部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が5年ごとに関係大臣に建議する研究計画に基づき,火山噴火予測に関連する観測研究を全国の大学・研究機関と協力し,その中核となって実施している.この研究計画は,その前身の火山噴火予知計画から約半世紀の間,その内容を学術の進歩に合わせて変更しながら継続してきた.火山噴火は発生すると大きな被害をもたらすが,発生頻度が低いため,長期の観測データの蓄積が不可欠であり,この50年弱のうち,特に最初の約20年間は火山観測網の充実が図られ,さらに研究者及び観測を支える技術職員が増員され,日本の火山学の進展に大きく貢献してきた.最新の研究計画は2019年1月に建議され,2019年4月から5年間に渡り実施中の「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画(第2次)」である.この計画は前計画に引き続き火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究行なうことになっている.現建議において火山の研究に関して特筆すべき点として2つ挙げることができる.一つは,火山噴火予測の精度向上を目指すために火山活動推移モデルの構築を重点的研究とした点である.もう一つは,2014年9月に発生した御嶽山噴火で多くの犠牲者が出たことを重視し,観光地となっていて登山客や観光客が火口近傍まで訪れる火山については,小規模な噴火であっても大きな災害を引き起こす火山噴火であるとして「高リスク小規模火山噴火」と位置づけ,地球物理学観測だけでなく,地球化学,地質学,史料研究を含めて包括的な研究を実施することを打ち出した点である.

当センターにおいては,長年継続して整備されてきた火山観測網やそれを支えるシステムの維持・強化を担っており,火山噴火予知研究センターをはじめとする他のセンター及び部門と協力し,観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山噴火予測においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,火山噴火の準備段階は往々にして数十年を超える長期にわたることもあることから,長期にわたり観測を継続し,噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することも極めて重要である.このようにして得られた火山活動に関する知見を火山噴火予測に活かすことが,火山噴火予測研究の重要な目的である.従来の火山噴火予測は,噴火に先行する現象に基づく経験則に大きく依存していた.火山噴火前のさまざまな火山現象を科学的に解明することによって,より普遍的かつ科学的な火山噴火予測に発展させることを目指すべきであり,そのためには精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.

本研究所では,これまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここでは主として,それぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.

(1) 浅間山

浅間山では,広帯域地震(17点),短周期地震(2点), GNSS(13点),傾斜(5点),全磁力(3点),空振(1点),熱映像(1点),可視画像(3点)の多項目観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.山頂付近のデータは無線LANによる中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山の最近の活動としては,山頂付近の観測網が増強されつつある中で発生した2004年の中規模噴火,2009年と2015年の小規模噴火,2019年8月の極小規模噴火を挙げることができる.2004年噴火では,噴火前に浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測等で捉えられた.また,噴火前に山頂付近で発生する長周期の地震動(VLP)の発生様式が変化するなどの現象が捉えられた.さらに,VLPの波形解析から推定される火道浅部の体積変化と火山ガス(SO2)放出量の相関の高さから,VLPは火山ガス放出の指標となると考えられている.一方,2019年8月に発生した小規模噴火では,2004年の中規模噴火や2009年と2015年の小規模噴火とは異なり,これまで知られていた噴火に先行して現れる明瞭な先行現象は見られなかった.しかし,火口付近のデータを精査すると,火口の西側に設置している赤外カメラの解析から,噴火の約10日前の7月27日から火口底の温度が急激に低下し,それが噴火発生まで継続していたことがわかった.また,その間,火口直下浅部を震源とするBL型地震の発生頻度が低下していること,火口直下を震源とするBH型地震については7月末ごろから明らかに活動度が上昇していたことがわかった.これらのことから,2019年8月噴火は他の噴火のように深部からのマグマの供給により発生するものではなく,深部から火口に通じていた火山ガスの通路が一時的に閉塞して噴気が火口から放出されなくなり閉塞した火道に蓄積した火山ガスが岩塊を吹き飛ばした現象であると推定された.この結果は,火口近傍での多項目観測の重要性を如実に示すものである.

(2) 伊豆大島

現在,伊豆大島には24点(うち4点は広帯域地震計を併設)からなる地震観測網と14点からなるGNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化したため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データを蓄積してきたが,近年これらの機器の老朽化が再び目立つようになってきた.そのため,最新の観測機器に更新する作業を2018年度から実施し,地震観測ロガーやGNSS受信機の更新を進めている.電磁気的観測については,プロトン磁力計による全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.

これらの各種観測データは,様々な手段を用いて地震研究所に集約されている.通信会社による有線回線サービスを利用することのできる観測点では高速で信頼性の高い光回線網を,有線回線サービスを利用することが難しいが携帯通信網が利用可能な観測点では4G携帯電話回線網を用い,そのいずれも利用できない観測点では無線LAN装置を設置してデータ伝送を行っている.有線回線網ほど安定的なデータ伝送が行われない携帯電話回線網を利用した観測点では,自動的に最適速度でのデータ送信や再送を行うACTプロトコル(当研究所で開発)を用いて,人手をかけず安定的なテータ収集を行っている.

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から36年が経過している.明治以降の平均噴火間隔が36~38年であることから,次の噴火が近づいており,現在は噴火に至る諸現象が地下で進行していると考えられる.噴火前に地下で起こる諸現象を捉え,それを理解することにより,噴火の発生時,規模,噴火様式を予測することが重要である.

科学的な記録が残っている伊豆大島のこれまでの噴火では,他の火山と異なり噴火初期(発生時)には,火山性微動は発生するものの明瞭な地震活動の高まりが見られないとされている.これは,伊豆大島のマグマが低粘性の玄武岩に富むものであるため,マグマに含まれる火山性ガスが噴火前から効率的にマグマから放出され,噴火初期には比較的爆発性の低い噴火様式になると考えられる.実際,前回1986年の噴火ではマグマに先行してそこに含まれる高温の火山ガス等の揮発性成分が地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,地下の電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,マグマが火口に満たされる山頂噴火に至ったと考えられている.その間,顕著な地震活動の増加は見られなかった.そのため,伊豆大島では来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討されている.2018年9月には,三原山の火口近傍に,理学系研究科火山化学研究施設と共同で土壌火山ガス連続観測装置を設置した.

また,カルデラ域において実施したドローン等による空中磁気探査データの解析を進めるとともに, 文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」により,カルデラ内に地震観測点を5カ所新設し,観測能力の向上をはかっている.

次回の噴火の発生初期には前回と同様に山体膨張の停滞、山頂付近の熱異常の発現、火山性微動の発生などの経過をたどる可能性がもっとも高いと考えられるが,現時点では山体膨張の停滞が見られるものの、熱消磁や火山性微動の発生は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.今後も,これまでに蓄積された精度の高い地震及び地盤変動等の観測データを併せて解析することにより,噴火の準備段階として山体内部で進行する現象の理解を目指す.

(3) 富士山

富士山では9点からなる地震観測網を主体とした観測を行っている.この内4点は地表設置型広帯域地震計,3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

なお,富士山噴火に備えて地震研究所と山梨県富士山科学研究所で協定締結を進めており,観測における山梨県の協力が得られることが期待される。

(4) 霧島山

地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測(17点),GNSS観測(3点),全磁力観測(1点),空振観測(3点)を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などと協力して進めている.

霧島山新燃岳では2011年1月に爆発的な噴火が発生した.この噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止した.この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが徐々に明らかになっている.

2013年8月から2014年10月までは再度深部マグマが膨張し,その後膨張は停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.その後この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大と噴気の増大が見られるようになった.

2017年7月からは深部マグマ溜まりが再度膨張を始め,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中に様々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続した後一旦活動が低下した.2018年3月1日から3度目の噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.その後新燃岳の活動は小康状態になっている.

硫黄山の活動は2017年9月以降低下していたが,2018年3月初旬に新燃岳が3度の爆発的噴火を起こした直後から再度活発化し,2018年4月19日に硫黄山に隣接するえびの高原で水蒸気噴火が発生した.

一連の活動を通じ,霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳のマグマ噴火,硫黄山の水蒸気噴火を引き起こしていることが明らかになってきた.新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりにマグマが供給された後に発生しており,共通のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑なマグマや高温の火山ガス供給システムが地下に存在すると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えられる.霧島山の一連の活動は噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究を目指す必要がある.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は季節により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するため,2012年と2019年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月,2016年11月,2021年3月に実施した.磁化構造の変化から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定されている.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火が遠くないと思われる.このような火山における噴火前後で発生するマグマや地下水の移動とそれに起因する諸現象を捉えることが,火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」で,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.次回の噴火が同じマグマ溜まりが活動して発生するかは大変興味がある問題で,これらの知見の積み重ねを経て,次回の噴火の予測や噴火現象の理解の深化を目指している.

3.11.2 海域における観測研究

(1) 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)による海底観測

(1-1)令和6年能登半島地震震源域の海底地震観測

能登半島北東部では2018年から地震発生回数が増加傾向になり,2020年12月頃から地震活動のさらなる活発化と局在的な非定常地殻変動が観測されていた.この一連の地殻活動のなかで,2024年1月1日にM7.6の地震が発生し,地震活動の範囲が海域にまで広がり,能登半島の広い領域と北東側の海域を中心とした北東-南西方向にのびる150km程度の範囲に拡大した.この地震活動と海底活断層の関係を調べることは,この地域における地震発生過程を解明する上で重要であり,高精度な震源分布は最も基本的な情報になる.このため,自由落下自己浮上式海底地震計を用い,震源域北東部における緊急海底地震観測を開始した.はじめに海洋研究開発機構所属学術研究船「白鳳丸」による緊急調査一次航海(2024年1月16日~23日)により,短周期地震計を用いた短期観測型地震計と長期観測型地震計,および広帯域地震計併せて30台以上を設置した.次に学術研究船「白鳳丸」緊急調査二次航海(2024年2月18日~3月1日)により短期観測型地震計を回収するとともに,短期観測型と長期観測型地震計および広帯域地震計を用いて,計20台の追加設置を行った.さらに学術研究船「白鳳丸」と傭船を用いた6月と9月の航海により短期観測型地震計の回収・設置を行うとともに,一部の広帯域地震計の回収を実施した.2025年1月1日現在,海底地震観測を継続中である.なお,この観測研究は,北海道大学,東北大学,千葉大学,東京海洋大学,東海大学,京都大学,鹿児島大学,海洋研究開発機構との共同研究である.

(1-2) 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には震源域の一部に海底地震計が設置されており,本震発生直後から海底地震計を追加設置し余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では本震直後から余震活動が低調であり,地震活動の様式が変化したことがわかった.その後2011年9月からは主に長期観測型海底地震計を用いて震源域における海底モニタリング観測を長期にわたって実施している.地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測はプレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで2013 年9 月から長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,複数回のモニタリング観測を行っている.1回の観測期間は,数ヶ月から長くて2年である.また,震源域に接する青森県沖・北海道沖においても,モニタリング観測を複数回実施している.これらの観測は場合によっては,小スパンアレイによる観測も併用している.岩手県沖において2022年5月および11月に設置した小型広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計によるモニタリング観測を行った。観測を終了したこれらの海底地震計を2024年7月に,海洋エンジニアリング(株)所属「第三開洋丸」にて回収した.また,2023年5月から,東北沖地震震源域周辺である北海道南方沖えりも海山付近に小型広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計を設置して,スロー地震を含むモニタリング観測を行った.2024年7月に,同じく海洋エンジニアリング(株)所属「第三開洋丸」にて,海底地震計を回収して観測を終了した.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(1-3)南西諸島海溝北部における長期海底地震観測

南西諸島海溝域では島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は海域に長期観測型海底地震計を設置してプレート境界3次元形状などを明らかにするとともに活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.本観測は長期計画の元に,設置間隔が狭い空間的に高密度な観測網により1年間の海底地震観測を行い,毎年観測域をずらすことにより,空間的に広い範囲での観測を行うこととしている.2021年8月に長期観測型海底地震計をトカラ列島東方海域に海底観測網を構築して観測を開始した. 以降,2022年4月および5月に,2023年4月に回収及び再設置を行い,観測を継続している.2024年4月に,長崎大学水産学部付属練習船「長崎丸」により,前年に設置した海底地震計を回収して観測を終了すると共に,隣接する領域に海底地震計を設置して観測を開始した.なお,この観測研究は鹿児島大学,京都大学,長崎大学との共同研究である.

(1-4)ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測

ニュージーランド(NZ)北島ヒクランギ沈み込み帯北部では,平均しておよそ2年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6年程度の周期で規模の大きなイベントが起こっている.他の沈み込み帯と比較して特に浅いプレート境界上において高頻度で発生するスロースリップイベント(SSE)と,それに伴う多様な断層すべりを発生域直上で観測し,その発生メカニズムの解明を目的として,2013年より継続的に海域地震・地殻変動観測を国際共同で続けている.2014年5月から2015年6月にかけて海底地震計と海底精密圧力計を用いて実施した観測では,比較的大規模なSSEを観測網直下で捉えることに成功し,そのプレート境界面上のすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このSSEが終了する時期から,沈み込んだ海山周辺で3週間ほど連続して発生する,テクトニック微動活動を明らかにした.2024年9月にはNZの研究機関であるNIWA所有の観測船R/V Tangaroaを用いて,2023年9月にギズボーン沖に設置した海底地震計を回収し,これを再整備した後に2024年10月に9台を再設置し観測を開始した.2023年からは,海底下の比抵抗構造から流体の分布およびその挙動をあきらかにすることを目的として海底電位磁力計を用いた電磁気観測を始めており,2024年9月に回収,整備ののち,同10月の航海にて3台を再設置して,観測を継続している.これらの観測機器は2025年9月に回収の予定である.なお,この観測研究は,東北大学,京都大学, GNS Science(NZ),Victoria University of Wellington(NZ),LDEO(米国),University of Rhode Island(米国),GEOMAR(ドイツ)との共同研究である.

(1-5)宮崎県沖日向灘における長期海底地震観測

宮崎県沖日向灘では活発な低周波微動活動が確認されている.その活動状況を正確に把握することは海洋プレート沈み込みを考える上で重要である.そこで2020年度から宮崎県沖日向灘に長期観測型海底地震計を設置してモニタリング観測を開始した.毎年海底地震研の改修と設置を繰り返して,長期にわたる観測を行っている.当初は,長期観測型海底地震計による小スパンアレイを含む観測を実施したが,2022年8月からは広域観測網による観測とした.広域観測網による観測は,2023年7月に長期観測型海底地震計の回収再設置を経て継続した.2024年7月には,長崎大学水産学部付属練習船「長崎丸」により,長期観測型海底地震計を回収して,観測を終了した.この海底観測は文部科学省委託事業「 防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」と連携して行った.なお,この観測研究は,京都大学,鹿児島大学,長崎大学との共同研究である.

 (1-6)東北日本弧横断構造探査実験

日本列島の形成や海溝型地震の影響を考える上で深部構造を精度よく求めることが必要である.特に,日本海溝外側から日本海までの領域についてリソスフェアとアセノスフェアの詳細な構造を求めることは日本海における地殻構造の不均質や日本海東縁の歪み集中帯の形成,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が長期に与える影響などを考える上で有益な情報である.そのために日本海から日本列島を横切り日本海溝に至る測線を設定し測線上に長期観測型海底地震計を設置して実体波トモグラフィー・レシーバー関数解析・表面波解析などから深部までの構造を求める観測を計画した.また,この測線の海域部では制御震源であるエアガンを用いて構造探査実験を行い,深部構造と上記の解析に必要な詳細な浅部構造の情報を得る.2022年11月にこの計画の一環として山形県沿岸から大和堆にいたる日本海において長大な測線を設定し,海洋研究開発機構学術調査船「白鳳丸」KH22-9研究航海により小型広帯域海底地震計を設置し長期観測を開始した.さらに設置した小型広帯域海底地震計に向けてエアガン発震を行った.同時にマルチチャンネルハイドロフォンストリーマを曳航して,反射法地震探査も実施した.2024年7月に,東京海洋大学練習船「神鷹丸」SY-24-05航海により,日本海に設置した小型広帯域海底地震計を回収して,観測を終了した.回収した小型広帯域海底地震計からは良好な記録が得られてる.なお,この観測研究は,東京海洋大学との共同研究である.

 (1-7)房総半島沖における長期海底地殻変動観測

房総沖スロースリップ領域において海底地殻変動を検出することを目的として長期観測型海底水圧計による観測を実施している.1年から2年毎に海底に設置されていた海底圧力計を回収,新たに準備した海底水圧計をほぼ同一箇所に再設置を行う繰り返し観測により,観測を継続している.用いている海底水圧計は最大3年間程度の連続収録が可能である.2024年は,2022年9月に設置した海底水圧計を,東京海洋大学練習船「神鷹丸」および海洋研究開発機構東北海洋生態系調査研究船「新青丸」を用いて,回収した.回収したOBPには,2024年2月から3月に発生した房総沖スロースリップのデータが含まれる.また,同一地点に同航海により新たに準備した水圧計を設置して,観測を継続した.これまでに回収した長期観測型海底水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示されている.2024年は,海底圧力データ処理の高度化を引き続き行い,2018年房総沖スロースリップのすべりモデルを改訂した.なお,この観測研究は千葉大学,東京海洋大学との共同研究である.

(2) 文部科学省委託事業および共同研究による海底地震調査観測研究

(2-1)防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト

南海トラフでは将来規模の大きな地震の発生が想定されている.そこで南海トラフ地震の活動を把握・予測し社会を守る仕組みを構築し,地域への情報発信による減災への貢献をめざす委託研究プロジェクトが2020年から5カ年の計画で実施された.このプロジェクトの一環として,南海トラフ西部の日向灘において広帯域海底地震観測を実施している.2021年3月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計を宮崎県沖日向灘に設置して観測を開始した.2022年1月および2022年8月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計の回収・再設置を行い,観測をおこなった.この観測は,設置間隔が短い小スパンアレイを構築したことが特徴である.2022年8月からは,全体の活動を把握するために,広帯域観測網を構築した.2023年8月に広域観測網を構築する長期観測型海底地震計を回収し,さらに南の種子島東方の領域にやや設置間隔が短い広域観測網を構築して観測を継続した.2024年8月に1年間観測を行った長期観測型海底地震計を回収して観測を終了した.これらの観測から,同じ領域での低周波微動活動および通常の地震活動が把握され,通常の地震は沈み込む海洋プレート内で発生し正断層型の発震機構解を持つものが多いことがわかった.なお,この観測研究は京都大学と連携して行っている.

(2-2)南海トラフにおける高密度海底地震計アレイ観測

西南日本沈み込み帯では,室戸沖から熊野灘沖にかけて海底ケーブル地震観測網(DONET)が敷設されており,スロー地震の活動が長期にわたってモニタリングされている.しかし,スロー地震の震源断層の特定や発生メカニズムの解明には,既存の観測網では震源決定精度が十分ではない.2019年度以降,スロー地震の高精度な震源決定と詳細な3次元S波速度構造の推定を目的として,当該海域に長期観測型海底地震計を設置し,自然地震観測を実施している.2020年12月には熊野灘で大規模なスロー地震活動が発生した.本観測およびDONETのデータを用いてテクトニック微動の震源を高精度に決定した結果,微動の発生域と地質構造との対応関係が明らかとなった.具体的には,テクトニック微動は覆瓦スラスト帯で主に発生し,前縁スラスト帯ではほとんど発生していなかった.また,微動発生域の上端は,デコルマ面が折れ曲がる位置に相当する.このことは,微動を駆動する背景のスロースリップの進展が,断層面の折れ曲がりによって妨げられた可能性を示唆する.本研究は東京大学工学系研究科,京都大学,神戸大学,東北大学,海洋開発研究機構との共同研究である.

(3) 海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発

(3-1) 三陸沖に設置した光ケーブル式海底地震・津波観測システムの運用

地震研究所が開発し1996年に三陸沖に設置した海底地震・津波観測システム(1996システム)は3台の地震計(加速度計)と2台の津波計(水圧計)を光海底ケーブルで結んだものであり,データ伝送には従来の光通信技術が使用されている.1996システムは2011年の東北沖地震の地震動及び津波を観測したが,陸上局舎が津波被害を受け観測が中断した.その後,陸上局舎の再建と陸上設備の再製作を行い2014年から観測を再開した.一方,従来の光ケーブル海底地震・津波観測システムは海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面に改善の余地がある.そのため,データ伝送とシステム制御にインターネットに代表される情報通信技術を用いたシステムを新たに開発した.このシステムはデータ通信の冗長性を備え,より低コストで観測装置を小型・軽量に製作できることが特長である.1996システムの更新も視野に入れた開発に基づいたシステムを製作した.このシステムは地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点装備し,海底ケーブル全長は約110 kmである.拡張ポートにはデジタル出力型高精度水圧計を接続して2015年9月に岩手県釜石市沖へ設置を行った(2015システム). 2015年以降は両システムによる観測を継続しながら効率的な運用技術構築の開発を行っている.2017年4月には2015システムにおいて波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30 mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.その結果,給電電圧の変動はほぼ無くなり安定した運用ができるようになった.2018年9月には1996システムについてシステムの監視と観測データの冗長性向上を図るために陸上局舎内に既設システム監視用サーバを新規に追加した.2019年10月に台風19号の影響により道路の被害や局舎付近への土砂流入などが発生し,復旧作業は2021年3月までかかった.また、2019年11月11日落雷により陸上局舎内の2015システム給電装置に不具合が発生し,約1ヶ月間欠測となったが,その後,局舎内のアース配線を改良し,その後は連続観測を行っている.2022年1月および10月には,それぞれ1996システムおよび2015システムのGPS受信器の交換を行った.また,2022年には2015システムの地震計と水圧計の記録をwebシステムを通じて公開するシステムの構築を行った.2023年1月には陸上光回線を釜石市の陸上局舎に導入しデータ通信の高速化を行った.2024年11月には,海底ケーブル陸揚げ付近の潜水状況調査を行い,海底ケーブル敷設及び陸上設備に補修が必要であることが判明したことから,それらの準備を行っている.1996システムおよび2015システム共に長期間の安定した運用を行っており,特に最新技術であるインターネット情報通信技術を用いた2015システムの長期運用には,注目が集まっている.

(3-2) 光ファイバ計測技術による海底ケーブルを用いた海底高密度地震観測システムの開発

光ファイバセンシングの一つであり振動を計測する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は近年様々な分野で応用され始めている.地震関係の分野では石油探査のために構造調査に利用が始まり,地震観測にも適用されている.この計測は光ファイバ末端からレーザー光のパルスを送出し,光ファイバ内の不均質からの散乱光を計測する.その散乱光の変化から振動を検出する方法である.光ファイバに沿って時空間的に密な観測を実施できることが特長である.地震研究所が1996年に設置した三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムは,伝送路である海底ケーブルに予備の光ファイバを持っている.この予備光ファイバにDAS計測を適用することによって空間的に高密度の海底地震観測を実施できる.2018年からDAS計測技術を三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムの予備光ファイバに適用する開発を開始し,2019年2月に最初の観測を行って以降複数回の観測を行っている.生成されるデータ量が莫大であるために現在は臨時観測の形態をとっており,1回の観測期間は数日から約4ヶ月である.測定長は最大100 kmとし,計測点間隔は2 mから10 mである.これらの観測により多数の地震が収録され,記録の解析から,DAS計測が地震観測として有益であることが確認された.2020年にはエアガンとDAS計測による構造調査を海洋研究開発機構学術調査船白鳳丸を用いて実施した.これらの観測の結果,空間的に高分解能なケーブル直下浅部のS波速度構造が求められた他に,構造探査実験からケーブル直下浅部の反射法構造断面および水平方向に高分解能なP波速度構造が求められた.2022年には地震研究所にOptaSense社のDAS計測装置(QuantX)が導入され,観測の機会が増加した.2024年は仏国FOSINA社の計測方法が異なる計測器によるDAS観測を実施して,引き続き,DAS計測の地震観測への適用を検討している.2024年1月に能登半島地震が発生した.新潟県粟島に敷設されている地震研究所の海底ケーブル観測システムファイバによる余震DAS観測を2024年2月から約3ヶ月間実施した.比較的距離があるにもかかわらず,マグニチュード2クラスの余震を観測することができた.2024年に南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)の沖合システムが設置された.串間局から沖合約55kmまでは使用されていないファイバがあり,そのファイバを用いたDAS観測を 8月から約2ヶ月間実施した.観測中に日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生し,本震を含め規模の大きな地震が比較的近い距離において記録された.その結果,大振幅の歪み変化による記録の飽和が認められ,今後も課題を明らかにすることができた.なお,本研究の一部は,防災科学技術研究所との共同研究である.

(3-3) 短周期海底地震計のデータを用いたモーメントテンソル解析手法の開発

2024年に発生した能登半島地震を受け,地震発生の約2週間後から,短周期海底地震計(4.5 Hz速度計)を用いた余震観測が実施された.これらの観測データをもとにP波初動の極性を解析し,余震の発震機構解を推定した結果,多くの余震で横ずれ断層型であることが示された.一方,F-netのルーチン解析で得られたモーメントテンソル解では,逆断層型のメカニズムが多く報告されており,両者の結果には整合性が見られない.本研究では,この不整合の要因がモーメントテンソル解の非ダブルカップル成分に起因すると仮定し,検証を進めた.一般的に,モーメントテンソル解は周期20–50秒程度の低周波帯域の波形を用いて推定される.本研究では,短周期海底地震計の記録を用いてモーメントテンソル解を推定するための新たな手法を開発した.この手法では,波形の代わりにP波の極性および振幅を入力データとして用いる.また,非ダブルカップル成分の有意性を評価するため,マルコフ連鎖モンテカルロ法を採用し,誤差を考慮したモーメントテンソル解の推定を可能とした.この手法の適用した結果,能登半島地震の余震には有意な非ダブルカップル成分を有含む逆断層型の地震が多いこと,さらにP波極性のみを用いたメカニズム解の推定では横ずれ型断層と判定されやすいことが明らかとなった.

3.11.1 陸域における地震観測

(1)陸域地震観測

(1-1)広域的地震観測

関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.

全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.

最近の技術の進展により,観測機器の小型化,省電力化が進み,大規模な観測局舎が必要なくなってきた.さらに伝送経路の光回線化等のため,各観測点の伝送装置の切り替えを進めている.その結果,全観測点に対して,不必要な大規模観測施設は撤去もしくは小型の機器収納ボックスに置き換える等の検討・作業を行っている.光化作業については、陸域の広域的観測網だけでなく火山等も含め工事が進捗し、モバイル化などで別対応を行った観測点もあり、残り1回線になった。

(1-2)臨時集中観測

日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行っている.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まったため,千葉県,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムで連続的にデータを収集してきた.2024年度からの「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第3次)」では,分野横断で取り組む地震・火山噴火に関する総合的研究「首都直下地震」において,神奈川県温泉地学研究所,横浜市立大学,千葉大学と共同で首都圏南部での稠密地震観測が計画されている.そこで,茨城・福島地域の10か所に設置していた臨時テレメータ観測点を撤去し,新たに首都圏南部の神奈川県,千葉県南部に臨時地震観測網を構築することにした.本年度は,10か所中6か所の撤去作業が完了した.能登半島北東部に位置する珠洲市付近では,2018年頃から地震発生回数が増加傾向になり,2020年12月頃からは地震活動のさらなる活発化と局所的な非定常地殻変動が観測されていた.この一連の地殻活動の中で,2023年5月5日にはマグニチュード6.5の地震がそれまでの地震活動域の北端付近で発生し,地震活動域は珠洲市北方沖に拡がった.2023 年12 月までの地震活動域は能登半島北東部の概ね30 ㎞四方の範囲であったが,2024年1月1日に発生したマグニチュード7.6の令和6年能登半島地震以降の地震活動域は広く海域にも拡がり,北東-南西に延びる150 km程度の範囲に拡大した.そこで,令和6年能登半島地震後の地震活動域陸上部において,定常観測点が少ない地域であった輪島市縄又地区と能登町鵜川小学校に臨時テレメータ観測点を設置し,データ取得を2024年3月22日から開始した.また,令和6年能登半島地震震源域の西部は,志賀町西方の海域まで拡がった.そこで,文部科学省科学研究費助成事業(特別研究推進費「2023年5月5日の地震を含む能登半島北東部陸海域で継続する地震と災害の総合調査」代表:金沢大平松良浩)と連携し,千葉大学と共同で志賀町西方沖の沿岸浅海域を含む海陸境界域に臨時地震観測網を構築した.観測は,2024年8月1日から2024年9月18日まで実施し,陸域では,志賀町を中心とする10km×20kmの領域に10台の独立型地震観測装置(GSX)を設置した.陸域臨時地震観測が実施されている期間中の2024年8月3日から2024年8月26日に,浅海用係留ブイ方式海底観測システム(OBX)を志賀町西方沖における5km×12kmの浅海域に4台設置することで稠密な海陸統合地震観測網を構築した.設置した4台のOBXの内,1台は回収できなかったが,残り3台のOBXと10台のGSXでは,良好な記録が得られた.これら海域と陸域に設置した臨時オフライン観測点と,能登半島西部のテレメータ観測点(11か所)で得られている波形データとの統合処理を実施した.統合処理後のデータに対して気象庁一元化震源カタログに基づいたイベント毎へのデータ編集作業を実施した.イベントデータから,観測期間中に発生したマグニチュード1.0以上の地震を抽出し,各観測点におけるP波到達時刻,S波到達時刻,最大振幅,P波初動振動方向の読み取り作業を開始した.

(2)地殻変動観測

南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置されたボアホールあるいは横坑での観測が行われている.横坑においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,ボアホールにおいては地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計)を用いて観測を継続している.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.なお,弥彦観測所は1967年より53年間にわたり観測を続けていたが,2020年度に閉所した.弥彦観測所の傾斜観測記録については地震研究所技術研究報告第26号(2021)に掲載されている.

(3)スロー地震モニタリング

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「南海トラフ域を中心したプレート境界すべりの時空間発展のモデリング・予測に関する研究」において,九州東部から四国西部に合計6点における広帯域地震計臨時観測を継続し,地震計の交換などを行った.さらに,科研費新学術領域研究「スロー地震学」において四国西部,紀伊半島,東海に設置した広帯域地震観測点のうち,それぞれ3点,3点,4点の観測を継続し,現地作業や遠隔作業を含む保守作業を行ったほか,科研費学術変革領域研究「Slow-to-Fast地震学」において四国東部に広帯域地震観測点を2点新設した.これによりマグニチュード3を下回る比較的小さい超低周波地震の検出に成功した他,四国東部で実施中の光ファイバ観測記録との合同解析を行う予定である.

(4)プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明

(4-1)スロー地震の滑り特性を規定する地下構造の特徴抽出

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の研究課題「スロー地震モニタリングに基づく南海トラフ域の地震発生可能性評価手法に関する研究」において,スロー地震活動様式に違いがある四国東部地域で得た稠密地震観測データの解析を継続して実施した.四国東部では,1999年と2002年に発破を使用した地殻構造探査が実施されている.それら探査で実施された発破を,四国東部に設置されている定常地震観測点で収録したデータからP波初動走時を読み取り,四国東部における稠密自然地震観測により得た走時データと統合したデータセットを用いた地震波モグラフィー解析を実施した.得られた南北測線下のVp/Vs構造からは,深さ15km以深でVp/Vs値の大きな領域が北傾斜で確認でき,反射法断面図でフィリピン海プレート上面近傍の反射層が厚く確認できる領域と対応することから,流体の存在が示唆される.なお,この観測研究は,千葉大学との共同研究である.

(4-2)1923年大正関東地震破壊域におけるプレート構造解明

関東地域下は,フィリピン海プレートが陸側プレートと太平洋プレートとの間に沈み込むという複雑なプレート配置を形成している.首都直下地震を考察する上で,関東地域下におけるプレートの配置・形状を詳細に把握することは必要不可欠である. 1923年大正関東地震の破壊域と推定されている丹沢東部から三浦半島下にかけてのフィリピン海プレートの形状,プレート境界面近傍の不均質構造,上盤側の構造を明らかにすべく,丹沢山地東部〜三浦半島にかけての地域で制御震源地殻構造探査を実施した.本探査では,神奈川県清川村から葉山町に至る測線(測線長:約47㎞)を設定し,測線上に約200m間隔で独立型地震観測装置を246カ所に設置した.各観測点では,固有周波数4.5Hzの上下動地震計を使用し,Geospace社製GSX-1を用いて連続収録を行なった.収録の期間は,2024年1月20日~2024年1月28日であった.収録期間中の1月25日から1月26日にかけて,探査測線上の7カ所で,大型バイブレータ震源(UNIVIB2)4台による多重発震を行った.バイブレータの発震は,スイープ周波数 3-30Hz、スイープ長 24秒で行い,各発震地点での発震回数は50回もしくは100回とした.取得した発震記録に対して初動走時の読み取り作業を実施し,初動走時データセットを作成した.得られた初動走時データにトモグラフィー解析を適応することで得られた速度構造モデルからは,表層地質と良い対応を示す,測線下の水平方向における顕著な速度変化が確認できる.

(5)地殻活動モニタリングシステム構築

地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.

3.11 観測開発研究センター

教授 新谷昌人,平賀岳彦(兼任),望月公廣(兼任),中井俊一(兼任),小原一成,大湊隆雄,酒井慎一(兼任),清水久芳(兼任),篠原雅尚,上嶋 誠(兼任)
准教授 蔵下英司,三宅弘恵(兼任),中川茂樹(兼任),鶴岡 弘(兼任)
助教 悪原岳,小河勉,高森昭光(兼任),武村俊介(兼任),竹尾明子,山田知朗(兼任)
客員教員 青山裕,神田径
特任研究員 艾三喜
技術補佐員 藤田園美,工藤佳菜子,二瓶陽子
外来研究員 畑真紀,勝間田明男, 大橋正健,高橋弘毅,高波鐵夫,ヤンファン
大学院生 胡靚妤(D3),小林淳也(D1),山花弘明(M2),室伏龍真(M1)
SE 出川昭子, 篠田久美

観測開発研究センターの前身である観測開発基盤センターは,平成22年4月の地震研究所の改組に伴い,これまで地震予知研究センター,火山噴火予知研究センター,強震観測室,研究部門などに配置されていた教員の一部を観測,機器開発という視点で再編成して,研究所の持つ地震観測網,火山観測網,強震観測網,分析装置に大きく関連する研究分野や観測機器の開発を強化のために設置された.令和6年4月における地震研究所の改組において,それまでのマネジメントセンターをすべて研究センターに変更することとなり,観測開発基盤センターの枠組みをそのまま継続する形で観測開発研究センターが発足した.本センターは,全国にある本研究所の観測所等の観測拠点とテレメータ観測網を活用した観測研究を推進するとともに,その高度化に必要な観測機器,データ伝送・流通システムの研究開発を図り,地震・地殻変動・火山・電磁気現象に関する広範な観測研究を進めている.地震や火山など地球で起こる現象を解明する研究は,自然界で起こることに疑問を持ち,それを解明するために現象を正確に捉えることが出発点であり,戦略的な観測と新たな観測システムや解析手法の開発を通して,新たな視点から地球を捉える姿勢が不可欠である.このような観測研究と技術開発を併せて推進していることが本センターの大きな特徴である.

本センターでは地震・火山・強震・電磁気・地殻変動の観測網を維持・保守するとともに,地震・火山観測機器,強震観測機器,地球電磁気観測機器及び分析装置の維持・管理・活用等の研究支援,観測機器開発も行っている.そのため,本センターでは他の研究センターや研究部門と兼任し,両者の研究資源を併用して研究を進める教員が多い.ここでは,他のセンターの章での記載の重複を避け,このセンターが中心となり実施した内容を中心に記載した.

3.10.4 エピソディック非地震生すべりの発生周期

速度・状態依存摩擦則を利用して地震サイクルの数値シミュレーションを実施した.半径rの円形の速度弱化領域を速度強化領域の中に埋め込んだ平面断層モデルを考える.不安定すべり発生のための臨界断層半径rc(∝GL/(b-a)σGは剛性率,a, bは速度・状態依存摩擦則のパラメタ,Lは特徴的すべり量,σは有効法線応力)としたとき,Lを変化させて,発生するエピソディック非地震生すべり(SSE)の発生周期のr/rc依存性を調べた.SSEはr/rcが1に近いときに発生するが,先行研究で示されているように(b-a)/aが小さいほど,より広いパラメタ範囲でSSEが発生する.r/rcが1に非常に近くなるとSSEの発生周期は,1自由度バネ-ブロックモデルの場合に得られている発生周期の理論値(∝L/VplVplは外部から与えるすべり速度)に漸近する.Lを小さくすることによりr/rcを1より大きくしていくと,SSEの周期はいったん短くなった後に,長くなる.r/rcが1から離れると,理論式からの乖離が大きくなり,すべり速度の増大により応力降下が顕著になることによると考えられる.この結果は,SSEの観測からプレート境界面での摩擦パラメタを推定するのに役立つ.

3.10.3 2024年能登半島地震震源域北東部海域下の余震分布

能登半島では,2018年から地震発生回数が増加し,2020年12月から地震活動のさらなる活発化がみられていた.この一連の地殻活動のなかで,2024年1月1日にM7.6の地震が発生し,地震活動の範囲が能登半島の広い領域と北東側の海域を中心とした北東-南西方向に伸びる150km程度の範囲に拡大した.これを受け,北東側の海域において,全国の大学と研究機関の共同で,緊急海底地震観測を実施した.このうち2024年1月22日から2月22日までの海底地震計25台と近接する陸上地震観測点4点のデータを用いて,地震活動と海底活断層との関係を調査した.はじめに,気象庁一元化震源に基づき,観測期間内で観測網近傍に震央がある地震について,各観測点までの到達時の読み取りを行った.この領域ではOBSとエアガンを用いた構造探査が行われている.その結果から一次元速度構造を作成するとともに,変換波を用いて各観測点直下の堆積層の効果を補正し,初期震源を決定した.次にDouble Difference法を用いて再決定を行い,1,472個の精度の良い震源を求めた.得られた震源は上部地殻内に分布しており,能登半島に近い領域では12kmより浅いところで発生している.一方,陸から離れた北東部ではより深いところでも地震が発生していることが明らかになった.日本海地震・津波プロジェクトで得られている海底活断層モデルのうち,本解析領域に存在するNT2~NT5は,NT2とNT3は北東方向,NT4とNT5は南西方向に傾斜している.本研究で得られた震源分布も同様の結果を示しており,整合的な結果が得られた.一方,NT2とNT3の下端と,震源の深さ下限は概ね一致しているが,NT4とNT5の下部領域では明瞭な地震活動はみられなかった.また,NT2の北半分についても地震活動がみられず,活動域の拡大は,NT2の途中で停止しているようにみえる.なお,この観測研究は,北海道大学,東北大学,千葉大学,東京海洋大学,東海大学,京都大学,鹿児島大学,海洋研究開発機構との共同研究である.

3.10.2 海陸合同比抵抗探査による伊豆大島火山深部構造の解明

伊豆大島火山の深部構造解明のため,2021-2022年度に地震研究所と海洋研究開発機構が合同して陸上および海底に観測点を設置し電磁気観測を実施し,地下比抵抗探査をおこなった.比抵抗構造解析の結果,伊豆大島火山下は主に以下のような特徴があることがわかった.

1)およそ海水準より浅部は1kΩm以上の高比抵抗を示し,それより深部は全般に100Ωm以下の比較的に低比抵抗を示した.前者は不飽和な間隙が多く,一方,後者は液相で飽和されているために低比抵抗であることを示唆している.

2)低比抵抗体は,特に,深度3km程度で0.5-1桁さらに比抵抗値が下がり,深度10km以深まで寸胴型に鉛直に伸びていることがわかった.低比抵抗体形状と震源分布とを比較すると,低比抵抗体の縁部にのみ地震が起こっていることがわかった.このことは,低比抵抗体内に火山性の高温流体が存在しており,脆性破壊をおこさない状態であると考えられる.

3)他項目の先行結果と比較検討すると,低比抵抗体の上面深度およそ3kmには浅部マグマ溜りが存在し,深度10km程度の深部低比抵抗域は深部マグマ溜りが存在しており,両者の中間はその上昇域(マグマ供給系)であると考えられ,地殻変動膨張・収縮源の深さとも調和的である.深部マグマ溜りは,1986年A火口噴火で見られたマフィックなマグマで,浅部マグマ溜りはB,C火口噴火で見られた分化の進んだフェルシックなマグマが存在していると考えられる.

今回得られた比抵抗構造解析は,地下深部構造の詳細を明らかにしたのに加え,これまで他項目でそれぞれ得られていた観測結果を統合・整合する結果であり,伊豆大島火山下の構造の理解が大きく進んだ.

図3.10.1 伊豆大島比抵抗構造断面図

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山研究連携センターの専任教員,地震研究所の他センター・部門の教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学,関連機関から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学や関連機関の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

  1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
  2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
  3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
  4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

2024年には,2024年1月1日の能登半島地震(M7.6)の緊急調査研究計画のとりまとめを行い,緊急研究のための追加予算配分をしたほか,3月に令和6年能登半島地震ワークショップを開催した.毎年3月に成果報告シンポジウムを開催し,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.2024年はハイブリッドで実施された.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめており,文科省のHPで公開されている.また,地震・火山噴火予測研究の現状を正確に社会に伝えることを目的として,主に報道関係者を対象とするサイエンスカフェを5回ハイブリッドで開催した.

3.10 地震火山研究連携センター

教授 加藤尚之(センター長),加藤愛太郎(兼任),望月公廣(兼任),大湊隆雄(兼任),上嶋誠(兼任)
准教授 林元直樹,小山崇夫,山崎健一,五十嵐俊博(兼任)
助教 山田知朗
学術専門職員 荒井道子

3.9.4 地震データサイエンス研究の国際展開

科研費国際共同研究加速基金(海外連携研究)の採択を契機に、情報科学を活用した先駆的な地震研究を実施しているカリフォルニア工科大学 地震研究所(California Institute of Technology, Caltech)と国際交流協定(部局間協定)を2024年1月に締結した。それに基づき、Caltechから同分野の第一人者であるZachary E. Ross 博士をはじめとする4名が来所し、所内構成員との国際交流を促進した。

また、2024年9月から12月中旬にかけて,本センターに所属する若手研究員1名がCaltechに滞在し,Ross博士と深層学習を活用した新たな震源位置決定手法に関する共同研究を行った.滞在期間中には,Ross 博士から最新の深層学習技術に関する詳細な解説や実践的な助言を受けながら,モデルの精度向上や計算効率の最適化に関する知見を深めることができた.

地震データサイエンスに関する本国際交流は、今後も継続していく予定である。