
外核の化学組成の違いによるニュートリノ振動確率の変化. 40億eVのエネルギーを持ったニュートリノが地球の中心を通過したときのニュートリノ振動をシミュレーションした結果.ニュートリノは地球を通り抜けていく間に,ミュー型(赤)から電子型(緑)へ,またミュー型へと変化していく.実線は外核の組成が鉄(Fe)100%の場合,破線は鉄に2%の水素(H)が混ざった場合で,検出器で捉えられるミュー型と電子型の割合は10%程度変わる.
雲仙岳平成新山の山頂部付近におけるエアボーン・ミュオグラフィ観測の様子(上)と、得られた密度コントラスト(下)。赤い部分ほど密度が高い。上右の白丸内にヘリコプターが小さく写っている。
本研究部門では年に数回,災害科学系研究部門研究会を開催し,災害科学に関係する所内外の関係者,大学・研究機関のみならず,行政機関・民間企業等の理工学研究者,防災担当者などとの交流を図る機会を設けている.これまでの通算開催回数が120回を数える.2016年度には「既存鉄筋コンクリート建物の崩壊安全性(芳村学首都大学東京名誉教授)」,「熊本地震被害調査結果の概要(楠浩一東京大学地震研究所准教授)」,「Application of seismic loss assessment concepts in the Christchurch earthquakes recovery and recent building monitoring experience in New Zealand, Dr. Quincy Ma, Senior Lecturer, the University of Auckland, New Zealand」をテーマに研究会を開催した.
2011年1月の準プリニー式噴火に先立つ小規模噴火においてマグマ物質の出現を検知することに成功した.噴火発生後は,地質・岩石学データ,上空から観察した火口状況,地球物理データを融合することで,マグマ溜まりから地表に至る広範な現象を説明する統合的モデルの構築を試みた.すなわち,噴出量,噴煙高度と噴出率を推定し,ブルカノ式噴火の噴出条件を推定した.岩石学的研究では,斑晶メルト包有物の揮発性成分測定や相平衡実験を導入することで,浅部低温マグマの深度と,深部からの高温マグマ注入プロセスに関する描像を得た[図3.6.4].これらの研究は地殻変動をはじめとする地球物理観測データの解釈にも示唆を与えた.
新燃岳および霧島火山群下の広域比抵抗構造を探査する目的で,平成22年7~8月および23年3月~4月に,計28点においてMT法測定を実施した.3次元構造解析の結果, 霧島火山群の北東側,深さ10kmあるいはそれ以深に低比抵抗領域が検出された.この低比抵抗体は,2011年新燃岳噴火に伴い地殻変動観測その他から検出された膨張収縮源に相当すると考えられる.また,そこから東上向きに霧島火山群中心部に向かって低比抵抗領域が伸びており,ここから今回の噴火に関連する火道が伸びていると考えられる.
2011年1月26日に爆発的噴火を行った霧島新燃岳の噴火前後の地殻変動を稠密なGPS観測網で捉え,噴火前の山体膨張時の圧力源,噴火時の減圧源,噴火後の再膨張時の圧力源の位置を,誤差も含めて推定した.この噴火に関与するマグマ溜りは新燃岳北西約8km,深さ約8kmで,2009年12月からほぼ同じ蓄積率でマグマが蓄積され,噴火時に蓄積量の約65%の13×106m3のマグマが噴出し,噴火後もほぼ同じ蓄積率で再蓄積し,噴火前の90%まで蓄積した時に再蓄積が終わった.このようなマグマ蓄積の履歴が観測より明らかになった.
霧島山新燃岳の火口近傍で観測された広帯域地震計,傾斜計により,2011年噴火活動初期の準プリニー式噴火,マグマ湧出期,ブルカノ式噴火という異なる火山活動に伴う火道浅部に起因する傾斜変動を捉え,これらの火山活動に関連する火道浅部のプロセスに関する知見を得た.ブルカノ式噴火では,噴火に先行する傾斜の時系列の特徴を明らかにする事を通じて,噴火に先行する火道浅部でのプロセスを推定した.最初に発生した3つの準プリニー式噴火では,地震・空振の振幅を他の観測データと比較することにより,1番目と3番目の噴火は浅部での急激な減圧より,2番目の噴火は火道のより深部に起因するトリガー機構によって引き起こされたという知見が得られた.
2001-2003 年度の深部掘削で得られた試料の岩石学的検討を進め,先小御岳火山,小御岳火山,富士火山はそれぞれ独自の化学組成上の特徴をもち,安山岩組成の小御岳から段階的に富士の玄武岩組成の火山へと変化してきたことを明らかにした.一方,古期後半のスコリア層のメルト包有物を主体とする解析から,富士山の浅部には安山岩質の小マグマ溜りが存在(深さ約4-6㎞と推定される)し,深部の主玄武岩質マグマ溜りから上昇したマグマとこの安山岩質マグマとが混合することによって,富士山の噴出物が生じているとするモデルを提案した[図3.6.2].
さらに,新期のスコリア層の解析も進め,新期では安山岩質マグマ溜り内のマグマがやや分化し,よりSiO2に富む組成となっている可能性を指摘した.宝永の噴火で想定されているデイサイト質小マグマ溜りは,このような浅部マグマ溜り内のマグマがより分化し高いSiO2量となったものと解釈できる.また,最後の山頂噴火である湯船第二スコリアの噴出メカニズムを微斑晶の解析に基づいて行った.
富士山においては,過去に発生した低周波地震の震源分布や岩石学的な考察から地下15-20 km付近にマグマだまりがあると考えられていたが,地震学的に確かな証拠が存在しなかった.我々はレシーバ関数解析を行い,富士山周辺の数10 kmまでの深さの地震波速度の不連続構造を明らかにした.その結果,富士山下40-60kmの深さに南北に沈み込む顕著な速度境界面があり,富士山直下でその境界面は不連続になっていた.また,富士山下で火山性の低周波地震が発生する地下10-20kmの領域の下,およそ25kmの深さに顕著な速度境界面を発見した.さらに,レシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造を明らかにし,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性を示した[図3.6.3] .
[図3.6.2]
[図3.6.3]