カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.3 物質科学系研究部門

教授 栗田敬,武井(小屋口) 康子,中井俊一(部門主任)
准教授 平賀岳彦, 安田敦
助教 三部賢治、三浦弥生、折橋裕二
特任研究員 小泉早苗、鈴木彩子
研究補佐員 岩崎詩子(2016年6月15日まで), 北村静香(2016年8月1日から)
大学院生 西川泰弘(D3),仲小路理史(D3),末善健太(D3),山内 初希(D2),谷部功将(D2), 雨宮直(M2),佐々木 勇人(M2),岡本篤(M1)

本部門では,物質を対象とする研究を通じて,地震・火山などに生じる現象の素過程を明らかにすることを目指している.研究は地球に留まらず、太陽系内外で の諸現象も対象にしている.理論,数値シミュレーション,室内モデル実験,超高圧実験,元素・同位体分析など様々な方法に基づいて研究を行っており,その内容は多岐にわたる.本年度におけるその概要を以下に示す.

3.2.5 高度な観測機器を開発するための研究

(a) 精密機械工作技術を用いた小型傾斜計の開発

海底ボアホールや陸域の深部ボアホール,あるいは海底面など,観測例の乏しい「観測フロンティア」での傾斜観測を目的とした小型傾斜計の研究開発を行っている.開発した小型・長周期の折りたたみ振り子を核とした傾斜計を製作し,実際に坑内ボアホールでの観測を継続している.これまでに得られたデータを分析することにより,長期ドリフト特性について良好な結果を得た.今後は省電力化なども含めた観測モデルの設計・開発を行う予定である.

(b) 光ファイバー変位計とベローズの組み合わせによる微気圧計の開発

独自に開発した光ファイバー変位計と気圧変動に敏感に応答する参照ベローズを組み合わせることによって,微気圧計を開発する研究を行っている.このような方式を採用することによって,高分解能で低コスト,高い運用性を実現し,地球科学の様々な分野で高まる高分解能微気圧計による稠密多点観測に対応する装置を開発することが最終的な目的である.これまでのところ,簡易なプロトタイプ気圧計によって市販の高精度微気圧計に相当する性能を確認できたので,より小型で実機に近いモデルの設計・製作に取り組んでいる.

(c) 反磁性を利用した小型重力計の開発

反磁性体と組み合わせることによって、受動的に浮上させた永久磁石を基準とした重力計の開発に取り組んでいる。重力計の感度を高めるためには、浮上に必要な比較的大きな力を確保しつつ、参照マスを動作点に拘束する復元力を小さくするという技術的困難がある。この課題を効率的に解決するため、有限要素法を用いたシミュレーションを行い、最適な解(磁石と反磁性体の形状、配置など)を求める取り組みを行っている。求めた最適解に基づいて試作重力計を製作し、重力観測を試みる予定である。

(d) 長基線レーザー伸縮計の開発(観測開発基盤センターと兼務)

神岡鉱山地下で進めている全長1.5 kmの基線をもつレーザー伸縮計の建設にあたって、前年に引き続きレーザー光源の周波数安定化システムや干渉計に光を出し入れする光学系の設計・開発を行い、実際に地下坑内に伸縮計を建設した。その後光軸調整や鏡面角度やガラスウェッジ基板によるレーザー波面の補正等を行い、安定して地面のひずみを検出することに成功した。これまでのところ、潮汐ひずみ、遠地地震や近傍の比較的振幅の大きな地震波を観測することに成功している。また、ひずみのバックグラウンドノイズについてもmHz帯域で世界最高感度を実現していることが示された。今後はさらなる性能の向上と連続観測に取り組む計画である。

3.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(a) 地球のグローバルな変形・重力変動の理論の高度化

球対称な粘弾性体地球モデルについて,コサイスミックな地球内部変形の理論的な定式化を行い,点震源が励起するグリーン関数の計算を完成させた.他のこれまでの研究では,非圧縮性を仮定したり,自己重力を無視したりなど不十分な仮定にもとづいて定式化されていたが,本研究によりこれらの仮定を外した一般的な取り扱いが可能となった.

この理論を用いて,地表のみならず,地球「内部」の体積歪分布や,応力分布の計算が可能となる.また,3次元的な粘性構造を考慮した球体モデルにおいて,粘弾性緩和によるポストサイスミックな重力場変化を正確に見積もる手法を開発した.曲率,自己重力,圧縮性の3者を支配方程式に沿って厳密に取り入れたものは初めてである.このモデルを2004年スマトラ島沖地震に適用し,GRACE衛星重力データを余効すべりと粘弾性緩和の重ね合わせによって説明できることを示した.現在,地震研究所のWEB上でこの計算を行うソフトウェアの開発を進めている.

(b) 微動・スロースリップイベントのトリガリングの研究

南海トラフの微動の発生頻度が18.6年周期で変動することを潮汐トリガリングにより定量的に説明できることを世界で初めて示した.同様のメカニズムを用いて,東海地方の浅い地震の活動が黒潮の変動と同期していることを説明した.また,潮汐応力が大きい時期には小さい地震が大きい地震へ成長する確率が高くなり,結果的に巨大地震が潮汐によりトリガリングされる確率が大きくなることを統計的に示した.(観測開発基盤センター 「スロー地震学」プロジェクトを参照)

(c) 断層深部の摩擦挙動を調べる室内実験とシミュレーション

ゆっくり滑りや深部低周波微動,さらには,内陸断層のローディングを担う断層の下部延長のマイロナイト帯など,脆性—延性遷移領域での断層物質の摩擦挙動を調べるため,高圧熱水下で大変位の剪断実験ができる試験機の開発を東大理学部と共同して行っている.今年度は,圧力容器以外の回転式プレス部を製作した.また,数理部門,及び産総研と連携して,熱水環境下の実験でみられる長い特性時間をもつ強度回復プロセスが,地震発生域の深部延長での大きなゆっくり滑りイベントを産み出しうることを示し,その発生タイミングと地震との関係を調べた.

3.2.3 地震,地殻変動等の最先端観測や新しい観測の試み

(a) 南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験

 南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサをボアホール設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行ってきた.これまでに地質断層面上にだけ非常に強く集中して,ほぼ定常的におこるM-4からM-2の活動があり,さらにその中には非常に多くのM-4程度のリピーター活動があることを報告していたが,今年度は,京都大学と共同して,14ヶ月間にわたって活動を追跡した結果, リピーター群のうち1/3程度のものにおいては,イベントの繰り返しが進むにつれて,イベントのマグニチュードが漸減していく傾向があることを見出した.リピーターをおこしているアスペリティがイベントの繰り返しによって摩耗する様子が見えたのではないかと解釈している.

また,採掘前線の10m程度前方には,採掘による応力集中を反映すると考えられるような姿勢をもつ,厚味が2-3m,さしわたし20m程度の大規模な板状の微小破壊集団がみられることを既に見出していたが,それらの微小破壊を放射波形の類似性によってグルーピングすると,1-2m程度のサイズの小集団にわかれることを見出した.一方で,同様の解析を既存断層面上で,さしわたし20m程度,厚味30cm以内に分布する面状の微小破壊集団に対して行うと,集団全体にわたって波形が類似した一つのグループとなった.前者の板状の活動は,大小の未発達な割れ目が相互作用して生じているもので,複雑に大小の断層が分布する地殻内の地震活動のアナログとなっている可能性がある.

 (b) 見通し外VHF帯伝播異常と地震発生の相関

北海道大学が行っているえりも地域でのVHF帯の見通し外放送局からの伝播異常観測のデータ約9年分(2006年1月1日から2014年12月31日まで)を同大と共同して解析した.スポラディックE層の出現時期を除いた期間について, 受信強度が12分連続して閾値を超えたあとの4日間に警報を出すというルールで警報マップをつくり,日高地域に発生したM5以上の地震と比較したところ,警報期間が対象期間の17%しか占めないのに対して,24個の地震のうち29%が警報期間におこっていた.この結果は,地震と異常が関係ないとした場合に比べて2倍の情報ゲインがあり,偶然の一致である確率は5%を切っている.また,2016年4月14日夜から始まった熊本地震の直前にあたる同日未明に,島原で観測していた宮崎放送局からの信号に異常伝播が記録されていた.しかし,2015年1月1日から2016年11月30日までの記録全体に対して行った同様の解析では,異常の発生と地震の発生に統計的に有意といえるほどの相関はみつからなかった.

3.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(a)スロースリップに関わる重力・地磁気観測

沖縄県石垣島の半年に一度発生するスロースリップの発生域において,2011年秋から絶対重力計,2013年から超伝導重力計を設置し,重力観測を実施している(絶対重力観測は現在休止中).この観測の目的は,高圧流体がスロースリップの発生メカニズムにどのように関わっているか解明することである.これまでにスロースリップイベント中の重力変化を捉えることに成功し,地下水等のノイズを補正する手法の開発を進めている.流体の移動を独立した物理量の観測により裏付けるため,石垣島,西表島の2か所で地磁気連続観測も継続している.

また,長期的スロースリップが繰り返し発生している東海,豊後水道,日向灘における重力観測を年1回程度,実施している.東海では2013年より始まったスロースリップが継続しており,スロースリップ中の重力データを蓄積しつつある.

 

(b) 超伝導重力計による精密重力観測

 長野県松代および岐阜県神岡において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を行っている.2台の重力計の記録から,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のあと,年間およそ10マイクロガルという大きなレートで重力が減少を続けていることが明らかになった.これらの観測点は,地震の震源域からは400km以上離れており,GEONETによるGNSSデータから推定される上下変動は比較的小さいにもかかわらず,このように大きな重力変化が見られるのは,地震のあと継続しているアフタースリップあるいは粘弾性緩和による地下の密度変化をとらえていると考えられる.2017年現在神岡の重力計は稼働を停止し,より震源域に近い東北地方に移設するための準備を行っている.

重力観測の精度が上がるにつれ,観測点周辺の環境要因,とくに水文学的な影響が顕著に現れるようになる.松代観測点では,気象観測データを用いて降雨による影響を正確に再現する数値モデルを構築した.神岡観測点では,冬季の積雪による影響をモデリングするため,気象データから積雪荷重を推定するシミュレーションを展開したほか,積雪質量のその場測定のためにPETボトルを使った簡易式積雪重量計を開発した.

沖縄県石垣島においても,この地域の地下でおよそ半年に一度発生する長期的スロースリップに関連する信号を観測するため,超伝導重力計による精密重力観測を行っている.このような海洋島において超伝導重力計観測を行うのは世界でもほとんど例がなく,この場所に特有のさまざまな効果が観測されてきている.なかでも,地下水が大気・海洋との相互作用をとおして重力に複雑な影響を及ぼしていることがわかり,それを補正する方法の開発に力を入れている.

(c) 海洋プレートの沈み込みや巨大地震によって生じる重力変動の観測研究

小型・堅牢で信頼性の高い絶対重力計FG5 を用いて,プレートの沈み込みによって日本列島に生じる10 年スケールの中長期的重力変化の研究に取り組んできた.測定は北海道(厚岸,えりも) ,東北(女川,仙台) ,東海(御前崎,豊橋) ,四国(室戸・足摺岬),九州(宮崎) の太平洋岸の各地で年間1-2 回の頻度で繰り返されてきた.特に御前崎については,国土地理院との共同研究として1997 年以来毎年4 回程度の観測を繰り返し,十分なデータが集積した.その結果,同地域の沈降データから期待される重力変化よりもはるかに小さい変動しか生じていない,という一見奇妙な事実が明らかになった.今後,東海スロースリップの原因や深部で起こっているプロセスを解明する上で貴重なデータになる.東北地方太平洋沖地震に伴う地震時及び地震後の重力変化をとらえるため,八戸,奥州市,仙台,及び由利本荘で絶対重力観測を行うと共に,それらを基準として,周辺約50点で相対重力測定を実施している.重力の余効変動として,東北南東部では3年間で30~60マイクロガルの重力減少が見られるのに対し,東北北部(青森,岩手北部,秋田)では,重力増加が認められる.アフタースリップや,粘弾性緩和の効果が表れているものと考えられ,今後,地殻変動データと総合した解析を行う予定である.

3.2.1 GNSS観測と地殻ダイナミクス

プレート運動や地殻変動を計測する手段として,GNSS (全地球測位衛星システム) は最有力の武器である.地震研究所のGNSS 研究グループは,全国の大学の地殻変動研究者で組織する「GPS 大学連合」の本部・事務局をつとめ,各種の国内・国際共同研究の企画・調整・推進を行ってきたが,2016年3月に地殻変動連続観測の研究者グループと統合した.ここでは,地震研のGNSS グループが中心となって実施した観測・研究のうち,主なものを紹介する.

 (a) 国内におけるGNSS 観測研究

東海地方直下で発生するスロースリップの実態解明のため,静岡大・東海大等とも協力しつつ,東海地方に稠密GNSSアレイを構築して2004 年から連続観測を行っている.2016年度には,静岡県,愛知県に設置した合計60のGNSS観測点での観測を継続した.2008 年度からは監視機能を高度化するため, 1Hz の高頻度サンプリングも実施している.これらのデータを用いて,スローイベントや固着域の時空間分布とひずみ分布の関係などを継続的に調査している.東海地方だけでなく,西南日本においてGNSSデータからスローイベントを検出する手法を開発している.また,東北大学や本所地震予知研究センターと共同で房総から福島県の太平洋沿岸地域でGNSS観測を実施している.さらに,2012年より静岡大,福島県いわき市及び茨城県鹿嶋市において50HzのGNSS観測を行っており,このような高頻度サンプリングによるGNSS 観測により,GNSS が地震計として活用できるかどうかの調査も行っている.今年度には前年度に開発したGNSSデータに基づいて断層面の破壊過程の推定を行うソフトウェアを用いた応用研究を実施したほか,2013年頃から始まったとみられる浜名湖付近の長期スローイベントについて時空間すべり変化についての研究を行った.また,2016年4月に発生した熊本地震に際しては「GPS大学連合」の実施した余効変動観測に参加した.(観測開発基盤センター 地殻変動観測を参照)

(b)GNSS を利用した新技術の開発

GNSS研究グループは1996 年頃より日立造船(株) 等との共同研究によって海洋GNSS ブイを用いた津波計の開発を行ってきた. しかしながら,これまでの方式では沿岸から20㎞以内程度での設置が限度であることから,より沖合での観測を目指して開発研究を進めている.昨年度までの成果を踏まえ,今年度から文部科学省科学研究費補助金基盤研究S(課題名:海洋GNSSブイを用いた津波観測の高機能化と海底地殻変動連続観測への挑戦)を5か年計画として実施することとなった.この研究は高知高専,名古屋大学及び弓削商船高専の研究者を研究分担者とし,このほか通信情報研究機構,気象研究所,宇宙航空研究開発機構などの機関の研究者が連携研究者や研究協力者として参加している.本研究においては遠洋での高精度リアルタイム津波観測を安定的に行える技術を確立するほか,新たな試みとして海洋GNSSブイに音響送受装置を搭載することにより海底地殻変動の連続観測を試みることとしている.今年度は高知県保有の黒潮牧場ブイを借用してシステムをくみ上げ,試験観測をはじめたところである.

3.2 地球計測系研究部門

教授 加藤照之(部門主任),新谷昌人(兼任),大久保修平(兼任) ,吉田真吾(兼任)
准教授  今西祐一,中谷正生
助教 高森昭光,田中愛幸
外来研究員 寺田幸博
大学院生 藤田 明男 (D3),王 振 (D3)

地球計測系研究部門では,GNSS 観測を手がかりにしてプレート運動などの実態を解明する研究,精密な重力観測に基づいて地球内部で起きている現象を解明する研究,最先端の地震観測や地殻変動観測等によって地震発生や火山活動などを詳細に解析する研究,観測や室内実験のデータと理論を結びつける研究,超精密機械工作やレーザー干渉など最先端の技術を用いた高度な観測機器を開発するための研究などを進めている.

3.1.2 地球ダイナミクスの研究

地球ダイナミクスの研究においては地球深部起源と思われる地球科学的現象について,主に数値シミュレーションの手法を用いてモデルを構築し,解明している.今年度は前年度に引き続き、地震波トモグラフィーの結果から日本周辺のスラブの形状および温度を推定し,遷移層にあるスタグナントスラブと下部マントルの間に“隙間”があることを別のトモグラフィーモデルを使って示した.この“隙間”を説明するために沈み込み帯の前年度の数値モデルを改良し,沈み込むスラブの年代のモデル化などを行った.その結果,“隙間”の起こる原因として(1)日本海の拡大と(2)過去のイザナギプレートと太平洋プレートの境界であった海嶺の沈み込みによって生じる可能性を指摘した.そして現在,遷移層にあるスタグナントスラブの長さを説明できるモデルとして(2)の可能性を指摘した.

3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 不均質構造が作る震源域の不均質応力場

3次元地震波トモグラフィー技法により推定された震源域の詳細な3次元地震波構造を元に3次元弾性体地殻構造モデルを作成し,境界条件として一様な変位を加えると領域内部の応力分布は不均質になる.この方法を2004年中越地震震源域に適用すると,地震断層のアスペリティ部分に応力降下量が高いと予想される領域が生じた.このことは地殻構造の弾性不均質が地震発生・震源過程に重要な役割を担っていることを示唆するものであった.本年度は標準的な3次元構造モデルを用いて2011年,2014年長野県北部地震の検討を行なった.

(1-2) 動的破壊震源モデルの断層近傍強震動への応用

2016年熊本地震(横ずれ断層)において震源域で断層平行成分が卓越していた.横ずれ断層においては1995年兵庫県南部地震の例のように断層直交成分が卓越することが知られている.このように強い振動方向が90度異なっていることについて考察を行なった.横ずれ断層での地表の震動パターンについてはMiyatake(2000)により詳細に研究されており,破壊の指向性が強い影響を与えることが知られている.これを応用すると特に震源は断層下端にある場合には,直上で断層平行成分が卓越することになり説明可能となる.

(1-3)大きなSSE (Slow Slip Event)による地震の誘発について

計測部門の室内岩石摩擦実験グループと連携し,摩擦の速度弱化に上限速度Vcxをもつ摩擦則を用いてプレート境界地震発生域の深部延長で発生するプレスリップ的な大きなSSEのモデル化を行った.このモデルでは遷移域で大きなSSEが地震サイクル中に数回発生するが,地震の側からみると,(1)SSEが成長して地震になる,(2)SSEが地震を誘発する,(3)SSEの誘発なしで地震が発生する,という3つの場合に分かれた.(2)の場合,直近のSSE終了時から地震発生までの時間 tdのヒストグラムは約一ヶ月以内によく集中する.SSEが「脆性域が地震になりそうなとき」に起きやすい傾向があるとすれば非常に興味深い現象であり,理由について今後検証してゆく.

(1-4) 体積震源モーメントテンソル診断ダイアグラムとWEBツールの作成

火山噴火予知研究センターの火山地震モデリンググループと連携し,体積変化を含むモーメントテンソルの震源メカニズム診断ダイアグラムを作成した.これにより観測データから決定されたモーメントテンソルに対して,楕円体空隙間の流体力学的相互作用を考慮した3つの震源モデル(a)単純膨張,(b)流体移動,(c)移動後の圧力回復を簡便に対応させることができる.また,診断後の定量的評価に用いるWEBツールを作成しオンラインで利用できるようにした.

(1-5) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られているが,大地震は低頻度なので,このような現象を定量的経験則として確立することは容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明することにより,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指している.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,地震活動の背後にある物理過程に関する研究をこの数年行っている.2016年度においては,余震のカスケード過程を平均場近似することによって大森則を導出し,指数とc値の定量的表現を与えた.同時に,平均場近似の範囲内ではサドルノード分岐が大森則に本質的役割を果たしていることを解明した.

3.1 数理系研究部門

教授 本多 了,小屋口剛博(部門主任)
准教授 波多野恭弘,亀 伸樹,宮武 隆,西田 究
助教 鈴木雄治郎
特任研究員 齋藤 拓也,Roy Subhadeep
外来研究員 桑野修,Kyle Anderson
外国人研究員 Ray Purusattam
大学院生

稲垣湧斗(M2),木村将也(M1),日下部哲也(D3),櫻井翔太(M1),佐藤大佑(D2),

志水宏行(D2),武田海(M1),田中宏樹(D2),山口優太(M1)

本部門では,地震や火山活動およびそれに関連する現象を理解するために,数学・物理学・化学・地質学の基本原理に基づく理論モデリングの研究を行っており,その内容は多岐にわたる.