カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.11.8 テレメータ室の活動

(1) テレメータシステムの運用管理

 観測開発基盤センターの地震・火山観測網で,地震波形データをはじめとする,各種リアルタイム観測データの伝送および連続収録を行うテレメータシステムの運用管理を継続している.研究者が目的に応じて接続するセンサーの連続データを,途切れなく伝送し収集・提供するとともに,一部イベント収録処理も行う.伝送手段としては衛星通信(VSAT)や,ISDN・ADSL・光回線・無線LAN・モバイル通信等,最新の通信技術を取り入れた各種IP通信回線を利用している.管轄する観測点数は地震・火山合わせて約200である.特に衛星通信については,全国の大学の共同利用設備として,VSATシステムのハ ブ局を東京と長野の2か所で運用し,140局のVSATの維持管理を行い,地上回線の利用が困難な山間僻地や離島での機動的な観測研究に貢献している.また2013年以降,観測点からフレッツ系およびモバイル系回線でデータをSINET4データセンタへ直接収集して直ちにJDXnetに乗せる,耐災害性の高いデータ伝送システムの運用中である.2015年度末にはSINET4からSINET5へ,2016年7月にはJGN-Xから新JGNへの移行に対応した.

 (2) 全国の大学を含む各機関とのデータ交換システムの運用管理

 リアルタイム観測データの全国的な流通のため,各大学や地震火山情報センターと協力して,高速広域網新JGNとSINET5のそれぞれ L2VLANサービスや,フレッツ系回線等を利用し,全国の大学等を結ぶJDXnet(Japan Data eXchange network)を構築・運用管理している.また,地震観測に関係する全国の大学を代表して,東京大手町にあるTDX(Tokyo Data eXchange)を介した,気象庁・防災科研等他観測機関とのリアルタイムデータ交換の窓口の役割を果たしている.そのために,TDX,衛星通信ハブ局 等の拠点間を接続する延長約300kmの光ファイバー通信網を構築・運用管理している.これらの高速広域ネットワークにより,全国の広範な研究者が各機関 の全国千数百観測点に上るリアルタイム観測データを研究利用することが可能になっている.

 (3) 収集データの利用支援

 テレメータシステムやデータ交換システムによって収集されたデータは,所内ネットワークやインターネットを通じて所内外の研究者に提供される.それ には収録済みデータのオンライン利用やオフライン利用(テープの再生等)とともに,インターネットやJDXnetを介したリアルタイム配信サービスも含まれる.これら所内外の共同利用ユーザーに対する技術的および手続き面での支援を行っている.また,これまでに蓄積されたすべての地震データをオンライン提供するため,地震予知研究センター・地震火山センターと協力して,容量1.3 ペタバイトの長期間地震波形データ等解析システムを導入し,システム開発を継続した.(地震予知研究センターの章参照).

(4) 観測機材の全国共同利用への対応

 地震観測用VSATシステムおよび地上テレメータ装置,データロガー等を地震研共同利用の手続きに従って全国の大学の研究者に提供(貸し出し)しており,2017年3月15日現在の貸し出しは791件である.

3.10.7 超高精度の時計比較技術を応用した標高差計測

 時計比較技術の高精度化の進展が著しく,遠隔地間での比較実験が世界で精力的に続けられている.アインシュタインの相対性理論によると,異なる高さに置かれた時計は設置点における重力ポテンシャルの差によって異なる時を刻む.そのため,遠隔地間での超高精度な時計比較は,相対論的効果に伴う標高差決定という測地学的応用が期待されている.東京大学大学院工学系研究科,国土地理院と共同で,直線距離で約15km離れた東京大学(東京都文京区;東大)と理化学研究所(埼玉県和光市;理研)に光格子時計を設置し,時計比較に基づいて2点間の標高差測定を5cmの精度で成功した.また,水準測量による標高差計測を行い,時計比較の誤差範囲で一致することを明らかにした.

時計比較は連続的に計測可能である.2点の重力ポテンシャルは,標高差に対応する静的な差に加え,地球物理的諸現象,特に,地球潮汐(ET)と海洋潮汐荷重(OTL)に伴う摂動により,時間変動する動的な差を持つ.そこで,最新のETとOTLのモデルと地球の構造(ラブ数)モデルを用いて,重力ポテンシャル差の摂動を見積もった.近接した東大と理研間では変動が相殺され,ETとOTLとも標高差で1mmに満たないことが分かった.一方,約200km隔てた理研と柏崎験潮場間では,ETで4cm,OTLで1cmを超える摂動が生じうることを明らかとした.標高差精度1cmに相当する時計比較の実現は,これらの摂動を直接計測する道具をもたらし,また,火山活動に伴う地殻(上下)変動やプレート運動も監視することが期待される.

東北地方太平洋沖地震後の関東領域におけるM4以上の地震数の推移(赤:予測,黒:観測).

東北地方太平洋沖地震後の関東領域におけるM4以上の地震数の推移(赤:予測,黒:観測).

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.

3.10.6 硫黄山(えびの高原)火山活動に伴う地殻変動

 霧島火山群のひとつである硫黄山では,2013年夏ごろより地震活動が活発化し,2015年2月ごろには傾斜変動が見られた.また,2015年7月および10月には火山性微動が観測された.2016年に入り地震活動は低調であるが,地表における高温域は維持されている.そこで我々は,ALOS-2衛星により観測された合成開口レーダーの干渉解析を行い,この活動にともなう地殻変動の推移を求めることを試みた.その結果,硫黄山付近では数100 m程度の狭い領域で2015年前半から2016年半ばにかけて最大60-70 mm程度隆起したことが明らかになった.求められた変動パターンは1990年代にJ-ERS衛星により観測された沈降とパターンが類似しており,これらの沈降と隆起は同じ場所での減圧および増圧により引き起こされたことが示唆される.

観測された地殻変動は球状圧力源とシルの増圧どちらでも説明することができるが,球状圧力源の増圧を仮定した場合には岩石強度を大きく越える増圧が必要であるために,観測された地殻変動を説明するためにはシルの増圧がより確からしいことがわかった.シルの増圧は地下約600 mの深さで発生していることが明らかになったが,この深さは電磁気観測によって求められた不透水層および低比抵抗領域の下限に相当する.また,観測された地殻変動をよりよく説明するためには,不透水層の上限よりも浅い地下数10 mの深さでのシルの増圧源の存在が必要である.ただ,このシルの増圧量は岩石強度を大きく越える量であることが要請され,この力源の周辺では塑性変形が起きている,もしくは弾性率が極めて低いことが予想される.より現実的な地下構造を用いての地殻変動モデリングは今後の課題である.