2.1.1 地震発生現象の研究

(1)地震発生場の研究

(1-1)不均質構造がアスペリティを生成する可能性について

最近20年以上にわたり,地震の詳細な震源過程がインバージョン解析により推定され続けている.一方,震源域の詳細な3次元地震波速度構造についても推定されつつある.両者を比較した結果,地震のアスペリティ部が高地震波速度域に対応することがいくつかの地震について明らかになっている.これらのことを力学的に説明するために,地震研究所により推定された2004年中越地震の詳細な断層破壊過程と同震源域の詳細な3次元地震波速度構造の関係を力学的に研究した.その結果,震源域の3次元構造に造構応力を加えると,中越地震の震源,特にアスペリティ部分において高応力降下量が期待されることがわかった.

(1-2)不均質媒質中の断層運動が作る応力場

断層運動により作られる応力場の媒質不均質による影響について研究した.クーロン応力変化は地震のトリガーの研究に用いられる強力なツールであるが,応力計算の際には,地球を半無限一様構造媒質と仮定している.これは明らかな間違いであるが,どの程度影響を及ぼすのかを2次元モデルにより物理的に理解することを含めて研究し,3次元モデルを用いて,2004年中越地震に適用し3つの大余震の発生を説明することができた.

(2)短周期地震波の成因の研究

地震波に含まれる短周期成分の物理的成因として(1)断層端やアスペリティ端で生じるストッピングフェーズ,(2)断層パラメータの揺らぎ,が提案されている.簡単な線震源モデルと簡単な数学を用いて,後者の震源パラメータの揺らぎがどの程度,短周期地震波を生成させうるのかを2008年以来研究している.新たに摩擦パラメータの1つである臨界滑り量分布の揺らぎについて研究を行った.

(3) 摩擦法則の理論的・実験的研究

断層への応力蓄積過程から動的破壊過程に至るまで,断層のすべり速度は9桁以上にわたって変化する.地震発生過程の物理的理解のためには,このような幅広い速度範囲における断層の摩擦特性を解明しなくてはならない.我々は圧力・すべり速度・温度を精度よくコントロールできる回転式摩擦実験装置を用いて,岩石の摩擦特性を幅広い速度範囲で測定した.実験結果の解析から,摩擦特性がすべり速度に応じて定性的に異なる3つのステージに分類されることを発見し,複数ステージ間の移り変わりが微視的物理過程のクロスオーバーに起因することを明らかにした.他方,このように実験室スケールで得られた法則が,そのまま断層スケールまで外挿できる保証はどこにもない.そのためには,法則が依拠する微視的物理過程に基づいて巨視的構成法則を理論的に導出し,時間・空間スケール変換に対する依存性を解明しなくてはならない.ここでは準静的すべりで成立する経験則である「速度・状態依存摩擦法則」について,真接触部位のクリープ変形過程に基づいた理論的導出を行った.その結果として,1) 摩擦係数のすべり速度依存性を決める二つの定数と原子論的定数の関係が明らかになった.2)微視的アスペリティの分布特性から巨視的な臨界すべり量を求められるようになった.3)状態変数の時間発展法則の系統的導出が可能になった.

(4)流体圧変化および熱発生を考慮に入れた地震破壊の数理的研究

流体拡散,摩擦発熱および滑りに伴う非弾性空隙を考慮に入れて,熱多孔質媒質中の破壊過程について,数理的・数値的研究を行ってきた.数理的研究においては,1次元系を仮定し,系の振る舞いを支配する無次元量の違いにより,振る舞いに大きな多様性が出現することを示した.また,数値的研究においては,2次元系を仮定し,ゆっくり滑りと同期した微動は,流体拡散が一度停止した滑りを再活性するために起こりうることを示した(図1).

(5)媒質界面と断層挙動の相互作用についての数理的・数値的研究

複素関数の諸性質を考慮に入れることにより,2層媒質中の任意形状の静的モードII型断層の新解析手法を開発した.これは,従前の他研究者のものよりもはるかに単純な形式を持つ.我々はまた,層状媒質中での形状自由な断層の動的挙動の解析を可能にする新たな数値計算法の開発に取り組んだ.定式化には,任意形状の亀裂の解析に適した境界積分方程式法 (Boundary Integral Equation Method: BIEM) を基に,これを不均質媒質に拡張した (eXtended BIEM=XBIEM).

(6)室内岩石摩擦実験に基づく地震発生の数値的研究

室内岩石摩擦実験から新たに得られた摩擦強度の正確な修正発展則によって,従来得られた地震発生シミュレーションの結果がどのように変化するかを検討した.地震サイクルモデルでは,プレスリップよりずっと早く断層固着の低下が始まり,その規模も非常に大きくなる.地震トリガリングモデルでは,ステップ的な載荷応力の増加に対して,限定された条件下において,従来とは全く正反対にトリガー時刻が遅くなる興味深い結果が得られた(図2).震源核形成モデルでは従来の代表的な2種類の予測(亀裂的・パルス的)の中間的な振る舞いを示した.