カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.11 観測開発基盤センター

教授 新谷昌人,岩崎貴哉(センター長),加藤照之(兼任),纐纈一起(兼任),森田裕一,中井俊一(兼任),小原一成,篠原雅尚,歌田久司(兼任)
准教授 平賀岳彦(兼任),望月公廣(兼任),酒井慎一,鶴岡弘(兼任)
助教 蔵下英司(兼任),前田拓人,中川茂樹,小河勉,高森昭光(兼任),山田知朗(兼任),竹尾明子
特任研究員 石原丈実
技術補佐員 安部恵子,原田寧子,藤田園美,工藤佳菜子,二瓶陽子
外来研究員 大橋正健,高橋弘毅,渡邉力雄,大里優一郎,内田直希
大学院生 栗原 亮,出口雄大,堀井憲一,金谷希美,酒井浩考

 観測開発基盤センターは平成22年4月の地震研究所改組に伴って設立され,地震火山観測機器及び分析装置の維持・管理・活用等の研究支援,観測機器・技術開発支援及び地震火山観測研究・技術開発研究を推進することを目的としている.本センターでは,観測所等の観測拠点とテレメータ観測網を維持・活用するとともにデータ伝送・流通システムの研究開発を図り,地震・地殻変動・火山・電磁気現象に関する広範な観測研究を進めている.これらの観測研究には,新たな観測システムの開発が不可欠である.このような技術開発を観測研究ともに推進していることが本センターの大きな特徴である.

3.10.5 西之島における火山観測

 小笠原諸島の西之島は,2013年11月に海底噴火を開始し,2015年11月頃まで活動が続いた.噴出した溶岩は旧島の大半を覆い面積で2.7㎞2,噴出量は1.6㎞3に達した.推進センターにおいては,火山センターと密接に協力しつつ,2度にわたって西之島の観測を実施した.

 2016年6月の観測では,気象庁の啓風丸に乗船し,火口から1.5㎞の範囲に設定された規制区域の外から無人ヘリコプターによる観測を実施した.4Kカメラによる島内の撮影を行い,溶岩流の形態的特徴を詳細に捉えるとともに,島内中央付近に成長したスコリア丘の内部及び表面に発達した亀裂構造を観察した.また,スコリア丘の麓において溶岩組成分析を目的としたスコリアのサンプリングを実施した.

 2016年8月には規制区域が500mに縮小され,上陸が可能になった.これを受けて,2016年10月に大気海洋研の新青丸に乗船し,上陸調査を実施した.上陸調査においては,地震計および空振計を旧島に設置した.設置したシステムは,太陽電池により電力を供給し,広帯域地震計,空振計の2種類のセンサーを備え,西之島の火山活動の再活発化に伴う地震活動の変化,微動など火山性地震の検出,噴火やスコリア丘崩壊などに伴う空振の発生に備えたものとなっている.データは衛星通信を介して東京まで転送される.衛星通信で全ての連続データを送るのは経費的に困難であるため,1日分の波形を1枚の画像に圧縮したものを毎日定時に転送し,その中に特異なイベントが含まれていた場合に該当する時間帯の波形ファイルを衛星経由で回収するという仕組みを実装した.これにより,通信料を抑制しつつ活動状況を連続的にモニターすることが可能になった.

3.10.4 2016年熊本地震に誘発された大分県中部の地震

2016年4月16日熊本地震M7.3による地震波の伝搬中に,大分県中部でM5.7(気象庁の参考値)の地震が発生した.本震からの地震波が通過中にM<5の地震が誘発された例は数多く報告されているが,M≥5の報告例はほとんどない.破壊核が成長するのに一定の時間がかかるためと解釈されている.本地震のMの推定では,本震からの地震波が重なっているので過大評価になっている可能性があるが,K-NET,KiK-netの5観測点の強震波記録,国土地理院による由布院観測点での地殻変動データをもとに検討し,M6クラスの地震とみなしてよいことを確認した.

1983年以後,別府万年山断層帯で発生したM≥3の震央分布(図1(a),赤)と,今回の大分県中部における余震域(青)とは棲み分けているように見える.また,この余震域では2011年東北沖地震などにより誘発されたと考えられる地震が度々発生している(図1(b)).熱水地域,あるいは若い火山帯で誘発されやすいことが知られており,本余震域はその両方の条件をみたしているが,他のM≥7の日向灘地震で誘発されなかった例もあり,発生メカニズムについて検討を進めている.

3.10.3 相似地震

 ほぼ同じ場所で同一のすべりが再現される相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を基に,小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行っている.現在は,日本列島周辺に加え,世界で発生している相似地震活動の検出が可能となった.その結果,沈み込むプレートの境界で地震が発生する場所で,相似地震が多数検出された.相似地震群から推定されたすべり速度分布は,各地域のプレート間固着状態を反映した特徴を示している.2004年スマトラ沖地震,2011年東北地方太平洋沖地震の余震域では,本震発生から10年あるいは5年以上経過した現在もなお,相似地震が頻発しており,余効すべりが未だに収束していないことが示唆された.また,本年度は,間欠的にゆっくりすべりが発生する地域や,内陸浅発地震発生域でのすべり推定に向けて,相似地震抽出法及びすべり推定法の再検討を行った.

3.10.2 地震発生サイクルシミュレーション

 横ずれ断層の破壊開始点における破壊エネルギーを推定するため,地震発生サイクルシミュレーションを行った.破壊エネルギーは断層を単位面積だけ破壊するために必要なエネルギーであり,地震がいつ発生するか,また,断層から放射される地震波エネルギーの大きさなどに影響する.断層の固着域端では,周囲の非地震性すべりの発生により応力集中が生じている.この応力集中から期待される弾性エネルギー解放率と破壊エネルギーの釣り合いから,破壊開始点における破壊エネルギーが推定できる.理論的考察とシミュレーション結果から,破壊エネルギーは地震発生間隔と断層の平均的なすべり速度の積の2乗に比例することがわかった.この結果を,中国の鮮水河断層に適用して,この断層で過去に発生したマグニチュード7以上の横ずれ断層地震の破壊開始点における破壊エネルギーを推定した.推定された破壊開始点の破壊エネルギーは,断層全体の平均的な破壊エネルギーよりも小さく,地震の規模とともに大きくなる傾向が見られた.この傾向は,沈み込み域のプレート境界大地震について得られた結果と同じである.

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

 全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センターの教員,客員教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

  1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
  2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
  3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
  4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

 毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめている.

3.10 地震火山噴火予知研究推進センター

教授 加藤尚之,黒石裕樹,吉田真吾(センター長)
准教授 飯高隆,大湊隆雄
助教 青木陽介,五十嵐俊博
大学院生 磯部渉(M),臼田優太(M),蘭幸太郎(D)

3.9.4 原子力発電所建屋の3次元地震応答シミュレーション

原子力発電所建屋の地震応答解析では,地盤-構造物連成,建屋の局所的損傷,機器への振動伝達等,さまざまな要因を計算しなければならない.計算機が未成熟の時代に開発された解析方法は,様々な工夫を考案して,このような要因を計算していた.大容量・高速の大型並列計算機が利用できるようになった今日,従来の解析方法の長所を踏襲しつつ,その短所を補う代替となる解析方法の研究開発が必要となっている.
3次元ソリッド要素を使った地盤-建屋一体の3次元地震応答シミュレーションは,従来方法の補間ないし代替となるよう,開発が進めれれている.2014年度に引き続き,電力中央研究所との共同研究を進め,実原子力発電所建屋の解析モデルの構築と非線形地震応答解析を進めている.

3.9.3 ポスト「京」重点課題③「地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築」

2020年から本格稼働が計画されているポスト「京」を有効に利用するため,ポスト「京」で重点的に取り組む社会的・科学的に重要課題が選定されている.その重要課題の一つが「地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築」である.地震研究所はこの重点課題の代表機関であり,海洋技術研究開発機構,神戸大学,九州大学,京都大学の分担機関や,10以上の協力機関とともに,このプロジェクトを推進する.課題は,理工学のシミュレーションを中心とするしたサブ課題Aと,地震・津波の災害に関わる社会科学のシミュレーションを中心とするサブ課題Bから構成される.また,アプリケーションの開発の他,システムの実用化を重視する点も特徴である.
2年間の調査・準備期間を経て,本年度から重点課題は本格研究活動に入った.サブ課題Aの理学のシミュレーションでは,地震発生・地殻変動と津波発生に対し,億から兆の自由度の解析モデルを使う数値解析手法が開発されつつある.サブ課題Aの工学のシミュレーションでは,都市のより精緻な解析モデルを使う統合地震シミュレーションの研究開発が進められている.サブ課題Bではマルチエージェントシステムを使う群集避難シミュレーションにや,地震による交通障害・経済支障のシミュレーションを行う数値解析手法の研究開発が進められている.2016年12月に国際ワークショップ,2017年3月に成果発表会を開催し,成果発信に努めている.また,この研究プロジェクトで開発された数値解析手法を実際に内閣府で利用する実用化も進まれている.

3.9.2 巨大地震関連現象の解明に資するデータ駆動型モデリング技術の研究開発

(1) シミュレーション/データ両駆動型データ同化の創出を目指して

データ同化は,数値シミュレーションモデル(以下,数値モデル)と観測データをベイズ統計学の枠組みで統融合するための計算基盤技術であり,高精度かつ高詳細な予報が可能となった現代の気象予報は,データ同化の賜物と言っても過言ではない.データ同化は,本センターが取り扱っているような大規模な数値モデルを対象とする場合において,特にその威力を発揮する.しかしながら,そのような大規模数値モデルに対しても,データ同化の本来の目的である確率密度関数(以下,分布)の推定をきちんと行うためには,従来のデータ同化手法では不十分であった.本センターでは,(2)で述べる4次元変分法に基づくデータ同化手法の革新的アルゴリズムの新規開発に成功した.
また,これまでのデータ同化の枠組みは,所与の数値モデルに大きく依存する「シミュレーション駆動型モデリング」であったが,これが効果的に機能するためには,その数値モデルが起こり得る現象を精緻に記述したものであることが要求される.しかしながら,これが可能な研究分野は極めて少数派であり,例えば地震関連の観測データには,地下構造に関する情報が不十分であること等に起因して,数値モデルでは再現しきれない現象が非常に多く含まれていると思われる.そこで本センターでは,他の研究部門や研究センターとも連携して「データ駆動型シミュレーション プロジェクト室」を2014年度に発足し,従来のシミュレーション駆動型データ同化の枠組みに,スパースモデリングに代表されるデータ駆動型モデリングの手法をプラグインすることにより,シミュレーション/データ両駆動型のデータ同化法の創出を目指している.地震データに適用可能なデータ駆動型モデリング手法の第一歩として,(3)で述べるように,限られた地震観測データから空間的に密な波動場を推定する「地震動イメージング法」の開発を実施した.

(2) 大規模データ同化のための革新的4次元変分法の開発

非逐次型データ同化法である4次元変分法は,フォワード計算を実施するための数値モデルから「アジョイントモデル」と呼ばれる方程式系を構成する必要があるため,アンサンブルカルマンフィルタや粒子フィルタのような逐次ベイズフィルタを用いたデータ同化手法と比較して,実装は容易ではない.しかしながら,必要なメモリ容量と計算時間を数値モデルと同等に抑える事ができるため,連続体計算のような自由度の大きい数値モデルを用いるデータ同化を実施する際には,極めて有効である.ただし,従来の4次元変分法に基づくデータ同化では,勾配法による最適化を行うため,逐次型データ同化法では自然に得ることができる推定値の不確実性を評価することが不可能であった.例えば,気象予報においては主に4次元変分法が用いられているが,台風の中心位置予測に関する不確実性を示す「予報円」を描く際には,4次元変分法と逐次型データ同化手法をアドホックに組み合わせて求めているのが実情である.
本センターでは,大自由度系の数値モデルに対する推定値の不確実性の評価を可能にする革新的4次元変分法を開発した.4次元変分法で最適化される評価関数は,一般には最適値の近傍ではモデルパラメータを含む状態変数の2次形式で記述可能であるため,状態変数が従う分布は多変量正規分布によって近似できる.この場合,着目する状態変数の不確実性を示す標準偏差は,その分布の周辺化によって得られるが,それは評価関数の2階導関数からなる行列(ヘッセ行列)の逆行列から導かれる.しかし,ヘッセ行列の逆行列の計算は,自由度の2乗に比例するメモリ容量と,自由度の3乗に比例する演算を必要とするため,通常の数値微分を用いてそれを評価することは現実的ではない.そこで,我々はsecond-orderアジョイント法を導入することにより,ヘッセ行列の逆行列を評価する新しい手法を提案した.second-orderアジョイント法は,任意のベクトルとヘッセ行列の積を計算する手法であり,所与の数値モデルから接線形モデルを,アジョイントモデルからsecond-orderアジョイントモデルを構成する必要があるが,それぞれ数値モデルと同等なメモリ容量と計算時間で実行可能であるため,たとえ自由度が大きい場合でも,十分にヘッセ行列を評価することができる.second-orderアジョイント法と反復法を組み合わせることにより,求めたい推定値の不確実性を示すヘッセ行列の逆行列の対角成分を直接計算することが可能になった.
数値モデルとして相界面移動を記述するフェーズフィールドモデルを題材に,本提案手法を擬似データに基づく「双子実験」により,その性能を評価した.本センターは,科学技術振興機構 戦略的イノベーション創造プログラム 革新的構造材料「マテリアルズインテグレーションシステムの開発」に参画し,構造材料分野で広く用いられているフェーズフィールド法に資するデータ同化技術の開発を行っている.フェーズフィールドモデルは,相の存在確率を連続場の変数として扱うモデルであるが,相界面の分解能をある程度保証する必要があるため,一般に空間格子数は極めて多く,自由度も非常に大きくなる傾向にある.擬似データをノイズが付加された相の存在確率場の時系列とし,提案手法を適用することによって,相界面の移動速度を特徴付けるモデルパラメータの真値が再現されるかどうかを確認した.その際,擬似データを取得する時間の長さ,取得する時間の間隔,あるいは擬似データに含まれるノイズの大きさを変化させた場合のそれぞれについて,パラメータの標準偏差の推定値の変化を定量的に調べた.その結果,データの量やノイズの大きさに依存した推定値の標準偏差が得られ,本提案手法は推定器として非常に良い性質を持つことが明らかになった.また, 場の初期状態推定についても,最初に設定した真の初期場を復元できることがわかった.さらに,本モデルの持つ非線形性に起因する臨界的性質より,推定される初期場に不確定性が励起されることが明らかになった.この不確定性は,ノイズが大きすぎる場合や,推定したい初期時刻から最初の観測時刻までの時間が長すぎる場合に顕著となるが,本モデルの臨界的性質を前もって知っておくことができれば, 除去することが可能である.

(3) 構造物の即時被害予測に資するデータ駆動型モデリングに基づく地震動イメージング技術の開発

本センターは,文部科学省研究開発局の科学技術振興費「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」に参画し,観測に基づく都市の地震被害評価技術の開発を実施している.大地震発生時に,都市の構造物における地震応答を数値モデルで即時に評価することで,救助活動の円滑化や二次災害の軽減に貢献することが可能になる.この地震応答の計算の際には,初期条件として構造物直下における入力地震動が必要となる.本センターでは,観測された地震データから,地震観測網よりも圧倒的に密に分布した構造物直下における入力地震動のイメージング手法の開発を行っている.
本年度は,昨年度までに開発した観測データから入力地震動を推定するスパースモデリングに基づくデータ駆動型モデリング手法に加え,波動方程式を物理的な拘束条件として課すことで観測データをより定量的に説明する入力地震動をイメージングする手法を開発した.具体的には,波動方程式に含まれる地震波速度や層厚といった地下構造に関するパラメータや,震源に関するパラメータを未知変数とし,観測データと数値モデルの定量的な適合度を示す事後分布を定義する.一般に,この事後分布は極めて複雑な形をしており,解析的に最適化を行うことは容易ではない.そこで,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法に基づく事後分布からのサンプリングを行い,未知パラメータの最適化を図りながら,同時に入力地震動のイメージングを実行するという方針をとった.MCMC法としては,多峰性を持つ分布からでも効率的にサンプリングすることが可能なレプリカ交換モンテカルロ法を採用した.レプリカ交換モンテカルロ法は,サンプリングを実行すべき分布に加え、それを滑らかにした形状を持つ複数の分布から同時にサンプリングを行う。このとき,適当なタイミングでサンプルの交換を分布間で行うことにより,広範囲かつ効率的な探索を行うことが可能である.地下構造を仮定して生成した擬似データに対して適用する双子実験により,提案手法の性能評価を行った.はじめに,半無限構造を仮定し双子実験を行ったところ,仮定した地下構造を反映するモデルパラメータ値周辺で峰を持つ分布が推定された.一方で,事後分布のみからサンプリングを行うメトロポリス法と呼ばれる通常のMCMC法では,局所的な峰からのサンプルのみが生成される結果となり,本手法が事後分布から大域的かつ効率的にサンプルを得るのに有効であることが示された.次に3層の水平成層構造を仮定した地下構造で同様の実験を行ったところ,事後分布の局所的な峰に捕捉され,真値に近い値がサンプリングされない場合が存在した.これは半無限構造の場合よりも推定すべきパラメータ数が増加したため,推定が困難となっていることに起因しているものと思われる.しかしながら,このようにすべてのパラメータが必ずしも正確に決まらない場合においても,仮定した地震動に近いイメージングを得ることが可能であるという結果が得られた.提案手法の性能評価のために,観測データのみを用いた古典的な空間補間法であるクリギング法との比較を行ったところ,クリギング法の場合は0.30Hz以下の低周波域においても仮定した波動場をきちんと再現できず,物理的な拘束条件の導入は波動場のイメージングにおける必要不可欠な要素であることが示された.我々が開発した地震動イメージング法を首都圏地震観測網MeSO-netの実データに適用したところ,1.0Hz以下の周波数帯域においては,観測データの速度スペクトルと良く一致する推定結果を得ることに成功した.
また即時的な被害予測のためには,地震動イメージング手法の高速化が必須である.本センターでは,地震動イメージングに要する計算時間およびメモリ容量の削減を目的として,各構造物の入力地震動推定に真に有効な観測点を選択する手法の開発を進めている.具体例として,まずはクリギング法と非凸最適化問題を組み合わせることから始めた.クリギング法で用いられる目的関数に,正則化項としてL1−L2ノルムやL1−largest-Kノルムを加味することによって,DC計画問題と呼ばれる最適化問題に帰着させ,恣意性が少ない観測点選択を行うアルゴリズムを開発した.数値実験を用いて本アルゴリズムを検証したところ,上記のどの正則化項を用いても有効な観測点が選択されることが確認された.