部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.1.3 大気・海洋現象が引き起こす固体地球の弾性振動現象

大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.

(1) 脈動実体波に関する研究

脈動実体波を全球的に検出するため,新たにauto-focusing法をを開発した.この手法では,波面曲率とスローネスの情報を用いるため,震源の重心位置と外力を精度良く推定することが可能となった.この方法を2004年から2020年までの日本国内の約780のHi-net観測点の地震記録の鉛直成分に適用した.また海洋波浪数値モデルに基づく合成CSFカタログとの比較し,地震波のS/N比が検出を制約するものの,時間的・空間的パターンは概ね一致している事が分かった.例外的に、海洋波浪モデルはカーペンタリア湾の重要な活動を説明できないことも明らかにした.2023年度には,新たにS波脈動の系統的な検出を行い,その励起メカニズムについて議論した.2024年には、auto-focusing法を水平動へ拡張し、S波脈動の系統的な検出を試みた。

本研究は,遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震,観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.

(2) 2022年トンガのフンガ火山噴火時に発生した海洋外部重力波

トンガの噴火後に水圧計 (S-net, DONET) 記録を解析したところ、周波数に比例して数日の遅れで波群が次々に到来していることが明らかとなった。観測された波群は、海洋重力波の分散関係によって説明可能である。また津波と比較して、水深による影響が少ないために伝播の特性が単純となり、噴火の情報を直接的に記録している事も分かってきた。噴火時に周期100秒付近の成分が欠落しており、この周波数帯の海洋重力波は数時間経ってから励起されていた。これは、噴火時に海水を吹き飛ばし、外向きに広がることによって津波を励起し、短周期の海洋重力波は、表層付近の擾乱起源であることを示唆している (Nishida et al. 2024)。

3.12.3 ネットワーク・計算機・データベース

(1) 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet

各大学や防災科研との共同研究として開発した全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetの運用を継続した.JDXnet は,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めている. 2024年も,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを引き続き運用し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を継続した.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.

(2) 新J-array システム

新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,USGSのWebページから地震情報を自動的に収集するシステムを2020年度自動化システムを改良し,2024年度はそのシステムを継続運用した.

(3) 全国地震波形データベース利用システム HARVEST

各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2024年においては,各地域の地震活動のみの提供を継続して行った.

(4) チャネル情報管理システム

チャネル情報管理システムは,地震観測点のチャネルID、座標、AD変換装置のパラメータ等からなるチャネル情報を管理するデータベースである.2007年10 月にこのシステムの運用を開始したが,これまでの運用状況やミドルウェアの更新状況等から現行システムの更新は困難と判断し,その運用終了に向けて手順の確認作業に入るとともに,同等のシステムの将来性や必要性について検討を開始した.

(5) 緊急地震速報の伝達と利活用

気象庁の予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTNET やSINET 等のネットワークを利用した学内における緊急地震速報の伝達を行っている.今年は,気象庁による立ち入り検査の対応を行なったほか,学内放送に必要な配信サーバの更新を行なった.また,緊急地震速報放送を開始する閾値を震度4から震度5弱への変更を行なった.

(6) 全国共同利用並列計算機システムの提供

本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2020年3月にシステム更新を実施し,現在はHPE ProLiant DL560 Gen10システムが稼働している.このシステムは,計算サーバとして120ソケット(2400Core),22.5TiB メモリ,それらのフロントエンドサーバとして4ソケット(80Core),1.5TiB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている.システムは,例年毎月平均70 ~ 90 名が利用しており,そのうちの5 ~ 6 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.なお,2025年3月には次期システムが導入された.

(7) 地震カタログ解析システム等

研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している.

利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーを行う機器を更新して運用を継続し,大学等の研究者に提供している.

(8) 古い地震記象の利活用

地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震古津波記録委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.

このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.2024年においては,和歌山観測所の連続記録の画像化を引き続き進めた

3.12.2 地震火山に関するモニタリング研究

(1) 孀婦海山の事象

島嶼部で発生する地震火山津波現象の即時モニタリングのために、2023年10月に発生した孀婦海山周辺での地震活動で発生したT波(海中音波)に着目した。観測波形解析と3次元地下構造を用いた地震波伝播シミュレーションにより、孀婦海山の事象で発生したT波を説明するには震源を海底面下500 m以浅であることが必要で、極浅部の事象が津波に生成につながった可能性を示した。

(2) 浅部スロー地震のエネルギー推定

浅部スロー地震の1種である浅部微動の地震波エネルギー推定の高度化のために、海底地震計下の堆積層構造の影響を検討した.浅部微動は堆積層直下のプレート境界あるいは堆積層下部(underthrust sediment)で発生するため、地震波が堆積層内にトラップされやすく従来の地盤増幅補正だけでは地震波エネルギーを過大評価することを明らかにした。

(3) 相似地震研究

ほぼ同じ場所で繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島周辺および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行い,相似地震カタログを作成している.その結果,長期間にわたって繰り返す相似地震群の多くは,沈み込むプレートの上部境界周辺で発生していることが明らかとなった.そこで,相似地震とその周辺で発生する地震活動を用いて,プレート間におけるすべりの空間分布・時間変化の特徴を調べた.2011年東北地方太平洋沖地震の大すべり域周辺において非地震性すべりの時間変化を調べたところ,宮城県北部では現在も余効すべりが継続していることが確認された.一方,その他の地域では,地震後数年の間にほぼ収束したと見られる.2024年2月~3月には,房総半島沖のスロースリップイベントの発生が,2024年8月以降には日向灘地震に伴う余効すべりと見られるすべり速度の増加が見られた。さらに本年は,繰り返し地震発生域で発生する地震活動の情報を用いて,小規模な非地震性すべりが発生した可能性がある場所や期間を,カタログが入手でき次第短時間で調査可能な手法を開発した.2024年のカタログに適用したところ,プレート境界で発生するM5クラスの地震発生に伴うすべり速度の増加が2例示唆された.

(4) 長周期波動場のリアルタイムモニタリングGRiD MT

 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MTを開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2024年においては,世界の地震については111個,日本の地震については303個のモーメントテンソル解(VRが70以上)を決定した.

(5) 強震動モニタリング研究

首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計1205 観測点の強震波形データを収集し,公開するシステムである.10 都県のうち2 自治体については,波形収集装置を開発してオンライン収集を,残りの自治体については,オフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位のグラフおよび最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルを SK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2024年度は32名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2025年2月までに収集されたデータを順次利用可能にした.

(6) 地震活動のモニタリング研究

地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,CSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスを整備して実験を進めている.

3.12.1 沈み込み帯学研究

(1) 日本列島下の熱構造推定と日向灘プロジェクト

日本列島の熱構造推定のため、既存のデータベースを統合して熱流量マッピングを開始した。また地下水観測井などを利用して新たに熱流量計測を開始し、2点(つくば、掛川)で計測を実施した。南海トラフ西端、日向灘における海山沈み込みと地震発生の関連を明らかにするため、IODP(国際深海科学掘削計画)に掘削提案を提出済で、その実現に向けて事前調査・解析を行った。特に、科研費(基盤S)を開始し、流体の寄与の評価や、スロースリップ検出に向けたセンサー開発をJAMSTEC主導で共同で実施した。そのために、ドイツカールスルーエ大学の博士課程の学生2名を短期インターンとして受け入れた。IODPの最終年にあたり、Facility boardメンバーとして掘削航海提案の実施可否を審査した。またIODPに続く新たな海洋科学掘削計画(IODP3)の最終制度設計に参画した。

(2) 島弧のアクティブ・テクトニクス

プレート相対運動およびマントルダイナミクスに支配された沈み込み帯の長期間地殻変動とメカニズムを解明するには、 数千万〜千年および数十〜百kmの時空間スケールでの変動地形学・地質学・地球物理学的観測を俯瞰的に捉え、沈み込み帯の形成を統合的に理解することが必要である。このため、日本列島を始めとする沈み込み帯縁辺域において、浅部〜深部地殻構造観測とアクティブ・テクトニクスの解明の取り組みを主軸とし、さらに長期間の地形・地質構造発達解明を視野に入れた研究を進める。

2024年度は、2011年東北太平洋沖地震後にM6-7クラスの地震が複数回発生した東北南部前弧域を対象とし、東北日本の地質構造や古応力場等をレビューし、震源断層の地質学的な背景を検討するともに、第四紀後期における地殻活動、地震波トモグラフィ・地震活動の空間分布と地質構造との関係を検討した。

(3) 合成開口レーダー干渉解析から求める東アナトリア断層の摩擦パラメータ空間分布と地震発生評価

東アナトリア断層では近年2020年Elazig地震(Mw 6.7)や2023年Kahramanmaras地震(Mw 7.8, 7.6)が発生し、合成開口レーダー干渉解析により地震および地震後に顕著な地殻変動が発生した。また、東アナトリア断層はアナトリアプレートとアラビアプレートのプレート境界に位置しており、地震間も5-10 mm/yrの速度で左横ずれ断層運動が進行している。

本研究では、2015年から2023年までの合成開口レーダーデータを整理し、東アナトリア断層上の断層すべり分布の時空間変化を考察した。その結果、Elazig地震およびKahramanmaras地震の余効すべりは、これらの地震によるすべり領域をふち取るように発生したことが明らかになった。また、Elazig地震以前には東アナトリア断層北東部で浅部クリープが観測されたが、19世紀のM7級地震の余効すべりであるのか定常的に浅部クリープが発生しているのかは不明である。

得られた断層上のすべりの時空間分布から、断層上の速度強化領域を同定した。このような領域は大地震の破壊開始点にはなりえない。以上の考察や過去の地震記録を統合して東アナトリア断層上の現在の地震ポテンシャルを評価したところ、Kahramanmaras地震の震源域とElazig地震の震源域の間ではM7程度の地震を発生させるのに十分なひずみがすでに蓄積されていることがわかった。

(4) 日本列島の基本場解明:中部日本と能登半島

地震・火山噴火・地殻変動の機構の理解と予測には、これらの現象を生み出す場(温度、圧力-応力、物質場)の解明が不可欠である。火山岩の組成を、地下の温度場と物質場をさぐるプローブとして用い、また沈み込むプレートの運動・マントル対流とそれらに伴う流体発生・移動の数値シミュレーションによる流動場、温度場、流体場の再現モデルを組み合わせ、中部日本下の場を推定した。

中部日本の下には、2つの沈み込むプレート(太平洋プレートおよびフィリピン海プレート)が沈み込むために、マントルウエッジが隣接する地域にくらべて低温であり、沈み込む太平洋プレートの脱水反応がより深部にずれこみ、能登半島下での深部脱水を引き起こしていることが指摘された。また、これらの流体が、地殻浅部での圧縮応力場と重なり、能登半島の隆起運動や地震を引き起こしている可能性が指摘された。2つの海洋プレートの沈み込みによる深部流体の供給、および広域的な圧縮応力場が続くかぎり、能登半島での地震活動・隆起運動は、長期的に継続すると予測される。

3.12 日本列島モニタリング研究センター

教授 岩森光,木下正高,市村強(兼務),加藤愛太郎(兼務),楠浩一(兼務),古村孝志(兼務)
准教授 青木陽介,五十嵐俊博,石山達也,鶴岡弘(センター長),中川茂樹
助教 武村俊介,臼井嘉哉(兼務),白濱吉起(兼務)
特任研究員 張春杰
外来研究員 加藤照之,丁開華,室谷智子, 山野誠
技術補佐員 金澤久美子
大学院学生 青山哲也,剣持拓未,松田瑞希,曽小雨
地震研特別研究生 范暁冉

2024年4月から地震火山情報センターの改組により日本列島モニタリング研究センターが新たにスタートしました.このセンターでは,日本列島を調査観測・モニタリングし,幅広い時空間に及ぶ多様なデータ・情報に基づいて,地球変動と地震火山活動の理解のための研究を行います.特に,マルチ時空間スケールの変動現象数値モデルを構築し,沈み込み帯学の創生を目指します.なお,ネットワーク・計算機にかかる管理・運用と地震火山に関するデータベース開発等も引き続き行っています.

3.11.8 共同利用への対応

(1) テレメータ機材

地震観測用VSATシステムおよび地上テレメータ装置,データロガー等を地震研共同利用の手続きに従って,全国の大学の研究者に提供(貸し出し)しており,2025年3月14日現在の貸し出し数は733件である.

(2) 地震観測装置

総計約1000台の地震観測装置を,地震研共同利用の手続きに従って,全国の大学の研究者に貸し出している.2ヵ月以上の長期利用を希望する利用者が,利用を希望する前年度に行われる利用公募に申請した際に,観測開発研究センターは,申請内容を審議して採否を決定している.2024年度の特定機器利用の採択件数は3件で貸出台数は33台であった.また,2ヵ月未満の短期利用については随時受け付けており,2024年度の利用件数は55件,貸出台数は延べ767台であった.

(3) 電磁気観測装置

国内の大学や諸研究機関に所属する電磁気関連研究者による,それぞれの研究ターゲットに基づく野外観測を援助するため,地震研究所の共同利用機器として,電磁気観測装置の貸し出しを実施している.高精度広帯域MT観測装置,長基線電位差測定装置,超長周期電磁場測定装置,高精度方位決定ジャイロ装置,高精度広帯域電場観測装置を保有し,毎年,各研究者からの応募に対応して利用の便宜を図ってきた.そのことにより,多くの観測成果が生み出され,特に地震活動や火山噴火活動のメカニズムを解明するための比抵抗構造研究では,毎年,複数の学術論文が上梓されている.観測機器を常に最良の状態で使用できるよう,ファームウェアを更新し,使用前後に機器キャリブレーションを実施して動作確認をすることも重要な仕事となっている.2024年度の利用件数は10件であった.貸出台数は,測定器本体と磁場センサーをあわせ,延べ234台であった.

3.11.6 強震動観測研究

(1) 定常的な強震観測網の運用

伊豆・駿河湾地域や足柄平野などにおける高密度の強震観測網を中心とした観測研究を,強震計観測センターの時代から継続して行っており,近年リアルタイム化を進めている.伊豆駿河湾の観測網は駿河トラフおよび南海トラフ沿いでの大規模地震発生を想定して,地域を代表する露岩上に設置されている.一方,足柄平野の観測網は表層地質による強震動への影響を評価することを主目的として1987年に設置され,国際的なテストサイトとしても位置づけられている.定常的な強震観測網では,地盤特性の把握を目的としたボアホール観測に加え,地盤と建物の同時観測も実施している.

(2) 臨時強震観測の実施

開発された機動観測用強震計は,微動観測にも対応可能な増幅器を併せ持ち,共同利用の枠組みなどを通して機器の貸し出しが可能な体制を取っている.2024年能登半島地震をはじめ被害地震後に震源域周辺において臨時強震観測を他機関と共同で行った.また,首都圏を中心とした公共施設において,「三浦半島断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測」等のプロジェクトを通じて臨時的に連続強震観測を行っている.

(3) 強震観測データベースの公開

2007年度より,観測された強震動記録のアーカイブと公開を行うデータベースシステムの開発を進め,そのシステムを用いて1980年以降のデータ公開を開始し,以後,引き続き公開を行っている(https://smsd.eri.u-tokyo.ac.jp/smad/).また,1964年新潟地震の川岸町においてSMAC型強震計で観測されたデジタイズ記録を公開した他,1956年から1995年兵庫県南部地震までのSMAC型強震計記録の画像データを公開している.

3.11.5 新たな観測手法の研究

地震・火山現象を理解するためには地下深部の観測が不可欠であるが,機器を設置できるのは地球全体の規模からすると地表に近いごく一部の領域にすぎない.そのため観測機器の精度の向上や観測範囲の拡大を目指して,レーザー干渉計などの光計測を用いた新たな観測機器の開発に取り組んでいる.レーザー干渉計は高精度・低ドリフトの変位センサーであり,地震・地殻変動観測機器へ組み込むことにより観測装置の高精度化や装置の小型化ができる.また光を用いた計測手法は,半導体素子では観測が難しい地下深部・惑星探査など極限環境での高精度観測を可能にする.

 (1) 長基線レーザー伸縮計による広帯域ひずみ観測

レーザー伸縮計は地殻変動から数十Hzの地震波まで広いタイムスケールの地動を観測できる.岐阜県の神岡鉱山(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設)の地下1000 m のサイトにおいて,独自開発した波長安定化レーザーを組み込んだ100mレーザー伸縮計を用いてひずみ観測を継続している.2016年からは神岡の重力波望遠鏡(KAGRA)と連携し,1500mのレーザー伸縮計を建設し観測を継続しており,観測された多様な記録からレーザー干渉計の広帯域・広レンジの特性が示された.観測量と広域ひずみ場の関係の定式化,地下水変動に伴うひずみの検出,近地~遠地の地震に伴い観測されたひずみステップを用いた地震モーメントの測地学的推定,2022年1月に起こったトンガ火山の噴火によるグローバルな気圧変動の波に対応するひずみ観測記録の解析などを行なった.2020年12月から継続している能登半島付近の地震活動に伴うひずみ変動が記録されており,地震のメカニズムに関する解析を継続している.また,愛知県犬山観測所(名古屋大学,30m)に設置されているレーザー伸縮計と同時観測を行い,共通イベントの解析を進めている.

 (2) 光ファイバーリンク方式の観測装置の開発

レーザー干渉計の光源とセンサーを光ファイバーでつなぐことによりセンサー部を無電源化し,地下深部や惑星探査など極限環境(高温・極低温・高放射線など)で使用可能な高精度観測装置を構成できる.その一つとして,小型広帯域地震計の開発を行っている.この地震計は小型長周期振り子の変位検出部としてレーザー干渉計を使用し,光ファイバーでレーザー光を導入することにより耐環境性を高めている.試作機を用いたこれまでの性能評価では,広帯域地震計(STS1型) と同等の検出性能が確認され,干渉計部分は-50℃~ 340℃の温度範囲で動作できる.この原理の地震計を試作し,地震研究所鋸山観測所(千葉県富津市)坑内の静穏環境で試験観測を行なっている.地下深部や月面における地震探査への応用を目指している.

(3) 小型絶対重力計の開発研究

絶対重力計は地殻変動や物質移動(マグマ移動・地下水の変動など)を観測する有効な手段である.火山観測など野外で機動的に使用可能で,複数で観測網を構築できる絶対重力計を開発している.小型で必要な精度が得られるように独自のレーザー干渉信号の取得法や地面振動ノイズの補正機構を導入し,市販装置の約2/3のサイズの実証機を開発した.霧島火山観測所(宮崎県),蔵王観測所(宮城県,東北大)などで試験観測を行い,設計精度10-8m/s2が得られている.また,観測網を構築するために長距離伝送できる通信波長帯光源(波長1.5μm帯)を用いた動作試験を東北大・電気通信研究所と共同で実施し,従来の光源(波長633nm)の測定結果と一致し,光ファイバーによる光源の長距離伝送による精度劣化などは生じないことがわかった.火山帯の野外環境などで複数の絶対重力計を光ファイバーで接続し観測網を構成する手法開発を進めている.2022年には南極の昭和基地や周辺の露岩地域の寒冷な野外環境で測定できることを実証した.2024年はより広い温度環境で連続観測できるように装置本体を改良するとともに,記録装置を小型化し実用性を向上させた.国立天文台江刺地球潮汐観測施設(岩手県)においては,東北地方太平洋沖地震後の重力変化を継続的に観測している.

 (4)重力偏差計の海底・月惑星・小天体探査への応用

地下構造を探査する方法として,広い空間スケールの重力場(重力加速度)をとらえる重力計に加え,その空間微分を測定する重力偏差計を併用することにより狭い範囲に局在化した鉱床などの密度異常のマッピングができる.海底鉱床の探査手法として,無定位振り子と光センサーを組み合わせた加速度計2台によって構成される重力偏差計を製作し,自律型無人潜水機(AUV) に重力計とともに搭載し,海中移動体上で探査を行ってきた.一方,月惑星や小天体などの天体の内部構造はいまだ十分な探査が行われておらず,着陸機あるいは周回機による観測で重力偏差計を用いれば従来の重力加速度の観測よりも高い分解能が得られることがモデル計算によって示されている.国立天文台および宇宙科学研究所(JAXA)と共同で小天体や月惑星表面などの内部構造探査を想定した重力偏差計を試作し,所期の動作を確認している.月惑星などの地下構造探査を目指して機器構成などの検討を行なっている.

3.11.4 電磁気的観測研究

(1) 八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測

八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した.これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.記録計室内での気温・気圧・湿度計測のオンライン化,局舎敷地内のwebカメラによる画像での敷地内の状態の定時監視,庁舎のwebカメラによる気象条件の常時監視による,無人観測所の保守を継続した.

気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,前日分のデータを毎日自動で送付する仕組みの運用を継続した.

(2) 東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測

東海地方の7観測点(河津,富士宮,奥山,俵峰,相良,舟ヶ久保,相良)における地球電磁気連続観測,伊豆地方の7観測点(大崎,新井,玖須美元和田,手石島,与望島,川奈,池)における全磁力観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.富士宮観測点に続いて相良観測点の磁力計を更新し,3成分変化毎秒値の収録が実現した.

(3) 空中磁気探査用マルチコプターの対地高度推定の高精度化

空中磁気探査の際に地上とマルチコプター上の両方で同時に気圧計測を行うことにより,気圧差から対地高度を精度良く推定するための機器を技術開発室との協力で開発した.試験的に地震研究所の屋上にて,及び屋上と1階との間で計測を実施し,高度差を推定した結果,推定された高度差は約2.4mの精度が達成できることが判明した.

(4) 磁気嵐に伴う地磁気変化の特徴的成分の特定

2024年5月の太陽フレアに伴う磁気嵐の際に,磁気嵐の特徴的な地磁気変化である南北成分の変動とは別にアジアの地磁気観測地点で広域的に,100nTに及ぶ西向き成分のステップ的発生と約6時間の継続,緩和的消滅が見られたことを,グローバルに分布する地磁気観測地点の地磁気データの解析により示した.北半球の昼側でのみ見られたこの特徴的な地磁気変化の特定が,超高層領域において磁気嵐の際に生じる電流系の新たな解明に資することが期待される.