2005年5月号
目次 ニュースレターの発刊に当たって |
今月の話題 |
「国際地震・火山研究推進室」の開設 |
国際地震・火山研究推進室 室長 加藤照之 地震研究所では,特別教育研究経費によって2005年4月1日から「地震・火山に関する国際的調査研究」事業をスタートしました.この事業を推進するために地震研究所内に「国際地震・火山研究推進室」(略称:国際室)を開設しました.地震研究所はこれまでも日本列島を中心としてアジア・太平洋地域を対象とした世界トップレベルの地震・火山研究を行ってきましたが,昨今の情勢をふまえ,本事業では先ま進諸国との連携を一層強化するために世界の一線級の研究者を客員教授・客員研究員として招聘します.さらに今後は,全国共同利用の機能も用いながら,アジア・太平洋地域に地震研究所の研究成果を還元するなどの活動を積極的に推進し,同地域における地震・火山研究の中核研究機関となることをめざしたいと考えています.昨年暮れに発生したスマトラ島沖の巨大地震・津波を契機とした同地域の地震・津波災害からの復興事業や同地域で発生する火山活動など迅速な対応が求められる国際的活動にも対応できる体制を作っていきたいと考えています.この事業を円滑に進めるため,国際室に教授4名,助教授2名と技術職員を置き,運営にあたっています. |
武井(小屋口)康子助教授 第1回日本学術振興会賞を受賞 |
地球流動破壊部門 武井(小屋口)康子助教授が第1回(平成16年度)日本学術振興会賞を受賞しました.日本学術振興会賞は創造性に富み優れた研究能力を有する若手研究者を早い段階から顕彰し,その研究意欲を高め,今後の研究の発展を支援するために平成16年度に創設されたものです.今般「固液複合系の力学物性の研究による固体地球科学の展開」が認められ,受賞となったものです. 平成17年3月22日(火)に日本学士院(東京都台東区)で授賞式がありました。 詳細はこちら |
地震予知研究推進センター 中谷正生助手 平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞 |
地震予知研究推進センター 中谷正生助手が平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しました.この若手科学者賞はわが国の科学技術分野において高度な研究開発の能力を有する若手研究者を表彰するものであり,今般「摩擦滑りの物理化学に関する実験的・理論的研究」が認められ,受賞となったものです.なお,本表彰にあたっては(社)日本地震学会からの推薦を得ました. 平成17年4月20日(水)虎ノ門パストラル(東京都港区)で授賞式がありました. 詳細はこちら |
平成17年度共同利用研究課題 |
研究課題一覧 |
第827回地震研究所談話会 |
話題一覧 |
浅間火山2004年噴火前後における噴煙活動の変動と推定される噴火準備過程
地震動パラドックス解明のための動力学的断層モデルに基づく震源のモデル化
地殻応力の絶対量を高い信頼性で求めるための応力測定法に関する開発研究
☆次世代の海底ケーブル地震観測研究のためのシステム開発
☆は次に内容を掲載 |
次世代の海底ケーブル地震観測研究のためのシステム開発 |
所長裁量経費課題 代表者:金沢敏彦 共同提案者:歌田久司・酒井慎一・佐野 修・塩原 肇・篠原雅尚・森田裕一・山田知朗 何が「次世代」か 私たちはまず、次世代の海域の地震観測において何が重要かを考えました。それは、現状を見れば一目瞭然です。陸域には基盤観測網があり、2000点ほどの地震観測点がすでにできています。GPS観測も行われています。それに引き替え、海域においてリアルタイムでデータをとることができる海底ケーブル地震観測システムは、日本周辺で限られた場所にしかありません(図1)。 費用対効果に優れた新しいシステムの開発 将来、20km間隔で観測点が2000点というリアルタイム高密度観測を実現できる海底ケーブル地震観測システムをつくる場合、ネックとなるのは予算です。従ってコストを格段に落とし、しかも地震研究のために必要な性能を確保したシステムを考えていく必要があります。 私たちが検討した主要システムの仕様を図3に示します。20km間隔で地震計40台を設置し、ケーブル長は800-900kmです。陸揚局は2ヶ所で、ケーブルの両端が陸揚げされています。運用年数は20年。両端を陸揚げしてあれば、どこかでケーブルが切れても、陸側につながっているケーブルを通してデータを送ることができます。故障したときの欠測リスクを減らし、データを確実に取得できるように考えました。 あらゆる部分を詳細に検討 これまでに私たちが検討した内容について、もう少し詳しく話をしたいと思います。海底地震計は、光中継器筐体の中に地震計と通信装置が入っています(図4)。筐体の両側には、本体とケーブルを接続するカップリングが付いています。既存の光中継器筺体は、25年は壊れずに腐食もしない長期信頼性、800気圧に耐える強度と気密性など、通信用ケーブルに必要なスペックを満たした物が使われています。しかし地震観測用には、必ずしもそのスペックを満たす必要はないと考えています。各部についていろいろな検討を加え、簡略化できないか、不要ではないかと検討してきました。 装置の故障率は、FIT(Failure In Time)という単位で示されます。FITは10億時間で発生する故障件数を示し、100FITの装置は10億時間作動すると100件の故障が起きます。それぞれの中継方式によってコストも故障率も違います。表1上は、20年間の使用でどのくらい故障するかを示したものです。例えば1波再生中継方式では、100FITの故障率の装置を使うと20年で49.9%、つまり半分が死んでしまいます。波長多重/ラマン変調方式では、100FITの装置で1.1%ですから、100台のうち1台壊れるか壊れないか。1000FITの装置を使うと、どの方式でもほぼすべてが壊れてしまう。地震観測を考える上で、どのあたりのFIT数の装置を選び、どういう方式を選ぶかが、最後の決め手になると思っています。 表1:観測データ伝送方式別コスト・容積および故障率の比較 最近、振動や傾斜を感知する加速度センサについても、小型で、それなりの性能を持った新しいものが出てきました。そういう新型の加速度計が使えるかどうかも、改めて検討しました。 Geo-TOCの水密構造は、ダブルOリングによるシール構造になっています(図7左)。水も入っていませんでしたし、Oリング自体もそんなに痛んでおらず、過剰な圧縮のひずみなどは見られないことが分かりました。グアム側に付いているハイドロフォン用のコネクター(図7右)は、通信用ケーブルでは使われない市販品ですが、6年たっても十分に働いていることも確認しました。 広域観測網の実現を目指して 最後に、次世代のケーブル地震観測システムを検討することによって最終的に何を狙っているのかについて、お話します。
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