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3.10 Coordination Center for Prediction Research of Earthquakes and Volcanic Eruptions

3.10.5 超高精度な時計比較技術の標高差変動計測への応用

 遠隔地間の超高精度な時計比較技術が,標高差とその時間変化において1cm精度を有する新たな測地計測への応用として期待されている.異なる高さにある時計が設置位置での重力ポテンシャルの差によって異なる時を刻むという,アインシュタインの相対性理論に基づく効果を応用するものである.

 2点間の重力ポテンシャルには,標高差による静的な差と,地球物理的諸現象,特に,地球潮汐(ET)と海洋潮汐荷重(OTL)に伴う摂動による動的な差が生じる.標高差決定の全国規模での応用を見据え,最新のETとOTLのモデルと地球の構造(ラブ数)モデルを用いて重力ポテンシャル差の摂動を見積もった.理化学研究所(埼玉県和光市)を起点とすると,茨城県つくば市(距離約50km)でETとOTLの混合が4mm,富士山(約90km)でOTLが4mm,異なる海域に面する新潟県柏崎市(約200km)でOTLが1cm,鹿児島県阿久根市(約970km)ではOTLが4cm,の片振幅(相当する標高差)で摂動を持つ.つまり,時計比較の1cm精度での測地学的応用では,50kmの隔たりでもET・OTLの摂動補正が必要であり,柏崎との間ではOTLの摂動効果を検出可能ということになる.

 光格子時計の比較では1mmレベルの実現可能性も示唆されている.最新のET,OTLモデルを用いても,GPS連続観測網ではETに伴う上下変動が主要分潮で2mm超,超伝導重力計の連続観測ではマントル非弾性を取り入れたものでも0.05%,の観測との誤差が認められている.これらの観測に1mmレベルでの時計比較の連続観測を加えると,地球内部の構造・特性の理解進展につながる可能性も考えられる.

3.10.4 有珠山における噴火後の地殻変動

 有珠山は最近では1910年・1943年・1977年・2000年に噴火し,数10mをこえる地殻変動が記録された.有珠山において火山活動時の地殻変動が大きいのはマグマの粘性が高いからであるが,火山活動時に貫入したマグマの物性については必ずしもよく理解されていない.そこで,我々は1992年から2017年までの合成開口レーダーデータの干渉解析により,有珠山溶岩ドームの地殻変動の時空間変化を抽出することを試みた.その結果,1943年・1977年・2000年噴火にともなう溶岩ドームでは明瞭な沈降が観測されたが,1910年噴火に伴う溶岩ドームでは明瞭な地表変動が観測されなかった.マグマ貫入体積が小さかった2000年噴火にともなう溶岩ドームにおける沈降は短い時定数で減衰したが,貫入体積の大きかった1943年・1977年噴火にともなう溶岩ドームの沈降はほとんど減衰が見られなかった.観測された沈降の時空間変化は貫入したマグマの熱収縮によりよく説明できる.観測を最もよく説明する熱拡散係数は実験室で求められる岩石の熱拡散係数よりも約1桁大きい.これは,1) 有珠山の地下には地下水が豊富にあることから,地下水の流動が熱を効果的に拡散させている,2) マグマが固化する際の相転移により体積が減少している,のどちらかもしくは両方によるものと考えられるが,定量的な考察を行うには今後の研究が必要である.

3.10.3 相似地震

 ほぼ同じ場所で同一のすべりが再現される相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を基に,日本列島および世界で発生している,小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行っている.その結果,沈み込むプレートの境界で地震が発生する場所で,相似地震が多数検出された.相似地震群から推定されたすべり速度分布は,各地域のプレート間固着状態を反映した特徴を示している.また,本年度は,地殻内で発生する相似地震活動を用いたすべりモニタリングの可能性について検討を行った.地殻内でも,大地震の余震活動や群発地震活動,定常的に発生する地震活動中に相似地震活動が見つかり,すべり速度の時間変化を推定できる可能性が示唆された.さらに,相似地震活動と規模別頻度分布のb値との関係を調査した.相似地震の発生割合が高い地震クラスターについて見ると,プレート境界近傍で発生するものはb値が小さく,地殻内で発生するものはb値が大きい特徴が得られた.

3.10.2 地震発生サイクルシミュレーション

 円形アスペリティを仮定し,Nagata et al. (2012)により修正された摩擦則に基づいて地震トリガーに関する数値シミュレーションを行なった.地震サイクルのある時点で,サイン波で変化する応力擾乱を与えると微小滑りが起こり,強度が下がる(滑り弱化).擾乱の振幅が大きくなるにつれ,滑り速度の変化が大きくなり,地震滑りに至るまでの時間が短くなる (図 3.10.1(a)赤丸).応力擾乱の周波数依存性はほとんど見られなかった.静的応力も同時に増加する場合は,図 3.10.1(a)の橙,緑丸が示すように,より小さな動的応力変化でトリガーされる.また,たとえ静的応力変化が負であっても,動的応力変化が大きければトリガーされることがあった(黒丸).菱形のプロットは応力変動が起こっている最中に地震が発生する場合で,2016年熊本地震の際にも観測された,地震波が通過中にトリガーされる地震に対応する.

 図 3.10.1(a),(b)に地震滑りに至るまでの時間と応力変化量との関係を示す.静的応力変化の場合は,動的応力変化の場合より小さな応力変化量でトリガーされており,応力変化量の大小だけでトリガー効果を見積もることはできないことがわかる.一方,図 3.10.1 (c)に示すように地震滑りに至るまでの時間とアスペリティの滑り速度の増加量との関係は動的と静的の場合でほぼ同じである.本研究では,ある動的応力変化に対し,トリガー効果が等価な静的応力変化量を評価した.

[図 3.10.1]

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

 全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センターの教員,客員教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学,関連行政機関から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

  1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
  2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
  3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
  4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

 毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめている.

3.10 地震火山噴火予知研究推進センター

教授 加藤尚之,黒石裕樹,吉田真吾(センター長)
准教授 飯高隆,大湊隆雄
助教 青木陽介,五十嵐俊博
特任研究員 王 晓文
大学院生 臼田優太,アディティヤ アリフ