幕末の江戸は人口100万人をこえる当時の大都市でした。
1855(安政2)年に大都市江戸を襲った安政江戸地震では、地震と火災によって大きな被害が発生しました。
今回の展示では、地震研究所図書室で所蔵している史料の中から、安政江戸地震後の人々の様子を描いた書物や、地震後に出回った鯰絵を紹介します。
東京大学地震研究所図書室では、地震、火山、津波など地震研究所に関連の深い災害をテーマとした古書類を数多く所蔵しています。図書室では、2013年3月に「東京大学地震研究所図書室特別資料データベース」を公開し、古書類をここに集めています。データベースでは資料検索のほか、一部の資料については画像も公開しています。
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安政2年10月2日(1855年11月11日)の夜10時頃に発生して、幕末の江戸に大きな被害を及ぼした地震である。この当時、人口100万人こえる大都市であった江戸では、大地を揺るがす地震だけではなく、その直後に発生した火災によって被害が拡大し、地震と火災による死者は7,000人以上とされている。
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「士人飢民を憐れみて街頭に握り飯を施す」(『安政見聞録』より)
地震発生後、家屋が倒壊・焼失した江戸の町人たちは、屋外に仮屋を作って避難しており、食べ物にも困っていた。それを見たある武士が、自らの家が半分傾いていたにもかかわらず、米を炊いて握り飯を作り、避難している町人たちに配って歩いた。さらに、丼めし屋から飯を売ってもらい、それを握り飯にして避難している町人たちに配った。
この絵の左側には、地震後に屋外に戸・障子などで仮屋を作って避難している町人が描かれており、右側には、武士が町人たちへ握り飯を配っている姿が描かれている。
東京大学地震研究所図書室特別資料データベースレコードID:L000321
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「孝子父母を護りて資材を忘る」(『安政見聞録』より)
菓子を作って売り歩くことを生業としていた息子は,地震発生後、浅草橋のほとりに近い町で家々が潰れ、大勢の人々が亡くなったという噂を聞いた。浅草橋のほとりに暮らす老父母が心配になった息子は、老父母の家へ向かったところ、潰れた家を目の当たりにした。しかし、そこに老父母の姿はなく、大勢の町人と共に両国橋の広小路で屋外に避難していた。夜が更けて肌寒くなってきたのでその息子は、潰れた家の跡から寝具を取り出して、広小路に避難している老父母のもとへ運んだ。ふと我が家のことを思い出して帰ってみると、家は崩れずに無事であり、何一つなくなっている物はなく無事であった。
この絵の左側には,打ち続く余震を怖れて、屋外へ避難している町人と老父母が描かれており、右側には寝具を運んできた息子が描かれている。
東京大学地震研究所図書室特別資料データベースレコードID:L000323
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「孝婦姑を救わんとして還て非命に終る」(『安政見聞録』より)
江戸から日光へ通じる街道の入口に、大小の旅籠屋が軒を連ねる千住宿があった。千住宿の商家に、日頃から姑によく仕えて孝行を尽くしていた嫁がいた。地震が起こった時、家の中にいた人々はすぐさま外へ逃げ出した。逃げ出た人々の中に姑の姿がなかったために、嫁は崩れかけている家の中へ戻っていった。暗闇の中で声を頼りに姑を見つけた嫁は、姑を背負って急いで外へ出ようとした。しかしその時、柱が折れて二階の梁が落ち、嫁と姑はそれに押し潰されて亡くなってしまった。
この絵の右側には、梁に押し潰されようとしている嫁と姑の姿が描かれている。
東京大学地震研究所図書室特別資料データベースレコードID:L000322
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「父母を捐て早く遁れ出たるによりて却てその凶災に罹り天命を縮むる女児の図」(『安政見聞録』より)
本所に夫婦と娘が住んでおり、地震が起こった時、親子三人は寝ていた。三人は地震に驚いて跳び起き、家の外へ逃げ出ようとしたが、雨戸が固く閉じられていてなかなか開けることができなかった。娘だけが開き戸から外へ出て、土蔵の間を通って逃げようとした。ちょうどその時、土蔵の軒下部分が崩れて娘の頭へ落下し、そこへ土や瓦が落ち重なって生き埋めになり、娘は亡くなってしまった。一方で、両親が雨戸を開けるのに手間取っているうちに震動は止み、家は潰れず両親も無事であった。
この絵の左側には、土蔵から崩れ落ちた土や瓦の下敷きになろうとしている娘の姿が描かれている。
東京大学地震研究所図書室特別資料データベースレコードID:L000321
※このWebサイトは2017年の東京大学地震研究所一般公開で展示した“地震研究所図書室所蔵資料展示 大江戸の大地を揺るがす地震鯰”を基に作成しました。
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