カテゴリー別アーカイブ: CGOI

3.11 Center for Geophysical Observation and Instrumentation

3.11.8 テレメータ室の活動

(1) テレメータシステムの運用管理

観測開発基盤センターの地震・火山観測網で,地震波形データをはじめとする,各種リアルタイム観測データの伝送および連続収録を行うテレメータシステムの運用管理を継続している.研究者が目的に応じて接続するセンサーの連続データを,途切れなく伝送し収集・提供するとともに,一部イベント収録処理も行う.伝送手段としては衛星通信(VSAT)や,ISDN・ADSL・光回線・無線LAN・モバイル通信等,最新の通信技術を取り入れた各種IP通信回線を利用している.管轄する観測点数は地震・火山合わせて約200である.特に衛星通信については,全国の大学の共同利用設備として,VSATシステムのハ ブ局を東京と長野の2か所で運用し,140局のVSATの維持管理を行い,地上回線の利用が困難な山間僻地や離島での機動的な観測研究に貢献している.観測点からフレッツ系およびモバイル系回線でデータをSINET5のデータセンタ(長野,松江)へ直接収集して直ちにJDXnetに乗せる,耐災害性の高いデータ伝送システムを運用継続し,2018年度末には,名古屋大学や高知大学等の観測点を含め,合計で約200点が対応した.

(2) 全国の大学を含む各機関とのデータ交換システムの運用管理

リアルタイム観測データの全国的な流通のため,各大学や地震火山情報センターと協力して,高速広域網新JGNとSINET5のそれぞれ L2VLANサービスや,フレッツ系回線等を利用し,全国の大学等を結ぶJDXnet(Japan Data eXchange network)を構築・運用管理している.また,地震観測に関係する全国の大学を代表して,東京大手町にあるTDX(Tokyo Data eXchange)を介した,気象庁・防災科研等他観測機関とのリアルタイムデータ交換の窓口の役割を果たしている.そのために,TDX,衛星通信ハブ局 等の拠点間を接続する延長約300kmの光ファイバー通信網を構築・運用管理している.これらの高速広域ネットワークにより,全国の広範な研究者が各機関 の全国千数百観測点に上るリアルタイム観測データを研究利用することが可能になっている.

(3) 収集データの利用支援

テレメータシステムやデータ交換システムによって収集されたデータは,所内ネットワークやインターネットを通じて所内外の研究者に提供される.それ には収録済みデータのオンライン利用やオフライン利用(テープの再生等)とともに,インターネットやJDXnetを介したリアルタイム配信サービスも含まれる.これら所内外の共同利用ユーザーに対する技術的および手続き面での支援を行っている.また,これまでに蓄積されたすべての地震データをオンライン提供するため,地震予知研究センター・地震火山センターと協力して,記憶容量1.3 ペタバイトの長期間地震波形データ等解析システムを導入し,システム開発を継続した.地震波形データについては,地震研究所の保有する1989年からのデータ320TBが本システムに格納された.(地震予知研究センターの章参照).

(4) 観測機材の全国共同利用への対応

地震観測用VSATシステムおよび地上テレメータ装置,データロガー等を地震研共同利用の手続きに従って,全国の大学の研究者に提供(貸し出し)しており,2019年2月4日現在の貸し出し数は747件である.

図3.11.2

fig3_11_2

四国西部における深部超低周波地震累積個数の経年変化.G1は豊後水道域,G2は愛媛県西部,G3は愛媛県中部に対応する.黒い矢印は豊後水道の長期的SSEの発生時期を表し,赤い直線は2004年4月–2009年12月および2014年7月–2017年3月の回帰直線を示す.回帰直線の傾きを比較すると,G1とG2で2014年後半以降超低周波地震の活動が静穏化していることがわかる(Baba et al. 2018).

図3.11.1

fig_3_11_1_a

fig_3_11_1_b

fig_3_11_1_c

 

1997年7月11日から2017年12月31日までの鋸山観測所における歪, 傾斜, 気圧, 雨量のデータ.2011年の東北地方太平洋沖地震の影響によるデータ欠測期間を破線で示した.

上段:歪三成分 (NS, EW, NE,いずれも伸びが正)と大気圧.

中段:傾斜二成分 (NS:N-down正,EW:E-down正).

下段:24時間降水量.

 

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

3.11.7 スロー地震学プロジェクト

 スロー地震とは,普通の地震に比べてゆっくりした断層すべり現象の総称であり,揺れを生じない,または揺れ方がゆっくりで振幅が小さい.このような奇妙な地震が,2000年前後に日本全国に展開された地震・GNSS観測網によって発見され,その後,環太平洋の各沈み込み帯でも次々と見つかってきた.スロー地震は巨大地震震源域を取り囲むように分布し,種類の異なるスロー地震がしばしば同時に同じ場所,あるいは隣の場所で起こる.つまり,スロー地震同士には,強い相互作用が働いている.したがって,巨大地震震源域の周囲でスロー地震が頻発すると,地震発生の場が次第に変化し,地震発生に繋がるかもしれない.そのため,スロー地震に対する理解を深めることは非常に重要である.そこで,スロー地震による低速変形と普通の地震つまり高速すべりとの関係性を含め,これらの地震現象を統一的に理解することを目指す目的で,科学研究費新学術領域研究「スロー地震学」プロジェクトが2016年より5年計画で開始した.スロー地震研究は,まだ20年にも満たない.基本的な発生様式も分から無いことが多い.地下深部にある発生場所の物質・物理条件はまだ不明である.さらに,その支配物理法則は定性的にも分からないことばかりである.そのようなスロー地震の謎を解き明かすため,旧来の地震学・測地学だけではなく,地質学,物理学などのアプローチを結合し,スロー地震の発生様式,発生環境,発生原理の解明に向けて,6つの計画研究,A01「海陸機動的観測に基づくスロー地震発生様式の解明」,A02「測地観測によるスロー地震の物理像の解明」,B01「スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,B02「スロー地震の地質学的描像と摩擦・水理特性の解明」,C01「低速変形から高速すべりまでの地球科学的モデル構築」,C02「非平衡物理学に基づくスロー地震と通常の地震の統一的理解」において研究を進め,さらに,総括班と国際活動支援班を置いて,プロジェクト全体のマネジメントと国際的な研究推進活動を行なう.地震研究所では,観測開発基盤センターの他,地震予知研究センター,地震火山情報センター,数理系研究部門など複数の部門・センターにおいて横断的にプロジェクトを推進するとともに,東大大学院理学系研究科,神戸大学,筑波大学などを含む全国の多くの研究機関と共同で研究を実施している.

 観測開発基盤センターでは,今年度,超低周波地震の検出精度を向上させるため,四国西部・九州東部において既に設置されている広帯域地震計の観測継続を行ったとともに,来年度以降に予定されている大規模稠密アレイ観測の準備作業を行なった.また,南海トラフ近傍で発生する浅部スロー地震を様々な帯域で捉えるため,日向灘において海底圧力計・地震計の改修・再設置を行なった.

3.11.6 強震動観測研究

(1) 定常的な強震観測網の運用

伊豆・駿河湾地域や足柄平野などにおける高密度の強震観測網を中心とした観測研究を,強震計観測センターの時代から継続して行っている.伊豆駿河湾の観測網は東海地方での大規模地震発生を想定して,地域を代表する露岩上に設置されている.一方,足柄平野の観測網は表層地質による強震動への影響を評価することを主目的として1987年度に設置され,国際的なテストサイトとしても位置づけられている.定常的な強震観測網では,地盤特性の把握を目的としたボアホール観測に加え,地盤と建物の同時観測も実施している.

(2) 他機関との共同強震観測

強震動の生成過程や,建物の挙動の調査研究等を目的とした強震観測を,信州大学・福井大学などの他大学・他機関と共同で実施している.これらの共同強震観測は,長野盆地や諏訪盆地にも展開されており,2014年長野県北部の地震などの記録が得られ,公開された.

(3) 臨時強震観測の実施

開発された機動観測用強震計は,微動観測にも対応可能な増幅器を併せ持ち,共同利用の枠組みなどを通して機器の貸し出しが可能な体制を取っている. 2016年熊本地震後に震源域周辺において臨時強震観測を他機関と共同で行った他,拠点間連携研究による小田原地域や東京湾岸地域の共同観測に参加した.

(4) 強震観測データベースの公開

2007年度より,観測された強震動記録のアーカイブと公開を行うデータベースシステムの開発を進め,そのシステムを用いて1980年以降のデータ公開を開始し,以後,引き続き公開を行っている( http://smsd.eri.u-tokyo.ac.jp/smad/ ).また,1964年新潟地震の川岸町においてSMAC型強震計で観測されたデジタイズ記録を公開した他,1956年から1995年兵庫県南部地震までのSMAC型強震計記録の画像データを公開した.

3.11.5 新たな観測手法の研究

地震・火山現象を理解するためには地下深部の観測が不可欠であるが,機器を設置できるのは地球全体の規模からすると地表に近いごく一部の領域にすぎない.そのため観測機器の精度の向上や観測範囲の拡大を目指して,レーザー干渉計などの光計測を用いた新たな観測機器の開発に取り組んでいる.レーザー干渉計は高精度・低ドリフトの変位センサーであり,地震・地殻変動観測機器へ組み込むことにより観測装置の高精度化や装置の小型化ができる.また光を用いた計測手法は,半導体素子では観測が難しい地下深部・惑星探査など極限環境での高精度観測を可能にする.

(1) 長基線レーザー伸縮計による広帯域ひずみ観測

レーザー伸縮計は地殻変動から数十Hz の地震波まで広いタイムスケールの地動を観測できる.岐阜県の神岡鉱山(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設)の地下1000 m のサイトにおいて,独自開発した波長安定化レーザーを組み込んだ100 mレーザー伸縮計を用いて,世界最高感度のひずみ観測を継続している.これまでに,地球潮汐を利用した観測ひずみとregionalひずみ場の関係の定式化,間隙水圧と関連した季節変動ひずみの検出,地球自由振動の観測,遠地地震に伴うひずみステップを用いた測地学的な地震モーメントの推定などを行った.近地~遠地にわたる多様な規模の地震に伴うひずみステップが飽和せず取得され,レーザー干渉計の広帯域・広レンジ計測が実証された.この技術に基づき,神岡で進められている重力波望遠鏡建設計画(KAGRA)と連携し,1桁以上スケールアップした長さ1500mのレーザー伸縮計をKAGRAトンネル内に建設し,2016年8月から観測を行っている.100mレーザー伸縮計よりも高い分解能で地球潮汐やひずみステップが観測されている.これらの装置を用いて地震学と測地学にまたがるタイムスケールの現象の解析などを継続する.

(2) 光ファイバーリンク方式の観測装置の開発

レーザー干渉計の光源とセンサーを光ファイバーでつなぐことによりセンサー部を無電源化し,地下深部や惑星探査など極限環境(高温・極低温・高放射線など)で使用可能な高精度観測装置を実現できる.その一つとして,小型広帯域地震計の開発を行っている.この地震計は小型長周期振り子の変位検出部としてレーザー干渉計を使用し,光ファイバーでレーザー光を導入することにより耐環境性を高めている.試作機は,広帯域地震計(STS1 型) と同等の検出性能が確認された.干渉計部分は-50℃~ 340℃の温度範囲で動作することが確認されている.この地震計を地下深部観測および惑星探査に利用することを検討している.

(3) 小型絶対重力計の開発研究

絶対重力計は地殻変動や物質移動(マグマ移動・地下水の変動など)を観測する有効な手段である.火山観測など野外で機動的に使用でき,また複数の装置を使った観測網を構築できるような小型絶対重力計を開発している.小型で必要な精度が得られるように高精度なレーザー干渉信号の取得法や地面振動ノイズの補正機構を導入し,従来の市販装置の約2/3 のサイズの実証機を開発した.霧島火山観測所(宮崎県),蔵王観測所(宮城県,東北大)などで試験観測を行い,設計精度10-8m/s2が得られることを確認した.この実証機をもとに民間企業と共同で製品化を進めている.また,観測網を構築するために長距離伝送できる通信波長帯光源(波長1.5μm帯)を用いた動作試験を東北大・電気通信研究所と共同で実施し,長距離伝送による精度劣化などは生じないことがわかった.国立天文台江刺地球潮汐観測施設(岩手県) においては,東北地方太平洋沖地震後の重力変化を継続的に観測している.

 (4) 重力偏差計の海底・月惑星・小天体探査への応用

地下構造を探査する方法として,広い空間スケールの重力場(重力加速度)をとらえる重力計に加え,その空間微分を測定する重力偏差計を併用することにより狭い範囲に局在化した鉱床などの密度異常のマッピングができる.海底鉱床の探査手法として,無定位振り子と光センサーを組み合わせた加速度計2台によって構成される重力偏差計を製作し,自律型無人潜水機(AUV) に重力計とともに搭載し,海中移動体上で探査を行ってきた.重力偏差計についてはAUVの揺動が観測限界を決める主因になっており,補正を試みている.一方,月惑星や小天体などの天体の内部構造はいまだ十分な探査が行われておらず,着陸機あるいは周回機からの観測に重力偏差計を用いれば従来の重力加速度の観測よりも高い分解能が得られることがモデル計算によって示されている.JAXAで検討されている火星衛星探査機(MMX)の搭載機器として重力偏差計を提案したものの探査機の軌道の制限から採択にはいたらなかった.それでも小天体に対する重力偏差観測の有効性は認識され,今後は国立天文台と共同で,小天体などを対象とした内部構造探査を目指した開発を進める予定である.

3.11.4 電磁気的観測研究

(1)八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測

八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した.これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.また記録計室内での気温・気圧・湿度計測のオンライン化と局舎敷地内へのwebカメラ設置による画像での敷地内の状態の定時監視,庁舎へのwebカメラ設置による気象条件の常時監視により,無人観測所の保守効率を向上した.

気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,従来から八ヶ岳地球電磁気観測所の地磁気データを定期的に提供してきたが,2017年度のデータ提供から開始した,前日分のデータを毎日自動で送付する仕組みの運用を継続した.

(2)東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測

東海地方の10観測点(清川,河津,富士宮,奥山,俵峰,相良,舟ヶ久保,春野,相良,小浜)における地球電磁気連続観測,伊豆地方の14観測点(網代,御石ヶ沢,大崎,湯川,浮橋,奥野,菅引,新井,玖須美元和田,岡,手石島,与望島,川奈,池)における全磁力観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.特に富士宮観測点は全磁力観測用プロトン磁力計と地磁気3成分変化観測用フラックスゲート磁力計を更新し,後者はGPS時計に同期した毎秒値が得られるようになったため,今後の地磁気変化の詳細な検討が可能となった.

(3)その他の地殻活動域における連続観測

(3-1)デジタルコンパスデータを用いた偏角変化連続観測の試み

2014年6月に開始した,浅間山に設置された4台のボアホール型傾斜計に内蔵されたデジタルコンパスが計測する偏角データ(毎秒値,分解能0.01度)の収録を継続した.八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測から得られる偏角値を参照した,偏角差1時間平均値・1日平均値は,火山活動が活動的ではない期間,山頂付近の高温な1地点を除き,安定した値を示すことが確認できた.特に2017年秋から2018年秋にかけて,偏角差が火口南東側の2点で減少し,火口南西側の1点で増加する傾向が見られ,火口直下の温度低下に伴う正帯磁の傾向を表す可能性を示す結果が得られるようになった.

(3-2)沖縄県石垣島・西表島における地磁気連続観測

2014年度に全磁力観測を,2015年度に地磁気変化3成分観測を開始した石垣島,西表島における地磁気連続観測を継続した.

(4)関連する研究

 気象庁地磁気観測所と国土地理院による全国15箇所の地磁気連続観測地点のデータ及びIGRFから,2005年から2014年までの10年間の地磁気変化毎日値を表現する,水平成分で約2nT,鉛直成分で約3nTの平均精度の日本列島規模の地磁気変化モデルを作成した.

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が関係大臣に建議する研究計画「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画」に基づき,全国の中枢となって地震・火山観測研究計画を多くの大学・研究機関と協力して推進している.この研究計画に基づき,火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究も行っている.当センターは主として火山観測基盤の充実を担って,火山噴火予知研究センター等と協力して観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山研究においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,場合によっては10年以上の準備段階を経て噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することが重要である.そのような科学的な火山現象の解明から,噴火の前兆現象に大きく依存する経験則による現在の火山噴火予測を,より普遍的な科学的な火山噴火予測に発展させることができると考えている.その実現には精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.このような考え方は,約40年前から始まった火山噴火予測研究に関する最初の建議である「火山噴火予知計画」から引き継がれ,現在に至っている.

特に,本研究所ではこれまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここではそれぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.具体的な研究成果については,火山噴火予知研究センター及び地震火山噴火予知研究推進センターの報告との重複を避けて記述した.

(1) 浅間山

浅間山では,広帯域地震,短周期地震, GNSS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では自前のLANの中継あるいは自前の光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山では,2004年の中規模な噴火以降,2009年と2015年に極めて小さな噴火を繰り返している.それぞれの噴火前に,浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測から捉えられ,深部からのマグマの供給が捉えられている.また,それぞれの噴火前から,火山ガスの放出量が増加すると共に,マグマ溜まりから火口へ通じる火山ガスの流路の内,浅部にある隘路にあたる部分がガスの流入により膨張してガスの放出により収縮する際に発生する長周期の地震動(VLP)が観測されている.VLPの発生頻度と火山活動の大きさは,大局的には比例しているが,細かく見ると若干の差異が見られる.これらの観測されている地盤変動,VLPの活動,火山ガスの放出量などの観測事象と,次に起こる噴火の規模の関連を明らかにして,噴火の規模の予測に結び付く研究を進めることが,浅間山における観測研究の意義のひとつである.

(2) 伊豆大島

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から30年以上が経過し,明治以降の平均噴火間隔が30~40年であることから,次の噴火が近いと予想され,噴火に至る諸現象が現在地下で進行していると考えられている.これらの現象のいくつかは各種観測装置から明らかになりつつある.現在,伊豆大島には24点からなる地震観測網と 14点からなる GNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.地震観測点の内 4点は広帯域地震観測も行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化して,最新の研究成果を出すために必要な精度のデータが得られなくなったため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降,約15年の期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データが着々と蓄積されている.更に,プロトン磁力計による全磁力の連続観測,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.これらの各観測のデータは,三原山山頂付近では無線 LANを通じて伊豆大島観測所にデータを集約し,その後インターネット回線を用いて当研究所まで伝送している.また,山麓の観測点の多くは回線を直接当研究所までインターネット回線でデータ転送を行っている.このように,各観測点の立地を考慮して効率的なデータ収集に努めている.

来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討され,このうち,土壌火山ガス連続観測装置は2018年9月に三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で設置した.また,広帯域地震計観測点1点を追加して設置する準備を行っている.さらに,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉える新たな観測装置を設置する目的で,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸の中の老朽化して故障している観測機器を引き上げて大深度の観測井の再利用を試みているが,途中でケーブルが引き上げられなくなり作業を中断している.

前回の噴火では,マグマに含まれる高温の揮発性成分がマグマに先行して地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,山頂噴火に至った.このようなマグマの粘性の低い火山においては,次回の噴火も同様な経過を辿る可能性が高い.現時点では,前回の噴火前に見られた上記の現象は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.しかし,10年余りの精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,上記のような現象が発現する前段階と考えられる以下の現象が発生していることが明らかになってきた.

伊豆大島では,1~3年周期で山体の膨張と収縮が繰り返しつつも,長期的にはマグマ蓄積に起因する山体膨張が進んでいる.また,山頂直下及び山体から少し離れた島の沿岸部周辺で多数の火山性地震が発生している.この火山性地震の活動度とマグマ蓄積による地盤変動にきわめて良い相関があることがわかってきた.特に,カルデラ直下の浅部で発生する火山性地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,山体収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,地震を起こす断層面での法線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなることを示している.観測された地震活動度は,地震研究で良く用いられるモデル(速度状態依存測)でうまく説明できることが明らかになった.伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くに位置し,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力が作用している.そのため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.2011年以降は地盤変動の大きさと比較して地震活動度が高い状態が続いている.更に,2013年以降は,カルデラ直下の浅部で発生する地震の活動度が潮汐と統計学的に有意に相関を持つことが明らかになってきた.具体的には,震源域で潮汐応力が伸張場になる時に地震が相対的に多く発生することが明らかになった.これらの原因として考えられる仮説として,震源域での間隙圧の上昇により地震活動度が上昇したことが挙げられる.マグマの上昇に先行して,マグマ溜まりから揮発性成分が上昇し,それが震源域に達することにより間隙圧が増加すれば,地震活動は全体として相対的に活発になる.同時に,潮汐との相関が良くなることが同じモデルを用いて示される.更に,この時期に,地震の規模別頻度分布(G-R則のb値)も一時的に上昇したことが明らかになった.このような地震活動度の時間変化が,近い将来に全磁力観測による熱消磁や電気伝導度の変化としても現われ,最終的に噴火に至ることになれば,上記の仮説は証明できたことになる.つまり,火山噴火予測の重要な鍵であるにもかかわらず,これまでその検出方法がなかったマグマの揮発性成分の上昇が火山性地震の活動度から推定できる可能性があることを実証できると考えている.これは,火山性地震と言う最も重要な噴火前兆現象の科学的な理解の発展をもたらし,より科学的な火山噴火予測に一歩近づけるものに発展できると期待できる.

(3) 富士山

富士山では10点からなる常設の地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.この内 5点は地表設置型広帯域地震計, 3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は,火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.残念ながら,2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4) 霧島山

2011年1月に霧島・新燃岳が爆発的噴火を発生し,霧島山周辺の観測点が強化された.2017年10月には,再び新燃岳が噴火し,火山活動が活発な状態を維持して現在に至っている.地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測,GNSS観測,全磁力観測,空振観測を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などの他大学と協力して進めている.

GNSSによる観測から2011年1月の噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止している.以下に述べるように,この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが明らかになってきた.

2013年8月から2014年10月まで,再度深部マグマが膨張し,その後,停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.これらは硫黄山付近での水蒸気噴火の発生する可能性を示すことから,震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設して観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドと協力し,噴気温度を測定する態勢を作り,測定を継続している.この活動は2017年9月以降,一旦は低下した.

2017年7月から深部マグマ溜まりが膨張を始め,火山活動の活発化が懸念されていたところ,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中にBanded Tremor, Gliding Tremor, Chugging Event等色々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続し,一旦活動が低下した.2018年3月1日から噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.これも現在は小康状態になっている.さらに,硫黄山では,2018年1月頃から熱活動が再度活発になり,4月19日には小規模な水蒸気噴火となった.

このように霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳,硫黄山の活動が活発になることが,10年余りの観測から明らかになった.深部マグマ溜まりの膨張は2018年8月に停止したが,12月から膨張しはじめ,現在も膨張が継続していろ.このことから,今後も新燃岳,硫黄山で噴火が発生する可能性がある.

このように,新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりの膨張後に発生しており,共通の深部のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑な火山システムであると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えらる.このように霧島山は2つの噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究に発展させることを目指す必要がある.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は時期により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたって2012年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月と2016年11月に実施した.その差から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定される.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.さらに,2019年度には,再度MT観測を実施する計画を立てている.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火がそれほど遠くないと思われる.噴火前後で発生する流体移動を捉えることが火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.

3.11.2 海域における観測研究

(1) 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画による海底観測

(1-1) 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には,震源域の一部に,海底地震計が設置されており,本震発生直後から,海底地震計を追加設置し,余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では,本震直後から余震活動が低調であることがわかった.また,震源域南部では,太平洋プレートに,フィリピン海プレートが接触していることが推定されているが,この領域では余震が少ないことから,本震時の破壊がこの付近で停止したことが示唆された.その後2011年9月からは,主に長期観測型海底地震計を用いて,震源域における長期観測を実施している.

地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測は,プレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで,2013 年9 月に,東京大学大気海洋研究所研究船白鳳丸により,長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,モニタリング観測を2014年10月まで実施した.さらに,2015年5月には,震源域最北部の青森県沖に,長期観測型海底地震計を設置して,海底地震観測を,2016年5月まで実施した.また,2014年10月から2016年10月まで,科学研究費助成事業(特別推進研究)「深海調査で迫るプレート境界浅部すべりの謎~その過去・現在」と連携して,広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測を実施した.2017年には,宮城県沖で観測を行っていた小スパンアレイ1組を回収した.2016年10月からは,同じく特別推進研究と連携して,小スパンアレイによる観測を福島沖において実施し,2018年に回収して,観測を終了した.福島県沖における観測では,新規開発した小型広帯域海底地震計を3台設置し,小スパンアレイと併せて,広域観測網も構築していることが特徴である.一方,長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測に関しては,長期にわたるモニタリングを目的として,引き続き観測を実施している.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(1-2) 宮城県沖における構造探査実験

2011年東北沖地震震源域北限付近である北緯39 度付近の日本海溝陸側斜面下では,東北沖地震発生前には,微小地震活動度の高い領域と低い領域があることが知られており,1996 年と2001 年に,海底地震計とエアガンを用いた構造探査実験が行われている.その結果,微小地震活動が活発な領域では,プレート境界からの地震波反射強度が弱く,非活発な領域では反射強度が強いという結果が得られている.これはプレート境界面における含水量の違いによるものと解釈されており,含水量が大きいプレート境界では反射強度が強く,またプレート間の摩擦強度が小さいために地震活動が低調であると考えられている.東北沖地震の発生を受け,断層すべりによるプレート境界の特性変化を抽出する目的で,2001年に行った構造調査と同一地点に海底地震計を設置し,同一測線において,2013年にエアガン発震を行った. 地震波走時を用いた構造調査では,それぞれの測線におけるP波速度構造断面とプレート境界の深さを求めた.また反射強度の変化について,2001年と2013年で取得されたデータを比較するための解析を進めているが,東北沖地震の前後において反射波の強度に一部差異が見られ,プレート境界の特性が変化している可能性があることが示唆されている.2014年には,さらに海溝軸に近い領域で構造調査を行ったが,地震波速度構造断面を求め,構造と地震活動との関係を調べるために,現在もデータ解析中である.なお,この観測研究は,北海道大学,東北大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

 (1-3) 房総半島南部における長期海底地殻変動観測

房総沖スロースリップ領域において,海底における地殻変動を検出することを目的として,海底精密水圧計による観測を実施している.2016年に,4台の海底水圧計が設置されており,2018年はこの水圧計を回収するとともに,引き続き海底水圧計を設置して,観測を継続した.用いている海底水圧計は約2年間の連続収録が可能である.また,次世代広帯域地震傾斜計1台が設置されており,2017年に回収を試みたが,来年度以降に再試行することとしている.回収した海底精密水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示された.2013年12月から2014年1月の房総沖スロースリップの活動期間を含むデータから,スロースリップに伴う約2cmの上下変動が検出された.さらに,この結果と陸上GNSSデータを用いてスロースリップのすべり分布を求めた.なお,この観測研究は,千葉大学との共同研究である.

 (1-4) 南西諸島海溝北部における長期海底地震観測

南西諸島海溝域では,島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は,海域に長期観測型海底地震計を設置して,プレート境界3次元形状などを明らかにするとともに,活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.2018年は,前年に投入した長期観測型海底地震計を回収するとともに,予め準備した長期観測型海底地震計をほぼ同一位置に再設置した.2015年7月以降はトカラ東方海域における繰り返し定常観測を実施している.なお,この観測研究は,京大防災研,鹿児島大学,長崎大学との共同研究である.

 (1-5) ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測

ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯では,平均しておよそ2 年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6 年周期程度で規模の大きなイベントが起こっている.そこで,スロースリップおよびそれに付随する地震活動を把握することを目的に,2014年5月から2015年6月にかけて,海底地震計と海底精密圧力計を用いた観測を実施した.観測期間中に陸上の測地観測網から比較的大規模なスロースリップイベントが発生したことが確認されていたが,イベント発生時に海底に設置されていた海底精密圧力計の記録から,そのプレート境界面におけるすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このスロースリップイベントが終了する時期から,決まった領域で微動の発生が始まり,さらに2週間ほど連続している可能性が示唆された.なお,この観測研究は,東北大学,京大防災研, UCSC(USA),LDEO(USA),University of Colorado at Boulder(USA)との共同研究である.2017年11月には,ヒクランギ沈み込み帯全域にわたる構造を調べるため,海底地震計を設置してエアガン発震を行い,良好な記録を得た.現在は取得されたデータの解析を行っている.なおこの調査研究は海洋研究開発機構,GNS Science(ニュージーランド),UTIG(米国),USC(米国),ICL(英国)との共同研究である.

 (1-6) 伊豆小笠原西之島付近における海底地震観測

小笠原諸島・西之島は,2013年11月に噴火活動を開始して新しい島が形成され,溶岩流出によって急速に成長した.このような離島での噴火活動を把握するために,西之島近傍において,長期観測型海底地震計を用いたモニタリング観測を,科学研究費助成事業(基盤研究(A))「遠隔操作の多項目観測による西之島形成プロセスの解明」と連携して,実施している.長期観測型海底地震計は,2015年2月に設置され,2015年10月に回収・再設置を行い,海底地震観測を継続した.2016年は,5月および10月に回収・再設置を行い,西之島近海での海底地震観測を継続した.さらに,2017年は,5月に回収・再設置を行い,観測をおこなった.長期観測型海底地震計は,2018年5月に回収し,海底地震観測を終了した.得られた記録には,噴火とみられる噴煙活動と対応した波形が収録されており,噴火期間の火山活動を把握することができた.なお,この観測研究は,気象庁,海上保安庁,海洋研究開発機構との共同研究である.

(1-7) 宮崎県沖日向灘における長期海底地震地殻変動観測

宮崎県沖日向灘では,活発な低周波微動活動が確認されている.深部スロースリップからの類推として,低周波微動の発生に併せて浅部スロースリップが発生していると予想されている.そこで,その存在が予想される浅部スロースリップイベントの海底観測による直接検出を目的として同海域において,広帯域海底地震計,長期観測型海底地震計および海底精密水圧計による観測を,科学研究費助成事業(新学術領域研究)「スロー地震学」と連携して開始した.さらに,すべりの空間分布を推定するとともに,浅部微動や浅部超低周波地震の詳細な時空間発展や地球潮汐応答等の活動様式を明らかにし,これらの現象のスケーリングや相互関係性の評価を行うことなども目的である.2017年3月に船舶を用いて海底観測測器の設置を行い,観測を開始した.2018年8月に海底水圧計,長期観測型海底地震計を設置して,観測を行っている.なお,この観測研究は,京都大学との共同研究である.

(2) 文部科学省委託事業による海底地震調査観測研究

(2-1) 日本海地震・津波調査プロジェクト

日本海沿岸地域において,津波・地震対策の基礎として,津波波高・強震動予測を実施する必要がある.そのため,2013年から開始された8ヶ年のプロジェクトにより構造調査などの調査観測が実施されている.その一環として,日本海下の深部構造を求め,モデリングに貢献するために,広帯域海底地震計及び長期観測型海底地震計を用いた,地震モニタリング観測を行っている.今年度は,2017年度に日本海盆に設置された海底地震計を回収し,新たな海底地震計と入れ替えた.本プロジェクトによって,これまでに大和海盆で3年分,日本海盆で1年分の地震波形記録が得られている.これらのデータを用いて,海洋プレートの構造を求めるための解析が進められている.

(2-2) 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト

東北沖地震の発生を受けて,南海トラフで発生する巨大地震についても,最大規模の地震を想定する必要性があり,地震発生の連動の範囲や地震や津波の時空間的な広がりを見積もる必要がある.そのために,南海トラフから南西諸島海溝にかけて,広帯域海底地震観測を2013年から実施している.得られたデータよりトラフ付近のスロー地震の解明と地震活動の詳細な把握を行うことが目的である.2018年10月には,種子島東方沖に設置されていた長期観測型海底地震計を回収し,新たに種子島南東沖に長期観測型海底地震計を設置することにより,観測域を変更しながら,観測を継続した.2018年に設置した海底地震観測網の一部には,小型広帯域海底地震計を用いた.なお,この観測研究は,京都大学防災研究所,海洋研究開発機構と連携して行っている.

(3)共同研究による海底観測研究

(3-1) 南西諸島における広帯域地震計による低周波地震・微動モニタリング研究

南西諸島域では,島弧全体にわたって,浅部プレート境界において,低周波微動,超低周波地震,短期的スロースリップの活動が活発であることがわかってきた.これらの低周波イベントは,プレートのカップリングと密接に関連していると考えられている.そこで,低周波イベント活動および微小地震を含む地震活動の正確な把握を目的として,南西諸島海溝域における海底地震観測を2015年から開始した.南西諸島域の大部分は海域となっており,常設の地震観測点が少ないために,海底観測点を追加することにより,効果的な地震観測網を構築できる.観測域には,島嶼観測網からスロースリップや低周波イベントの発生が推定されている南西諸島海溝中部とした.2015年1月に広帯域海底地震計,長期観測型海底地震計を設置して,観測を開始した.本観測では,一部の海底地震計に,固有周期20秒の地震計を用いていることが特徴である.また,全体の活動を把握するために,広域の地震観測網を構築した.広域観測網での観測は,2016年8月まで継続した.同一観測航海において,微動活動が活発な奄美大島東方海域に,観測点間隔30km程度の観測網を新たに構築し,観測を開始した.2017年は8月に前年に設置した海底地震計を回収し,同一領域で,観測網をやや北東に拡張して,海底地震計を設置した.これまでに回収されたデータには,低周波微動と超低周波地震活動が記録されている.なお,本研究は,公益財団法人地震予知総合研究振興会,京都大学防災研究所との共同研究である.

(3-2) メキシコ太平洋沿岸部ゲレロギャップにおける長期海底地震・圧力観測

メキシコ太平洋沿岸部は,ココスプレートが北米プレートに沈み込んでおり,プレート境界型巨大地震が発生する.しかし,ゲレロ州の沖合(ゲレロギャップ)は,近年大きな地震の発生が見られない一方,スロースリップが4年程度の間隔で繰り返して発生していることが知られている.プレート間歪みをスロースリップのみで解消しているわけではなく,将来巨大地震発生の可能性があると考えられている.そこで,ゲレロギャップ下のプレート間固着を明らかにすることを目的として,同領域において海底地震地殻変動観測網を構築した.2017年11月に,長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を,メキシコ国立自治大学(UNAM)所属研究船El Pumaを用いて設置した.観測領域は,海溝沿いに約120km,直行方向に約50kmである.2018年は11月に同じく研究船El Pumaを用いて,前年に設置した長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を回収し,新たに長期観測型海底地震計を設置して,観測を継続した.なお,本研究は,平成28年度から開始された国際科学技術共同研究推進事業,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「メキシコ沿岸部の巨大地震・津波災害の軽減に向けた総合的研究」の一環として,京都大学,東北大学,UNAM(メキシコ)との共同研究として行われた.

(3-3) 南九州における制御震源地殻構造探査実験

南九州では,フィリピン海プレートが日向灘で九州の下に沈み込んでおり,島弧である九州では活発な火山活動が見られる.さらに背弧側である東シナ海は沖縄トラフの北端に位置する.このような地域の地殻活動を理解するために,島弧の地殻構造を明らかにすることが重要である.また,活発な火山活動を伴う姶良カルデラの詳細な地下構造を明らかにすることは,火山噴火の理解を進めるために必要である.これらの目的のために,2018年11月に,2017年に続き,南九州を横断する海陸構造探査実験が行われた.海域では,海底地震計を直線上に短い間隔で設置し,制御震源であるエアガンの発震を行った.設置した海底地震計は,構造探査実験終了後に回収された.今後得られたデータ解析を行う予定である.なお,本探査実験は,北海道大学,東北大学,京都大学,九州大学,鹿児島大学との共同研究である.

 (4) 海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発

(4-1) 三陸沖に設置したICTを用いた光ケーブル式海底地震・津波観測システムの運用

これまでの光ケーブル海底地震・津波観測システムは,海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面での欠点がある.そのため,データ伝送とシステム制御にICTを用いたシステムを新たに開発し,その1号機を新潟県粟島近海に設置した.このシステムは,データ通信の冗長性を備え,より低コストで,小型・軽量であることが特徴である.2号機に関しては,既設の三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測システムの更新システムとして,開発・製作した.2号機は,地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点設置し,全長は約110 kmである.拡張ポートは,PoE I/Fを用いており,設置後,無人探査機などにより,新たなセンサーを接続できる.観測装置は約30 kmまたは約40 kmの間隔であり,設置時には,拡張ポートにデジタル出力型高精度水圧計を接続した.2015年9月に,岩手県釜石市沖へ2号機の設置を行った.システムの設置は,通信用海底ケーブル設置に用いられている海底ケーブル敷設船を利用した.このシステムの設置により,釜石市沖は,三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測既設システムと併せて,空間的に高密度なリアルタイム海底地震・津波観測網が構築された.2017年4月には,波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.アースの強化としては沖合30m程度にアース電極を設置し,これまでに利用していた汀線部アースと並列に接続した.その結果,給電電圧の変動はほぼ無くなり,安定した運用ができるようになった.2018年9月には,汀線部から沖合100m程度までの状況の監視調査を行ったが,大きな問題は発見されなかった.また,陸上部装置の保守を行った.沖合へのアース電極設置以降,給電電圧の変動はほぼ無く,安定した運用を行っている.

(4-2)小型広帯域海底地震計の開発

長期観測型海底地震計は実用化以降多数の実績を持っており,繰り返し観測の手法により,モニタリング観測が可能となった.この長期観測型海底地震計の地震計センサーは,三成分高感度短周期速度計であり,その固有周波数は1Hzである.通常の地震観測には,十分な帯域であるが,近年着目されている浅部低周波微動や超低周波地震を観測するには,やや帯域が不足である.近年,小型で低消費電力である広帯域地震計が利用可能になってきた.そこで,Nanometrics社Trillium Compact Broadband Seismometerを用いて,この地震計センサーを長期観測型海底地震計に組み込むために,新しくレベリング装置を開発し,小型広帯域海底地震計を開発を2017年に実施した.2018年は,固有周期20秒または120秒の地震計センサーを搭載した小型広帯域海底地震計の観測への利用を始めるともに,台数の確保に努めた.また,実際の観測の実績から,改良を行う予定である.

(4-3) 光ファイバー計測技術による海底ケーブルを用いた海底高密度地震観測システムの開発

光ファイバセンシングの一つであり,振動を計測する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は,近年様々な分野で応用され始めている.地震関係の分野では,石油探査のために構造調査に利用されている.この計測は,光ファイバー末端からレーザー光のパルスを送出し,光ファイバー内の不均質から散乱光を計測し,その変化から,振動を検出する方法である.光ファイバーに沿って,時空間的に密な観測を実施できることが特長である.地震研究所が1996年に設置した三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムは,伝送路である海底ケーブルに予備の光ファイバーを持っている.この予備光ファイバーに,DAS計測を適用することによって,空間的に高密度の海底地震観測を実施できる可能性がある.2018年から,DAS計測技術を三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムの予備光ファイバーに適用する開発を開始した.

(4-4) 海底地震計波形データ解析のための手法開発

海底地震計の波形データは,海底に積もった柔らかい堆積層や,海底,海表面に由来する多重反射・変換波が卓越し,複雑になる.このため,目的とする深部の構造(モホ面やリソスフェア・アセノスフェア境界など)で生じる変換波の情報を抽出することが困難となる.この問題に対処するための,新たな地震波形の解析手法を開発した.なお,この開発はブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)との共同研究として行われた.