3.5.4 比抵抗構造探査

 電気比抵抗は,温度,水・メルトなど間隙高電気伝導度物質の存在とそのつながり方,化学組成に敏感な物理量である.これらの岩石の物理的性質は,すべて,その変形・流動特性を規定する重要なファクターであり,比抵抗構造と地震学的諸情報をあわせることで,より詳細かつ正確な情報を抽出し得る.従って,当センターは内外の研究者と協力して,震源域や火山地域スケールおよび列島スケールや周辺大陸縁辺域の比抵抗構造を解明するプロジェクトにおいて,観測法やインヴァージョン手法の開発を含め,中心的な役割を担ってきた.

 2020年には,前年度に引き続き,2004年から2008年にかけて実施していた中部地方背弧の跡津川断層系を切る測線でのネットワークMT,広帯域MT観測データの同時解析を継続した.その結果,富山湾の複雑な海底地形を3次元的に考慮しても,跡津川断層,牛首断層,高山・大原断層帯の下の下部地殻に局在する低比抵抗域(断層下の塑性せん断帯に対応すると考えられる)及びフィリピン海スラブ周辺のマントルウェッジに存在する低比抵抗域(スラブからの脱水流体が寄与していると考えられる)がイメージングされることを確認できた.2011年東北地方太平洋沖地震に関連して,本震発生時にとらえられた磁場シグナルの性質を調べた(観測開発基盤センター,静岡県立大学・神戸大学との共同研究)ほか,2012年から2018年にかけて観測を実施したいわき-北茨城誘発地震域やいわき地方から新潟平野に至る測線での広帯域MT観測データの解析を継続した(東京工業大学・東北大学・秋田大学・産総研との共同研究).特にいわき-北茨城誘発地震域では,地震波の解析から誘発地震多発域の直下15㎞から20㎞に反射面が存在することが明らかにされたが,その深さに顕著な低比抵抗域が検出され,誘発地震の発生に地殻内流体が関与していた可能性が指摘された.また,比抵抗構造は深さが浅くなるにつれて構造が変化し,地震の多発域では高低比抵抗帯からなる筋状の構造が見られるようになり,誘発地震活動はその筋状の高比抵抗域に沿って発生していることが示された(3.5.1参照).一方,2011年から2012年にかけて三宅島で実施した広帯域MTならびに自然電位データの解析を進め,マグマ供給系に関連した構造解明を図る一方(火山噴火予知研究センターとの共同研究),2018年に実施した北海道胆振東部地震震源域における広帯域MT観測データの解析を進めた(北海道大学・名古屋大学との共同研究).また,大陸縁辺域スケールの大規模深部構造を求めることを目標として,中国全域にわたる3成分磁力計網のデータのコンパイルと解析を継続した(海半球観測研究センター,北京大学・中国地震局との共同研究).

 2020年に新たに実施した観測として,三宅島における自然電位観測があげられる(2020年10月に実施,火山噴火予知研究センター,気象庁との共同研究).また,阿蘇カルデラを含む九州地方中央部の深部広域構造を決定するためのネットワークMT観測を継続した(産総研・京都大学との共同研究).一方,豊後水道スロースリップ域やその北側に東西に分布する深部低周波微動域を含んだ広い領域での深部比抵抗構造を決定する目的と,スローイヴェント時の電磁気的シグナルの有無を検証するため,四国西部と九州東部においてネットワークMT法連続観測ならびにそのデータ解析を継続した(3.5.7参照).また,ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯においても同様の観測を実現すべく,準備と試験的観測を開始した(GNS Scienceとの共同研究,3.5.6参照).

 さらに,広帯域MT観測データとネットワークMT観測データを同時解析するため3次元インヴァージョン手法を世界に先駆けて新規開発した.深部構造に対する感度が高いネットワークMT観測データと(ネットワークMT観測データと比較して)浅部構造に対する分解能が高い広帯域MT観測データを同時解析することで,上部地殻から上部マントルに至る地下の3次元比抵抗構造を精度良く推定可能になると期待できる.シンセティックデータを使用したインヴァージョンで手法の有効性を確認するとともに,上述の跡津川断層系を横切る測線の観測データに適用することで開発した手法が実用的に使用できることを確認した.