大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.
2014 年 12 月 9 日爆弾低気圧が大西洋で発生しイギリスやアイルランドに被害をもたらした. その際に海洋波浪により発生した P 波は地球深部を伝播し日本にまで到達した.観測された P 波の振幅は 0.1μm と一見小さいが,同じ地域で起こったマグニチュード 6 の地震にも匹敵す る.このような海洋波浪起源の地震波は,近年地球内部構造を調べる上で注目されている.そこで,嵐による海洋波浪が励起する脈動 S 波を初めて検出し,観測データから嵐がどのように地震波(P 波・S 波などの実体波)を励起しているかを明らかにした. 大西洋で発生した爆弾低気圧時の日本の地震計記録を解析し,爆弾低気圧によって励起され た周期 5-10 秒の P 波・S 波を検出し,震源位置と強さを推定した.低気圧の移動にともない 震源は海底の等深線に沿って移動している事が分かった.同様の脈動実体波の検出を系統的に行い普遍的に存在することを示した.
本研究は、遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震、観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.
海洋島に設置された広帯域地震計のノイズレベルを解析してみると、しばしば周期100秒から数100程度のブロードなピークが観測される。原因として海洋外部重力波起源だと考えられているが、定性的な議論が中心となっている。最近、津波(物理的には海洋外部重力波と同一の減少)の伝搬にともなう海洋島の弾性変形(Nishida et al.,2019)の定量的な評価できろことがわかってきた。しかし津波は物理的には外部重力波であるが、平面波を仮定していたため、そのままではその活動の見積もりに使うことは出来ない。そこで、津波に対して開発した手法をランダムに励起された海洋重力波に対して拡張し、海洋外部重力波の定量的な議論の可能性を示した。
地震・火山現象を理解する上で、地震波速度構造の時間変化を捉える事は重要である。これは、地震や火山噴火に伴った応力変化や流体の移動は、近傍の地下構造に大きな影響を与えるため、地震は速度構造の変化から応力状態や流体の分布などに制約を与えることが期待できるためである。実際に地下構造の時間変化を求めようとする場合、コントロールソースを用いて繰り返し地震波トモグラフィを繰り返す事が想的である。しかし多くの場合現実的ではない。一方自然地震を使う場合、震源の不確定性や震源分布の偏りなどに起因する不確定性が速度構造の不確定性を引き起こす。そのため、たとえ時間変化が見かけ上見えたとしても、それはただのノイズなのか本当の速度変化なのか判然としがたい。地震波干渉法による解析では、励起源の分布がランダムかつ一様な場合には、一方の観測点を仮想的な震源とみなすことができるためこの問題を回避することが可能である。地震波干渉法によって検出された地震波速度構造の時間変化は地震・火山現象以外にも、降水量に伴う変化等表層付近の現象に強く影響されていることも分かってきた。本研究では、降水量等の影響を定量的に評価するために、状態空間モデルが有効であることをしめし、拡張カルマンフィルターによる地震波速度構造の推定手法を開発した。この手法を、2011年新燃岳噴火時の地震波形データに適応し、火口近傍のみ噴火に1ヶ月ほどまえから噴火に向けて、約5%程度地震波速度構造が低下していることを示した。
2018年度に実施した,国際深海科学掘削計画(IODP)による南海トラフ地震発生帯掘削(NanTroSEIZE)の総括を行った.また孔内長期計測のワークショップ(2019年10月,シアトル)を共同主催し,地震発生帯での地震・測地・水理・熱観測について協議を行った.
地震研究所や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている.東北地方太平洋沖や日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について地震・津波波形記録を用いて断層パラメータの検証を行った.地震研究所に保管されている古地震のカタログやそれらをデジタル化したデータベースの紹介論文を投稿し,さらに1923年関東地震などのすす書き記録の高解像度のデジタル画像化を進めている.
2017年度から地震研究所と史料編纂所の部局間連携機構として「地震火山史料連携機構」が設置された.この機構では,地震研究所で刊行されてきた『新収日本地震史料』等の史料集を電子化した上で,原本もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っているほか,各地の日記などに書かれた被害を伴わない地震も含めた「日記史料有感地震データベース」を作成している.これらの史料・データベースに基づいた歴史地震の研究を行っている.また,歴史地震の震源域を有感地震の時空間分布から制約できる可能性を,気象庁震度データベースを用いることで示した.
1855年安政江戸地震に関して,全国スケールで再検討した震度分布と三次元減衰構造を考慮した震度計算との比較から,この地震の深さについて検討した.
三陸沿岸宮古市において津波堆積物の調査を行い,浜堤背後の湿地で過去2000年間に発生した17層のイベント堆積物を発見した(図3.12.7).2011年東北地方太平洋沖地震の津波堆積物の特徴を考慮して,これらのイベント堆積物の起源を推定した.
琉球海溝沿いのサンゴのマイクロアトールの形状・年代から過去の水面変動について,与論島・沖縄本島における解析結果をまとめて出版するとともに,石垣島・宮古島などにおけるサンプルについて,解析を進めている.
津波データや測地データ,地震データを用いて,世界の巨大地震の断層運動の詳細や津波の発生過程について調査している.1960年チリ地震,2018年アラスカ沖地震などについて,主に津波データから断層面上のすべり分布の推定を行った.得られたすべり分布から,断層パラメータに関するスケーリング則の検討を行った.インドネシアや地中海における津波観測点の最適化配置の推定をおこなった.
沖合で記録された津波観測波形のデータ同化による津波予測手法について研究を行っている.2009年にニュージーランド沖で発生した地震,2015年鳥島近海地震やチリ・イヤペル地震について海底水圧計を用いたデータ同化の実証や,少数の観測データの補間によるデータ同化手法の開発を行った.
北海道・東北地方を中心とする日本海東縁部で津波の発生が予測される断層モデルを抽出し,様々なパラメータに基づいたシナリオ型津波シミュレーションを行った. 2015年に鳥島近海で発生した火山性津波地震が,海底カルデラ内部で大きな隆起現象を伴っていたことを示した.さらに,2009年,2017年にケルマデック諸島で発生した火山性津波地震についても,その発生機構を調べている.
地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,すでに先行して同種の研究CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,2008年にCSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスが実現され,提案されている地震予測モデルは160を超え, CSEPに参加している研究機関の中でも最多である.
2019年度においては、2019年11月25日から26日にかけて地震活動予測検証実験に関わる研究集会を実施し,活発な議論を行った.
首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計1065 観測点(図3.12.4)の強震波形データを収集し,公開するシステムである.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位のグラフおよび最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルを SK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2019年度は46名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2020年3月までに収集されたデータを順次利用可能にしている.
自治体の震度計の更新により収集システムも更新が必要となり,5自治体については,新しい波形収集装置を開発してオンライン収集を継続し,残りの県についてもオフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.
東北地方太平洋沖地震については,本震や余震の波形データ量が膨大なため,一部の県でオンライン収集が困難な事態が発生した.現地の震度計からのデータ回収を実施してデータベースに格納した結果,786の観測点からの波形データがホームページで公開されている.
本センターではWWWサーバを立ち上げ,地震・火山等の情報提供を行ってきた.アウトリーチ室(現広報アウトリーチ室)が設置されてからは,本センターはそれをサポートしている.また,観測開発基盤センターとともに年2回,気象庁において地震波形自動処理の技術移転のための研修を行っている.
研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している(図3.12.3) .
利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.2017年においては,気象庁一元化自動震源を取り込んだシステムのプロトタイプを開発した.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーサイトを運用し,大学等の研究者に継続して提供している.
全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MT(図3.12.4)を開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2019年においては,世界の地震については189個,日本の地震については88個のモーメントテンソル解を決定した.
地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震記象委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.
このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.今年度は,1923年関東地震や1946年南海地震を初めとする国内主要地震の世界各地の地震波形記録や,1940年代の地震研究所管轄の観測点のすす書き記録を電子化した.WWSSN フィルムの長期保存のためのファイリングや,劣化が始まっている筑波地震観測所HES記録の修復作業も行っている.また,濃尾地震や鳥取地震等の過去の大地震のアンケート調査や報告書などの資料のPDF化を行い,公開すべく準備を行っている.2019年においては,和歌山観測所ペン書記録の連続波形画像を閲覧できるシステムを改良し,猿谷・熊野・甲斐川の3観測点を継続して公開した.
本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2015年3月にシステム更>新を実施し,現在はSGI UV 2000/ICE-Xシステム(図3.12.2)が稼働している.このシステムは,並列計算サーバとして288ソケット(3456Core)/18.4TB メモリ,高速計算サーバとして128ソケット(1024Core)/8TBメモリ,それらのフロントエンドサーバとして8ソケット(64Core)/1TB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている>.システムは,例年毎月平均90~150 名が利用しており,そのうちの4 ~ 5 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者や中級の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.
新しい大学間の全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetを各大学や防災科研との共同研究として開発した.JDXnet は,衛星回線に代わって,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めたシステムを運用している. 2019年も,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを引き続き運用し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を継続した.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.
新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.またその中から,M7 以上の大地震についての記録を選んでDVDを毎年作成し,全国の研究者に提供している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,USGSのWebページから地震情報を自動的に収集するシステムを新たに開発して自動化システムを改良した.2019年度は,連続データ作成機能の改良を行った.
各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2019年においては,各地域の地震活動のみの提供を継続して行った.
チャネル情報管理システム(CIMS)は,全国の大学や防災科研,気象庁などの各機関の地震観測点の情報を分散管理するデータベースである.各機関が管理する観測点の情報をCIMS に入力すれば,自動的に他機関に転送されて更新されるため,他機関の観測点の変更情報を迅速にかつ正確に利用できるようになる.2007年10 月からこのシステムを運用しているが,2019年はメタデータ管理の将来像について検討した.
気象庁に予報業務許可申請(地震動) を行い,予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTNET やSINET 等のネットワークを介して緊急地震速報の伝達を行っている.学内で,緊急地震速報の仕組みや技術的限界を周知し,利用するための必要な事柄を検討し,Web コンテンツと同様なアクセスのみで緊急地震速報を簡便に受信できるようにし,端末表示装置の開発も行った.2011年からは情報学環総合防災情報研究センターと共同で,学内に複数の配信サーバを設置して,全学に緊急地震速報を提供している.また2012年度以降からは,学内の放送設備に接続して緊急地震速報を放送する装置を開発して,理学部,工学部,地震研究所,本部棟,駒場Ⅰキャンパス,白金キャンパス,柏キャンパスに設置した.2015年度には,本郷キャンパス広域放送設備に接続して,本郷キャンパスの主要な建物のほぼすべてに緊急地震速報を放送可能にした.また東京大学本部の防災訓練,理学部や工学部,地震研等の部局の防災訓練,駒場キャンパスや柏キャンパスの防災訓練,医科研や附属病院における防災訓練などにおいて,本装置による緊急地震速報の訓練放送が広く活用されている.また、気象庁が運用開始するPLUM法に対応するために、緊急地震速報の受信アプリなどの改善を実施した。2019年においては,Javaに関するサーバシステムのシステムアップデートを実施した。