カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

2014年チリイキケ沖で発生したMw8.2の地震の遠地実体波インバージョンと津波・GPSジョイントインバージョンから得られた震源時間関数とすべり分布の比較.

2014年チリイキケ沖で発生したMw8.2の地震の遠地実体波インバージョンと津波・GPSジョイントインバージョンから得られた震源時間関数とすべり分布の比較.

3.7.2 固体・流体複合系としての地球惑星物理学の展開

(1) 青い地球の地震学

 太平洋を横断するような遠地津波では,従来の予測と比べると伝播時間の遅延と津波初動が反転することが明らかとなった.その原因は津波伝播に伴う荷重による重力場変動・圧縮性海水・固体地球の弾性変形であった.これらの効果を取り入れた簡便・高精度な革新的遠地津波波形計算法を開発し,遠地の津波波形予測や著しい津波予測技術の向上が達成された.これまで走時が理論と合わないため波形解析が行われていなかった1960年チリ地震の遠地津波記録に新手法を適応し,近地の地殻変動データも同時に説明する,3つの大滑り域を有する新たな地震断層モデル(Mw 9.4)を得た.遠地津波予測技術の向上により,遠地津波記録が残る過去の巨大地震を対象とする近代的な地震震源解析が可能なことを示した.

 2015年5月に発生した鳥島近海地震(Mw 5.7)の近傍で展開していた短スパン海底圧力計アレイにより微弱な津波(波高5 cm)が観測され,周波数ごとの波束の到来方向と到達時刻が測定された.新たに開発された分散性津波の波線追跡法により,周波数依存の津波到来方向と到達時刻がほぼ再現された.この波線追跡法と改良Greenの法則により,津波波源域は直径8 kmの須美寿カルデラを覆うように広がり中央部の初期波高は1.5 m程度であると推定され,その津波波源モデルは八丈島で観測された津波波形(波高1 m)をよく再現した.津波から推定された地震モーメントに比べ地震波解析から推定された地震モーメントが小さい火山性の津波地震であり,津波と地震の振幅を同時に説明するカルデラ内浅部に水平に広がるシルの体積膨張モデルを提唱した.

 地震波干渉法を太平洋に整備されている深海津波計の連続記録に適応し,実際の津波波源がなくとも2観測点間を伝播する長周期海洋表面波の抽出と,その位相速度の測定に成功した.今後,この手法は数値計算によらない津波予測技術として発展が期待される.また,背景津波の波形解析から,背景津波波源の分布が明らかとなり,背景津波の励起機構についての研究の進展が期待される.

(2) 活火山における固体・流体複合過程の観測的研究

 火山を固液複合現象の実験場としてとらえ,観測研究をおこなっている.今までのわれわれの研究から火口直下の構造および固液複合系振動システムが解明されつつある阿蘇火山で,将来の噴火に伴う火山性流体の移動をとらえるべく京大・九大・東北大と共同で以下の観測研究を継続的に行っている:(a)広帯域地震ネットワークによる火山性微動のリアルタイム・モニターシステムを整備・維持し,基本周期15秒の長周期微動源(火口直下の火道系内での熱水活動による)のモニタリングを行う.(b)長周期微動の周期・振幅変化から火山浅部流体系の時間変化を探る.

 火山爆発が大気中に引き起こす大気波動現象を観測するため,爆発的火山噴火を繰り返している桜島火山昭和火口近傍の黒神観測点で2006年6月より広帯域圧力観測を続けている.観測点敷地内の整地作業のため,2016年9月に一時撤去したが,来年度再設置を予定している.

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

図3-7-5 「かいこう7000II」によって撮影されたNM16に設置したEFOS.2014年9月17日,記録計の入った耐圧容器が回収された.

図3-7-2「技術革新」以前は,分解能は高いが海底下10 km程度までしか解像できない屈折法地震探査か,深部(–50 km以深)はわかるが分解能が低いグローバル表面波トモグラフィーが,LAS探査の手段であった.小スパンアレイによる「広帯域海底地震探査」の開発は,LAS全体を深さ方向に連続的にかつ高分解能で探査することを可能にした.

図3-7-2「技術革新」以前は,分解能は高いが海底下10 km程度までしか解像できない屈折法地震探査か,深部(–50 km以深)はわかるが分解能が低いグローバル表面波トモグラフィーが,LAS探査の手段であった.小スパンアレイによる「広帯域海底地震探査」の開発は,LAS全体を深さ方向に連続的にかつ高分解能で探査することを可能にした.

3.7.1 海・陸機動観測による地球内部構造とダイナミクスの解明

 海半球センターでは,センターの立ち上げ当初から固体地球科学分野の基礎的な重要課題を解明することを目的にした,大型科研費によるプロジェクトを実施してきた(海半球ホームページ).また並行して,常に一段質の高い観測研究を進めるための観測機器開発と解析手法開発を行なってきた.海半球計画(1996–2001 年)においては,西太平洋域に総合的地球物理観測ネットワークを構築して地球内部をグローバルな視点で見る基盤を整えた.また,地震と電磁気の海底長期機動観測装置を開発して,グローバルな観測網よりも高い解像度を獲得した.2004-2009年度の特定領域研究「スタグナントスラブ:マントルダイナミクスの新展開」(スタグナントスラブ計画)では,太平洋プレートの沈み込みに焦点をあて,観測網と機動観測からアプローチする我々のグループに国内の高温高圧実験グループと計算機シミュレーショングループを統合して,スラブの滞留と崩落のメカニズムおよびそのマントルダイナミクス,更にその地球史上の意義を明らかにした.2007–2011年度の科研費基盤研究(S)(NECESSArray計画)では,日中米の国際協力により,中国東北部に120点の広帯域地震観測網を展開し,直下のマントル遷移層に横たわるとされるスタグナントスラブ構造解明を目指した.その結果,中朝国境に存在する巨大火山・長白山の下の遷移層で横たわるスラブが欠如していることが描出され,マントル深部から長白山にマグマを供給する経路が存在する予想外の可能性が明らかとなった.

 2010–2014年度の科研費特別推進研究「海半球計画の新展開:最先端の海底地球物理観測による海洋マントルの描像」(ふつうの海洋マントル計画)では,自ら開発した世界最先端の海底観測装置と観測技術を駆使して,海底拡大軸・ホットスポット・プレート収束帯などの影響を受けずにほぼ水平なマントル流があると期待される,「ふつう」の海洋マントルにおいて,(a) リソスフェアーアセノスフェア境界(LAB)の原因および (b) マントル遷移層の水分布という,2つの固体地球科学分野の根本的課題の解明を目指した.具体的な観測実施海域は,北西太平洋のシャツキーライズの北西側(海域A)および南東側(海域B)の2海域である(図3.7.1).

(1) 太平洋アレイ計画 (Pacific Array)

(1-1) 経緯と計画の概要

 特別推進研究「ふつうの海洋マントル計画」では,プレートテクトニクスの基本的な構造が存在すると考えられる海洋リソスフェア・アセノスフェアシステム(LAS)の解明を目指した先端的観測研究を行った.その成果として,十数台の広帯域海底地震計/電磁力計からなる小スパンアレイによる1–2年程度の観測により,アレイ直下の地震波速度(方位異方性を含む)・電気伝導度構造について,空白域であったモホ面からアセノスフェアまでの深さにわたる連続探査を可能にする技術革新を達成した(Takeo他, 2016, 2018; Baba他, 2010, 2017).海洋マントルの地震観測研究が,これまで主に屈折法探査による海洋モホ面直下(海底下10 km程度),またはグローバル表面波トモグラフィーによる深部(–50 km以深)の大まかな構造(水平波長が数千 kmの解像度)のみにとどまっていたことに比べると,この「広帯域海底地震探査」の手法を適用することで,LAS全体を深さ方向に連続的に探査できる(図3.7.2)ようになったことは,観測研究上のブレークスルーと考えられる(同様の解析は電磁気観測データについても可能になった).「太平洋アレイ(Pacific Array)計画」は,このブレークスルーに基礎を置き,海洋底における1–2年間の広帯域地震計・電磁力計アレイ観測(各十数台)を1単位として,時期をずらしながら十年程度で太平洋の広い領域をカバーする観測網の実現を構想している(図3.7.3).“アレイのアレイ” を考えることで国際協力の下,十年程度の時間枠で到達可能な目標となり,海外の当該分野の第一線の研究者らの賛同のもと国際連携体制が作られ,第1期の観測を2018年から日韓共同および米国により太平洋の2カ所の海域で開始した.
 日韓共同の太平洋アレイ観測は,地球上最古の海域でOldest海域観測と称して,2018年11月に広帯域海底地震計12台と海底電磁力計7台をマリアナ東方の太平洋で最も古い海域に展開した.本アレイ観測は,太平洋アレイの1アレイとして全体計画に貢献すると共に,太平洋プレート生成のメカニズムの解明と海洋プレート成長モデルの検証を目的としている.観測網展開の航海(KIOST所有の研究船を利用)には日韓の大学院生も多数参加した.一方,米国の観測網展開は2018年5月に行われ,中部太平洋海域に30点の広帯域海底地震計を展開し,アセノスフェア内小規模マントル対流のイメージングを目指す.この観測航海には,本センター所属の大学院生2名が国際インターンとして参加し,観測網の展開に貢献した.両アレイとも展開してから1年後の2019年に回収の予定である.

 (1-2) 海底地震観測

 太平洋アレイ計画の第1期のアレイ観測として,太平洋最古の海洋底(グアム島東方沖)での海底地震・電磁気観測,その前半部を韓国ソウル大学との国際共同観測として開始した.韓国の研究船利用による共同研究計画の円滑な推進のため,2017年度に「東京大学とソウル大学の間の太平洋アレイ共同研究に関する協定書」を締結した.2018年に科研費基盤研究(A)が採択され,10月30日から11月9日にかけて設置航海を実施し,グアム島東方沖約1500 kmの海底にBBOBSを12台(及びOBEMを7台)設置した.BBOBSには新たに微差圧計(DPG)を全台に増設し,精密な圧力変動観測を実施するとともに錘の長さを従来の倍である2 mに延長し,観測機能の高度化を図った.観測機器は2019年秋に韓国の研究船を利用して回収する予定である.また,第1期のアレイ観測後半部として台湾との国際共同観測を計画しており,2018年に円滑な研究協力推進のために台湾の地球科学研究所及び台湾海洋研究所との間でMOUを締結した.

 (1-3) 海底電磁気機動観測

 海底電磁気機動観測は,全12観測点の内の7観測点に自由落下・自己浮上方式の海底電磁力計(OBEM)を設置して行っている.このうち6観測点は観測アレイの東半分に位置し,海底年代が最も古い領域をカバーする.残りの1点は観測アレイの西端の平坦面に位置し,参照点として利用することを想定している.全てのOBEMは,2018年11月15日より10秒間隔での計測を開始し,2ヶ月後の2019年1月15日からは測定間隔を60秒に切替えるようタイマー設定されている.搭載している電池容量より約1年間の計測を続けられる.2019年秋に無事データが回収されれば,観測アレイ下のマントル最上部からマントル遷移層上面までの電気伝導度構造を明らかにできると期待している.

(1-4) マントルの高分解能イメージング

 「ふつうの海洋マントル計画」で回収した広帯域地震波形記録に「広帯域海底地震探査」を用いた解析を行い,海域A・B地震波速度の方位異方性が構造推定に与える影響などを評価した.また,解析手法を改良することで地震波速度の推定精度が向上し,海域A・B(図3.7.1)間のS波1次元構造の違いがマントルの低速度層において約2%になることを明らかにした.これはこの地域の海洋マントル成長が地表からの冷却によるものでは説明のできない大きな違いであり,小規模対流が起こっている可能性を示している.モホ面から下約40kmまでの方位異方性の大きさは約3–4%であること,方位異方性の速い軸が海域Aでは磁気縞模様に直交している一方で,海域Bでは斜行しており,プレート形成時のマントル内の流れが複雑であった可能性を示している.(Takeo et al., 2018)

 「ふつうの海洋マントル計画」で回収した広帯域地震波形記録に加え,これまでに行われてきた日本の広帯域海底地震観測,太平洋に展開している海洋島地震観測網で得られたデータを使用し,表面波トモグラフィー解析を行い,太平洋全域の上部マントル3次元S波速度構造モデルを構築した.大規模な速度不均質構造・鉛直異方性構造は既存の全地球モデルと調和的であった.得られたS波速度構造モデルと半無限媒質冷却モデルに基づく太平洋プレートの温度構造から,S波速度の温度依存係数を求め,太平洋のプレート成長によるS波速度構造を推定した.この速度構造と得られた速度構造モデルの残差を求め,冷却モデルでは説明できない異常な海域を推定した.その結果,海嶺やホットスポット地域,北西太平洋で大きな残差がみられた.海底地震計のデータを追加すると共に,海洋底年代依存性を考慮した初期モデルを使用することで,上述の「広帯域海底地震探査」による表面波位相速度の直接測定の結果と調和的な結果が得られるように改善された.

 電気伝導度構造については、海域A・B(図3.7.1)それぞれで異方性を考慮した1次元構造の解析と、等方3次元構造の解析を進めている.このうち海域Aでは以下の予察的結果が得られた.1次元異方性解析では,アセノスフェアの深さにおいて高電気伝導度の軸が北東-南西方向に検出されたが,この向きは太平洋プレートの絶対運動方向とも過去のプレート拡大の方向とも斜交するので,一般的に考えられているプレート拡大やマントル対流にともなう異方性構造の出現と解釈することは難しい.一方で等方3次元構造モデルは,アセノスフェアの深さにおいてアレイとほぼ同等の幅を持って北東-南西方向に伸張する高電気伝導度領域の存在を示している.したがって1次元異方性構造解析の結果は,この大きな不均質構造を異方性で解釈したものと考える事ができる.不均質構造が何を示しているかについては更なる考察が必要である.

(2) 深海底を含む西太平洋地域への地震・電磁気・測地観測網(海半球観測ネットワーク)の展開

(2-1) 次世代の観測システムの開発

(2-1-1) 次世代の海底地震・測地観測システムの開発

 本所において共に海域地震観測を行う観測開発基盤センターと共同し,海底地震観測の高度化として複数次元での観測帯域拡大を進めている.現在,広帯域地震観測での機器の高機能化,機動的海底観測での測地学的帯域への拡大,および水深6000 mを越える超深海域での地震観測の実現,の3項目を具体的課題として機器開発を実行中である.

 広帯域海底地震計(BBOBS)の平均的ノイズレベルを評価すると,長周期側での水平動のノイズレベルが陸上観測点での統計的上限に対して数倍以上高い.この対策として,低背なセンサー部をデータ記録部から独立させ海底面に突入させて自己埋設する構造の新型広帯域海底地震計(BBOBS-NX)を,ROV等の潜水艇による支援(設置・回収時)を要する運用方式で実用化した.2010年以降での複数の観測結果から,陸上観測点並のノイズレベルが確保できることを確認した.更に,このBBOBS-NXと同等の観測がROVを使用せず,自律動作により可能となる次世代機(NX-2G)の開発研究を科研費基盤研究(A)の補助を受け2015年から進めてきた.2016年10月にNX-2G試験機を製作し実海域試験を実施し,2017年4月に福島県沖日本海溝陸側斜面にて,既設置のBBOBS近傍に改良型のNX-2G試験機を正常に設置,長期試験観測を開始し,2018年10月に無事回収した.その際,回収時の動作をROVで観察している(図3.7.4).設置時の自律動作状態は,自撮りの深海用ビデオカメラで記録しており,この映像も回収された.水平動ノイズレベルの低減が同地点でのBBOBSに対して充分では無かったがその要因はつかめており,一部改良すべき点はあるが基本的な機器開発の目標は達成された.
 また,BBOBS-NXを基に,機動的に広帯域地震・傾斜同時観測を行うBBOBST-NXの開発・実用化を進めると共に,海底での条件次第(底層流の強度)ではこれまでのBBOBSでも傾斜変動が計測可能であることも,複数地点での試験的観測データにより分かってきた.使用している広帯域地震センサーの長期間での安定性には問題は無さそうで,観測対象次第では有用と考えられる.上記のNX-2Gでも傾斜観測は可能であり,機動的で高密度な海底地震・地殻変動観測アレイの実現性が出てきた.

(2-1-2) 最先端の海底電場観測装置(EFOS)の開発

 電磁気探査の到達可能深度は,測定する電磁場変動の周期によって制御される(表皮効果).OBEM観測データのインバージョンによる最大探査深度は,周期1日以上で電場のS/Nが悪くなるために上部マントルの数百kmに限定される.新しい長基線電場観測装置(EFOS)は,長いケーブル(EFOS-6は6km,EFOS-2は2km)を海底に展張して良質な長周期電場データを取得する目的で開発された.上記「ふつうの海洋マントル」計画では,海域Aに合計3台のEFOS-2と1台のEFOS-6を設置し,2014年9月に3台のEFOS-2を,2015年9月に1台のEFOS-6を回収した.観測点NM16に設置したEFOS-2(図3.7.5)とOBEMの電場データのノイズスペクトルを比較すると,105秒よりも長い周期でEFOS-2のノイズが約1桁低いことが示された.このデータを用いて遷移層の電気伝導度を求め,地震波のレシーバ関数解析結果と統合して,遷移層に存在しうる水の量の上限を推定することができた.

 今後進めるべき方向の一つは,EFOSによる観測を世界中の様々な海域で実施して,遷移層の水のグローバルな分布を明らかにすることであろう.しかし現状のEFOSは,設置および回収に無人探査機(ROV)を必要とし,このことがEFOS観測のグローバル展開を困難にする要因となっている.現在のEFOSは耐圧容器にガラス球を用いているために深海有人探査機での取り扱いができない.2017年度はこの点を改善して有人探査機でも扱えるよう,耐圧容器を金属製に変更した.それでもなお,深海でのEFOSの設置・回収作業が可能な有人/無人探査機は世界中を見ても,極めて数が限られる.一方,マニピュレータがないため複雑な作業はできないが,深海底でケーブルを展張する機能はある各種曳航体が使用可能な研究船は,多くの国で保有している.これらの曳航体を用いた設置・回収が可能になれば,EFOSによる観測の機会が格段に増えることが期待される.そこで我々は,深海曳航体(ディープトウ)によって設置/回収できるよう,EFOSの全面的設計変更を行い,第一段階の試作機を製作しつつある.申請した科研費基盤研究(B)が今年度採択されたので,本格的な開発を進めていく予定である.

(2-2) 海洋島地震観測網

 ジャヤプラ(インドネシア),パラパト(インドネシア),デジャン(韓国),ポナペ(ミクロネシア),マジュロ(ミクロネシア),犬山(日本),石垣(日本),パラオ(パラオ),バギオ(フィリッピン),父島(日本),カメンスコエ(ロシア),サパ(ベトナム),ハイフォン(ベトナム),ビン(ベトナム)の9ヵ国14定常観測点における観測を, 海洋研究開発機構と共同で継続した.このうちマジュロ(ミクロネシア),父島(日本),カメンスコエ(ロシア)を除く11観測点からはリアルタイムで地震波形データを収集した.

(2-3) 海洋島電磁気観測網

 ポナペ(ミクロネシア連邦),アテーレ(トンガ王国),モンテンルパ(フィリピン),カンチャナブリ(タイ),ワンカイヨ(ペルー),南鳥島の各観測点における地磁気3成分と全磁力の観測を継続した.マジュロ(マーシャル諸島)観測点については,新観測点での観測再開について,現地協力機関と協議をしている.絶対観測値を用いて2014年以降の地磁気三成分確定値の検討を開始した.また,2016年までの観測値の公開準備を行った.

(2-4) 海底ケーブルネットワークによる電位差観測

 フィリピン-グアム,二宮沖-グアム(TPC-1),グアム-沖縄(TPC-2),上海沖-苓北(上海ケーブル)の海底ケーブルについて電位差観測を継続し,これらの電位差に含まれる長期変動成分の解析を継続して行った.特に,電位差成分の永年変動(時間1階微分)に着目し,短期主磁場変動の地磁気ジャークや海流変動との関連を調査した.

(3) 海半球観測網を補完する長期アレイ観測

(3-1) 海底地震観測

 海底観測網直下の構造を浅部から深部まで決定する「広帯域海底地震探査」の手法開発を行った.周期3–30秒においては地震波干渉法を,周期30–100秒においては遠地地震のアレイ解析手法をもちいることで,地震波異方性も含めた深さ10–150 kmの構造の定量的な議論が,浅部の構造を仮定せずに行うことが可能となった.既存の海底観測アレイにこの手法を適用する中で,使用するデータの選別の重要性が明らかになった.

 広帯域海底地震計(BBOBS)の鉛直成分に混入する水平動成分起源の傾斜ノイズ除去方法を適用し,その有効性を検討している.周期20秒以上で本ノイズ除去は効果的であり,「ふつうの海洋マントル計画」で得たデータに適用した結果では15–20 dBの改善が見られた.また,鉛直成分に混入するコンプライアンスノイズ(内部重力波による海底圧力変動に起因)に関しても,圧力データを用いたノイズ低減手法の確立を目指している.

 2018年11月より太平洋最古の海洋底で開始された海底地震観測では,鉛直成分ノイズを低減するために従来1×1 mであったBBOBSの錘の底面積を2×2 mに拡張し,さらに精密な圧力変化を記録するために微差圧計(DPG)を追加した.
 また,「ふつうの海洋マントル計画」によって,BBOBSでは,エアガンによる人工地震探査の信号を300–900km離れた地点で観測できる性能を有していることが明らかになった.このことは,地殻構造探査を目的としてきたエアガンを用いた海底人工地震探査で,海洋リソスフェアの構造探査が可能であることを示しており,この研究を推進すべく海洋研究開発機構との間に共同研究契約(OBS地震探査による海洋プレート構造研究)を締結した.2017年2-3月,2018年7月に日本海溝のアウターライズ域で実施された人工地震探査において,複数種類のOBSによる同時比較観測を実施し,各OBSの特性を明らかにした.

(3-2) 海底電磁気観測

 三陸沖日本海溝では,太平洋プレートの沈み込みに伴う変遷と地震発生との関連を電磁気学的手法と熱学的手法で解明することを目的とした研究を,2007年よりJAMSTECと共同で進めた.またこの海域での観測は,2009年度以降は,「地殻流体」計画の一環として継続している.2012年度までに海溝軸を横切る複数の測線上の合計31観測点でデータを取得し,2次元構造解析を進めている.なお,本研究で2010年に設置したOBEMは,2011年3月11日の東北沖地震に伴って生じた大津波によって誘導された磁場変動を記録しており,巨大振幅津波の波源域推定に貢献した(Ichihara et al., 2013, Earth Planet. Sci. Lett.).更に2013年4月から8月にかけて,新潟・秋田県沖日本海でも6台のOBEMを用いた観測を行った.同時に周辺の島で観測したデータ,過去に秋田県沖日本海で取得したデータを加えて3次元解析が進行中である.これらの観測データを統合的に解析し,最終的には日本海溝から日本海にかけての島弧断面の電気伝導度構造を明らかにすることを目指している.

(3-3) 陸上電磁気観測

 1998年以来,中国地震局地質研究所の協力を得て中国東北部吉林省中部および遼寧省西部・中部においてネットワークMT観測を行ってきた.そのデータの解析から,マントル遷移層の深さで電気伝導度が他地域に比べて有意に高くなる傾向が認められた.2007年より,この異常域の空間的な広がりを調べるために,中国全域にわたる既存磁場データの解析を始め,周期1日から100日程度の鉛直-水平磁場間の応答関数推定を試み,誤差の小さい良好な応答関数が推定できることを確認した.現在その応答関数に基づき,1次元層構造を仮定した構造推定を試みている(地震予知研究センターと共同).

(4) その他の地域での観測的研究

(4-1) 太平洋オントンジャワ海台

 オントンジャワ海台においてJAMSTEC等との共同観測を2014年から科研費基盤研究(B)の採択を受け実施した.このプロジェクトは,これまで充分な海底観測がなされていなかったこの巨大海台下の深部構造とその成り立ちを明らかにすることを目的としている.通常の海底広帯域地震・電磁気観測に加え,周辺島嶼での陸上臨時広帯域地震観測・反射法地震探査・船上磁力調査・精密海底地形調査・ドレッジによる岩石採取も実施した.2014年11月から2015年1月にかけての航海でBBOBS23台・OBEM20台を設置した.2017年1–2月に回収航海を行い,観測機器は全台回収された.一部のBBOBSにおいて機器不具合が発生し,BBOBSのデータ回収率は80 %弱であった.OBEMのデータは,20観測点全て解析可能なデータが取得できた.BBOBSのデータおよび周辺の陸上地震観測点の地震波形記録を用いて,オントンジャワ海台の上部マントルS波速度構造の解析を行っている.予察的な結果ではあるが,オントンジャワ海台中央部の深さ70–150 kmに約3 %の高速度異常が存在していること,オントンジャワ海台北方に東西に並んでいるカロリン諸島の下深さ300 kmまで3 %の低速度がみられることが明らかになった.

(4-2) 小笠原西之島

 小笠原西之島周辺海域において,西之島下のマグマ溜りおよび海洋島弧の電気伝導度構造を推定することを目的とした電磁気観測を2016年より継続的に行っている.本研究は,火山噴火予知研究センター,観測開発基盤センター,海洋研究開発機構,および気象庁気象研究所との共同プロジェクトである.2016年10月から2017年5月にかけての第1次観測では,当センターのOBEM4台と海洋研究開発機構のベクトル津波計(VTM)1台を設置・回収した.続いて2018年5月から同9月にかけての第2次観測では、当センターのOBEM5台を設置・回収した。第2次観測の回収の際に海洋研究開発機構のOBEM6台を新規に設置し,現在第3次観測を進行中である. 2019年5月に第3次観測のOBEM回収、および第4次観測の開始を予定している.構造解析は全ての観測データの収集を待って行う予定であるが,副次的成果として,2016年11月中旬に全磁力と傾斜に顕著な変動があったことが確認された.この期間,西之島の噴火活動は休止していたが,西之島を取り囲むように設置した5台全ての機器で同時期に変動が観測されたので,火山内部で生じた何らかの現象を捉えたものと考えられる.第2次観測中の2019年7月には小規模の噴火があり,これに関連すると考えられる全磁力の変化が各観測点で観測された.また西之島東側の斜面に設置したOBEMは設置時と回収時で位置が大きくずれており,OBEMの傾斜変化や磁場データが示すOBEMの回転などと併せて考えると,観測点付近で斜面崩壊を起こったことが推定される.

(5) 海半球ネットワークデータの編集・公開

 Boulder Real Time Technologies社のAntelopeというソフトウェアを用い,オーストラリア地質調査所,台湾中央研究院地球化学研究所,及びIRISとリアルタイムデータ交換を継続した. インドネシアの国内観測点, ADPCの観測点のデータの取得を継続した.

 超伝導重力計データの公開を継続した. 海洋研究開発機構と共同で,広帯域地震データ,GPSデータ,電磁気データの公開を継続した.

(6) データ解析に基づく地球の内部構造と内部過程の解明

 新しく導入した鉛直(軸対称)異方性(Radial Anisotropy, Vertical Transverse Isotropy)を記述する第5のパラメータの観測可能性の研究を継続した.このパラメータは,入射角に依存する実体波の位相速度を,楕円条件(elliptic condition)からのずれとして適切に評価するだけでなく,表面波の位相速度や地球の固有周期の偏微分係数の評価からも,長周期の波動場も適切に記述することがわかっている(Kawakatsu, 2016a,b GJI).今後の鉛直異方性の研究において使われるべきパラメータであり,PREMなどの標準地球構造モデルを改訂・構築する際にも有用となる.これまで鉛直異方性は,「Love波とRayleigh波の矛盾」として理解されてきたが,「表面波と実体波の矛盾」としても定義しうることが明らかになった.強い異方性が観測されているリソスフェア−アセノスフェア・システム(LAS)を特徴付ける新たなパラメターとしての研究を,国内外の研究機関(北大,フランス・IPGP,イギリス・ロンドン大学)との共同研究として進めている.また鉛直異方性媒質の反射・変換係数について考察を行ったところ,予想外にP波の異方性に敏感であることが明らかになった.このことは,鉛直異方性媒質では,レシーバー関数や地震波干渉法解析において,P波異方性の影響を考慮する必要があることを意味する.この予想外の観察を記述した論文が発表された.

 内核を通過するP波は,サウスサンドウィッチ諸島からアラスカに至る波線が特別に大きな走時異常を持ち,内核の異方性を示唆する証拠とされてきた.しかしアラスカに最近展開された稠密広帯域地震観測網を解析した結果,アレイ内で急激に走時異常が変動することを見出し,北米下の核-マントル境界上の大きな速度勾配により生じたと解釈できることを示し,国際学術雑誌で発表した.この結果は,従来の内核異方性の大きさの見積もりの見直しをせまる.

 インドの広帯域地震波形を解析し、太平洋のマントル最下部広域S波低速度領域(LLSVP)をサンプルする深発地震波形のS回折波に続く第2波を定量的に解析し,LLSVPの速度異常の大きさと厚さの分布を制約した.速度異常の大きさの地域性は大きくないが,厚さは有意に地域性があることを見出した.この結果からLLSVPは化学組成異常に起因することを示唆した.

 地球ニュートリノのシミュレーションに有効な,地球内部の化学組成モデルを推定する手法を提唱した.またこの手法を用い,KamLAND近傍の地殻化学組成分布モデルを構築した.ベイズ推定に基づき,地震波速度構造モデルから組成分布の確率密度関数を導き,他の研究者でも再現可能で,かつ誤差の定量化を可能とする定式化を行った.また,構築された組成モデルを用いKamLANDにおけるニュートリノフラックスを推定した.フラックス推定の誤差を定量化するとともに,従来の簡便な誤差評価が楽観的すぎることを示した.

3.6.5 そのほかの研究活動

(1) 火山の空振モニタリング手法の開発

 火山噴火に伴う空振の波形や振幅を正確に計測するため,新しい空振計を開発している企業や大気振動の研究者らと協力し,小型・低消費電力マイクロフォンやMEMSセンサー,高精度気圧計の比較試験および火山地域における長期評価試験を行い,必要な改良を進めた.また,2015年にフィレンツェ大学と共同で行った,桜島火山近傍での長期空振アレイ観測データを解析し,アレイ観測でしか捉える事の出来ない噴火と噴火の間の微弱な空振活動の有無や推移を明らかにした.より効率のよい空振アレイ観測の方法として,従来のアレイ観測よりも一桁空間スケールの小さい,10メートルサイズの3要素アレイの開発を行い,10度以下の精度で音源方向が推定できることを示した.空振計が1台しか設置されていない状況で発生した2015年箱根山大涌谷噴火に対し,地震―空振相関法を用いてデータから信号を抽出し,浅部の膨張と同時に空振を伴う表面現象が開始したことを示した.

(2) 無人ヘリやドローンを活用した火口近傍観測システムの開発と観測への応用

 活動的な火山において,観測者を危険にさらすことなく火口周辺での様々な観測を実施することを目的として,無人ヘリ火口近傍観測システムの開発を進めた.汎用の無線ラジコンヘリを火山観測に利用するため,様々な火山での飛行実績を積むとともに,観測に必要な様々な周辺機器,静止画・動画撮影用の機器を搭載するための専用雲台,地震計やGPS観測装置をヘリから降下設置するウインチ,無人ヘリ設置用の地震計モジュール,GPSモジュールなどを開発した.口之永良部島では2014年の噴火で被災した山頂付近の観測点の代替とすべく,2015年4月に火口近傍の4箇所に地震計を設置した.この地震計は2015年5月の噴火で失われたが,2015年9月に再度5点を設置した.観測データから2015年5月29日の噴火に先行して火口近傍で地震が急増していたこと,単色地震も増加していたことがわかった.また,可視画像・熱映像・電磁気・ガス等の多項目データから,活動の大きな変化を捉えることができた.火口に接近して得られたガスの分析により脱ガス時の見かけ平衡温度を推定した.2016年6月には,火口から1.5 km内が警戒範囲となっている西之島において,気象庁と共同で無人ヘリ(船上より離発着および制御)により活動・噴出物の観察および岩石試料の採取を行い,2017年度にかけて解析を進めている.2017年10月には,桜島山頂付近に地震計およびGPS受信機を設置した.

 無人ヘリコプターによる空中磁気測量も精力的に行っている.2011年霧島新燃岳噴火後の山体の帯磁状態の変化を把握するため,2011年5月,11月,2013年11月,2014年10月,2015年11月,2017年11月,2018年11月の計7回,新燃岳およびその西側,およそ3㎞四方の領域において,繰り返し空中磁気測量を実施した.測線間隔および対地高度はおおよそ100mで一定として測定フライトを実施した.このようにプログラムした航路を精確に測定飛行できることは繰り返し測量にとって大きな利点である.解析の結果,新燃岳火口内の溶岩は平均として4.0 A/m帯磁したと想定すると観測された全磁力データをよく説明することが判り,火口に蓄積された溶岩が熱拡散過程で順調に冷却している様子を明確にとらえることに成功した.また,三宅島においては,今後の火山活動を把握するための基礎資料とするために無人ヘリを用いた詳細な空中磁気測量を2014年5月と2016年11月に実施し,2017年度に解析を進めた結果,山体北側で負,南側で正の変化を検出した.2018年1月に噴火した,草津本白根山においても無人ヘリによる空中磁気測量を実施し,過去有人機により得られたデータとの比較解析を進めつつある.

 電動モーターを動力源とするいわゆる「ドローン」の性能が近年大幅に向上し,火山観測において活用できるレベルに達しつつある.火山センターではドローンを活用した火山観測も進めつつある.新燃岳においては,ドローンによる火口内への接近撮影を実施し,西之島においては船上から飛ばしたドローンによる画像撮影と試料採取を実施した.ドローンを空中磁気測量に活用するため実験も開始した.

(3) 噴火のダイナミクスの解明を目指した実験と理論研究

 爆発的な噴火の重要な素過程であるマグマ破砕のメカニズムを明らかにするため,マグマを模擬する発泡水あめに急減圧を与えて破砕を引き起こす実験を行ってきた.これまでの実験結果から,大きな気泡の近くに小気泡が存在する場合,減圧を受けた際に応力が集中して流動し,そこから破砕が発生するということが明らかになった.そこで,マグマ破砕過程を,「粘弾性流体の破壊現象」と位置づけ,定量的モデル化に向けた粘弾性構成方程式の構築と数値計算手法の開発を進めた.また,カルデラ噴火の際に噴出する発泡マグマに特有な構造として知られている,一様に伸長した気泡構造の成因と噴火ダイナミクスを明らかにするため,ポリウレタンフォームを模擬物質として用いた変形・硬化実験を行い,同様の構造を再現することに成功した.同時に,気泡変形計算プログラムを作成し,気泡の変形度と流動履歴の関係を定量的に解析することが可能になった.一方,マグマ混合・発泡・膨張・噴出,という一連の噴火過程を表現し,各種の模擬観測によるモニタリングも可能とする噴火実験装置を開発し,教育・普及活動に活用した.さらに,この実験で見られる振動現象の物理を追求することにより,噴火の周期性の乱れを引き起こす要因について,新たな示唆が得られた.

(4) 衛星技術を活用した火山活動の把握

 2009年よりJAXAと共同でGCOM-C衛星のSGLI画像を利用したリアルタイム火山観測システムの開発に取り組んでいる.SGLIは分解能が250mと比較的高く,溶岩流の拡大や火砕流の発生等,噴火状況の変化を高頻度で捉えることができる.このSGLI画像により2018年に起きたハワイ島,キラウエア火山の噴火解析を行い,溶岩流拡大状況の時間変化や噴火初期の割れ目火口等捉えることができることを確認した.また,2014年に打上げられたひまわり8号画像を用いたリアルタイム火山観測システムの改良と試験運用を進めている.ひまわり8号の赤外バンドは,分解能2㎞であるが全球の観測頻度が10分毎と,極めて時間分解能の高い熱異常観測を行うことができる.このひまわり8号のデータにより,西之島2017年噴火(2期;西之島の項で記述)やインドネシア・ラウン火山2015年噴火等の解析を行った.この内,ラウン火山の噴火では,溶岩流噴出ステージが2つに分かれること,短時間スケール(日)で見ると噴出率は基本的にほぼ一定であることが判った.これは噴出的噴火の一つの特徴と考えられた.また,噴火の開始や再活発化に先行して,前兆的な熱異常が発生していることがわかった.他方,ひまわり8号の1.6 µm,2.3 µm バンドの夜間画像において,春分および秋分期を中心とする約6ヶ月間,特異な熱異常が広範に現れ,火山熱異常観測の大きな妨げになることを見出した.ひまわり8号データの年および日変化の検討から,この熱異常は太陽迷光の影響による見かけの熱異常であることを明らかにすると共に,補正方法の検討を行った.考案した補正方法により,年間を通じて1.6 µm,2.3 µm バンドを火山の熱異常観測に利用することが可能となった.

(5) 西之島における噴火活動の把握

 小笠原諸島の西之島は,2013年11月に海底噴火を開始し,2015年11月頃までに噴出した溶岩は旧島の大半を覆い面積で2.7㎞2,噴出量は1.6㎞3に達した(1期).その後活動が一旦低下し,2016年10月には上陸調査を実施する機会を得た.しかし,2017年4月(2期)および2018年7月(3期)に活動が再度活発化し,溶岩流が噴出した.火山センターでは関係者と協力しつつ,地質学と地球物理学の両面から火山島成長のプロセスを明らかにしつつある.

遠隔調査: 2013年11月の再噴火以降,西之島の火山島成長のプロセスを衛星画像に基づいて把握し,溶岩噴出率の推移等を明らかにしている. 2016年6月の観測では気象庁の啓風丸に乗船し,火口から1.5㎞の範囲に設定された規制区域の外から無人ヘリコプターによる観測を実施した.4Kカメラによる島内の撮影を行い,溶岩流の形態的特徴を詳細に捉えるとともに,島内中央付近に成長したスコリア丘の内部及び表面に発達した亀裂構造を観察した.加えて,スコリア丘の麓において溶岩組成分析を目的としたスコリアのサンプリングを実施した.また, 2期活動の噴出物調査のため,2018年気象庁の凌風丸に乗船し,ドローンによる地形観測,試料採取等を行った.さらに,他の部門・センターとの共同で,西之島周辺海域に海底地震計を設置して,噴火活動に伴う振動を連続的に観測することに成功し,2015年から2017年にかけての西之島の噴火活動の推移を連続的に把握した.一方で,2期の活動推移を明らかにするために,ひまわり8号赤外画像と,ランドサットOLI,プレアデス,ALOS-2画像等の高分解能画像を用いた組合せ解析を行った.この結果,2期の活動は2017年4月中旬から8月上旬まで続き,陸上および海面下を併せた2期の総噴出量は 1.6 x 107 m3 ,平均噴出率は 1.6 x 105 m3/dayと推定され,当該期の平均噴出率は第1期と同程度かやや低いことが明らかになった.詳しい時間変化について見ると,噴出率は初期に高く全体として時間と共に低下傾向を示すが,活動中頃(6月上旬)に一時的に高まるステージをもつことがわかった.

 西之島から130km離れた父島に設置した空振計と気象庁の地震計のデータを用い,相互相関解析から,西之島の噴火に伴う空振活動の把握を行った.また,波の力だけを用いて海上を移動する無人ボート,ウェーブグライダーを用いた海上インフラサウンド計測システムを開発し,実用試験を行った.父島近海から放流し,西之島まで航行,西之島を中心とする半径5kmの周回軌道を5周して父島近海に帰還するまでの10日間,空振および水中ハイドロフォンのデータを収録し,一部を衛星通信によって送信を続けた.試験の結果,システムが実用レベルに到達したことを確認した.

上陸調査: 2015年秋以降の活動低下を受けて,2016年10月16日から25日にかけて西之島の火山活動と生物相の調査を実施した.本調査では,生態系は世界自然遺産に指定されている西之島への外来種持ち込みのリスクを最小限に抑えるために,地球科学と生態系の研究者が相互に協力して上陸調査を実施した.調査内容は,西之島に上陸しての地質調査および火山噴出物の採取,地震・空振観測点の設置,噴火後の海鳥営巣状況の把握と,西之島周辺海域での海底地震計,海底電位磁力計の設置・回収とウェーブグライダーを用いた離島モニタリングシステムの試験であり,予定した調査をほぼ計画通りに実施できた.2016年10月の上陸調査の際に設置した島内の地震・空振観測点は,噴火開始1日前から火道内部のマグマ上昇を示すと考えられる低周波地震や傾斜変動を捉えることに成功した.上陸調査では西海岸に上陸して,2014年3月から2015年11月頃までに噴出した溶岩・噴石及び旧島の溶岩を採取した.これらの噴出物について,XRFによる全岩化学組成分析を行った結果,全ての試料についてSiO2含有量59.5-59.9wt%の安山岩組成であり,1973-1974年噴出物と旧島溶岩との中間的な組成であること,及び今回の溶岩は化学組成が狭い範囲に集中し,時間経過とともSiO2含有量がやや低下した可能性があることがわかった[図3.6.5].さらに,2018年7月に小規模な再噴火と溶岩流の流出が発生したが,9月の調査でドローンを使用した地形調査及び噴出物の回収などを実施し,新たな溶岩流の詳細な情報を入手した.なお,この調査は気象庁海洋気象観測船「凌風丸」の協力の下,気象研究所との共同研究として実施された.

(6) 海外の火山における噴火活動の研究

 2010年に有史初めての噴火を開始したインドネシアのシナブン火山において,SATREPSプロジェクト(インドネシアにおける地震火山の総防災策)として,インドネシア・火山地質災害軽減センターと共同で現地調査を実施し,地質図を作るとともに,将来の噴火に備えたイベントツリーを作成した.また,2013年からは,ケルート,メラピを含む活動的6火山を対象に,火山地質災害軽減センターと共同研究を新たなSATREPSプロジェクト(火山噴出物の放出に伴う災害の軽減に関する総合研究)として開始した.その間,インドネシアで進行中の火山噴火についての活動評価を分担している.2013年に活発化したシナブン火山において,溶岩流/ドームの成長をレーザー距離計による計測や衛星写真からの図化により地形変化を解析し,噴出率が時間とともに指数関数的に減衰したことを明らかにした.また,火山灰や火砕流堆積物中の溶岩試料の化学分析を継続して実施し,マグマ組成がほとんど変化せず,噴出率の低下により結晶度が増していることを示した.2015年からは噴出率が低下しているにもかかわらずブルカノ式噴火が繰り返して起こり2年以上継続した.これは山頂が地形的に不安定のために溶岩ドームが崩れ続けて大きくなれず,火口上の溶岩の荷重圧を稼ぐことができずに,ダラダラと溶岩供給が続き,火道上部では,マグマからの脱ガスが不完全なために爆発が継続していると解釈した.2014年2月13日にプリニー式噴火を起こしたケルート火山において現地調査を実施し,噴出量や噴火の推移を明らかにした.そこでは,プリニー式噴火に先行して,先の噴火でできた溶岩ドームを噴き飛ばす爆発的な噴火によって火砕サージが発生したこと,プリニー式噴火の噴煙柱が崩壊して火砕流が火口から周囲に発生したことなどを明らかにした.

 1980年代に災害を伴う噴火を発生したコロンビア共和国のネバドデルルイス火山およびガレラス火山を対象とする,SATREPSプロジェクト(コロンビアにおける地震・津波・火山災害の軽減技術に関する研究開発)の一環として,火山の表面活動を監視するシステムの開発を分担している.対象の2火山を含む,中南米地域の活動的な火山の熱活動を,衛星赤外画像から監視するシステムを開発し,現在活動を続けているネバドデルルイス火山における熱異常を捉えると共に,この地域での雲活動の変化のデータへの影響を評価した.また,ネバドデルルイス火山に新たに整備した空振観測網のデータを用いて,微弱な噴火に伴う空振の自動検出を試み,目視等による噴火検出を補助する情報として有用であることを示した.

(7) 大規模噴火に関する研究

 南九州鬼界カルデラにおける7.3 ka噴火(アカホヤ噴火)およびその前後の活動履歴を明らかにするための地質学的・物質科学的解析を行った.アカホヤ噴火のステージ1(プリニー式噴火)とステージ2(大規模火砕流)の間に存在する時間間隙を示唆する地質痕跡の調査,解析を進めるとともに,ステージ1末期の堆積物について,溶結構造や構成物データと,溶結現象の理論モデルを用いて,高温で定置した堆積物が自重により変形し,十分冷却して層厚や堆積構造(溶結度)が決まるまでのプロセスを推定する手法を開発した.さらに,モデルをステージ1-2間の時間スケール推定に応用した.一方,ステージ2堆積物については,礫質及び軽石質堆積物の互層からなる複数の堆積ユニットに区分でき,最上位の軽石質層が最も厚いことがわかった.このことから,クライマックスでは単に1回の大規模火砕流が発生したわけではなく,段階的に火道の形成・拡大が進行し,その中で最大のものが鹿児島本土など遠方まで到達したと考えられる.さらに,薩摩硫黄島西部カルデラ壁付近において北大と共同で実施したボーリング掘削(H27-28年度)の解析を進めた結果,アカホヤ噴火以降にこれまで知られていなかった玄武岩および安山岩マグマの活動があったことがわかった.とくに一部の溶岩は高MgO値のBoninite質であり,カルデラ形成以降のマグマ進化を解明する上で重要な成果が得られた.