2.4.3 強震動予測の高度化のための地下構造モデル・地震動シミュレーション

(1) 長周期地震動の研究

長周期地震動(周期2秒程度から10秒以上)は,超高層ビルや巨大石油タンクなどの大規模な構造物の急激な増加によりその重要性を増している.被害を及ぼすような長周期地震動はプレート境界大地震から発せられるものが典型であり,これらの地震は震源近傍だけでなく,震源効果・伝播経路効果・サイト増幅効果の組み合わせにより遠方の堆積平野等にも強い長周期地震動をもたらすことを明らかにした.長周期地震動は過去の地震災害,たとえば1985 年ミチョアカン地震($\rm {M_ w 8.0}$)から400 km離れたメキシコシティーでの災害,あるいは2003年十勝沖地震($\rm {M_ w 8.3}$)から250 km離れた北海道苫小牧市での災害などの主な要因となっていることがわかった.

(2) 長周期地震動予測地図と全国1次地下構造モデル

上記の震源効果・伝播経路効果・サイト増幅効果を精度良く評価する手法として数値シミュレーションを採用したが,この手法では堆積平野や伝播経路を含む三次元速度構造モデルとプレート境界地震の適切な震源モデルが決定的に重要である.そこで,モデル化の標準的な手続きを定めた上でモデル構築を行い,それらモデルを用いて想定東海地震,東南海地震,宮城県沖地震や,南海地震(昭和型)に対する長周期地震動シミュレーションを行った.その結果をハザード地図として表現するため,最大地動速度や地動継続時間,及びいろいろな周期の速度応答スペクトルの分布図を作成した.これら分布図は地震本部の地震調査委員会から「長周期地震動予測地図」試作版(図5)として公表され,構築した「全国1次地下構造モデル」暫定版も同時に公開されている.

(3) 各地の強震動予測プロジェクト

JST/JICAの地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)によるインドプロジェクトにおいて,インド・ヒンドスタン平野の強震動予測研究を進めている.同じくインドネシアプロジェクトでは,インドネシア・バンドン盆地における強震動予測研究を担当した.また,文部科学省の首都直下地震防災・減災特別プロジェクトにおいても首都直下地震の強震動予測研究を担当し,同じくひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトでは江戸時代後期に発生した三条地震の強震動評価を行った.

(4) 大規模3次元地震波動伝播シミュレーション技法の開発

京コンピュータ等の高性能スパコンを用いた,大規模・高精度の地震波動伝播シミュレーションの実用化に向けて,運動方程式の差分法計算に基づく並列シミュレーションコードを開発し,京コンピュータの最大ノード数(82,944CPU)を用いた超並列計算において,2.0PFLOPSの高い実効性能を得た(図6).これにより,従来の地球シミュレータを用いた地震動計算(39 TFLOPS)の約50倍の演算性能が実現し,地震動シミュレーションの分解能(格子間隔,周波数)を2.5倍高めた計算が実用化した.本シミュレーションコードを用いて,2011年東北地方太平洋沖地震の強震動の再現計算や,南海トラフ巨大地震の揺れの予測計算を開始した.