3.10.5 電離層起源電磁場変動を用いたマントル遷移層電気伝導度構造解析

マントル遷移層は豊富な含水可能性が示唆されており,マントルダイナミクスに大きな影響を与えていると考えられる.本研究では電磁探査法を利用して,含水率に感度の高い電気伝導度の標準的なマントル遷移層構造を推定した.外部電磁場ソースを平面波で近似できる一般的な広帯域MT法の周波数帯域と違い,マントル遷移層の深度の解析には数時間〜1日周期の電磁場変動が必要であり,その周波数帯域が卓越する電離層起源のSq場は,短波長分を含むため,平面波ソース近似が不適であることが知られている.また,100点余の全世界の定常陸上磁場観測点データを使ってもSq場分布推定には不足であるため,本研究では磁場データを用いてソース分布を準備する代わりに,大気圏ー電離圏結合モデルGAIAによる高空間解像の電流変動モデルを電磁場ソースとして用いた.3次元電磁誘導計算には,Sqソース入力に対応するよう,積分方程式法であるCIE法によるコードを開発した.世界中の71点の磁場データを最小二乗的に説明する1次元電気伝導度構造を推定したところ,マントル遷移層上部 0.05 S/m〜下部 0.2 S/m であることがわかった.高圧実験によるマントル遷移層物質の電気伝導度測定結果と比較すると,マントル遷移層上部はドライな状態に相当することがわかった.沈み込み帯直下ではプレートによって水が遷移層まで運搬されると考えられているが,マントル全体としては平均的にはドライな状態であり,地域性が大きいことが示唆される.