2.4.2 鉄筋コンクリート構造物の実験と耐震性能評価

(1) 既存RC学校校舎直接基礎の水平載荷実験

2010年4月に小千谷小学校旧校舎の基礎レベルでの衝突実験および静的載荷実験を実施した.昭和30年代に建設された鉄筋コンクリ-ト造3階建で,基礎はGL -1.75 m程度を支持層とする直接基礎である.2004年の新潟中越沖地震では小千谷K-NETなどで大加速度応答をもたらす地震動が記録されたが,この旧校舎は旧基準の設計にもかかわらず,小破程度の被害に留まった.実験では校舎の一部を基礎から最上階まで切り離し,既存校舎残存部を油圧ジャッキの水平反力または鋼製錘懸垂の支点にして,静的または衝突による載荷試験を行い(図3),実在建物での直接基礎の静的水平力あるいは衝撃力に対する抵抗性状を明らかにした.

(2) 基礎底面の滑動による地震入力逸散機構に関する研究

2011-12年には,過大な地震動に対して生じうる建物基礎底面での滑動による入力逸散効果の評価手法を確立してその効果を耐震設計に利用することを目的にして,実験的研究および解析的研究を行った.2011年4月には静的すべり試験,2011年11月には動的すべり試験により,コンクリートとコンクリート,コンクリートと薄い鋼板におけるすべり性状を明らかにした.2012年7月および11月にはさらに摩擦係数を低減しうる接合部詳細を開発して静的実験および動的実験により検証し,また,上部構造と基礎すべり系の地震応答解析を行い,基礎すべりの復元力特性形状や速度依存性などが上部構造の応答に与える影響を検討した.

(3) 鉄筋コンクリ-ト造超高層建物の立体架構実験

2011年1月~2月に超高層建物の立体架構試験体の静的加力実験2体を実施した.柱端・梁端にピンまたはピンローラー支承により中間階を模擬して梁軸のびを許容した試験体と加力方法が従来にない特徴であり,中間階を想定した架構復元力特性,とくに終局耐力に対するスラブ筋の効果が十分に小さい層間変形角レベルでも全幅有効となりうることを実験的に実証した.さらに,試験体のFEM解析を行い,実験におけるスラブ有効幅のメカニズムを解析的にも明らかにした.2012年6月には2体目の加力後の試験体に対してエポキシによるひびわれ補修を実施して再度載荷実験を行い,初期剛性は70%程度,降伏耐力,終局耐力および靭性はほぼ100%回復しうることを確認した.

(4) RC・PC 実大震動実験試験体の耐震壁部材実験

2010年12月に防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センター(E-Defense)で実大4層RC・PC 建物(2棟) の震動実験が実施された.地震研究所では2011年6月から7月に実大試験体の一部である耐震壁部材(模型) 試験体4体の静的加力試験を実施した.耐震壁は同じ設計による試験体を1方向加力,2方向加力で実施し,RC・PCの曲げ降伏型復元力特性の違いを明らかにするとともに,面外方向の変形が面内方向の復元力特性に与える影響を検討した.部材実験ではエネルギー吸収のための普通強度主筋が破断して靭性限界が決まりうる現象を明らかにした.部材実験の結果にもとづいて,RC,PC耐震壁の復元力特性をモデル化し,実大震動実験の解析も実施している.

(5) 鉄筋コンクリ-ト造耐震壁の2方向加力実験

2011年9月に曲げ降伏型鉄筋コンクリート造耐震壁試験体の2方向水平加力実験を実施した.実験により,変形の小さい範囲では面外方向の変形は基本的に面内方向の復元力特性には大きな影響は与えないことが確認されたが,終局変形は面外変形により明らかに小さくなり,柱幅が小さい試験体では,面外の過大な変形により柱の全体曲げ座屈のモードに移行して,軸力に対する安定性が失われた.これは従来の実験では確認されたことがない有意義な実験結果である.2012年7月-8月には柱型がない曲げ降伏型耐震壁4体の2方向載荷実験を行い,面外方向の加力が面内方向の靭性に与える影響を実験的に明らかにした.

(6) 東日本大震災における学校建築の被害調査と余震観測

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による学校建築の被害調査および余震観測を直後から8月末頃まで実施した.調査対象は,岩手県,宮城県,福島県,茨城県,栃木県,埼玉県,千葉県などの設置者所有者から調査判定の依頼があったRC建物約800棟で,被害統計の整理,被害の分類や原因の分析,余震観測結果の解析などを実施した.余震観測では4月最大余震で地形効果による入力増幅の違いを大加速度域で明らかにした観測結果が得られた.2012年には被害率や天井落下に関する追加調査を実施した.

(7) 袖壁付き柱を有する鉄筋コンクリ-ト建物の耐震性能評価法に関する研究

2007年度より2011年3月まで複数年計画で袖壁付き柱を有する鉄筋コンクリート建物を対象にして,1) 袖壁付き柱部材の強度と靭性,残存軸耐力,損傷と変形の関係を実験的に明らかにすること,2) 袖壁付き柱の復元力特性,とくに最耐力以降の耐力低下を評価しうる解析モデルの有効性を検証すること,3) 袖壁付き柱の強度と靭性,残存軸耐力,損傷の実用的な評価法を提案すること,4) 袖壁付き柱を含む構造物の耐震性能評価手法,耐震診断法の妥当性を解析的に確認すること,を目的にして実験的研究(図4)および解析的研究を行った.実験結果および曲げ理論およびASFIモデルによる解析結果にもとづいて,強度および靭性の実用評価法を提案した.

(8) 構造物の崩壊荷重に基づく津波荷重の評価法に関する研究

本研究では津波によって崩壊する建築構造物に作用する津波荷重の評価法の精度を水理破壊実験より検証した.東日本大震災では鉄筋コンクリート造建築物が津波により倒壊や転倒する構造被害が確認されたが,津波荷重は地震力とは分布や継続時間が異なり,浮力も作用するため,被害結果のみから崩壊過程を推察することは困難である.一方,従来の水理実験では荷重計による計測が一般的であり,津波によって建築構造物が崩壊する場合の津波荷重は検証されていない.そこで,本研究では鉄筋コンクリート造模型試験体を用いて水理破壊実験および静的載荷実験を実施して,波圧の測定とともに静的な崩壊荷重にもとづいて構造物の崩壊に影響する津波荷重の分布および継続時間等を検証した.