独)産業技術総合研究所
火山性流体の移動評価に基づく噴火現象の解明
噴火に先立つ地殻浅部へのマグマの貫入や火山ガスの供給に対する火山体浅部の熱水系の応答の定量的な評価手法を熱水系シミュレーションにより構築する。熱水系シミュレーションの定量性評価のために、伊豆大島などにおいて自然電位、地下水位などの連続観測を実施し、降雨や火山活動変動に対する地下水系の応答を評価する。
携帯型マルチセンサーシステム(Multi-GAS)による水素濃度定量化手法の改良を行い、火山噴煙観測に基づく火山ガスの平衡温度および酸化還元状態の変動の把握手法を確立すると共に、火道内対流するマグマの脱ガス条件の推定を行う。噴出物の観察や火山ガス放出量の観測などと総合し、火道内マグマ対流と噴火および脱ガス活動の変動の関係をモデル化する。
水蒸気爆発を発生する火山において、熱水系の分布及び火山ガス供給系を明らかにし、水蒸気爆発発生に関与する熱水系の実体をモデル化する。
伊豆大島において自然電位、地下水位の連続観測を実施し、火山活動静穏時における降雨などに対する地下水系の応答を把握すると共に、火山活動の変動に備える。伊豆大島をモデルフィールドとして、マグマの貫入および火山ガスの供給に対する熱水系の応答を熱水系シミュレーションを用いて評価し、噴火前兆現象としての熱および流体の放出パターンを把握するとともに、前兆現象を把握する為の最適な観測条件を評価する。
携帯型マルチセンサーシステム(Multi-GAS)に用いている水素センサーの安定性、湿度依存性および自然界における大気流水素濃度の変動要因の評価を行い、火山ガス中水素濃度定量化手法を改良する。火山噴煙観測により得られた火山ガス組成から、火山ガスの見かけの平衡温度・圧力および酸化還元状態の関係を明らかにする。三宅島、浅間山、阿蘇、イタリアエトナ火山など様々な脱ガス活動を行う火山および様々な活動状況において噴煙観測を実施し、脱ガス条件の変動などのモデル化を行う。また、噴出物の観察やメルト包有物の揮発性物質濃度測定に基づき、火道内マグマ対流脱ガス条件を推定し、火山活動変動のモデル化を行う。
雌阿寒岳、口永良部島などにおいて、火山ガスの繰り返し観測および放熱分布の把握、自然電位分布測定などを実施し、熱水系の分布および火山ガスの起源を明らかにすることにより、水蒸気爆発の発生に関与している熱水系の実体を明らかにする。
富士山、口永良部島においてGPS観測を継続し変動の把握を行う。
伊豆大島で自然電位の連続観測を行い経時変化を記録した。自然電位の変動は季節的なものと周期が数日程度のものからなる。また、観測点により変動の振幅が異なることが明らかになった。新たに観測項目に加えた雨量計のデータを見ると、周期が数日程度のものは降水量とよい対応を示している。そこで数値シミュレーションを行い、降雨に対する自然電位のレスポンスを調べてみたところ、観測されるような変動は降雨で説明できることが分かった。また、観測点による振幅の違いは地表付近の土壌の透水係数に依存していることが分かった。このことから、季節的な変動は、長期間にわたる土壌中の水分量の変化をあらわしていると類推された。よって、現在は火山活動に起因するような経時変化は観測されていないといえる。
連続観測のほかに、大島火山山頂部をカバーするように広域の自然電位の分布観測が行われており、山頂域やカルデラ内で正負の自然電位異常を示す特徴的な分布が得られている。このような分布を説明するために3次元シミュレーションを実施した。その結果、地下の比抵抗構造を考慮すれば、その特徴的な自然電位分布は、ほぼ、降雨の地下への浸透で説明されることが明らかになった。すなわち自然電位分布においても、火山活動に伴って形成されるような顕著な異常は、現在のところ観測されていない。
携帯型マルチセンサーシステム(Multi-GAS)に用いている半導体水素センサーの繰り返し校正を、様々な湿度条件で繰り返し、安定性・湿度依存性および校正精度の検討を行った。半導体水素センサーは、水素濃度と出力電圧のそれぞれの対数が比例関係にあるように設計されているが、繰り返し校正実験の結果、センサーに個体差があり、対数での比例関係から濃度により10-20%程度ずれが生ずることが明らかとなった。多点校正によりこのずれの補正も可能であるが、湿度依存性を含めた校正を毎回繰り返す必要がある。校正の必要頻度と必要精度を検討した結果、水素測定値に約20%の誤差を考慮することで対処することが、当面は現実的であると判断した。
水素センサーの繰り返し校正および吸入系の改良により、噴煙中の微量な水素濃度測定が可能となった。改良型のMulti-GASによる観測により、火山ガス中の水素濃度の測定の精度が向上した。特に、水素濃度が低い低温の火山ガスの定量精度が向上した。これにより、口永良部島の新噴気や吾妻山の新噴気などの見かけの平衡温度の推定が可能となった。
三宅島、2000年8月18日噴火の玄武岩質マグマ中に含まれるオリビン斑晶中のメルト包有物の分析を行い、この噴火には玄武岩質マグマのみならず、より未分化な玄武岩質マグマの関与が認められることを明らかにした。メルト包有物中の水、二酸化炭素濃度と、火山ガス中のこれらの濃度比の比較などから、現在三宅島で大量に放出されている火山ガスは、未分化な玄武岩質マグマから供給されていることを明らかにした。
雌阿寒岳・口永良部島・吾妻山の各火山においてMuuti-GASによる噴煙観測および噴気採取分析を行い、火山ガス組成の分布や時間変動を把握した。特に、雌阿寒岳では、水蒸気爆発の繰り返されているポンマチネシリ火口のの火山ガスは高温起源であるのに対し、近年は安定した活動の中マチネシリ火口では、元々のはポンマチネシリ火口と同様の起源を持っていながら、熱水条件下で再平衡した組成を持っていることが明らかとなった。火山ガス観測は2003年から繰り返されているが、2006年の前後でいずれの火口の火山ガス組成も顕著な変化はしておらず、噴気地帯は独立した供給系を持っていることが明らかとなった。吾妻山では2008年11月月に新たな噴気孔が形成し、一時期は二酸化硫黄放出量として100t/dを超える大量の火山ガスの放出が観測された。この新噴気の組成は、従来から存在する噴気と比較すると二酸化硫黄に富み、より高温の熱水系などを起源とする流体が供給されたことが明らかとなった。反面、極近傍の周囲に分布している従来の噴気は温度、組成ともに変化が観測されなかった。
雌阿寒岳・口永良部島・吾妻山の各火山において自然電位の分布観測を行った。いずれの地域とも明瞭な地形効果を持たない等の特徴を有しており、水蒸気爆発を頻発する火山における熱水系を考察する上での基礎的データを取得した。富士山・口永良部島においてGPS地殻変動観測を継続した。
伊豆大島で実施している自然電位の連続観測を継続して行い、降雨に対する応答をさらに詳細に調べる。また、土壌水分、電気探査等の観測を並行して実施し、このような自然電位の発生に関わるパラメータの定量的な推定を行う。それらの結果をもとに、マグマの貫入、脱ガスに伴って生じる自然電位変動について予測することを目的とした数値シミュレーションに着手する。具体的な初期、境界条件を含めた貫入モデルを設定する。
Multi-GASも用いた噴煙観測による火山ガス組成の測定を、三宅島・浅間山・阿蘇山などで実施し、火山ガス組成の変動を把握すると伴に、火山活動との相関を調べる。口永良部島火山において、火山ガス組成の観測を行い、火山ガスの起源の評価および火山ガス組成変化の原因を検討する。
口永良部島火山などにおいて、放熱量調査等を行い、自然電位観測結果とあわせて基礎的データとする。これをもとに、数値シミュレーションを行い、水蒸気爆発を頻発する火山における熱水系の形成条件として、透水係数などのパラメータの推定を行う。
地質調査総合センター
有
東京大学地震研究所、京都大学防災研究所、京都大学理学部