部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.5.3 活断層-震源断層システム

 内陸地震の長期評価や発生メカニズムを理解するには,地震発生層底部から表層に至る一つのシステムとして活断層-震源断層を理解する必要がある.このため,当センターでは地殻スケールから極浅層に至る反射法地震探査による活断層の地下構造の解明に主眼をおいた研究を,全国の研究者と共同で進めている.2024年度は北陸地域の主要活断層である森本・富樫断層帯にて浅層反射法地震探査を実施したほか,三浦半島断層群の相模湾側延長部にて極浅層高分解能反射法地震探査を行った.また, 高出力ブロードバンド震源とDAS技術を用いたwalk-away VSP探査による活断層極浅部構造の超高分解能イメージング解析を実施し, 超高分解能2次元探査との比較検討を行った.

 日本列島の震源断層のモデル化は,島弧地殻の変形プロセス・内陸地震の長期予測・強震動予測においても重要であり,2010 年から全国の研究者と共同で地質・変動地形・重力や地震活動などの地球物理学データに基づいた総合的な日本列島の震源断層のマッピングプロジェクトを進めている.さらに,東北沖地震の地震時・余効すべり分布に千島海溝の固着など広域のプレート境界過程を含めたモデル計算を行い, この条件下で日本列島域の応力速度場を計算し, 上盤プレート内の震源断層の応力変化の評価を試みている.2024年度は、引き続き東北日本横断地殻構造探査の解析を進めたほか, 相模トラフ・伊豆衝突帯の固着状態を考慮した能登半島地震震源域を含む北陸地域の震源断層にかかる応力の評価を試みた.

3.5.2 海域地震観測および地震波構造調査

 沈み込み帯における地震発生は,プレート境界面における摩擦によってひずみが蓄積し,地震時に蓄えられたひずみエネルギーが解放される現象である.地震発生に関するプレート境界の性質は,境界の形状および温度や水の含有量といった物性によって決定されると考えられる.低周波イベントからプレート境界型巨大地震まで,その発生メカニズムを理解する上で,プレート境界の固着程度の把握,およびその周辺の構造や物性を詳細に理解することが必要不可欠である.さらには,プレートの沈み込みに伴う脱水反応によって生成された水の挙動が,上盤プレート内の内陸地震の発生に関与していることもわかって来た.我々は沈み込み帯の全体構造の把握,およびプレートの沈み込みに伴う諸現象の理解を通して地震発生メカニズムの解明をめざし,海域での地震観測や制御震源地震波構造調査などによる研究をすすめている.

(1)茨城沖の海山の沈み込みと多様な地震活動との関係

 茨城県の東方沖合~100 kmでは,太平洋プレートの沈み込みに伴って,~20年周期でマグニチュード(M)7級の地震が繰り返し発生してきた.2004年の海域構造調査,および2005年海域地震観測から,深さ10 kmに海山が沈み込んでおり,M7繰り返し地震の断層がその沈み込み前縁部に位置すること,また海山上のプレート境界では地震活動が見られないことを明らかにした.2010年10月から,この海山前縁部周辺の 35 km×30 km の領域に長期観測型海底地震計を用いて,観測点間隔 6 kmという高密度なアレイを構築し,およそ1 年間の地震観測を行った.またこの観測網を通る南北150 kmの測線で,エアガンを人工震源とした構造調査を行った.本観測期間中には2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)が発生し,さらに本震震源域南限に位置した本観測アレイの近傍で最大余震が発生した.本震発生前後での地震活動を比較すると,本震発生後は震源域南限全域で地震活動が活発化しているが,特に沈み込む海山の前縁部周辺域で非常に活発化していることがわかった.また,海山沈み込み最前縁部において,地震活動の空白領域が存在する可能性が示された.この地震活動と本震および最大余震の発生との関連について詳細に調べたところ,本領域の活動が本震よりも最大余震によって活発化したことを明らかにし,本震のプレート境界面すべりが茨城県沖まで達しなかった可能性について議論した.これまでの海山の沈み込み前方で発生したM7以上の地震の発生様式を比較すると,海山の沈み込み前方基底部で地震が発生し,その後にプレート境界面上の沈み込み深部を震源としてM7以上の地震が発生するというパターンが見られる.最近になって日本海溝沿いに海底地震津波観測網が整備され,通常の地震活動に加え,低周波の地震活動も明らかになりつつある.沈み込んだ海山周辺でも,微動や超低周波地震の活動が確認された.これらの活動と沈み込み構造との関係を調べるため,人工震源構造調査のデータを解析している.また,本海域で発生した地震の震源および発震メカニズムを詳細に調べることを目的として,環境雑音の観測点間相互相関関数を用いた表面波速度構造解析による,非常に遅い堆積層内S波速度構造を精度良く決定するための手法,さらにこのS波速度構造を取り入れて,海底地震計波形データを用いた微小地震のセントロイド・モーメント・テンソルを求めるインバージョン法の開発を行った.これらの手法を2011年東北沖地震の余震活動に対して適用し,震源メカニズムの分布を求めたところ,沈み込んだ海山の深部側プレート境界周辺では逆断層型地震が発生しているのに対し,その浅部にあたる海山上では正断層型地震が発生していることが分かった.これは海山の沈み込みに伴う応力場数値計算の結果と調和的である.これらの地震活動よりもプレート境界浅部側では,通常の地震発生は見られなくなり,テクトニック微動の活動が分布する.現在,地震活動の分布について詳細を調べている.さらに,2万個を超える東北沖地震の余震のP波およびS波の到達時刻の検測を半自動的に行う手法を開発し,この手法で得た検測値を用いて地震波走時トモグラフィー解析を行っている.得られた地震波速度構造と余震の震源分布を比較すると,ほとんどの余震が沈み込む海洋地殻の内部で発生していることが認められる.さらにP波走時およびP波とS波との到達時間差の関係を表した和達ダイアグラムによるVp/Vs比を求める手法について,地震波速度が小さく,その速度および厚さが変動しやすい堆積層の存在を考慮することによって海底地震観測に適用できるように改良し,東北沖地震の余震活動に適用して,沈み込む太平洋プレートのVp/Vs比を求めた.なお,この観測研究は北海道大学,東北大学,九州大学,千葉大学との共同研究である.

(2)2011年東北地方太平洋沖地震震源北限域における地震波構造調査

 三陸沖の北緯39度には,南側の地震活動の活発な領域と北側の非活発な領域の境界が存在することが知られていた.2001年に海域地震波構造調査を行い,地震活動とプレート境界反射波の振幅の間に,良い反相関の関係があることを明らかにした.この境界領域は,東北地方太平洋沖地震震源域の北限に当たると考えられている.地震発生前後でプレート境界の反射強度に変化が見られるか確認するために,2013年9月に海洋研究開発機構の白鳳丸を利用して行われたKH-13-5次航海において,2001年と同じ測線上に同じ観測点配置で海底地震計を設置し,再度構造調査を行った.また2014年10月には,同じく海洋研究開発機構の白鳳丸によるKH-14-4次航海において,東北地方太平洋沖地震でプレート境界が大きく動いたとされる海溝軸近傍の陸側斜面において,海底地震計およびエアガン人工震源を用いた海域構造調査を行った.2013年構造調査のデータを用いて,人工震源からの初動の走時,およびプレート境界からの反射波の走時を目視検測し,走時インバージョン法によって本調査測線に沿った2次元P波速度構造およびプレート境界面の形状を明らかにした.その結果,地震活動が変化する境界に対応して,プレート境界の深さも,およそ1 km程度変化していることがわかった.プレート境界反射波の強度について,2001年と2013年のデータについて比較したところ,2001年構造調査で確認された反射波強度が強いところで強度が弱くなり,弱いところで強くなる傾向にあることが考えられ,さらに検討を進めているところである.2014年構造調査測線では,東北地方太平洋沖地震で大きな断層すべりがあったとされる場所のプレート境界の深さが浅くなっている領域が認められた.走時インバージョンによって求められた速度構造については,誤差評価の解析を進めつつ,断層すべりとプレート境界面形状との関係について,さらに詳しい調査を進めている.なお,これらの調査研究は,北海道大学,東北大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

図3.5.4

稠密余震観測測線図。青色ダイヤモンド印は、本調査で設置した臨時地震観測点の位置を示す。星印は本震の震央(Adhikari et al., 2015)、丸印はAdhikari et al. (2015)によるネパール地震観測網のデータによって決定された本震後45日間の震央位置(マグニチュード4.0以上)を示す。

 

図3.5.3

1996,2002,2007,2011,2013-2014年の房総SSEにおけるすべり速度の時空間変化.カラーは右下の図に示した直線上におけるすべり速度の時間変化を示す.横軸は各直線の西端(または北西・南西端)から東(または南東・北東)方向に測った距離を表す.紫色の丸は震央を右下の図の各直線上に投影したものを表す.

 

3.5.1 陸域機動地震観測

 石川県能登地方で2024年1月1日に発生したM7.6の地震にともなう地震活動の時空間変化について解析をおこなった.珠洲地域に稠密に展開されていた地震計と震源域を取り囲む広域の定常地震観測網で取得された連続波形記録を同時に用いて,深層学習モデルを用いた地震波の読み取り,イベント同定,波形相関法に基づく震源再決定をおこなった.さらに,再決定震源を用いてテンプレートマッチング手法を適用することで,多数の地震の検出に成功した.その結果,M7.6の直前に発生した前震活動は,2024年5月に発生したM6.5の震源断層深部に位置し,M7.6の主要な断層面よりも数㎞深い場所で起きていたことが明らかになった.また,M7.6の余震活動は,主に南東傾斜の並びを示し,観測点密度の高い珠洲地域においては,断層の傾斜角が浅部ほど急になるリストリックな形状を呈することがわかった.このことは,日本海拡大時に形成された正断層が今回の地震により再活動した可能性を意味する.さらに,震源域北東部では逆傾斜の北西傾斜の震源分布が卓越し,震源域南西端では震源分布が南北走行に近くなるなど,複雑な震源分布を示すことが明瞭になった.

3.4.4 鉄筋コンクリート構造物の耐震性能評価

近年,鉄筋コンクリート造建物の設計においては,建物を詳細にモデル化し,その⾮線形挙動を解析的に追跡してその性能を評価することが主流となっている。建物の⾮線形特性においては,⾮線形化による減衰効果の評価が極めて重要であり,その主要なパラメータは降伏時変形である。⼀⽅,鉄筋コンクリート造部材の降伏時変形の推定式は40年以上前に実験結果の統計処理により求められた経験式を現在も⽤いているのが現状である。近年では,高強度の鉄筋を主筋に用いる建物も多く建設されているが,高強度鉄筋コンクリート造部材の降伏点変形は前述の経験式では精度良く評価できない場合があることが指摘されている。そこで,高強度鉄筋コンクリート造部材に適合する降伏点変形評価式を提案した。まず,高強度鉄筋コンクリート造部材の曲げせん断実験を行い,降伏点変形を把握した。また,過去に国内で発表された高強度鉄筋コンクリート造部材の実験結果に関する論⽂を収集し,そこに⽰されている荷重―変形関係をデジタル化することにより,高強度鉄筋コンクリート造部材の降伏時変形に関するデータベースを構築した。実験データベースを用いて,提案式の精度を検証し,提案式では降伏点変形を精度よく評価できることを確認した。

3.4.3 ⻑周期地震動予測の⾼度化

(1)⻑周期地震動の研究

⻑周期地震動(周期2秒程度から10秒以上)は,超⾼層ビルや巨⼤⽯油タンクなどの⼤規模な構造物の急激な増加によりその重要性を増している.被害を及ぼすような⻑周期地震動はプレート境界⼤地震から発せられるのが典型であり,これらの地震では,表⾯波による伝播経路効果とサイト増幅効果の組み合わせにより遠⽅の堆積平野等に強い⻑周期地震動をもたらすことを明らかにした.また,内陸活断層地震の震源断層ごく近傍の強震動 に,周期1〜10秒以上の広い帯域の⻑周期地震動が含まれることや(2016年熊本地震),深発巨⼤地震(2005 年⼩笠原諸島⻄⽅沖地震)においても,表⾯波によらない⻑周期地震動が近地波動場に強く⽣成することが確認された.

(2)⻑周期地震動予測地図と全国1次地下構造モデル

上記の震源効果・伝播経路効果・サイト増幅効果を精度良く評価する⼿法として数値シミュレーションを採⽤したが,この⼿法では堆積平野や伝播経路を含む三次元速度構造モデルとプレート境界地震の適切な震源モデルが決定的に重要である.そこで,モデル化の標準的な⼿続きを定めた上でモデル構築を⾏い,それらモデルを⽤いて想定東海地震,東南海地震,宮城県沖地震や,南海地震(昭和型)に対する⻑周期地震動シミュレーションを⾏った.その結果をハザード地図として表現するため,最⼤地動速度や地動継続時間,及びいろいろな周期の速度応答スペクトルの分布図を作成した.これら分布図は地震本部の地震調査委員会から「⻑周期地震動予測地 図」試作版として公表され,構築した「全国1次地下構造モデル」暫定版も同時に公開されている.

(3)⻑周期地震動の即時予測に向けた研究

⼤地震による⼤型平野での⻑周期地震動の即時予測に向け,⽇本列島の強震観測網で捉えた揺れの記録と,不均質な地下構造を考慮した地震波伝播シミュレーション結果を同化し,最新の同化波動場に基づいて数⼗秒後の波動伝播を⾼速により予測する,データ同化・予測システムの開発研究を進めている.陸域の⾼密度強震観測網(K-NET, KiK-net)に加えて,近年海域に設置が進むDONETやS-net等の海域強震・津波観測網のデータを⽤いることで,海溝型地震の発⽣を即座に把握し,強い揺れの到着に先⽴って揺れと被害の予測が期待される.さらに,地震波伝播の応答関数(グリーン関数)を予め計算しておくことで,瞬時の予測に繋げることも可能であ る.また,同化波動場を初期値として,発震時にまで遡った地震波の逆伝播計算を進めることで,⻑周期地震動の⽣成のヒントとなる震源および地震波の放射位置(断層すべり)を推定することも可能である.⻑周期地震動の即時予測の実現に向け,リアルタイムにデータを伝送する強震観測点の整備と,全国地震観測データ流通ネットワーク(JDXnet)とSINET5を通して観測データを東京⼤学情報基盤センターのWisteria/BDEC01スパコンに取      り込み、⻑周期地震動のリアルタイム予測を⾏う統合システム開発を関係機関との共同研究により進めている.

(4)深発巨⼤地震による⻑周期地震動

太平洋プレートで深発地震が発⽣すると,プレートに沿って地震波が遠地まで良く伝わることで,関東〜東北〜北海道の太平洋沿岸に沿って⼤きな震度が現れる現象は,「異常震域」として良く知られている.冷えた,堅いプレートが地震波を良く伝える効果,さらに,プレート内部の不均質構造における⾼周波数(f>1-2  Hz)地震波の前⽅散乱による「プレートの導波効果」によるものである.このため,異常震域で観測される地震動は⾼周波数成分のみが含まれ,強い散乱によって⽣じた⻑い波群を持つ特徴がある.⼀⽅,2013年オホーツク海深発地震(深さ610 km,  Mw8.3)では,北海道から東北の⽇本海側の震度が⼤きい,通常の異常震域とは逆の震度分布が現れた.広帯域地震計記録を調査したところ,強い揺れは,周期2秒以上の⻑周期成分に富み,それらは震源から上部マントルに向けて放射されたS波とそのsP変換波,さらに遠地では地表でのsS反射波であることが確認できた.また,地震波がプレート内を遠距離伝わる間に周期1秒前後の地震波は周囲の低速度マントルへと抜け出す「プレートの反導波効果」が発⽣し,これが太平洋側の震度を⼩さくしていたことも,地震波伝播シミュレーションから確認できた.この地震の際に,震央から5000〜8000    km離れたモスクワやカザフスタンが有感となり,建物からの避難騒ぎが起きた.遠地記録を調べたところ,遠地の強い揺れは厚い⼤陸地殻で⽣成するsSS, sSSS反射波や,地球深部で反射したScS波による,やや⻑周期(5-20秒)に富んだ波動であったことがわかった.

3.4.2 強震動予測⼿法の国際展開

地震災害軽減のための強震動予測では,頻発する被害地震の強震記録に基づき,地震学,特に震源物理に裏打ちされた最先端の⼿法開発を⽬指すと共に,地震⼯学分野で利活⽤価値の⾼い応答スペクトルの客観的評価指標を積極的に導⼊することにより,国際的に受け⼊れられる検証活動にも注⼒する必要がある.近年,標準化の意義が強く認識されるようになり,その流れは規格や技術性能にとどまらず,研究開発にも及んでいる.強震動評価に関しては,Verification and Validation(V&V︓検証と妥当性確認)による品質管理基準を堅持することにより,過去の地震の観測波形再現と将来の地震の予測波形の双⽅に対して定量的根拠を明確にし,オープンソースとして強震動予測の開発コードを国際的なプラットフォームにおいて公開することが重要とされている.

⽶国南カリフォルニア⼤学に本部を置く南カリフォルニア地震センターSCECでは,断層⾯と地下構造モデルを⼊⼒情報として,複数の強震動予測⼿法によるValidationを⾏う場として広帯域地震動プラットフォーム (SCEC Broadband   Platform)   が構築されている.特徴は,時刻歴波形ではなく⼯学的利活⽤を⽬的とした5%加速度疑似応答スペクトルによる評価,地震動の再現度合を判断する客観的評価指標の導⼊,そして計算コードの公開である.本研究では,このプラットフォームに⽶国や韓国で開発された⼿法に加え,⽇本で開発された強震動予測⼿法を実装すると共に,国際展開を図っている.

近年では,観測地震動の非エルゴード解析を進めると共に,計算地震動のシミュレーション解析を進め,地震動に関する, 偶然的ばらつきと認識論的不確実性の定量的分離を進めている.加えて,機械学習による観測地震動の分析を行い,既往の地震動予測式と良い一致を見ることを確認した.

また,強震動予測に関する国際共同研究を⽶国・トルコ・インドネシア・中国・ペルー等と⾏い,各国の被害地震への適⽤と強震動評価を進めている.