2.5.6 文部科学省委託事業による陸域地震調査観測研究

(1) 首都直下地震防災・減災特別プロジェクト:サブプロジェクト①首都圏周辺でのプレート構造調査,震源断層モデル等の構築等

平成19年(2007年)度から平成23年(2011年)度まで,文部科学省受託研究として,「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト:サブプロジェクト①首都圏周辺でのプレート構造調査,震源断層モデル等の構築等」を実施した.首都圏地震観測網(Metropolitan Seismic Observation network: MeSO-net)を構築して自然地震を観測した(図23).このデータと既存観測点のデータからプレート構造を推定し,制御震源等を用いた地殻構造探査の結果と合わせて首都圏で発生する大地震の震源域の地震学的構造を明らかにした(図24).さらに,歴史地震等の記録の収集・整理・再評価を行い,首都圏で発生する大地震の発生時系列を明らかにし,首都圏で発生する地震の震源断層モデル・地下構造等のモデルを高度化して,南関東で発生するM7程度の地震をはじめとする首都直下地震の姿を明らかにした.この成果は,平成24年度東京都地震被害想定,平成25年度内閣府首都直下地震被害想定に役立てられた.

(2) 都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト:サブプロジェクト①首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究

首都圏に震災をもたらす大地震に関して,東北地方太平洋沖地震以降の新たな地震像を解明するとともに,大規模シミュレーション数値解析法を開発し,都市の詳細な地震被害評価技術を開発して災害軽減策の検討に供するための研究を進めている.このために,「(1)南関東の地震像の解明の研究」と「(2)観測に基づく都市の地震被害評価技術の開発」の研究を実施する.(2)については,巨大地震津波災害予測研究センターが実施している.文部科学省受託研究として,2012年度から2016年度まで実施する.(1)の南関東の地震像の解明については,「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(2007-2011)」で設置したMeSO-netの観測データを利用して,首都圏のプレート構造の解明を進め,南関東下のQ構造を解明した(図25).更に,プレートの詳細な構造と2011年3月11日以降活発化した地震活動の関係を明らかにし,将来発生が予想される首都直下地震の地震像(地震規模,地震発生頻度,発生場所)を検討している.

(3) ひずみ集中帯の重点的観測・研究

東北日本の日本海側の地域及び日本海東縁部に存在するひずみ集中帯で発生する地震の規模の予測,発生時期の長期評価,強震動評価の高度化に資することを目的とする文部科学省受託研究「ひずみ集中帯の重点的調査研究・観測」プロジェクトが2008年度から2012年に実施された.海域観測における自然地震観測,電磁気学的手法によるひずみ集中帯発生機構解明,反射法・屈折による地殻構造調査,強震動評価によるモデル検証,古地震・津波等の史資料の収集と解析が行われた.新潟地域では5測線で地殻構造探査が行われ(図26),このデータと既存の8測線の反射探査データ,ボーリングデータ,震源分布,地震波トモグラフィー解析等と総合して,震源断層モデルを構築した(図27).

(4)日本海地震・津波調査プロジェクト

日本海沿岸地域においても,津波・地震の防災対策の基礎として,津波波高・強震動予測が需要な課題となっている.日本海側ではプレート境界をなす巨大な断層は存在せず,多数の波源・震源断層が分布する.2013年度から開始された8ヶ年のプロジェクトでは,制御震源による構造探査によって,断層の形状を明らかにし,地震観測,古地震・古津波記録,岩石物性を含めて検討し,震源断層モデルを構築する(図28).さらに数値計算によって津波波高・強震動を推定し,防災対策に貢献する.成果は,地域ごとの研究会を組織し,理学情報の活用を図る.2013年には新潟・北陸沖の断層モデルを構築し,8箇所で行政・研究者・ライフライン事業者も交えた地域研究会を実施した.

(5) 神縄・国府津−松田断層帯における重点的調査観測

2009-2011年度に,神縄・国府津−松田断層帯において総合的な調査観測を実施した.この地域は伊豆衝突帯近くに位置し,更にフィリピン海プレート沈み混みによって,複雑な地質環境にある.地震研究所は,このプロジェクトの責任実施機関である.本センターは,観測開発基盤センター・災害科学系研究部門と共同で,断層帯の三次元的形状及び断層帯周辺の地殻構造解明のための制御震源地震探査を実施して,相模湾下では沈み込むプレートとともにこの断層のsplay fault形状を,断層系西部では伏在断層を明らかにした(図29).更に,変動地形学的アプローチからこの断層帯の過去5,000年間の活動様式・活動性に対する新たな知見を得た.これらの成果から神縄・国府津−松田断層帯の震源断層の三次元形状モデル作成に資する情報を得た.これらの知見を元に,震源モデルおよび地下構造モデルを構築し,強震動評価を行って災害軽減に資する成果を提供した.

(6) 立川断層帯の重点的な調査研究

首都圏に分布する立川断層帯の形状・過去の活動・地震波速度構造等を解明する目的で,反射法地震探査,地震観測,トレンチ調査などを実施した.浅層三次元反射法地震探査では,上総層群が参加する西向きの撓曲構造が伏在すること,撓曲構造の翼部は複数条の高角な断層面によって切断されることがわかった.トレンチ調査では,断層帯北部で完新世〜後期更新世の地層を切断する断層露頭を見出し,複数回の活動履歴を捉えることが出来た.一方,断層帯中部で行った巨大トレンチ調査では,明瞭は断層構造や地層の変形構造は見出されなかった.