3.6 火山噴火予知研究センター

教授 武尾 実,中田節也,森田裕一(兼)
准教授 市原美恵,大湊隆雄(センター長),上嶋 誠(兼),前野 深
助教 青木陽介(兼),及川 純,金子隆之,小山崇夫
客員准教授 小澤 拓,宮縁育夫,安井真也
外来研究員 嶋野岳人,鈴木由希,常松佳恵,長岡 優,野口里奈,吉本充宏
大学院生

蘭幸太郎(D3),菅野 洋(D2),大橋正俊(D1),山河和也(M2),Yuki Natsume (M2),甲斐 健(M2),池永有弥(M2)

 

 火山センターでは,火山やその深部で進行する現象の素過程や基本原理を解き明かし,火山噴火予知の基礎を築くことを目指し,火山や噴火に関連した諸現象の研究を行っている.その基本的な研究方針は,2009年サイエンスプランで掲げられた「火山活動の統合的解明と噴火予測」と2013年11月に出された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究の推進について(建議)」に基づいている.本センターでは 2004年度に作成した「火山観測の将来構想」に基づき観測体制の整備を実施しそれによる観測研究を続けた.すなわち, a)観測網を強化し研究成果を上げるべき火山として,浅間山,伊豆大島, b)研究成果が短期的には大きく望めないが,将来のために観測を継続・改良すべき火山として,三宅島,富士山,霧島山. c)他機関が既に観測網を整備している等の理由で基本的には撤退する火山として草津白根火山を挙げ,この方針について全国の火山噴火予知研究コミュニティーで了解を得て,順次整備を進めてきた.

 2010年度以降は,観測所等の施設は観測開発基盤センターに移管されたが,同センターの火山担当教員との協力・共同の元に研究方針に沿った整備を進めている.2011年1月26日に開始した霧島連山・新燃岳における約300年ぶりの本格的な準プリニー式噴火を契機に,霧島山における地震観測の広帯域化と空振観測の整備を進めた.霧島では,硫黄山の噴気活動の活発化や新燃岳の2017年10月噴火など,活動の活発化が続き,本稿執筆時点の3月には2011年の噴火時に匹敵する溶岩流出が起きている.また,伊豆・小笠原弧の西之島においては2013年11月に1973〜74年以来の噴火活動が再開したため,2016年6月には無人ヘリによる調査を実施した.活動が一時的に低下した2016年10月には2013年の噴火開始後初めての上陸調査による噴出物試料の採取と旧島への地震・空振観測点を設置を行った.西之島は2017年4月には再活発化し西方と南方へとさらに拡大した.

 この間の火山噴火予知研究センターの主な成果をここに簡潔に纏める.広域の地殻構造解析と火山周辺の地震活動・地殻変動解析から,浅間山と伊豆大島において,上部地殻から火口に至るマグマ供給系の概要を明らかにした.富士山では,地質学・岩石学的データに基づいて長期的発達史についての重要な知見が得られた.さらに,遠地地震のレシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造を明らかにし,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性を示した.火口近傍の多項目観測データの解析を通じて,浅間山,霧島山新燃岳におけるブルカノ式噴火時の火道内部現象の理解が進んだ.ミュオグラフィによる密度観測と地震・地殻変動の解析結果を統合して,浅間山の火道浅部の位置を明らかにした.霧島山新燃岳の噴火では,噴火の推移とともにマグマの物理化学的性質がどのように変化したかを準リアルタイムで特定し,他の地球物理学的観測結果と比較する事により噴火モデルパラメータに制約条件を与え,当該火山噴火の総合的描像を得る上でも重要な役割を果した.小笠原諸島の西之島で2013年11月から始まった噴火は,周辺の浅海を溶岩で埋め立て新しい火山島を作り出し,約2年の活動を経て一旦終息したが,2017年4月からは再度活発化し溶岩流出による拡大が進んだ.この間,航空機や人工衛星による画像解析,父島に設置した空振アレイ,西之島周辺の海域に設置された海底地震計の観測により,西之島の成長の様子が把握されてきた.2016年以降の火山活動の低下を受け,我々は10月16日から25日にかけて西之島の火山活動の調査を実施し,2017年6月に回収された海底地震計,海底電位磁力計の解析結果とあわせて,地質学と地球物理学の両面から火山島成長のプロセスを検討しつつある.

 以下に,火山毎に主な研究を紹介する.