Chapter 1. ScS反射法とは

ScSは地表と コア・マントル境界(CMB)の間を往復する波である。 特に SH波は地表やCMBでほぼ完全に反射され、減衰しにくいので、 大きい地震の場合には、マントルを何度も往復した波が観測されることがある。

下図は、深発地震震央距離が約11度の地点で観測したSH波形記録である。 上側が原波形、下の波形が30秒から200秒のバンドパスフィルタを ほどこして拡大した波形である。ScSnは約15分ごとに波形に現れるが、 特にこの記録にはScS5まで現れている。

1999年4月8日に中国・ロシア国境近くで起こった地震を、福江(FUK)で 観測した記録。この地震は非常に大きかった(マグニチュード7クラス) 上、いくつかの好条件が重なり、明瞭なScS5が観測されている。 時間軸はScSの到達時刻に合わせてある(地震発生はこの約800秒前)。 ScS5は実に1時間15分もマントルを走り続けた波なのである。

例は非常に大きい地震の波形記録であるが、比較的大きい地震であればScS2くらい までは観測できるので、従来からScSnの記録は、全マントル平均の Q値(いわゆるQScS)や速度を 求めるのに用いられてきた。
しかし、波形に現れている情報はそれだけではない。

sScSからScS2までの間、またsScS2からScS3までの間を 拡大して並べてみると、規則的に波が現れているのがわかる。 これらは 410kmや660kmのマントル不連続面からの反射波である。

ScSがさらに660km不連続面の上側で反射してから地表に到達した場合の 波線。

右図は最初の波形を部分的に拡大したもの。図中の記号に数字が見られる が、この数字は反射面の深さを示している。

マントル不連続面からの反射波を用いると、不連続面の深さや反射係数、また 上部マントルのQ値など、マントルの層構造としての情報を得ることができる。 これを用いた研究に Revenaugh and Jordan (1989, 1991) がある。

ところで現在日本には J−arrayという地震計のネットワークが 展開されつつあり、 広帯域地震計の観測点だけでも数十点を数える。 これに防災科学技術研究所のFREESIAという広帯域地震ネットワークの 観測点を加えると70点を越え、日本列島を網羅した一大観測点網になる。

日本付近はプレートの沈み込み帯である。沈み込み帯のマントルの構造は 複雑であるが、またこの領域は地球ダイナミクスを探るのに非常に大きな 鍵を握っている。J−arrayとFREESIAのデータを用いることで、 日本付近のマントル構造を詳細に調べることができる。 特に、日本近傍で起こった地震をこの二つのネットワークで観測したScSの 波形を用いることで、マントルの層構造をより精度良く求めることができる。