本研究では、1次元畳み込みニューラルネットワークを用いて、2011年東北地方太平洋沖地震の前(2004-2011年)に日本海溝沿いで発生した60個の大地震(M=6.8-8.0)に対して、福島観測点と横浜観測点での地震波形の関係を学習させました。次に、学習済みTCNモデルを東北地方太平洋沖地震と以降に発生した30個の大地震(M=6.5-9.0)に適用し、福島観測点での地震波形記録を入力として、横浜地点の地震波形を予測し、観測との比較から予測性能を確認しました。予測は瞬時(0.05秒)に実行可能であり、福島地点で揺れを観測する直後に、1分以上の猶予時間を持って横浜地点で起きる揺れ波形を予測可能できます。
現在、日本各地で起きる大地震の揺れ予測に向けて、複数の入力観測点を持つ2次元ニューラルネットワークモデルへの拡張や、観測データに加えて地震動シミュレーションを用いた学習など、研究拡張を進めています。

図: 畳み込みニューラルネットワークによる地震波形の予測。(a) 学習に用いた地震(緑)と予測実験に用いた地震(赤)、地震波の入力地点(福島)と予測地点(横浜)。(b)畳み込みニューラルネットワークの構成、(c)予測結果の例(岩手沖の地震)、入力波形に対する予測波形と観測波形の比較、右は速度応答スペクトルの比較。
【文献】Furumura T. and Y. Oishi, An early forecast of long-period ground motions of large earthquakes based on deep learning, Geophys. Res. Lett., 50, 10.1029/2022GL101774, 2023.
□ 観測データ同化と高速波動伝播計算に基づく長周期地震動の即時予測 (その1)
現在、日本列島には数千を越える地震計があり、その一部は東京大学地震研究所にリアルタイムにデータが配信されています。 多量の観測データに基づく日本列島の地震波動場の把握と、高速計算による未来の強い揺れの予測の研究を進めています。 平時には、コンピュータ内部の仮想の地震波動場と、リアルタイムに変化する地震観測データとの違いを修正(波動場の同化)し続け、計算結果を観測に一致させます。そして、大地震が発生すると、同化した波動場を初期値として、未来の波動場を超高速に計算します。そして、実際の地震の揺れの広がりよりもずっと速く、未来の揺れを予測します(天気予報の雨雲の動きや台風の進路予測と同じ考えですね)。
図は、2011年東北地方太平洋沖地震の観測データを用いたデータ同化・予測実験の結果です。地震発生から110秒間まで宮城〜福島での地震観測データを用いて波動場を同化し、これを初期値として数分後の関東平野の揺れ(長周期地震動)を高速に計算しました。東大情報基盤センターのOakforestスパコンを用いた計算(2048CPU並列計算)により、実際の地震波の伝播より8倍速く計算できることを確認しました。
現在、南海トラフや日本海溝沿いの海底にケーブル式地震・津波観測網の整備が進められており、リアルタイム観測データと高速計算環境をフルに活用した震源過程の即時解析と波動場の同化・予測、そして地下構造の高度推定に向けた研究を進めています。
図: 観測・計算波動場のデータ同化に基づく、長周期地震動の即時予測実験。高密度強震観測データと、3次元差分法シミュレーションの結果を同化(最適内双方)し、スパコンによる高速計算により未来の時刻の波動伝播と長周期地震動の生成を、地震波より速い速度で予測。
【文献】 Furumura, T., T. Maeda, and A. Oba, Early Forecast of Long‐Period Ground Motions via Data Assimilation of Observed Ground Motions and Wave Propagation Simulations, Geophys. Res. Lett., https://doi.org/10.1029/2018GL081163, 2018.
図は、2011年東北地方太平洋沖地震の観測データを用いたデータ同化・予測実験の結果です。地震発生から110秒間まで宮城〜福島での地震観測データを用いて波動場を同化し、これを初期値として数分後の関東平野の揺れ(長周期地震動)を高速に計算しました。東大情報基盤センターのOakforestスパコンを用いた計算(2048CPU並列計算)により、実際の地震波の伝播より8倍速く計算できることを確認しました。
現在、南海トラフや日本海溝沿いの海底にケーブル式地震・津波観測網の整備が進められており、リアルタイム観測データと高速計算環境をフルに活用した震源過程の即時解析と波動場の同化・予測、そして地下構造の高度推定に向けた研究を進めています。

図: 観測・計算波動場のデータ同化に基づく、長周期地震動の即時予測実験。高密度強震観測データと、3次元差分法シミュレーションの結果を同化(最適内双方)し、スパコンによる高速計算により未来の時刻の波動伝播と長周期地震動の生成を、地震波より速い速度で予測。
【文献】 Furumura, T., T. Maeda, and A. Oba, Early Forecast of Long‐Period Ground Motions via Data Assimilation of Observed Ground Motions and Wave Propagation Simulations, Geophys. Res. Lett., https://doi.org/10.1029/2018GL081163, 2018.
□ 観測データ同化と高速波動伝播計算に基づく長周期地震動の即時予測 (その2)リアルタイム予測実験
東京大学情報基盤センターの Wisteria/BDEC-01スパコンは、「富岳」と同じFUJITSU Processor A64FXを搭載した、7,680台を有するシミュレーションノード群を備え、これに接続されたデータ学習ノード群はインターネットからリアルタイム観測データを取りこむことができます。情報基盤センター、富士通、地震研の計算科学研究者らとの共同研究により、全国地震観測データ流通ネットワーク(JDXnet)で収集・配信される地震観測データとシミュレーションとの同化・長周期地震動予測を行うプロトタイプシステムの開発を進めています。実験では、2007年中越沖地震(Mw6.8)のF-net強震計データ18点と、349点のHi-net地震計データを入力として、未来の関東―甲信越地域の長周期地震動の発生を高速計算により実時間の8.6倍の速度で予測しました(中島・他、2021)。予測精度と揺れの到来までの猶予時間にはトレードオフの関係があります。このため、高速計算を活かし、観測データの取得に合わせて予測の瞬時更新を行います。
図:日本列島の高密度Hi-net、広帯域F-netリアルタイム観測データと高速スパコンを用いた地震波伝播シミュレーションを同化し、未来の波動場を高速に予測します。実験は、2007年新潟県中越地震の観測データを用いて行いました。
【文献】 中島研吾・古村孝志・鶴岡弘・松葉浩也・坂口吉生・住元真司・笠井良浩・池田輝彦・八代尚・荒川隆・塙敏博(2021)、観測データ同化による長周期地震動リアルタイム予測へ向けた試み、情報処理学会研究報告ハイパーフォーマンスコンピューティング、2021-HPC-182, v8, pp.1-11.

図:日本列島の高密度Hi-net、広帯域F-netリアルタイム観測データと高速スパコンを用いた地震波伝播シミュレーションを同化し、未来の波動場を高速に予測します。実験は、2007年新潟県中越地震の観測データを用いて行いました。
【文献】 中島研吾・古村孝志・鶴岡弘・松葉浩也・坂口吉生・住元真司・笠井良浩・池田輝彦・八代尚・荒川隆・塙敏博(2021)、観測データ同化による長周期地震動リアルタイム予測へ向けた試み、情報処理学会研究報告ハイパーフォーマンスコンピューティング、2021-HPC-182, v8, pp.1-11.
□ 観測データ同化と高速波動伝播計算に基づく長周期地震動の即時予測 (その3)グリーン関数を用いた瞬時予測
データ同化による未来の波動場の予測は、現在の高速計算環境とリアルタイム高密度地震観測の特性を取り入れた、長周期地震動の有効な予測手法ですが、数千台の並列計算による予測は実用化において限界があります。そこで、スパコンで予測をリアルタイムに行う代わりに、観測点から予測地点への揺れの伝播(伝達関数、グリーン関数)を予めスパコンで計算して保存しておき、これを同化波動場にコンボリューション(畳み込み積分)することで、揺れを瞬時に予測する手法を開発しました(Oba et al. 2020)。これは、津波のデータ同化・予測として最初に開発したWang et al.(2020)のアイデアを長周期地震動に適用したものです。相反定理を用いた観測点(多数)と予測地点(1点)を入れ替えた計算により、少ない計算回数で必要な数のグリーン関数を効率良く求めることができます。2016年三重県沖の地震(M6.5)や想定南海トラフ巨大地震の長周期地震動予測実験を通じて、その有効性を確認しました。
図: グリーン関数を用いた長周期地震動の瞬時予測、(a)南海トラフ巨大地震による長周期地震動の伝播、(b) 観測点でのデータ同化結果から予測地点の長周期地震動の予測の概念、 (c) 都心の長周期地震動の予測結果(地震発生から30, 50, ...110秒後の時点の予測波形)と実際に期待される地震動(青)。
【文献】Oba, A., T. Furumura, and T. Maeda, Data‐assimilation‐based early forecasting of long‐period ground motions for large earthquakes along the Nankai Trough, J. Geophys. Res., https://doi.org/10.1029/2019JB019047, 2020.

図: グリーン関数を用いた長周期地震動の瞬時予測、(a)南海トラフ巨大地震による長周期地震動の伝播、(b) 観測点でのデータ同化結果から予測地点の長周期地震動の予測の概念、 (c) 都心の長周期地震動の予測結果(地震発生から30, 50, ...110秒後の時点の予測波形)と実際に期待される地震動(青)。
【文献】Oba, A., T. Furumura, and T. Maeda, Data‐assimilation‐based early forecasting of long‐period ground motions for large earthquakes along the Nankai Trough, J. Geophys. Res., https://doi.org/10.1029/2019JB019047, 2020.
□ 地震波逆伝播計算と観測データ同化による震源イメージング
運動方程式の時間・空間対称性を用いて、時間を反転させた地震波伝播計算により、波動場を震源に戻すことができます。3次元不均質構造を用いた地震波伝播計算において、観測されたた地震計記録を観測点から注入しながら時間を遡って波動計算を進めると、発震時に震源に地震波が焦点を結ぶように集まります(震源イメージング)。本研究では、地震波逆伝播計算において、計算結果と観測データの同化を行うことで、双方が持つ波動場の情報を有効に活用した高分解能の震源イメージングが実現できした。
上記の「データ同化と高速計算に基づく未来の波動場の予測」と合わせて、過去の波動場も即座に推定して震源過程を明らかにすることで、大地震による強い揺れの成因と予測・被害の軽減に役立てたいと考えています。
図: 2008年茨城県沖地震の震源イメージング。(a)地震による揺れ(最大速度)分布と地震波逆伝播計算を行う範囲(点線)及び用いたKiK-net強震観測点(緑)、(b) KiK-net強震観測点で記録された地震波形(速度波形Radial成分)、(c)逆伝播計算の結果(地震発生から100s, 50s, 0s)。時間を進めるにつれて観測点から震源に向けて地震波が逆伝播し、茨城県沖の太平洋プレート上面に震源がイメージングされるようすがわかる。
【文献】 Furumura, T., and T. Maeda, High-resolution source imaging based on time-reversal wave propagation simulations using assimilated dense seismic records, Geophys. J. Int., 225, 1, https://doi.org/10.1093/gji/ggaa586, 2021.
上記の「データ同化と高速計算に基づく未来の波動場の予測」と合わせて、過去の波動場も即座に推定して震源過程を明らかにすることで、大地震による強い揺れの成因と予測・被害の軽減に役立てたいと考えています。

図: 2008年茨城県沖地震の震源イメージング。(a)地震による揺れ(最大速度)分布と地震波逆伝播計算を行う範囲(点線)及び用いたKiK-net強震観測点(緑)、(b) KiK-net強震観測点で記録された地震波形(速度波形Radial成分)、(c)逆伝播計算の結果(地震発生から100s, 50s, 0s)。時間を進めるにつれて観測点から震源に向けて地震波が逆伝播し、茨城県沖の太平洋プレート上面に震源がイメージングされるようすがわかる。
【文献】 Furumura, T., and T. Maeda, High-resolution source imaging based on time-reversal wave propagation simulations using assimilated dense seismic records, Geophys. J. Int., 225, 1, https://doi.org/10.1093/gji/ggaa586, 2021.
II. 大地震による強震動・長周期地震動の生成
□ 長周期地震動の生成・伝播
大地震が起きると、ガタガタとした小刻みな(短周期の)揺れに加えて、厚い堆積層に覆われた平野では、周期数秒以上の「長周期地震動」が強く発生(増幅)し、S波の後に長く続く揺れ(後揺れ)として観測されます。
長周期地震動は、木造家屋には被害は与えませんが、超高層ビルや大型石油タンクなどの長大構造物と共振を起こして、大きく長く揺することで被害を起こす可能性があります。2003年十勝沖地震(M8)では、150km離れた苫小牧の石油タンクが破損・炎上する事故が起きました。こうした問題は、関東平野や濃尾平野、大阪平野など、人口の集まる都市に広く当てはまります。関東平野は最大3000〜5000mの厚い堆積層に覆われていますが、複雑な形状を持つために、地震の方位により長周期地震動の大きさや卓越周期などが大きく変動します。2006年新潟中越地震では、都心に長周期地震動が焦点を結ぶように集まり、局所的に大きくなる現象も観測されました。
東北地方太平洋沖地震では、M9.0という地震規模に比べて長周期地震動が比較的小さかったことも謎です。 詳細な地下構造モデルを用いたシミュレーションと、近年の大地震データ解析をもとに長周期地震動の生成メカニズムを調べています。
図: 2006年新潟県中越地震において関東平野(都心)で強く発生した長周期地震動(赤のトレース) と関東平野の3次元基盤構造。関東平野では、周囲の山地を作る堅い基盤岩が深く落ちくぼみ、 最大3000〜5000 m以上の厚さを持つ堆積層に覆われており、長周期の地震動が共鳴して強く 増幅される。
【文献】 向井優理恵・古村孝志・前田拓人、関東平野における長周期地震動増幅の特徴的方位依存性とその要因、東京大学地震研究所彙報、93号、31-48, 2018.
長周期地震動は、木造家屋には被害は与えませんが、超高層ビルや大型石油タンクなどの長大構造物と共振を起こして、大きく長く揺することで被害を起こす可能性があります。2003年十勝沖地震(M8)では、150km離れた苫小牧の石油タンクが破損・炎上する事故が起きました。こうした問題は、関東平野や濃尾平野、大阪平野など、人口の集まる都市に広く当てはまります。関東平野は最大3000〜5000mの厚い堆積層に覆われていますが、複雑な形状を持つために、地震の方位により長周期地震動の大きさや卓越周期などが大きく変動します。2006年新潟中越地震では、都心に長周期地震動が焦点を結ぶように集まり、局所的に大きくなる現象も観測されました。
東北地方太平洋沖地震では、M9.0という地震規模に比べて長周期地震動が比較的小さかったことも謎です。 詳細な地下構造モデルを用いたシミュレーションと、近年の大地震データ解析をもとに長周期地震動の生成メカニズムを調べています。

図: 2006年新潟県中越地震において関東平野(都心)で強く発生した長周期地震動(赤のトレース) と関東平野の3次元基盤構造。関東平野では、周囲の山地を作る堅い基盤岩が深く落ちくぼみ、 最大3000〜5000 m以上の厚さを持つ堆積層に覆われており、長周期の地震動が共鳴して強く 増幅される。
【文献】 向井優理恵・古村孝志・前田拓人、関東平野における長周期地震動増幅の特徴的方位依存性とその要因、東京大学地震研究所彙報、93号、31-48, 2018.
□ 2016年熊本地震による断層近傍の強震動の特性
2016年熊本地震では、震度7を2回含む激しい揺れと活発な余震活動により、住宅倒壊や地滑りなど強い揺れによる被害が拡大しました。
震源断層に近い益城町や西原村で記録された地震波形を調べると、激しい揺れが続いた時間は十数秒程度と短いものの、地動速度が100cm/sを超える激しいものであったことがわかります。揺れの成分には、木造家屋の倒壊に影響する、周期1〜2秒の成分が強く含まれ、そのレベルは1995年兵庫県南部地震(阪神淡路段震災)に匹敵するものでした
加えて、震源断層のごく近傍の強震動には、周期3秒〜10秒の長周期の地震動成分も強く含まれていました。 これは、大地震の際に、堆積平野で強く増幅され、揺れが何分も続く、いわゆる「長周期地震動」とは別物です。 断層運動により放射された地震動(地震波動論で呼ぶ「遠地項」)というよりは、断層の動きそのものが作る地殻変動(「近地項」) により作り出されたものと考えられます。同じ現象は、1999年台湾集集地震(M7.6)でも見られました。
震源断層が地表に出現する浅い大地震では、断層のごく近傍では、強い揺れに加えて断層の動きそのもののによる影響を心配する必要が出てきます。 こうした、内陸地震による特異な強震動を適切に評価・予測するための、強震動シミュレーション技法と高分解能地下構造モデルの整備を進めています。
熊本地震の揺れ(60秒後)の広がるようす(観測データを用いて可視化)と、断層近傍の益城町、西原村で記録された本震(M7.3)の強震動。兵庫県南部地震の鷹取地点の記録との比較。◇動画ダウンロードページへ
【文献】 Furumura, T., Destructive near-fault strong ground motion from the 2016 Kumamoto Prefecture, Japan, M7.3 earthquake, Landslides, 13, 6, 1519-1524, 2016.
震源断層に近い益城町や西原村で記録された地震波形を調べると、激しい揺れが続いた時間は十数秒程度と短いものの、地動速度が100cm/sを超える激しいものであったことがわかります。揺れの成分には、木造家屋の倒壊に影響する、周期1〜2秒の成分が強く含まれ、そのレベルは1995年兵庫県南部地震(阪神淡路段震災)に匹敵するものでした
加えて、震源断層のごく近傍の強震動には、周期3秒〜10秒の長周期の地震動成分も強く含まれていました。 これは、大地震の際に、堆積平野で強く増幅され、揺れが何分も続く、いわゆる「長周期地震動」とは別物です。 断層運動により放射された地震動(地震波動論で呼ぶ「遠地項」)というよりは、断層の動きそのものが作る地殻変動(「近地項」) により作り出されたものと考えられます。同じ現象は、1999年台湾集集地震(M7.6)でも見られました。
震源断層が地表に出現する浅い大地震では、断層のごく近傍では、強い揺れに加えて断層の動きそのもののによる影響を心配する必要が出てきます。 こうした、内陸地震による特異な強震動を適切に評価・予測するための、強震動シミュレーション技法と高分解能地下構造モデルの整備を進めています。

熊本地震の揺れ(60秒後)の広がるようす(観測データを用いて可視化)と、断層近傍の益城町、西原村で記録された本震(M7.3)の強震動。兵庫県南部地震の鷹取地点の記録との比較。
【文献】 Furumura, T., Destructive near-fault strong ground motion from the 2016 Kumamoto Prefecture, Japan, M7.3 earthquake, Landslides, 13, 6, 1519-1524, 2016.
□ 2007年新潟県中越沖地震による長周期P波(PL波)とその生成・伝播メカニズム
一般に、平野で強く増幅する長周期地震動は、S波の後から遅れて到達する表面波により発生します。ところが、2007年新潟県中越沖地震(M6.8)では、
P波の直後から大きな震幅を持つ長周期(5-10s)の成分が観測されました。地震波の振動解析から、このP波の長周期波群は、地殻内を広角反射により伝わるPL波であることが分かりました。PL波はRayleighリーキングモードの波として解釈されます。具体的にPL波はどのように発生し、地殻内を伝播するのでしょう。日本列島の地殻・マントル構造を詳細にモデル化した地震波伝播シミュレーションから確認しました。計算結果から、地殻内に強く放射されたP波が地表とモホ面の間で広角反射を繰り返し、長周期の成分が干渉して増幅を起こすことでPL波が生成する過程が確認できました。低速度の堆積層がP波の反射効率を強ることで、PL波の震幅を大きくすることもわかりました。
S波や表面波よりずっと速く到着するPL波の特徴を活かし、後から到達する大振幅の表面波・長周期地震動の予測に活用できる可能性があります。
図: 2007年新潟県中越沖地震で観測された長周期P波(PL波)と最大速度分布(左)。観測波形は新潟〜茨城にかけての観測点(図中の緑四角)のものを表す。P波とS波の間に大きな振幅を持つ長周期の地震動(PL波)が到着し、ずっと遅れて長周期の表面波が到着する。
図:3次元差分法計算により再現した2007年新潟県中越沖地震の波動伝播とPL波(地表付近の赤で示された波群)伝播のようす◇ 動画ダウンロードページへ

図: 2007年新潟県中越沖地震で観測された長周期P波(PL波)と最大速度分布(左)。観測波形は新潟〜茨城にかけての観測点(図中の緑四角)のものを表す。P波とS波の間に大きな振幅を持つ長周期の地震動(PL波)が到着し、ずっと遅れて長周期の表面波が到着する。

図:3次元差分法計算により再現した2007年新潟県中越沖地震の波動伝播とPL波(地表付近の赤で示された波群)伝播のようす
□ 地殻内を伝わるPL波と上部マントルを伝わるW-phaseの類似性
W-phase(Kanamori, 1993)は、大地震において遠地(1000-10,000 km)の地震計記録のP波〜S波の間に観測される、超長周期(100-1,000秒)の波群です。その波形の形(W)や、曲率を持つ地表を何度も反射して伝わる"whispering gallery"をイメージしてW-phaseと名付けられた(らしい)。W-phaseはP波の直後に到達することや、振幅が小さく巨大地震でも地震計が振り切れに杭ために、震源メカニズム推定(モーメントテンソル・インバージョン)と津波警報に広く用いられいます。
図は、2011年東北地方太平洋沖地震において、パプアニューギニア(震源距離5300km)で記録された3成分広帯域地震波形記録です。P波とS波の間に、周期100秒程度のゆったりとした揺れ(W-phase)が確認できます。これは、先に述べた近地地震波形に見られるPL波の波形(図左:2004年新潟県中越地震におけるF-net徳島観測点、震源距離536 km)と良く似ています。ただし、時間・空間スケールが10倍異なります。
W-phaseは、低速度の上部マントルを、P波が広角反射を繰り返して伝播する過程で、S波との干渉を起こして生成します。 このメカニズムは、低速度の地殻を伝播するPL波と類似の、地球内部の相似の現象です。
図: 近地で観測される、長周期(3〜10秒)のPL波(2004年新潟県地震、距離536 km)と、遠地で観測される超長周期(100〜1000秒)のW-phase(2011年東北地方太平洋沖地震、距離5300 km)の比較。時間スケールが10倍異なることに注意。
図: (a) 地殻内を広角反射するP波から生成するPL波、(b)上部マントルの低速度層で生成するW-phase
図: W-phaseの伝播シミュレーション。上部地殻内でのPP, PPP反射とSP変換波の干渉により、震源距離2000km付近より長周期(100〜1000秒)のW-phaseが生成する。その生成メカニズムは、近地で観測される上部地殻を伝わるPL波と良く似ている。
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【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Regional distance PL phase in the crustal waveguide - An analog to the teleseismic W phase in the upper-mantle waveguide, J. Geophys. Res., 123, https://doi.org/10.1029/2018JB015717, 2018.
図は、2011年東北地方太平洋沖地震において、パプアニューギニア(震源距離5300km)で記録された3成分広帯域地震波形記録です。P波とS波の間に、周期100秒程度のゆったりとした揺れ(W-phase)が確認できます。これは、先に述べた近地地震波形に見られるPL波の波形(図左:2004年新潟県中越地震におけるF-net徳島観測点、震源距離536 km)と良く似ています。ただし、時間・空間スケールが10倍異なります。
W-phaseは、低速度の上部マントルを、P波が広角反射を繰り返して伝播する過程で、S波との干渉を起こして生成します。 このメカニズムは、低速度の地殻を伝播するPL波と類似の、地球内部の相似の現象です。

図: 近地で観測される、長周期(3〜10秒)のPL波(2004年新潟県地震、距離536 km)と、遠地で観測される超長周期(100〜1000秒)のW-phase(2011年東北地方太平洋沖地震、距離5300 km)の比較。時間スケールが10倍異なることに注意。

図: (a) 地殻内を広角反射するP波から生成するPL波、(b)上部マントルの低速度層で生成するW-phase

図: W-phaseの伝播シミュレーション。上部地殻内でのPP, PPP反射とSP変換波の干渉により、震源距離2000km付近より長周期(100〜1000秒)のW-phaseが生成する。その生成メカニズムは、近地で観測される上部地殻を伝わるPL波と良く似ている。
【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Regional distance PL phase in the crustal waveguide - An analog to the teleseismic W phase in the upper-mantle waveguide, J. Geophys. Res., 123, https://doi.org/10.1029/2018JB015717, 2018.
III. 南海トラフ地震の強震動・津波予測
□ 南海トラフ地震の強震動・津波の評価
駿河湾〜日向灘に至る南海トラフでは、100〜150年の周期で巨大地震が発生しており、1944年東南海地震、1946年南海地震の発生から
既に70年あまりが経過した今、近い将来に次の巨大地震の発生が心配されています。
過去の南海トラフ地震により引き起こされた強い揺れと津波を再現し、被害の原因を探る。そして将来発生が想定される地震の揺れと 津波を予測して、災害軽減に役立てるためのシミュレーション研究を進めています。
地震の揺れの予測には、プレートの内部構造や、平野の堆積層の詳細な理解が必要です。 揺れは、震源規模(M)はもちろん、断層運動の不均質性(断層面上の滑り分布、破壊伝播方向・速度など)により大きく変動します。 地下構造の不均質性や、断層運動の特性を明らかにし、地震動と津波予測とその不確定性を適切に評価することも重要な課題です。
研究はそれでは終わりません。予測結果を防災に役立てるためには、予測された強震動と津波を入力として、建物の揺れと・被害の予測、 安全な避難を考えるために工学研究者や社会心理学者と協力して研究を進めています。
図: 1944年東南海地震の地震動と津波の再現シミュレーション
◇ 動画ダウンロードページへ
過去の南海トラフ地震により引き起こされた強い揺れと津波を再現し、被害の原因を探る。そして将来発生が想定される地震の揺れと 津波を予測して、災害軽減に役立てるためのシミュレーション研究を進めています。
地震の揺れの予測には、プレートの内部構造や、平野の堆積層の詳細な理解が必要です。 揺れは、震源規模(M)はもちろん、断層運動の不均質性(断層面上の滑り分布、破壊伝播方向・速度など)により大きく変動します。 地下構造の不均質性や、断層運動の特性を明らかにし、地震動と津波予測とその不確定性を適切に評価することも重要な課題です。
研究はそれでは終わりません。予測結果を防災に役立てるためには、予測された強震動と津波を入力として、建物の揺れと・被害の予測、 安全な避難を考えるために工学研究者や社会心理学者と協力して研究を進めています。

図: 1944年東南海地震の地震動と津波の再現シミュレーション
IV. 不均質な地殻・マントルにおける高周波数地震動の伝播
□ 深発地震による異常震域の生成
地震の揺れは距離とともに弱まるため、震度は震央を中心に同心円に広がるのが一般です。
ところが、図のウラジオストック下の557kmで起きた地震のように、太平洋プレートの沈み込みに伴う深発地震では、
北海道〜東北〜関東の太平洋側の広い範囲で震度が大きくなる「異常震域」と呼ばれる現象が見られます。
異常震域では、ガタガタと小刻みに揺れる高周波数(短周期)の地震波が長く続くことが特徴です。
異常震域の成因は、一般に硬いプレートの中を地震波が遠くまで良く伝わるためと説明されています。
しかし、硬い(地震波速度が大きい)プレートだけでは、地震波を中に閉じ込め遠くまで伝えることはることはできません。 地震波はすぐに周囲の(地震波速度の遅い)マントルに抜け出してしまうためです。
私たちは、プレート内に地震波の閉じ込めメカニズムとして、プレート内に硬い/柔らかい岩石が互層状態(ラミナ)で存在しており、その中で周波数1〜2Hz以上の高周波数地震波が強い、前方散乱を何度も起こしながら伝わると考えています。プレート内で地震波散乱が繰り返し起きた結果、ガタガタと長く続く揺れが生まれるのです。こうしたプレート内不均質性を組み込んだモデルを用いて地震波伝播シミュレーションを行うと、深発地震で見られた異常震域の分布と、強く長い揺れの特徴がよく再現できるようになりました。
こうしたプレート内の地震波の閉じ込めは、不均質構造のスケールよりも波長がずっと短い、周波数1〜2 Hz以上の高周波数地震動に限られます。 異常震域では強い加速度が長く続くにもかかわらず大きな被害が報告されないのは、こうした高周波数(だけ)の揺れによるためと考えられます。。
図:2010年のウラジオストックの深発地震(深さ557km, M6.8)で見られた異常震域。揺れの強さ(加速度)分布と、スパコン「京」コンピュータで再現した、深発地震の揺れの広がるようす。
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このプレート内部の芯では地震波の伝わる速度がまわりよりも遅いため、地震波を内部に閉じ込め、揺れを誘導する働きがあります。 太平洋プレートで起きた深発地震の地震波形を見ると、こうした低速度オリビンを伝わった影響と見られる、特異な地震波形が確認 できました。こうした複雑なプレート内部構造を考慮した、地震波伝播のコンピュータシミュレーションから、観測された地震波形 の特徴を再現することも確認できました。こうした、プレート深部のくさび状の異常構造は、周波数1〜3Hzの範囲の地震波成分を、 プレート上部に向かって集める効果があります。
深さ400 km以深の深発地震は、先に述べた不均質プレート内部での散乱・導波現象に加えて、プレート深部のくさび型の低速度の 異常も地震波を集め・伝える効果があることがわかりました。
図: ウラジオストックの深発地震の地震波伝播シミュレーション。(a) 従来のプレートモデル、(b)プレート深部のくさび形 速度異常(黄色の点線)をモデル。赤はP波、緑はS波を表す。上は、計算で求められた地表観測点の地震波形。計算は、 海洋研究開発研究機構のスパコン「地球シミュレータ」を用いて行いました。
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【文献】 Furumura, T., BLN Kennett, and S. Padhy, Enhanced waveguide effect for deep-focus earthquakes in the subducting Pacific slab produced by a meta-stable olivine wedge, J. Geophys. Res., 121, 6779-6796, 2016.
しかしながら、全国の地震計記録を調べると、この地震による揺れは高周波数成分が少なく、観測された強い揺れは長周期(3〜10秒)の成分から 作られていたことがわかりました。そして、長周期の地震波は、地殻に入射したS波から生成したsP変換波が、地殻内を広角で反射して伝わるsPmP波と、 これがS波とカップリングして生成したs-PL波であることがわかりました。いっぽう、通常の深発地震で強く観測される、プレート内を伝わる高周波数 地震動が小さかったこともわかりました。
こうした小笠原諸島西方沖の深発地震の特異な揺れは、地震が太平洋プレートの下端付近あるいはプレートの外で起きたことと関係していると 考えられます。そして、通常の深発地震にように、プレート内部で起きた場合には、より大きく、かつ高周波数の揺れ成分が強くなった可能性があります。
図: 小笠原諸島西方沖の地震による最大加速度分布と、F-net観測点での広帯域地震波形(沖縄〜三重、小笠原〜北海道)。プレート内部を伝わった高周波数の揺れに先行して、長周期の地震動が大きな振幅で到来したことがわかる。
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【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Unusual strong ground motion across Japan from the 680 km deep 30 May 2015 Ogasawara Islands earthquake, J. Geophys. Res., 122, https://doi.org/10.1002/2017JB014519, 2017.
古村孝志, 2015年5月30日小笠原諸島西方沖深発地震と異常震域の謎,地震ジャーナル,66, 40-51, 2018.
しかし、硬い(地震波速度が大きい)プレートだけでは、地震波を中に閉じ込め遠くまで伝えることはることはできません。 地震波はすぐに周囲の(地震波速度の遅い)マントルに抜け出してしまうためです。
私たちは、プレート内に地震波の閉じ込めメカニズムとして、プレート内に硬い/柔らかい岩石が互層状態(ラミナ)で存在しており、その中で周波数1〜2Hz以上の高周波数地震波が強い、前方散乱を何度も起こしながら伝わると考えています。プレート内で地震波散乱が繰り返し起きた結果、ガタガタと長く続く揺れが生まれるのです。こうしたプレート内不均質性を組み込んだモデルを用いて地震波伝播シミュレーションを行うと、深発地震で見られた異常震域の分布と、強く長い揺れの特徴がよく再現できるようになりました。
こうしたプレート内の地震波の閉じ込めは、不均質構造のスケールよりも波長がずっと短い、周波数1〜2 Hz以上の高周波数地震動に限られます。 異常震域では強い加速度が長く続くにもかかわらず大きな被害が報告されないのは、こうした高周波数(だけ)の揺れによるためと考えられます。。

図:2010年のウラジオストックの深発地震(深さ557km, M6.8)で見られた異常震域。揺れの強さ(加速度)分布と、スパコン「京」コンピュータで再現した、深発地震の揺れの広がるようす。
□ プレート深部不均質構造(MOW)と異常震域生成の強化
太平洋プレートは、深さ700 km近くまで上部マントルの中に沈み込んでいます。深さ410kmを超えるとプレートを作る岩石物性が オリビンからスピネルに変化(相転移)しますが、プレート内部は冷えているために、相転移はすぐに起きず、プレート内部には くさび状にオリビンの深さ660km位まで残っています(Metastable olivine wedge)。このプレート内部の芯では地震波の伝わる速度がまわりよりも遅いため、地震波を内部に閉じ込め、揺れを誘導する働きがあります。 太平洋プレートで起きた深発地震の地震波形を見ると、こうした低速度オリビンを伝わった影響と見られる、特異な地震波形が確認 できました。こうした複雑なプレート内部構造を考慮した、地震波伝播のコンピュータシミュレーションから、観測された地震波形 の特徴を再現することも確認できました。こうした、プレート深部のくさび状の異常構造は、周波数1〜3Hzの範囲の地震波成分を、 プレート上部に向かって集める効果があります。
深さ400 km以深の深発地震は、先に述べた不均質プレート内部での散乱・導波現象に加えて、プレート深部のくさび型の低速度の 異常も地震波を集め・伝える効果があることがわかりました。

図: ウラジオストックの深発地震の地震波伝播シミュレーション。(a) 従来のプレートモデル、(b)プレート深部のくさび形 速度異常(黄色の点線)をモデル。赤はP波、緑はS波を表す。上は、計算で求められた地表観測点の地震波形。計算は、 海洋研究開発研究機構のスパコン「地球シミュレータ」を用いて行いました。
【文献】 Furumura, T., BLN Kennett, and S. Padhy, Enhanced waveguide effect for deep-focus earthquakes in the subducting Pacific slab produced by a meta-stable olivine wedge, J. Geophys. Res., 121, 6779-6796, 2016.
□ 小笠原諸島西方沖の深発地震による日本列島全域の揺れ
2015年5月30日に小笠原諸島西方沖で発生した深発地震は、その深さ(680 km)も規模(Mj8.1)も観測史上最大のものでした。この地震により、小笠原と神奈川で最大震度5強を記録、47都道府県全てが有感となりました。これは、日本で震度観測が始まってから初めてのことです。しかしながら、全国の地震計記録を調べると、この地震による揺れは高周波数成分が少なく、観測された強い揺れは長周期(3〜10秒)の成分から 作られていたことがわかりました。そして、長周期の地震波は、地殻に入射したS波から生成したsP変換波が、地殻内を広角で反射して伝わるsPmP波と、 これがS波とカップリングして生成したs-PL波であることがわかりました。いっぽう、通常の深発地震で強く観測される、プレート内を伝わる高周波数 地震動が小さかったこともわかりました。
こうした小笠原諸島西方沖の深発地震の特異な揺れは、地震が太平洋プレートの下端付近あるいはプレートの外で起きたことと関係していると 考えられます。そして、通常の深発地震にように、プレート内部で起きた場合には、より大きく、かつ高周波数の揺れ成分が強くなった可能性があります。

図: 小笠原諸島西方沖の地震による最大加速度分布と、F-net観測点での広帯域地震波形(沖縄〜三重、小笠原〜北海道)。プレート内部を伝わった高周波数の揺れに先行して、長周期の地震動が大きな振幅で到来したことがわかる。
【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Unusual strong ground motion across Japan from the 680 km deep 30 May 2015 Ogasawara Islands earthquake, J. Geophys. Res., 122, https://doi.org/10.1002/2017JB014519, 2017.
古村孝志, 2015年5月30日小笠原諸島西方沖深発地震と異常震域の謎,地震ジャーナル,66, 40-51, 2018.
□ 2013年オホーツク海深発地震(Mw8.3, 610 km):日本で観測された特異な地震波伝播
2013年にオホーツク海下の深さ610 kmで発生したMw8.3の巨大深発地震では、1000〜3000 km離れた日本列島で最大震度3の揺れを観測したほか、7000 km離れたカザフスタンでも高層ビルが大きく揺れ、避難騒ぎが起きました。
このときの揺れは、深発地震で良くみられる、太平洋沿岸の大きな揺れ=異常震域とは逆のパターンで、日本海側(稚内、秋田)が大きく揺れていたことがわかりました。Hi-net高感度地震計記録の解析と地震波伝播シミュレーションより、大きな揺れの原因は、深い震源から放射されたS波による、上部/下部マントル境界(深さ660 km)での反射波、地表でのS反射波(sS)とS-P変換波(sP)、そして地下内部のコア(深さ2900 km)からの反射波(ScS)が原因であったことが分かりました。ScS波の到着は、地震が起きてから13分後であり、余震と感じた人がいたかもしれません。sS反射波は厚い大陸地殻を何度も反射(sSS, sSSS)しながらユーラシア大陸まで数千キロ以上伝わった一方で、地殻の薄い海洋を挟んだ北米〜南米大陸の方向にはあまり伝わらなかったようです。
図:オホーツク深発地震による日本列島の揺れの強さと震度分布(通常の異常震域とは逆に、日本海側の揺れが大きい)。(b)F-net地震計記録から確認される、強い揺れの原因。(c)強い揺れの原因となった、660 km境界反射波、地表でのsS, sP変換波、地下2900キロのコアからのS反射波(ScS)の伝播経路の模式図。
図:(a) 地震波伝播シミュレーションから求められた日本の揺れ記録と、(b)観測された揺れ記録(F-net)との比較。
【文献】
Furumura, T., and BLN Kennett, The Significance of Long‐Period Ground Motion at Regional to Teleseismic Distances From the 610‐km Deep Mw 8.3 Sea of Okhotsk Earthquake of 24 May 2013, Jourlan of Geophysical Research, 24, 9075-9094, https://doi.org/10.1029/2019JB018147, 2019.
Kennett, BLN, and T. Furumura, Significant P wave conversions from upgoing S waves generated by very deep earthquakes around Japan, Progress in Earth and Planeteary Science, 6, 49, 2019.
このときの揺れは、深発地震で良くみられる、太平洋沿岸の大きな揺れ=異常震域とは逆のパターンで、日本海側(稚内、秋田)が大きく揺れていたことがわかりました。Hi-net高感度地震計記録の解析と地震波伝播シミュレーションより、大きな揺れの原因は、深い震源から放射されたS波による、上部/下部マントル境界(深さ660 km)での反射波、地表でのS反射波(sS)とS-P変換波(sP)、そして地下内部のコア(深さ2900 km)からの反射波(ScS)が原因であったことが分かりました。ScS波の到着は、地震が起きてから13分後であり、余震と感じた人がいたかもしれません。sS反射波は厚い大陸地殻を何度も反射(sSS, sSSS)しながらユーラシア大陸まで数千キロ以上伝わった一方で、地殻の薄い海洋を挟んだ北米〜南米大陸の方向にはあまり伝わらなかったようです。

図:オホーツク深発地震による日本列島の揺れの強さと震度分布(通常の異常震域とは逆に、日本海側の揺れが大きい)。(b)F-net地震計記録から確認される、強い揺れの原因。(c)強い揺れの原因となった、660 km境界反射波、地表でのsS, sP変換波、地下2900キロのコアからのS反射波(ScS)の伝播経路の模式図。

図:(a) 地震波伝播シミュレーションから求められた日本の揺れ記録と、(b)観測された揺れ記録(F-net)との比較。
【文献】
Furumura, T., and BLN Kennett, The Significance of Long‐Period Ground Motion at Regional to Teleseismic Distances From the 610‐km Deep Mw 8.3 Sea of Okhotsk Earthquake of 24 May 2013, Jourlan of Geophysical Research, 24, 9075-9094, https://doi.org/10.1029/2019JB018147, 2019.
Kennett, BLN, and T. Furumura, Significant P wave conversions from upgoing S waves generated by very deep earthquakes around Japan, Progress in Earth and Planeteary Science, 6, 49, 2019.
□ 琉球海溝の地震で見られる太平洋プレート上面反射波と中部日本の揺れ
フィリピン海プレートが沈み込む琉球海溝の地震において、新潟から関東にかけての帯状も揺れの大きな地域が確認されました。この揺れは、震源に近い九州以上の大きさです。また、震源から2000 km以上離れた北海道東部でも大きな揺れが観測されました。地震波伝播シミュレーションにより、中部日本と北海道の大揺れは、地下深部に沈み込む太平洋プレート上面での反射S波と、プレートで屈折したS波が、上部マントル/下部マントル境界での広角S反射であることが確認できました。
太平洋プレートの地震において、プレート内部を伝わった地震波が関東〜東北〜北海道の太平洋岸に大きな揺れを作るメカニズム(異常震域)は良く知られていますが、さらに、琉球海溝の地震において、太平洋プレートで反射または屈折したS波が中部日本や北海道に大きな揺れを作る新たなメカニズムが判明しました。
太平洋プレートが沈み込む日本海溝と伊豆―小笠原海溝は関東の沖合で折れ曲がっており、沈み込むにつれて中部日本から九州の地下深部(>400 km)ではプレートが引き延ばされ切れている可能性が議論されてきました。しかし、地下深部の太平洋プレートで地震波の反射や屈折が起きていることから、プレートが薄くなっていたとしても、完全には切れていないようです。
図:琉球海溝に沈み込むフィリピン海プレートで起きた、やや深発地震(110 km, Mw6.5)における日本列島の揺れ分布(最大地動速度;PGV)と(b)PGVの距離減衰特性。(c) F-net広帯域観測点記録に見られる大振幅のS反射波(*s1, *s2)。(d)太平洋プレート上面と660 km境界でのS反射波の生成メカニズム。
【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Distinctive seismic reflections from the subducting Pacific slab for earthquakes in the Ryukyu arc, Geophys. J. Int., 233, 2, 1213-1228, DOI:10.1093/gji/ggac514, 2022.
太平洋プレートの地震において、プレート内部を伝わった地震波が関東〜東北〜北海道の太平洋岸に大きな揺れを作るメカニズム(異常震域)は良く知られていますが、さらに、琉球海溝の地震において、太平洋プレートで反射または屈折したS波が中部日本や北海道に大きな揺れを作る新たなメカニズムが判明しました。
太平洋プレートが沈み込む日本海溝と伊豆―小笠原海溝は関東の沖合で折れ曲がっており、沈み込むにつれて中部日本から九州の地下深部(>400 km)ではプレートが引き延ばされ切れている可能性が議論されてきました。しかし、地下深部の太平洋プレートで地震波の反射や屈折が起きていることから、プレートが薄くなっていたとしても、完全には切れていないようです。

図:琉球海溝に沈み込むフィリピン海プレートで起きた、やや深発地震(110 km, Mw6.5)における日本列島の揺れ分布(最大地動速度;PGV)と(b)PGVの距離減衰特性。(c) F-net広帯域観測点記録に見られる大振幅のS反射波(*s1, *s2)。(d)太平洋プレート上面と660 km境界でのS反射波の生成メカニズム。
【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Distinctive seismic reflections from the subducting Pacific slab for earthquakes in the Ryukyu arc, Geophys. J. Int., 233, 2, 1213-1228, DOI:10.1093/gji/ggac514, 2022.
□ 日本海下の地殻構造とLg波の消失
Lg波は、地表とモホ面で全反射を繰り返しながら、地殻の中を閉じ込め込められるように伝わる短周期(周期0.5〜5秒)のS波です。
Hi-net高感度地震計記録を用いて、日本とその周辺でのLg波の伝播特性の地域性を調べたところ、東北日本はLg波が距離とともに 急激に減衰するのに対して、西南日本はLg波が明瞭に見られ、その伝播経路は朝鮮半島を通ってアジア大陸へと繋がっていることが わかりました。対馬海峡を挟んで地殻構造が連続していることを意味します。
日本海はLg波が伝わらないことも確認できました。その地殻は、大陸や日本列島(35km程度)よりも薄く、せいぜい10 km程度しか ないことや、地表下が海水に覆われていることなど、こうした海域の特徴的な地殻構造がLg波の伝播を阻害していることが考えられ ます。 そこで、近年の日本海の周辺での地殻・マントルの構造の調査結果に基づいて、地震波伝播の差分法シミュレーション を行ない、この仮説を検証しました。
計算の結果、日本海下で地殻の厚さが急激に薄くなるにつれて、Lg波が地殻内に留まることができなくなり、マントルへと抜け出すこと、 またLg波エネルギーの一部が、海底面でP波に変換して海水中へと取り去られことで、急激に減衰することもわかりました。
このように、地殻の不均質性とその地域性をLg波伝播の特性と、シミュレーションによる再現・検証から調べることができます。 地殻構造を詳しく知ることは、陸の形成過程と内陸地震の発生、そして揺れの伝わり方・被害の予測に不可欠です。
図: (左)高密度地震観測から推定してLg波の良い伝播経路(緑色)とLg波が伝わらない経路(赤)、(右)日本海のLg伝播シミュレーション (断面に沿った地表の計算波形と地震波伝播のスナップショット、赤がP波、緑がLg波(S波)を表す)
【文献】 T. Furumura, T.-K. Hong and BLN Kennett (2014): Lg wave propagation in the area around Japan: observations and simulations, Progress of Earth. Planet. Sci., 1, doi:10.1186/2197-4284-1-10, 2014.
Hi-net高感度地震計記録を用いて、日本とその周辺でのLg波の伝播特性の地域性を調べたところ、東北日本はLg波が距離とともに 急激に減衰するのに対して、西南日本はLg波が明瞭に見られ、その伝播経路は朝鮮半島を通ってアジア大陸へと繋がっていることが わかりました。対馬海峡を挟んで地殻構造が連続していることを意味します。
日本海はLg波が伝わらないことも確認できました。その地殻は、大陸や日本列島(35km程度)よりも薄く、せいぜい10 km程度しか ないことや、地表下が海水に覆われていることなど、こうした海域の特徴的な地殻構造がLg波の伝播を阻害していることが考えられ ます。 そこで、近年の日本海の周辺での地殻・マントルの構造の調査結果に基づいて、地震波伝播の差分法シミュレーション を行ない、この仮説を検証しました。
計算の結果、日本海下で地殻の厚さが急激に薄くなるにつれて、Lg波が地殻内に留まることができなくなり、マントルへと抜け出すこと、 またLg波エネルギーの一部が、海底面でP波に変換して海水中へと取り去られことで、急激に減衰することもわかりました。
このように、地殻の不均質性とその地域性をLg波伝播の特性と、シミュレーションによる再現・検証から調べることができます。 地殻構造を詳しく知ることは、陸の形成過程と内陸地震の発生、そして揺れの伝わり方・被害の予測に不可欠です。

図: (左)高密度地震観測から推定してLg波の良い伝播経路(緑色)とLg波が伝わらない経路(赤)、(右)日本海のLg伝播シミュレーション (断面に沿った地表の計算波形と地震波伝播のスナップショット、赤がP波、緑がLg波(S波)を表す)
【文献】 T. Furumura, T.-K. Hong and BLN Kennett (2014): Lg wave propagation in the area around Japan: observations and simulations, Progress of Earth. Planet. Sci., 1, doi:10.1186/2197-4284-1-10, 2014.
□ 不均質なプレート内部構造と成因
沈み込むプレート内は不均質が強く、それによって高周波数地震波が強い散乱を起こすことを先に述べましたが、そもそも
プレート内の短波長の不均質構造は、どこで、どうやって生まれのでしょうか?
これを解く鍵が、海底地震観測のデータから見つかりました。東大地震研海半球観測研究センターが北太平洋上に設置した海底地震計で、日本海溝で起きた地震の揺れを見ると、海を伝わるP波とS波(これらの波はPo, So波と呼ばれています)は、強い地震波の散乱を示す紡錘形の長く延びた波形を示していることが確認できました。
すなわち、プレート内の地震波の散乱帯(不均質構造)は、プレートが沈み込んだ後から生まれたものではなく、沈み込むずっと前から存在していたのです。北太平洋の島々や海底地震計のデータを調べたところ、北太平洋全域にわたって、Po、So波の長い波群を持つPo、So波が良く伝わる特徴が見つかりました。 さらに、プレートが生まれる海嶺付近でも同様の地震波波形の特徴が見つかりました。 世界各地のPo、So波を比べると、年代が古く、プレート(リソスフェア)が厚い地域ほどPo、So波が良く伝わる強いことがわかりました。海嶺でマグマが上昇してプレートが生まれ、太平洋上を広がるプレートを成長する過程で、アセノスフェアの一部がプレート下部に張り付くようにして、不均質構造が成長したと考えられます。不均質構造は、プレートの動きに沿って横長に延び、プレートの厚み方向に薄い(ラミナ構造)ことがわかりました。不均質の強さは、プレートの下部(リソスフェア/アセノスフェアの境界付近)で強いこともわかってきました。
では、海洋プレートのラミナ構造はどのようにしてできたのでしょうか。溶けた岩石でしょうか?それとも岩石の亀裂?流体?、新たな疑問が出てきます。不均質性の強度や特徴的なサイズとその地域性から、プレートの生成過程と太古のプレート運動の様子がわかるかもしれません。
図: 北太平洋の海底地震計で記録された、海域を伝わるPo、So波の例。海水と不均質な海洋リソスフェアスで散乱した結果、長い崩落線形状(コーダ) を持つ地震波形を示す
【文献】 Kennett, B.L.N, and T. Furumura, Toward the reconciliation of seismological and petrological perspectives on oceanic lithosphere heterogeneity, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 16, 9, 3125-3141, 2015.
Kennett, B.L.N., and T. Furumura, High-frequency Po/So guided waves in the oceanic lithosphere I-long-distance propagation, Geophys. J. Int., 195, 3, 1862-1877, 10.1093/gji/ggt344, 2013.
これを解く鍵が、海底地震観測のデータから見つかりました。東大地震研海半球観測研究センターが北太平洋上に設置した海底地震計で、日本海溝で起きた地震の揺れを見ると、海を伝わるP波とS波(これらの波はPo, So波と呼ばれています)は、強い地震波の散乱を示す紡錘形の長く延びた波形を示していることが確認できました。
すなわち、プレート内の地震波の散乱帯(不均質構造)は、プレートが沈み込んだ後から生まれたものではなく、沈み込むずっと前から存在していたのです。北太平洋の島々や海底地震計のデータを調べたところ、北太平洋全域にわたって、Po、So波の長い波群を持つPo、So波が良く伝わる特徴が見つかりました。 さらに、プレートが生まれる海嶺付近でも同様の地震波波形の特徴が見つかりました。 世界各地のPo、So波を比べると、年代が古く、プレート(リソスフェア)が厚い地域ほどPo、So波が良く伝わる強いことがわかりました。海嶺でマグマが上昇してプレートが生まれ、太平洋上を広がるプレートを成長する過程で、アセノスフェアの一部がプレート下部に張り付くようにして、不均質構造が成長したと考えられます。不均質構造は、プレートの動きに沿って横長に延び、プレートの厚み方向に薄い(ラミナ構造)ことがわかりました。不均質の強さは、プレートの下部(リソスフェア/アセノスフェアの境界付近)で強いこともわかってきました。
では、海洋プレートのラミナ構造はどのようにしてできたのでしょうか。溶けた岩石でしょうか?それとも岩石の亀裂?流体?、新たな疑問が出てきます。不均質性の強度や特徴的なサイズとその地域性から、プレートの生成過程と太古のプレート運動の様子がわかるかもしれません。

図: 北太平洋の海底地震計で記録された、海域を伝わるPo、So波の例。海水と不均質な海洋リソスフェアスで散乱した結果、長い崩落線形状(コーダ) を持つ地震波形を示す
【文献】 Kennett, B.L.N, and T. Furumura, Toward the reconciliation of seismological and petrological perspectives on oceanic lithosphere heterogeneity, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 16, 9, 3125-3141, 2015.
Kennett, B.L.N., and T. Furumura, High-frequency Po/So guided waves in the oceanic lithosphere I-long-distance propagation, Geophys. J. Int., 195, 3, 1862-1877, 10.1093/gji/ggt344, 2013.
□ Po/So伝播特性からわかった海洋プレート内不均質構造の方位分布
北西太平洋での海底地震計記録を詳しく調べたところ、観測点の北から北西方向(千島海溝〜アリューシャン海溝)の地震では、Po、So波の立ち上がりが鋭く、東〜東南方向(東北沖〜房総沖)の地震ではPo、So波の立ち上がりが鈍く紡錘状のコーダを伴う、Po/So伝播の方位性が確認できました。このことは、太平洋プレート内部の短波長不均質構造に方位性があり、高周波数地震波の散乱特性が方位分布を持つことを表しています。
Po、So伝播・散乱の方位性は、海底の地磁気の縞模様(すなわち、太平洋プレートの生成・運動方向)と対応しており、不均質構造は太平洋プレートの生成と・成長過程で形成されたものと考えられます。
観測されたPo,So波伝播の特徴を説明するために、海洋リソスフェアの不均質構造として、1)海嶺でのプレート生成時に形成された断層構造、2)プレートの移動過程におけるリソスフェア下部へのアセノスフェアの付着、の2つの影響を考えました。地磁気の縞模様の並びの方向に相関距離が長く(ax=20 km)、これに直交する方向(ay=1, 5 km)と深さ方向では短い(az=0.5 km)ものを用いた地震波伝播シミュレーションにより、Po, So波伝播の方位特性が再現されました。
図: 北西太平洋におけるPo/So伝播の方位性的特徴と、海洋リソスフェアの不均質構造分布。(a) 震源〜観測点(NM03)の経路と不均質構造の分布特性、(b) 観測されたPo/So波形(上下動速度波形)。
【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Azimuthal Variation of Lithospheric Heterogeneity in the Northwest Pacific Inferred From Po/So Propagation Characteristics and Anomalously Large Ground Motion of Deep In-Slab Earthquakes, J. Geophys. Res., 126, 5, https://doi.org/10.1029/2021JB021717, 2021.
観測されたPo,So波伝播の特徴を説明するために、海洋リソスフェアの不均質構造として、1)海嶺でのプレート生成時に形成された断層構造、2)プレートの移動過程におけるリソスフェア下部へのアセノスフェアの付着、の2つの影響を考えました。地磁気の縞模様の並びの方向に相関距離が長く(ax=20 km)、これに直交する方向(ay=1, 5 km)と深さ方向では短い(az=0.5 km)ものを用いた地震波伝播シミュレーションにより、Po, So波伝播の方位特性が再現されました。

図: 北西太平洋におけるPo/So伝播の方位性的特徴と、海洋リソスフェアの不均質構造分布。(a) 震源〜観測点(NM03)の経路と不均質構造の分布特性、(b) 観測されたPo/So波形(上下動速度波形)。
【文献】 Furumura, T. and BLN Kennett, Azimuthal Variation of Lithospheric Heterogeneity in the Northwest Pacific Inferred From Po/So Propagation Characteristics and Anomalously Large Ground Motion of Deep In-Slab Earthquakes, J. Geophys. Res., 126, 5, https://doi.org/10.1029/2021JB021717, 2021.
V. 大規模数値計算・科学可視化
□ 大規模並列地震動シミュレーションコード(OpenSWPC)の開発
不均質な地下構造を伝播する地震波を、差分法計算により評価する計算コード(OpenSWPC)を共同研究者の前田拓人氏(弘前大学准教授)と武村俊介氏(東京大学地震研究所助教)に協力して開発しました。JIVSM全国一次地下構造モデル)(Koketsu et al., 2012)を用いて、大規模な2次元、3次元差分法計算を、PCクラスタやスパコンを用いいた並列計算により進めることができます。本プログラムは、計算結果の可視化ツールとともに、オープンコードとしてGitHub(https://github.com/takuto-maeda/OpenSWPC/)より公開されています。
図: 1984年長野県西部地震の地震波伝播シミュレーション。地震発生から45秒後の波動伝播のスナップショット(地表面、地下断面)と、熊谷地点での地地震波形の計算結果。OpenSWPCを用いて計算 (地震学会ニュースレターより)。
【文献】 Maeda, T., S. Takemura, and T. Furumura, OpenSWPC: An open-source integrated parallel simulation code for modeling seismic wave propagation in 3D heterogeneous viscoelastic media, Earth Planets Space, 69, 102, doi:10.1186/s40623-017-0687-2, 2017.
古村孝志, (第17回)地震動シミュレーション、シリーズ「新・強震動地震学基礎講座」, 地震学会ニューズレター, 71, NL1, 16-19, 2018.

図: 1984年長野県西部地震の地震波伝播シミュレーション。地震発生から45秒後の波動伝播のスナップショット(地表面、地下断面)と、熊谷地点での地地震波形の計算結果。OpenSWPCを用いて計算 (地震学会ニュースレターより)。
【文献】 Maeda, T., S. Takemura, and T. Furumura, OpenSWPC: An open-source integrated parallel simulation code for modeling seismic wave propagation in 3D heterogeneous viscoelastic media, Earth Planets Space, 69, 102, doi:10.1186/s40623-017-0687-2, 2017.
古村孝志, (第17回)地震動シミュレーション、シリーズ「新・強震動地震学基礎講座」, 地震学会ニューズレター, 71, NL1, 16-19, 2018.
□ 地震動・津波の大規模並列計算と可視化
不均質な地下構造を伝わる地震波伝播の研究は、日本の高密度地震観測網と高速計算機の発展に大きく支えられてきました。
私が地震動シミュレーションを題材に学位論文をまとめたのは二十数年前のことでしたが、当時はコンピュータは遅く、とても満足のいく計算はできませんでした。「将来コンピュータ速くなれば・・・」と願ってたところ、本当にそうなりました。 スパコン「京」は、大学院時代の計算機の500万倍の演算性能を持ちます。数千〜数万個のCPUを用いた大規模並列計算のための道具、すなわち プログラム開発も、サイエンスの実現に向けた重要な研究テーマです。半導体技術とプログラミング技術の進歩により、コンピュータは着実に進化 してきましたが、マルチコアに基づくCPUの高性能化に対して、メモリの読み書き速度が追いつかない問題が顕在化しています。 高い計算性能を引き出すためには、地震波伝播の計算アルゴリズム自体の改良も必要です。計算アクセラレータ(GPGPU)を用いた地震・津波計算 コードの開発も、地震研のパワフルな若手・中堅研究者や所外の計算科学者と協力して進めています。
シミュレーションの精緻化が進むと、膨大な計算結果を一目で理解し、地震の物理をつかみ取るための「科学可視化手法」が に必要です。地震の揺れは見えない現象ですが、これを見える形にして、地震・津波の物理現象をよく理解するための 科学可視化にも力を入れています。
図: 2011年東北地方太平洋沖地震の地震動・地殻変動・津波の同時シミュレーション
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私が地震動シミュレーションを題材に学位論文をまとめたのは二十数年前のことでしたが、当時はコンピュータは遅く、とても満足のいく計算はできませんでした。「将来コンピュータ速くなれば・・・」と願ってたところ、本当にそうなりました。 スパコン「京」は、大学院時代の計算機の500万倍の演算性能を持ちます。数千〜数万個のCPUを用いた大規模並列計算のための道具、すなわち プログラム開発も、サイエンスの実現に向けた重要な研究テーマです。半導体技術とプログラミング技術の進歩により、コンピュータは着実に進化 してきましたが、マルチコアに基づくCPUの高性能化に対して、メモリの読み書き速度が追いつかない問題が顕在化しています。 高い計算性能を引き出すためには、地震波伝播の計算アルゴリズム自体の改良も必要です。計算アクセラレータ(GPGPU)を用いた地震・津波計算 コードの開発も、地震研のパワフルな若手・中堅研究者や所外の計算科学者と協力して進めています。
シミュレーションの精緻化が進むと、膨大な計算結果を一目で理解し、地震の物理をつかみ取るための「科学可視化手法」が に必要です。地震の揺れは見えない現象ですが、これを見える形にして、地震・津波の物理現象をよく理解するための 科学可視化にも力を入れています。

図: 2011年東北地方太平洋沖地震の地震動・地殻変動・津波の同時シミュレーション