2.1.3 地球規模現象の研究

(1) プレート境界生成過程の研究

地球上でプレートテクトニクスが働き始めるためには沈み込みが開始する必要がある.上昇するプリューム中に生じたマグマから放出された$\rm {H_{2}.O-CO_{2}}$によって変成をうけたリソスフェアが潜り込もうとする時,これらの揮発性成分を放出し,スラスト帯が潤滑化されて沈み込みが始まったというメカニズムを提案した.一旦沈み込みが始まると蛇紋岩化した前弧ウエッジが形成され,衝突帯や大陸縁に埋め込まれたものが暖められて脱水することによって様々なプレート境界が生成したと考える.

(2) M9地震発生の基準の研究

断層面上のすべり分布がよく求められた$\rm {M_{w}}$ 7の地震に対して応力降下を求めた.地震はclass 1: $\rm {M_ w}$ 9地震, class 2: $\rm {M_ w}$ 9が起こった沈み込み帯の$\rm {M_ w}$ < 9地震, class 3: $\rm {M_ w}$> 9が起こっていない帯での地震に分類した.応力降下の平均値はclass 1,2, 3に対して4.6, 3.4,1.6 MPaとなった.各沈み込み帯それぞれにおいてもclass 2の応力降下の平均値はclass 3のそれの数倍ある(ただし北海道は例外).これをもとに応力降下の平均値が3 MPaより大きい場合,その沈み込み帯は$\rm {M_{w}\ge 9}$を生じうる,応力降下の平均値が2 MPaより小さい場合は生じない,という仮説を提案した.

(3)マントルウエッジ内の小規模対流の研究

数値モデルを用いて温度のみでなく組成による浮力も考慮した小規模対流の性質の理解および,小規模対流の流れによって期待される地震波速度異方性の推定を行った.その結果,組成の効果を考慮すると小規模対流が抑えられる場合もあるが,温度のみを考慮した場合と同様なパターンが形成される事(図4),小規模対流の存在を知るには,従来の2次元地震波速度異方性の研究のみでは十分でなく3次元の地震波異方性の研究が不可欠である事等を明らかにした.

(4)日本列島周辺の現在・過去のマントルの流れの研究

日本周辺の広域なマントルの流れ場を知るために,三次元流れのモデルを用いた北海道と千島付のジャンクション付近の流れの推定を行い,地震波速度異方性およびスラブの形状との比較を行った.その結果,浅い部分ではP波速度の早い軸が海溝に垂直になる事,スラブの遷移層の形状が定性的には説明出来る事等を明らかにした[[]].また,地震波トモグラフィーの結果を用いて現在の温度場を推定し,過去のマントルの流れ場を復元した.この結果より,日本海の高温部分はスラブを突き抜けて生じたと言う仮説を提唱した(図5).