課題番号:7019

平成21年度年次報告

(1)実施機関名

気象庁

(2)研究課題(または観測項目)名

マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究

(3)最も関連の深い建議の項目

    • 2.地震・火山現象解明のための観測研究の推進
      • (2)地震・火山噴火に至る準備過程
      • (2-2)火山噴火準備過程
        • ア.マグマ上昇・蓄積過程

(4)その他関連する建議の項目

  • 1.地震・火山現象予測のための観測研究の推進
    • (2)地震・火山現象に関する予測システムの構築
    • (2-2)火山噴火予測システム
      • ア.噴火シナリオの作成
  • 3.新たな観測技術の開発
    • (2)宇宙技術等の利用の高度化
      • ア.宇宙測地技術

(5)本課題の5か年の到達目標

 伊豆大島などの活動的火山を対象として、地殻変動をはじめとする詳細な観測を行い、得られたデータから当該火山の精密なマグマ供給系を推定し、想定されるマグマ上昇に伴う地殻変動を計算することにより、地殻変動からその火山活動の評価を定量的に行う手法を開発する。
 マグマの上昇やそれに伴う熱水系の理論的な機構や、いろいろな火山における地殻変動に関する観測データに基づいて、マグマ上昇シナリオに基づく地殻変動シナリオを作成し、地殻変動から火山活動を評価する手法を開発する。

(6)本課題の5か年計画の概要

・地殻変動に基づくマグマ供給系の解明
 対象火山の地下のマグマ供給系を解明して、想定される種々の圧力源に対する地殻変動量を計算し、火山活動の定量的な評価手法を開発する。このため、マグマに起因する地殻変動が現在観測されている火山を対象に、GPS、光波測距、傾斜観測、重力観測、SAR(合成開口レーダー)や地震など多項目の詳細な観測を行う。これらの結果をもとに、有限要素法を用いた応力場のモデリングを行い、マグマの移動、成長、蓄積を定量的に見積もることにより、詳細なマグマ供給系の解明を行う。
対象火山としては、伊豆大島、浅間山などを選び、この間に活動が活発化した火山があれば適宜観測対象火山を変更することとする。干渉SARによる地殻変動解析については、全国の活火山を対象とする。
・マグマ上昇シナリオに基づく火山活動評価手法の開発
 現在マグマ活動に伴う地殻変動が観測されていない火山では、詳細なマグマ供給系の知見を得ることは難しい。そのような火山を対象として、理論的なマグマの上昇や熱水の機構、あるいはいろいろな火山における知見に基づいて、地殻変動から火山活動を評価する手法を開発する。そのため、マグマの上昇や熱水の機構について理論的側面からの検討を行い、いろいろな火山における地殻変動に関する知見を収集・整理し、一般的なマグマ上昇シナリオから、それに伴う地殻変動を推定(地殻変動シナリオ)して、火山活動を評価する手法を開発する。また、マグマ上昇は、地下の構造に左右されることから、上記のような火山の代表として、霧島山を選び、重力探査結果をもとにした地下構造推定を行い、地下構造を地殻変動シナリオに取り込む手法を開発する。

(7)平成21年度成果の概要

伊豆大島及び浅間山で地殻変動等の観測を継続し、地下のマグマ供給系に関する物理モデルの研究を継続している。また、マグマ上昇シナリオに基づく評価手法の開発のため、霧島山の地下構造推定に着手するとともに、火山用地殻活動解析支援ソフトウェアの機能強化を実施した。

(副課題1)地殻変動に基づく火山活動度判定手法の開発

伊豆大島の静穏期の地殻変動の詳細を知るため、GPS、傾斜及び光波測距(EDM)の連続観測に加え、GPS、光波、精密重力の繰り返し観測を実施し、データを蓄積した。
伊豆大島の精密重力の繰り返し観測結果を解析して、系統的な時間変化を検出。その原因がカルデラ北部直下にある圧力源である可能性があることを推定。EDMにおいても変動源を推定できた。
浅間山の地殻変動観測(EDM、GPS)を実施し、これまで知られていた山体北西部地下だけでなく、火口直下にも圧力源があり、それが火山活動の推移とともに膨張と収縮を繰り返していることを明らかにした。
全国の火山を対象に、陸域観測技術衛星「だいち」のSARデータを用いた干渉画像解析を行い、新たにいくつかの火山において火山性地殻変動をとらえた。
伊豆大島で臨時の地震観測を継続した。

(副課題2)マグマ上昇シナリオに基づく火山活動評価手法の開発

国内で観測された火山性地殻変動の圧力源モデルについて整理し、地震活動等との関係について調査した。
理論的なマグマ上昇モデルについて引き続き検討を継続するとともに、地下の圧力源の位置が浅くなっていく場合に、それに伴いどのような地殻変動が現れるかについて、GPS、傾斜等観測項目ごとに検討を行い、その特徴を調査した。
霧島山において重力探査を継続し、重力探査結果から地下構造の推定に着手した。
火山用地殻活動解析支援ソフトウェアに光波測距データ、干渉SARデータを解析する機能、 変動源の時間変化を解析する機能を付加した。

(8)平成21年度の成果に関連の深いもので、平成21年度に公表された主な成果物(論文・報告書等)

  • 気象研究所 (2009) だいち/PALSARの干渉SARでみた雲仙岳溶岩ドームの変形. 火山噴火予知連絡会会報第99号, 97-98.
  • 高木朗充・福井敬一・小司禎教(2010)火山周辺でのGPS観測における数値気象モデルを用いた対流圏補正.火山,55,1-12.
  • 高木朗充・福井敬一・新堀敏基・飯島 聖(2010)光波測距の数値気象モデルに基づく大気補正 -浅間山への適用-.火山,55,41-51.

(9)平成22年度実施計画の概要

(副課題1)地殻変動に基づく火山活動度判定手法の開発

GPS、光波測距、傾斜、重力、地震観測(伊豆大島、浅間山)
地震活動の解析(伊豆大島)
地殻変動の総合的観測による伊豆大島の火山活動評価に関する指針作成
SARによる地殻変動解析(全国の活火山対象)
研究とりまとめを行う。

(副課題2)マグマ上昇シナリオに基づく火山活動評価手法の開発

重力探査結果に基づく地下構造推定(霧島山)
有限要素モデルによる地殻変動のモデリング(霧島山)
マグマ上昇シナリオに基づく火山活動評価手法として、仮想的なマグマ上昇に伴う地殻変動シナリオを作成し、それに基づいて、いくつかの代表的火山でその検知力やそれを検出するための監視手法についてとりまとめる。
研究のとりまとめを行う。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名

地震火山研究部

他機関との共同研究の有無

(11)問い合わせ先


火山用地殻活動解析支援ソフトウェアの解析例
火山用地殻活動解析支援ソフトウェア(MaGCAP-V)に光波測距、干渉SAR解析結果を、モデル解析に利用する機能、変動源の時間変化を解析する機能を追加した。 この図は、伊豆大島の自動光波測距で捉えた膨張を解析した例で、カルデラ北部に圧力源があることが推定できた。

火山地殻変動と地震活動との関係
近年国内の火山で観測された火山地殻変動と同時に発生する地震活動との関係。圧力源の膨張レートとM1以上の地震回数/日に換算したもので示してある。