LaCoste重力計での重力測定
(PDF版はこちら, 2006/6/28 基礎地学実験@九州大学用に作ったもの)
LaCoste重力計の検定・調整
(PDF版はこちら, 2008/7/22 作成,2012/11/14 修正)
LaCoste重力計の検定台
(マイクロメータを100μm上下させると,10秒傾斜させることができる)
東京大学 地震研究所
渡邉 篤志
初版 2008/08/06
改訂版 2012/11/14
二訂版 2013/07/19
三訂版 2017/06/05
LaCoste重力計での測定手順
- 測定基準点の近くに,がたつかないように台(お皿)を置きます.
- ケースから重力計本体を取り出し,静かに台の上に置きます.
- 検流計を接続します.
- 傾斜計の針が中央になるように黒いノブを回して整準します.
- 移動時にビームが動かないようにしているクランプを外します.
クランプを外すには,クランプねじを反時計方向に一杯まで回します.
- ダイヤルを回して検流計の針が0μAになるように調整します.
ダイヤルは必ず時計回りで合わせるようにします.
針が0μAになったときの値が,読み取り値です.
値はカウンターとダイヤルの両方から読み取ります.
読み取る値は,カウンターの上4桁と,ダイヤルの目盛から3桁です.
ダイヤル読み取り値の最後の1桁は,目盛の間を10等分して目分量で読みます.
下図の場合,“3129 777”です.
カウンターの4桁はmgal単位,ダイヤルの3桁はμgal単位です.
- 読み取った値と時刻を野帳に記入します.
- ダイヤルを反時計方向に1回転させ,再度4〜7を繰り返します.
- クランプねじを時計方向にまわしてクランプをかけます.
- 重力計の器械高と大気圧を測定します.
(ほとんどの場合,基準点の上面からトッププレート上面までの高さを器械高にします.)
- 重力計をケースに納めます.
補足事項
- 2., 4., 5.を行う理由
- 重力計は超精密機器なので,乱暴に扱うと器械が壊れてしまう.
特に,ゼロ長ばねが衝撃で伸びたり縮んだり,ヒンジが傷んだりするので,取り扱いには要注意.
- 器械の整準が出来ていないと,同じ重力下で同じ質量の錘を吊るしても,ばねの伸びる長さ・釣り合いの位置が変わってしまう.
- クランプしていないと,ビームが自由に動いてぶつかって壊れてしまう.
- ダイヤルを回す方向
ダイヤルは2×2枚の歯車で回していて,重力計の歯車にも“遊び”が存在します(100μgal分くらい).
微調節時にダイヤルを逆方向にまわすと,ダイヤルは回っていても,遊びの分歯車が空転してしまいます.
微調節時に検流計の針が行き過ぎたら,潔く諦めて,一旦反時計方向に大きく回して再調節しないといけません.
データ処理
1. 生データ
i. 野帳の記録
観測点名 | 時刻 | 読み取り値 | 器械高 | 気圧 |
hh:mm | cm | hPa |
G-01 | 8:40 | 3004.598 | 25.3 | 1011.4 |
8:42 | 3004.597 |
G-07 | 9:29 | 2956.012 | 11.7 | 1004.7 |
9:34 | 2956.010 |
G-04 | 10:16 | 2908.679 | 7.6 | 991.3 |
10:20 | 2908.678 |
G-07 | 11:01 | 2955.956 | 11.7 | 1003.6 |
11:08 | 2955.955 |
G-01 | 11:32 | 3004.505 | 25.6 | 1010.0 |
11:35 | 3004.504 |
ii. 各測定記録を平均
観測点名 | 時刻 | 読み取り値 | 器械高 | 気圧 | /tr>
hh:mm | cm | hPa |
G-01 | 8:41 | 3004.598 | 25.3 | 1011.4 |
G-07 | 9:32 | 2956.011 | 11.7 | 1004.7 |
G-04 | 10:18 | 2908.679 | 7.6 | 991.3 |
G-07 | 11:05 | 2955.956 | 11.7 | 1003.6 |
G-01 | 11:34 | 3004.505 | 25.6 | 1010.0 |
2. 各種補正
読み取り値から相対重力値を求めるために,係数換算値への変換(c),器械高補正(d, e),気圧補正(f〜h),潮汐補正(i),ドリフト補正(k〜o)を行います.
その他に極運動(極潮汐)(周期は1年以上,最大振幅は数μgal)が測定値に影響しますが,短時間の往復測定ではその影響が無視できるので補正しません.
i. 係数換算,器械高補正,気圧補正,潮汐補正
観測点名 | a | b | c | d | e | f | g | h | i | j |
時刻 | 読み取り値 | 係数換算値 | 器械高 | 器械高補正 | 大気圧 | 気圧差 | 気圧補正 | 潮汐補正 | 補正済み重力 |
hh:mm | mgal | cm | mgal | hPa | hPa | mgal | mgal | mgal |
G-01 | 8:41 | 3004.598 | 3036.523 | 25.3 | 0.078 | 1011.4 | - | - | -0.021 | 3036.580 |
G-07 | 9:32 | 2956.011 | 2987.419 | 11.7 | 0.036 | 1004.7 | -6.7 | -0.002 | -0.026 | 2987.427 |
G-04 | 10:18 | 2908.679 | 2939.584 | 7.6 | 0.023 | 991.3 | -20.1 | -0.006 | -0.045 | 2939.556 |
G-07 | 11:05 | 2955.956 | 2987.364 | 11.7 | 0.036 | 1003.6 | -7.8 | -0.002 | -0.064 | 2987.334 |
G-01 | 11:34 | 3004.505 | 3036.429 | 25.6 | 0.079 | 1010.0 | -1.4 | 0.000 | -0.074 | 3036.434 |
ii. ドリフト補正
観測点名 | k | l | m | n | o | p |
往復時間差 | 往復差 | ドリフト係数 | ドリフト補正量 | ドリフト補正後 | 平均値 |
hour | mgal | mgal/h | mgal | mgal | mgal |
G-01 | 2.88 | -0.146 | -0.0509 | 0.000 | 3036.580 | 3036.581 |
0.147 | 3036.581 |
G-07 | 1.55 | -0.093 | 0.043 | 2987.470 | 2987.463 |
0.122 | 2987.458 |
G-04 | 0.00 | 0.00 | 0.082 | 2939.638 | 2939.638 |
補足事項
- 係数変換値への変換 (c)
- 同一の重力下でも,ばねの伸びは器械ごとに異なり,カウンターやダイヤルの指す値と重力値も異なります.
読み取り値から器械固有の癖を取り除き,真の重力値を得るために係数変換を行います.
- 係数換算表は各器体固有のもので,100カウンター(約100mgal)毎の換算表から読み取り値に対応する重力値を内挿します.
- 器械高補正 (d, e)
- 重力は,地球中心から遠ざかるにしたがって減少します.
したがって,同じ測定点でも測定される重力値は器械の高さによって変化します.
これを補正するのが器械高補正で,器械高に対してフリーエア補正を行います.
- Δgh = 3.086 μgal/cm
- 大気圧補正 (f〜h)
- 重力計内の錘などには,大気による浮力が生じます.
浮力をキャンセルする機構が備わっていますが,完全とは言い切れません.
また,上空大気の質量が変わることにより,上向きの引力も変わります.
したがって,同じ測定点でも測定される重力値は大気圧によって変化します.
これを補正するのが大気圧補正で,気圧差に比例した補正を行います.
- Δgp = 0.3 μgal/hPa
- (固体)潮汐補正(i)
- 測定された重力は,地球の万有引力と他天体(月・太陽)の万有引力の和です.
月・太陽は天球上を運動するので,同一地点でも時刻とともにそれらが及ぼす引力(潮汐力)が変化します.
しかし,潮汐力は天文力学によって精密に計算できるので,地球の万有引力が知りたい場合は,測定値から潮汐力を取り除くことができます.
島嶼部などでは,海水の万有引力による海洋潮汐の影響も無視できなくなる場合があるので,必要に応じて計算して補正します.(GOTIC2などで計算できます)
- ドリフト補正(k〜o)
- 理想的なばねであれば,外力が一定のときには一定の長さを保ちます.
しかし,現実のばねは完全弾性体ではないので,これはあり得ません.
ばねに外力がかかると,極僅かですがクリープします.
これにより,一定の重力下であっても,測定される重力値は見掛け上は時間とともに変化していきます.
この見掛け上の時間変化をドリフトと呼びます.
- 測線上の各測定点で往路と復路の2回ずつ測定を行い(折り返し地点でも時間をおいて2回測定するのが望ましい),往復差と時間差の関係が1次関数で近似できると仮定してドリフトを補正します.
LaCoste重力計の検定・調整
(前川さん@UVOの文書を再構成したものです.検定用紙はPDFの最後のページにあります.)
- 必要工具
六角レンチ(少し長めのボールポイントがGood!).サイズは 3/32''.
精密ドライバー(−).サイズは 2.5〜3.0mm.
- リードアウトアンプの感度調整
検流計を使用せずに内部ガルバーにて,100μgalが1目盛となるようにSENSの調整ネジを回す.
(むやみに感度を上げると不安定になる)
この時,検流計は20μgal = 0.5〜1.0μA位になる.
- オフセット角を変えると,リーディングラインも変わる.
プレートに書かれている値はメーカー出荷時のもので,オフセット角50秒のリーディングラインです.
- 潮汐の下調べ
検定中に潮汐が大きく変化すると,測定中に検流計の針が動いていってしまうので,予め地球潮汐を計算して潮汐変化が小さい日時を割り出しておく.
リーディングラインの粗調整
- 検定台のマイクロメーターをゼロに合わせる.
- 重力計の整準をとり,いつものようにダイアルを回して検流計をゼロに合わせる.
- ロングレベルを左右に40秒ずつずらす.
検流計が両傾斜とも同じくらい+側に振れたならば,現在のリーディングラインは正しい.
- 傾斜計の気泡がの時,検流計が大きく+側に振れたならば,リーディングラインは低すぎる.
- 傾斜計の気泡がの時,検流計が大きく+側に振れたならば,リーディングラインは高すぎる.
傾斜方向と同じ方向に検流計が振れたならば,リーディングラインは大幅にずれている.
- 大幅にずれているときは,重力計の整準をとり,検流計を-2〜3μAに合わせてから,ロングレベルを左右に40秒ずつずらす.
傾斜と同じ方向に動いても
* 小さくなる ⇒ 近付いた
* 大きくなる ⇒ 遠ざかった
大きくなる時は,+2〜3μAに合わせる.
2〜3μAでも近付かない時は5〜10μAで合わせてみる.
- 6. を繰り返して,リーディングラインを大まかに合わせておく.
次の検定で正確に合わせることができる.
次に,オフセット角,リーディングラインを決定する.
オフセット角・リーディングラインのずれの算出
- 検定台のマイクロメーターをゼロに合わせて,重力計の整準をとる.
- ロングレベルを40秒左へずらし,検流計を-10μAに合わせてダイアル読み値を記入する.
レベルはそのままにして,ダイアルを回して検流計を+10μAに合わせてダイアル読み値を記入する.
- ダイアルはそのままで,ロングレベルを40秒右へずらす.(検流計は+10μA付近にあるはず)
検流計を+10μAに合わせてダイアル読み値を記入する.
レベルはそのままにして,ダイアルを回して検流計を-10μAに合わせてダイアル読み値を記入する.
- 電卓で計算する.
| -40秒 (⇐ ) | +40秒 (⇒) |
+10μA | 3879.352 | 3879.468 |
-10μA | 3879.219 | 3879.110 |
| 133 | 358 |
x1 | = | -40 | | x2 | = | 40 |
y1 | = | 133/40 | | y2 | = | 358/40 |
| = | 3.325 | | | = | 8.950 |
オフセット角(θ)の算出
(x1, y1), (x2, y2)を以下の式に代入して,
α = (y1-y2)/(x1-x2) = 0.0703125
β = y1-y2 = 6.1375
θ = -β/α = -87.3 (")
リーディングラインのずれの算出
a = 3879.352 - 3879.468 = -116
b = 3879.219 - 3879.110 = 109
Δ = (a+b)/(a-b)×-10 = -0.31μA
オフセット角の調整(-100秒くらいが安定して読み取れる)
もし,オフセット角の計算結果が-60秒であれば,傾斜計を右に40秒ずらす.
- 検定台のマイクロメーターをゼロに合わせて,重力計の整準をとる.
- マイクロメーターでロングレベルの気泡を40秒右にずらす.
- 本体の気泡管(と傾斜計)をゼロに合わせる.
オフセット角の計算結果が-150秒であれば,ロングレベルの気泡を50秒左にずらして,本体の気泡管(と傾斜計)をゼロに合わせればよい.
リーディングラインの調整
ずれの計算結果が-10μAならば,検流計を-10μA振った位置をリーディングラインとする.
- 重力計の整準をとり,検流計を-10μAに合わせる.
- ZEROの調整ネジを回して検流計を0μAに合わせる.
クロスレベルのチェック
- 重力計を90度横向きに検定台に載せ直したら,いつものように整準をとり,検流計が±0μAになるようにダイアルを合わせる.
- クロスレベルを60秒ずらして検流計の読み取り値を記入する.
- 10秒戻して検流計の読み取り値を記入する.
これを繰り返して+60〜-60秒まで13点の読み取り値を記入する.
- 0秒付近が極小値になっていれば良好で,精密測量でも安心して測定できる.
調整の確認
- ここまで調整ができたら,もう一度最初(リーディングラインの粗調整)から繰り返して,正しく調整されているか確認する.
一回で正しく調整できることは極めて稀であるので,根気良く調整を繰り返そう.
- 最後に,重力計の整準をとり,ダイアルを回して検流計をゼロに合わせる.
検定台のマイクロメーターを左右に10秒ずつ回してアンメーターを読む.
±0.5μA位なら安定して読み取りができる.(±0.0μAなら最高です!)
- オフセット角を変えると,リーディングラインも変わる事をお忘れなく…
LaCoste重力計の検定台
LaCoste重力計の検定・調整には数秒の精度で傾斜できる検定台が必要です.
火山の重力グループが使用している検定台から採寸して,図面を引きました.
これはシンプルかつコンパクトな検定台で,マイクロメータを100μm上下させると左右に約10秒傾きます.
加工・組立の精度や板ばねによって傾きが若干違いますので,傾斜計で確認して下さい.
手元にある検定台は,105μmで10秒傾きます.
検定台の設計図(PDF)
完成品はこんな感じ.
LaCoste重力計を載せるとこんな感じ.
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