カテゴリー別アーカイブ: CCPREVE

3.10 Coordination Center for Prediction Research of Earthquakes and Volcanic Eruptions

3.10.7 超高精度の時計比較技術を応用した標高差計測

 時計比較技術の高精度化の進展が著しく,遠隔地間での比較実験が世界で精力的に続けられている.アインシュタインの相対性理論によると,異なる高さに置かれた時計は設置点における重力ポテンシャルの差によって異なる時を刻む.そのため,遠隔地間での超高精度な時計比較は,相対論的効果に伴う標高差決定という測地学的応用が期待されている.東京大学大学院工学系研究科,国土地理院と共同で,直線距離で約15km離れた東京大学(東京都文京区;東大)と理化学研究所(埼玉県和光市;理研)に光格子時計を設置し,時計比較に基づいて2点間の標高差測定を5cmの精度で成功した.また,水準測量による標高差計測を行い,時計比較の誤差範囲で一致することを明らかにした.

時計比較は連続的に計測可能である.2点の重力ポテンシャルは,標高差に対応する静的な差に加え,地球物理的諸現象,特に,地球潮汐(ET)と海洋潮汐荷重(OTL)に伴う摂動により,時間変動する動的な差を持つ.そこで,最新のETとOTLのモデルと地球の構造(ラブ数)モデルを用いて,重力ポテンシャル差の摂動を見積もった.近接した東大と理研間では変動が相殺され,ETとOTLとも標高差で1mmに満たないことが分かった.一方,約200km隔てた理研と柏崎験潮場間では,ETで4cm,OTLで1cmを超える摂動が生じうることを明らかとした.標高差精度1cmに相当する時計比較の実現は,これらの摂動を直接計測する道具をもたらし,また,火山活動に伴う地殻(上下)変動やプレート運動も監視することが期待される.

3.10.6 硫黄山(えびの高原)火山活動に伴う地殻変動

 霧島火山群のひとつである硫黄山では,2013年夏ごろより地震活動が活発化し,2015年2月ごろには傾斜変動が見られた.また,2015年7月および10月には火山性微動が観測された.2016年に入り地震活動は低調であるが,地表における高温域は維持されている.そこで我々は,ALOS-2衛星により観測された合成開口レーダーの干渉解析を行い,この活動にともなう地殻変動の推移を求めることを試みた.その結果,硫黄山付近では数100 m程度の狭い領域で2015年前半から2016年半ばにかけて最大60-70 mm程度隆起したことが明らかになった.求められた変動パターンは1990年代にJ-ERS衛星により観測された沈降とパターンが類似しており,これらの沈降と隆起は同じ場所での減圧および増圧により引き起こされたことが示唆される.

観測された地殻変動は球状圧力源とシルの増圧どちらでも説明することができるが,球状圧力源の増圧を仮定した場合には岩石強度を大きく越える増圧が必要であるために,観測された地殻変動を説明するためにはシルの増圧がより確からしいことがわかった.シルの増圧は地下約600 mの深さで発生していることが明らかになったが,この深さは電磁気観測によって求められた不透水層および低比抵抗領域の下限に相当する.また,観測された地殻変動をよりよく説明するためには,不透水層の上限よりも浅い地下数10 mの深さでのシルの増圧源の存在が必要である.ただ,このシルの増圧量は岩石強度を大きく越える量であることが要請され,この力源の周辺では塑性変形が起きている,もしくは弾性率が極めて低いことが予想される.より現実的な地下構造を用いての地殻変動モデリングは今後の課題である.

3.10.5 西之島における火山観測

 小笠原諸島の西之島は,2013年11月に海底噴火を開始し,2015年11月頃まで活動が続いた.噴出した溶岩は旧島の大半を覆い面積で2.7㎞2,噴出量は1.6㎞3に達した.推進センターにおいては,火山センターと密接に協力しつつ,2度にわたって西之島の観測を実施した.

 2016年6月の観測では,気象庁の啓風丸に乗船し,火口から1.5㎞の範囲に設定された規制区域の外から無人ヘリコプターによる観測を実施した.4Kカメラによる島内の撮影を行い,溶岩流の形態的特徴を詳細に捉えるとともに,島内中央付近に成長したスコリア丘の内部及び表面に発達した亀裂構造を観察した.また,スコリア丘の麓において溶岩組成分析を目的としたスコリアのサンプリングを実施した.

 2016年8月には規制区域が500mに縮小され,上陸が可能になった.これを受けて,2016年10月に大気海洋研の新青丸に乗船し,上陸調査を実施した.上陸調査においては,地震計および空振計を旧島に設置した.設置したシステムは,太陽電池により電力を供給し,広帯域地震計,空振計の2種類のセンサーを備え,西之島の火山活動の再活発化に伴う地震活動の変化,微動など火山性地震の検出,噴火やスコリア丘崩壊などに伴う空振の発生に備えたものとなっている.データは衛星通信を介して東京まで転送される.衛星通信で全ての連続データを送るのは経費的に困難であるため,1日分の波形を1枚の画像に圧縮したものを毎日定時に転送し,その中に特異なイベントが含まれていた場合に該当する時間帯の波形ファイルを衛星経由で回収するという仕組みを実装した.これにより,通信料を抑制しつつ活動状況を連続的にモニターすることが可能になった.

3.10.4 2016年熊本地震に誘発された大分県中部の地震

2016年4月16日熊本地震M7.3による地震波の伝搬中に,大分県中部でM5.7(気象庁の参考値)の地震が発生した.本震からの地震波が通過中にM<5の地震が誘発された例は数多く報告されているが,M≥5の報告例はほとんどない.破壊核が成長するのに一定の時間がかかるためと解釈されている.本地震のMの推定では,本震からの地震波が重なっているので過大評価になっている可能性があるが,K-NET,KiK-netの5観測点の強震波記録,国土地理院による由布院観測点での地殻変動データをもとに検討し,M6クラスの地震とみなしてよいことを確認した.

1983年以後,別府万年山断層帯で発生したM≥3の震央分布(図1(a),赤)と,今回の大分県中部における余震域(青)とは棲み分けているように見える.また,この余震域では2011年東北沖地震などにより誘発されたと考えられる地震が度々発生している(図1(b)).熱水地域,あるいは若い火山帯で誘発されやすいことが知られており,本余震域はその両方の条件をみたしているが,他のM≥7の日向灘地震で誘発されなかった例もあり,発生メカニズムについて検討を進めている.

3.10.3 相似地震

 ほぼ同じ場所で同一のすべりが再現される相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を基に,小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行っている.現在は,日本列島周辺に加え,世界で発生している相似地震活動の検出が可能となった.その結果,沈み込むプレートの境界で地震が発生する場所で,相似地震が多数検出された.相似地震群から推定されたすべり速度分布は,各地域のプレート間固着状態を反映した特徴を示している.2004年スマトラ沖地震,2011年東北地方太平洋沖地震の余震域では,本震発生から10年あるいは5年以上経過した現在もなお,相似地震が頻発しており,余効すべりが未だに収束していないことが示唆された.また,本年度は,間欠的にゆっくりすべりが発生する地域や,内陸浅発地震発生域でのすべり推定に向けて,相似地震抽出法及びすべり推定法の再検討を行った.

3.10.2 地震発生サイクルシミュレーション

 横ずれ断層の破壊開始点における破壊エネルギーを推定するため,地震発生サイクルシミュレーションを行った.破壊エネルギーは断層を単位面積だけ破壊するために必要なエネルギーであり,地震がいつ発生するか,また,断層から放射される地震波エネルギーの大きさなどに影響する.断層の固着域端では,周囲の非地震性すべりの発生により応力集中が生じている.この応力集中から期待される弾性エネルギー解放率と破壊エネルギーの釣り合いから,破壊開始点における破壊エネルギーが推定できる.理論的考察とシミュレーション結果から,破壊エネルギーは地震発生間隔と断層の平均的なすべり速度の積の2乗に比例することがわかった.この結果を,中国の鮮水河断層に適用して,この断層で過去に発生したマグニチュード7以上の横ずれ断層地震の破壊開始点における破壊エネルギーを推定した.推定された破壊開始点の破壊エネルギーは,断層全体の平均的な破壊エネルギーよりも小さく,地震の規模とともに大きくなる傾向が見られた.この傾向は,沈み込み域のプレート境界大地震について得られた結果と同じである.

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

 全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センターの教員,客員教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

  1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
  2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
  3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
  4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

 毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめている.

3.10 地震火山噴火予知研究推進センター

教授 加藤尚之,黒石裕樹,吉田真吾(センター長)
准教授 飯高隆,大湊隆雄
助教 青木陽介,五十嵐俊博
大学院生 磯部渉(M),臼田優太(M),蘭幸太郎(D)