「部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ
3.5.14 光ファイバ振動計測による陸域超稠密地震観測
分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)技術を用いて,四国中央部において超稠密な地震観測を2024年12月上旬から2025年3月下旬にかけて実施した.観測には,徳島県三好市池田町を起点に,国道32号線と国道192号線に沿う2本の光ファイバを使用した.それぞれの光ファイバの測線長は約50㎞であり,観測期間中に発生した深部低周波地震の波動場を2つのファイバに沿って明瞭に記録することに成功した.
SATREPS「災害に強い社会を発展させるためのトルコにおける研究と教育の複合体の確立―マルテスト」のサブ課題「地震・地殻変動観測に基づく北アナトリア断層の活動評価」の第2期が継続している.2024年5月下旬から,北アナトリア断層を南北に横断する光ファイバケーブルを用いてDASの連続観測を開始した.光ファイバケーブルはマルマラ海東部に位置し,測線長は陸域と海域をあわせて約27kmである.マルマラ海周辺で発生する微小地震や遠地地震の良好な波動場が記録されていることを確認した.また,雑微動記録を用いて北アナトリア断層周域の浅部地震波速度構造の推定を進めている.
3.5.13 歴史地震に関する研究
2017年度より地震研究所と史料編纂所との連携による「地震火山史料連携研究機構」が設置(2024年度再設置)され,地震予知研究センターからも教員・研究員が参画している.同連携研究機構では,東京大学デジタルアーカイブズ構築事業および災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の一環として構築した「日記史料有感地震データベース」(https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/eri-hi-cro/database/nikki/top_all2.html),「地震史料集テキストデータベース」(https://materials.utkozisin.org/)を公開している.
1923年関東地震の余震に着目し,日記記録と観測記録の比較や既刊の地震史料集の記述の再検討と,有感記録の完全性についての検討をおこなった.1830年京都地震の際の上賀茂神社での被害や神社の対応について詳細に分析した.1703年元禄関東地震の際の三浦半島における津波および隆起、土砂災害に関する史料を収集した.また,歴史地震の震度判定を生成AIによって半自動化する試みを行った.大量の地震史料テキストを震度判定するために震度判定表を生成AIに学習させ,入力した地震史料テキストに対して震度判定させ,震度のほか判定の信頼度や根拠を出力させることができた.市民参加型の歴史資料解読プロジェクト「みんなで翻刻」の運営を継続した.
3.5.12 日向灘における国際深海科学掘削計画推進プロジェクト
日向灘は,巨大地震の発生してきた強い固着域である南海トラフの西端に位置し,固着が弱いと考えられている琉球トラフへの遷移域である.日向灘・豊後水道における巨大地震の発生は確認されていないものの,南海トラフ地震の破壊領域の端に位置し,地震活動や固着メカニズムの解明及び防災計画立案に対し重要海域である.南海トラフと琉球トラフの境界に九州パラオ海嶺が存在し,そこを境として沈み込むプレートの凹凸や熱流量値が急激に変化している.また海山列の沈み込みが上部プレートの破砕や応力の局所的な増大をもたらし,日向灘・豊後水道における地震発生に大きく影響を及ぼしているであろう.これまでになされていない詳細な構造推定や原位置の岩石物性の把握を進め,定量的に地震分布・発生との関係を導く必要がある.
このプロジェクトでは,海山が現在沈み込みつつあるトラフ付近に焦点を当てる.沈み込む海山の前方に微動・超低周波地震が分布しており,明瞭な関連性が見られる.しかしながら,海山の具体的な位置・形状,プレート境界断層の形状,上盤内部の構造は十部に得られたとはいいがたい.加えて,過去に掘削が実施されていないため物性が不明であり,定量的なモデル評価が困難である.地震波による地殻構造推定が不可欠であると同時に,掘削を通じたコア採取・原位置計測・室内実験,孔内観測が必須である.
2020年4月に,国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program; IODP)に対して掘削予備提案を提出した.その後国際ワークショップ(2020年9月)等を経て,2022 年8 月に提案が受諾され,掘削実施に向けた準備に入った.地震学・地質学・地球化学など学際的な連携が不可欠であり,国内(海洋開発研究機構・京都大学・高知大学・神戸大学など)のみならず,アメリカ・カナダ・ニュージーランド・フランスなどを含めた国際性の高いプロジェクトである.日向灘~豊後水道域では,海底地震観測,GNSS 観測が継続的に実施されていることに加え,防災科学技術研究所による N-net の敷設が予定された.科研費基盤S研究「海山の沈み込みは巨大地震域の固着を弱めるか:南海トラフの2海山での検証」が,2024年4月から開始され,海底熱流量観測,地下構造推定,海山の影響のモデル構築が進められている.さらに2025年度には海洋開発研究機構による海底歪み計測の開始予定である.こうした関連研究と引き続き連携していく.
3.2.6 地震先行現象の研究
(a) 経験的な地震先行現象の吟味
地震に先行する傾向があると考えられている様々な現象について,全国の大学・研究機関と協力して,予測能力の定量的評価を行っている.今年度は,上海天文台と協力して,これまでデータの入手できなかった2008年のM7.9四川地震の直前30分に,世界の他のM8級地震に先行したのと同様の電離層全電子数の異常を見出した.今回観測された異常の強さおよび異常の先行時間は,これまでM7.3–9の範囲で知られているマグニチュード依存性に整合的であった.似たような電離層全電子数の異常は,地震直前に限らず頻繁に見られるため,地震前の異常も偶然である可能性が高いという最近出された批判に対しては,根拠とされた多数の異常のほとんどが衛星仰角の低いときに見られたものであり,我々の主張する地震前異常のほとんどは,衛星仰角の高い場合でも見えていることを指摘して反論した.
(b) 摩擦における三次クリープの実験
先行現象に関して,震源核等,「壊れ始め」に起因すると考えられているメカニズムでは,断層での損傷蓄積による弱化によってますます破壊が加速する自己フィードバックが働くと考えられている.そのようなプロセスとして,岩石の破壊に関しては,一定の応力を載荷しつづける場合,この応力があるレベルより高ければ,破壊プロセスがだんだんと加速する三次クリープという現象が知られている.同様のプロセスを摩擦断層で観察するため,一定条件の準静的接触である程度静摩擦強度を高めた模擬断層に様々なレベルの一定応力を印加して,滑りの発展および断層面音波透過率(断層強度のプロキシと考えられている)を観察するシステムを作り,予備実験で,摩擦滑りが減速していくか,加速していくかが載荷応力レベルで決まることを確認できた.また,その挙動が速度状態依存則と整合的であることを数値計算で確かめた.
3.5.11 三浦半島断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測
三浦半島断層群(主部/武山断層帯)は,三浦半島を横断して複数併走して分布する,長さ約11 km以上,北西走向の右横ずれ主体の断層帯である.断層群主部を構成する衣笠・北武断層帯,武山断層帯は,神奈川県横浜市・横須賀市など首都圏近傍に位置するA級活断層として,従来から注目され,数多くの調査研究が行われてきた.既往の調査研究の結果得られた断層帯の活動履歴や平均変位速度などの活動性データに基づき行われた長期評価では,今後30年以内に地震が発生する確率が国内の主要活断層帯の中で高い部類であり,特に武山断層帯は今後30年以内の発生確率が6-11%と非常に高くなっている.また,強震動予測では,武山断層帯が活動した場合,震源断層の直上にあたる首都圏南部の広い領域が震度6弱以上の揺れに見舞われ,震度6強のり災人口が約13万人と見積もられるなど,甚大な被害をもたらす可能性が指摘されている.しかし,一方,断層帯の長期評価で採用された平均変位速度の幅が大きく,信頼性が高くないこと,断層帯が相模湾・浦賀水道の海域に達している可能性があり,正確な断層長が不明であることなど,武山断層帯の長期評価には重要な課題があることが指摘されている.また,武山断層帯をはじめとする三浦半島断層群はフィリピン海プレート上面のメガスラストと近接し,相模トラフで発生する巨大地震との連動の可能性があることから,断層帯とフィリピン海プレート上面の構造的な関係を解明することが望まれる.加えて,強震動予測を行う上で重要な震源断層面の形状や断層帯を含む地下構造,近接する複数の断層帯の構造的関係を推定するための反射法地震探査等の地球物理学的手法による構造探査や物理探査は,三浦半島断層群においてこれまで十分に実施されていない.このような課題を解決するために,2023年度から3ヵ年で「三浦半島断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測」が開始された.このうち,サブテーマ1.1「活断層の詳細位置・形状・活動性解明のための調査」を担当し,2024年度は引き続き断層帯の変動地形解析を行うとともに,断層帯の平均変位速度の信頼性向上のためのボーリング調査を実施した. また、断層帯の相模湾側延長部において高分解能極浅層音波探査を実施し, 断層帯海域延長部の複数地点において完新世に繰り返し断層活動が発生した痕跡を見出した.