カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動
3.1.3 大気・海洋現象が引き起こす固体地球の弾性振動現象
大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.
(3-1) 脈動実体波に関する研究
2014 年 12 月 9 日爆弾低気圧が大西洋で発生しイギリスやアイルランドに被害をもたらした. その際に海洋波浪により発生した P 波は地球深部を伝播し日本にまで到達した.観測された P 波の振幅は 0.1μm と一見小さいが,同じ地域で起こったマグニチュード 6 の地震にも匹敵す る.このような海洋波浪起源の地震波は,近年地球内部構造を調べる上で注目されている.そこで,嵐による海洋波浪が励起する脈動 S 波を初めて検出し,観測データから嵐がどのように地震波(P 波・S 波などの実体波)を励起しているかを明らかにした. 大西洋で発生した爆弾低気圧時の日本の地震計記録を解析し,爆弾低気圧によって励起され た周期 5-10 秒の P 波・S 波を検出し,震源位置と強さを推定した.低気圧の移動にともない 震源は海底の等深線に沿って移動している事が分かった.同様の脈動実体波の検出を系統的に行い普遍的に存在することを示した.
本研究は、遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震、観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.
(3-2) 西之島の空振モニタリング
2013年11月20日に海上保安庁により新島の形成が報告されて以来,小笠原諸島・西之島では活発な噴火活動が続いる。一般にアクセス可能な小笠原村父島であっても東に130km離れており,連続的な観測情報は非常に限られている。しかし気象条件が良ければ,空振 (人には聴こえない低周波音波)は100km以上離れていても伝わることがある.そのため,父島での観測から西之島火山の活動状況を把握できる可能性がある.そこで父島にオンライン空振観測点(EV.CHI)1点とオフラインの空振計3点(OGW1,OGW2,OGW3)を設置し,西之島火山の空振モニタリングを開始した.本研究では特に,オンラインの2点のみを使っても空振のモニタリングが可能であることを示した.
3.12.8 インターン学生の受け入れ・国際共同研究
理学部によるサマーインターンシッププログラム(UTRIP)の学生(ウクライナ)を6月から7月の6週間受け入れた.地震研国際室主催のさくらプログラムの参加者3名(台湾・インド・インドネシア)を7月に20日間受け入れた.理学部のチリ・ブラジルとの連携による理工フロンティア人材の育成(SEELA)に参加したチリ・カトリカ大学の大学院生を2名(11月に修士課程学生3週間,1~3月に博士課程学生)受け入れた.建築研究所国際地震工学センターの研修生(政策研究大学院大学の大学院生)を6月から8月まで受け入れ,修士論文の指導を行った.
IPGP との共同研究として,昨年度に引き続き琉球列島におけるサンゴ・マイクロアトールの調査を行った(3.12.7参照).このために,9月にIPGPの研究者と大学院生が来日して,宮古島・石垣島・西表島などで調査地域・サンプルの選定を行った.
JSTによる戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)の日米共同研究「ビッグデータと災害(研究代表者:計宇生国立情報学研究所教授)」の研究を継続した.米国側はアリゾナ州立大学の研究チームである.2017年度の成果としては,ドコモのビックデータであるモバイル空間統計データを用いて、地震発生直後の携帯通話需要の時空間推定手法を開発し、熊本地震の前震、本震ならびに地震発生時間との関係などを解明し、ドイツで開催されたIEEE ICT-DM2017国際会議において発表した。2017年度は最終年度であるため、日米合同の成果発表会において3年間の成果発表が計代表から実施された。
国際深海科学掘削計画(IODP)による南海トラフ地震発生帯掘削(NanTroSEIZE)による掘削航海に共同首席研究者として乗船し,熊野沖南海トラフ先端部付近のプレート境界断層を貫通する孔内地震・地殻変動観測所の設置を行った.また2018年度に予定されている,同地震発生帯固着域への超深度掘削の実施計画を,プロジェクト調整会議にて決定した.
3.12.7 古い地震・津波の研究
(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究
地震研究所や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている.東北地方太平洋沖や日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について地震・津波波形記録を用いて断層パラメータの推定を行った.また,1944年東南海地震と1945年三河地震に対して,地震後に東京帝国大学が行ったアンケート調査の資料から,震度分布の検討を行った.最近の地震観測網による地震学データとの比較に基づき古い地震の震源・メカニズムを決定する新たな手法を構築し,明治・大正期の大地震に適用した.
(2) 史料に基づく古地震・津波の研究
今年度から地震研究所と史料編纂所の部局間連携機構として「地震火山史料連携機構」が設置された.この機構では,地震研究所で刊行されてきた『新収日本地震史料』等の史料集を電子化した上で,原本もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っているほか,各地の日記などに書かれた被害を伴わない地震も含めた「日記史料有感地震データベース」を作成している.これらの史料・データベースに基づいた歴史地震の研究を行っている.また,歴史地震の震源域を有感地震の時空間分布から制約できる可能性を,気象庁震度データベースを用いることで示した.
1855年安政江戸地震に関して,関東地域で新たな史料調査を行ったほか,全国スケールでの震度分布を推定した.再検討した震度分布と三次元減衰構造を考慮した震度計算との比較から,この地震は地殻内地震・太平洋プレート上面・太平洋プレート内部で発生した可能性は低く,フィリピン海プレートに関連する地震であった可能性が高いことを明らかにした.
(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究
三陸沿岸宮古市において津波堆積物の調査を行い,浜堤背後の湿地で過去2000年間に発生した17層のイベント堆積物を発見した(図3.12.7).2011年東北地方太平洋沖地震の津波堆積物の特徴を考慮して,これらのイベント堆積物の起源を推定した.福島県南相馬市でも2011年及び過去に発生した津波堆積物を調査し,粒度分析・化学成分分析・年代測定などを行って,これらの起源を検討している.また,7300年前に東シナ海で発生した鬼界アカホヤ噴火に伴う津波の規模を推定するため,別府湾沿岸地域や五島列島において津波堆積物調査を実施し,そのデータをもとに津波シミュレーションを行った.
琉球海溝沿いの宮古島・石垣島・西表島で,サンゴのマイクロアトールの形状・年代から過去の水面変動を復元するための調査場所・試料の選定を行った.
3.12.6 巨大地震・津波の研究
津波データや測地データ,地震データを用いて,世界の巨大地震の断層運動の詳細や津波の発生過程について調査している. 中南米で発生した1960年チリ地震, 2015年イヤペル地震,2016年エクアドル地震,2017年メキシコ地震などについて,主に津波データから断層面上のすべり分布の推定や太平洋を横断する津波の特性の解明を行った. この他,2009年にサモア諸島で発生した地震や2016年にインド洋で発生した横ずれ断層地震について,遠地実体波及び津波波形の解析を行って津波の発生過程を調べた.津波観測点の最適化配置,津波波形の時間逆転による解析,津波波形のデータ同化の改良など,津波波形を用いる解析手法の開発をおこなった.2011年東北地方太平洋沖地震について,遠地での津波波形記録から,津波伝播時の分散性を考慮して波源の特性を調べている.
日本海の自由振動について,その特性を調べて分類したほか,日本海東縁部の断層について,モード解を用いてそれらの津波励起特性を調べた.1896年明治三陸津波について沿岸の津波高と津波波形から日本海溝付近の断層面上のすべり分布を調べ,それが2011年東北地方太平洋沖地震と相補的であったことを示した.あらたに開発した分散性津波の波線追跡法と従来の津波差分計算法を用いて,2015年に鳥島近海で発生した火山性津波地震が,海底カルデラ内部で大きな隆起現象を伴っていたことを示した..
2011年東北地方太平洋沖地震,2010年マウレ地震,2004年スマトラ・アンダマン地震の断層モデルから,実際に発生した地震のメカニズム解を受け手側の断層としてクーロン応力変化を計算し,少なくとも2011年と2004年の地震については,活発化した地震活動の多くが本震による応力変化で説明できることを統計的に示した.また,2011年東北地方太平洋沖地震前後の地震活動変化について既往研究を整理しつつ概観し,その要因について考察した.
3.12.5 日本列島の地震活動を予測するモデルの作成(CSEP-Japan)
地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,すでに先行して同種の研究CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,2008年にCSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスが実現され,提案されている地震予測モデルは160を超え, CSEPに参加している研究機関の中でも最多である.
2017年度においては、2016年4月に発生した熊本地震に関して,定常および非定常ETASモデルによる地震活動の背景変動率を調査し,熊本地震発生前の中九州地域においては布田川断層帯北側のごく狭い領域で東北沖地震による誘発群発地震などの異常活動などが明らかになった.またM6.5から続く前震期間ではETASモデルによる変化点解析によりM6.4直後からの静穏化が有意であった.狭義および広義余震活動の背景変動率は何れも正であり,その後順次減少している(図3.12.5).
3.12.4 高密度強震観測データベース
(1) 首都圏強震動総合ネットワークSK-net の構築と運用
首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計932 観測点(図3.12.4)の強震波形データを収集するシステムである.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位を求めて,最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルなどとともにSK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2017年度は47名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2018年3月までに収集されたデータを順次利用可能にしている.
自治体の震度計の更新により収集システムも更新が必要となり,5自治体については,新しい波形収集装置を開発してオンライン収集を継続し,残りの県についてもオフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.
東北地方太平洋沖地震については,本震や余震の波形データ量が膨大なため,一部の県でオンライン収集が困難な事態が発生した.現地の震度計からのデータ回収を実施してデータベースに格納した結果,783の観測点からの波形データがホームページで公開されている.
(2) IT 強震計の開発
IT強震計は,最近のIT技術を利用して,従来の強震計より高密度な観測を可能にすることを目的として開発された.震度0~1程度の地震動から観測可能で,身近な場所の日頃の弱い揺れを観測して地域の地盤や建物の特徴を探り効果的な防災対策にも活用可能である.
本センターでは,IT 強震計のプロトタイプを開発し,地震研究所の各建物内に設置し,弱い地震時の記録から,それぞれの建物の揺れの特徴をとらえたり,耐震補強前後の振動特性の変化をとらえたり,東北地方太平洋沖地震の前後の建物剛性の変化をとらえることなどに成功している.2009年度より情報学環総合防災情報研究センターと共同で学内の建物にも設置を開始し,2011年より以下のホームページ(学内限定)IT強震計東大プロジェクトにおいて有感地震時の観測データを公開して利用可能にしている.さらに,2013年度からは,3キャンパスの9棟に設置された.各キャンパスの地盤と建物の揺れを携帯電話などにメール配信する「学内地震速報」メールを提供している.2017年度は引き続き,これらシステムの内容の充実を行った.またIT強震計の産学連携共同研究組織「 IT強震計コンソーシアム(代表は,2015年9月から災害部門の楠浩一准教授)」の運営サポートも行った.
3.12.3 地震データ解析とその公開
本センターではWWWサーバを立ち上げ,地震・火山等の情報提供を行ってきた.アウトリーチ室(現広報アウトリーチ室)が設置されてからは,本センターはそれをサポートしている.また,観測開発基盤センターとともに年2回,気象庁において地震波形自動処理の技術移転のための研修を行っている.
(1) 地震カタログ解析システム等
研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している(図3.12.3) .
利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.2017年においては,気象庁一元化自動震源を取り込んだシステムのプロトタイプを開発した.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーサイトを運用し,大学等の研究者に提供している.2011年からは,International Seismological Centre (ISC)で維持・管理されているISC Bulletinデータベースのミラーを構築・維持している.
(2) 長周期波動場のリアルタイムモニタリングGRiD MT
全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MT(図3.12.4)を開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2017年においては,世界の地震については167個,日本の地震については96個のモーメントテンソル解を決定した.
(3) 古い地震記象の利活用
地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震記象委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.
このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.今年度は,1906年チリ地震の世界各地の地震波形記録を電子化した.劣化が始まっているWWSSN フィルムの長期保存のための表面処理とファイリングないしはリール分割や筑波地震観測所HES記録の修復作業も行っている.また,濃尾地震や鳥取地震等の過去の大地震のアンケート調査や報告書などの資料のPDF化を行い,公開すべく準備を行っている.2017年においては,和歌山観測所ペン書記録の連続波形画像を閲覧できるシステムを開発し,猿谷・熊野・甲斐川の3観測点を公開した.
3.12.2 全国共同利用並列計算機システムの提供
本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2015年3月にシステム更新を実施し,現在はSGI UV 2000/ICE-Xシステム(図3.12.2)が稼働している.このシステムは,並列計算サーバとして288ソケット(3456Core)/18.4TB メモリ,高速計算サーバとして128ソケット(1024Core)/8TBメモリ,それらのフロントエンドサーバとして8ソケット(64Core)/1TB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている.システムは,例年毎月平均110~160 名が利用しており,そのうちの4 ~ 5 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者や中級の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.