カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.3.3 浅部マグマ活動に関する研究

浅部マグマ活動に関する研究では,マグマ活動の実体を明らかにすることを目標に,含水量測定を中心とした火山噴出物の解析に取り組んでいる.マグマ中の揮発性成分量は火山噴火のポテンシャルとして重要であり,巨大噴火に到る準備過程でのマグマ中の揮発性成分量変化を明らかにする意義は大きい.また,含水量を適切に評価することによって,斑晶鉱物やマグマの液組成を用いた熱力学的温度圧力計の精度向上も期待できる.

2018年度は火山噴火予知研究センター,山梨県富士山科学研究所,常葉大学,静岡大学,熊本大学,東北大学等との共同研究を実施し,西之島,諏訪之瀬島,伊豆大島,富士山,阿蘇山,桜島など,いくつかの活動的火山について,噴火前のマグマの状態を調査した.例えば,富士山では溶岩流に捕獲された斑れい岩試料の解析からマグマの上昇速度の検討を行うとともに,火山体の地下構造について考察した.また,富士山を起源とする火山灰の定量的データベース構築に着手した.これは,火山灰粒子の形状,気泡形状,斑晶形状,斑晶組成,斑晶量など火山灰を特徴付ける様々な量を定量的に記載し,火山灰の対比や噴火様式の検討に用いることを目指している.

3.3.2 融点近傍における多結晶体の非弾性の研究

地球内部の3次元地震波速度構造から地球内部の温度分布や流体分布を定量的に推定するためには,岩石の非弾性特性の解明が不可欠であるが,実験データが少なく未知の部分が多い.我々は,有機物多結晶体を岩石アナログ物質として用い,試料のヤング率Eと減衰Q-1を6桁の広周波数帯域(100-0.1 mHz) で精密に測定できる独自の非弾性測定装置を開発した(図3.3.1).この装置を用いて、多結晶体の弾性・非弾性・粘性を、融点直下から融点を超えて部分溶融に至るまでの温度範囲(T/Tm=0.89~1.01)でほぼ連続的に測定を行った。その結果、部分溶融が多結晶体の物性に与える影響は、これまで知られてきたような、メルトが生じたことによる直接的な影響に加えて、溶ける直前にも大きな変化が生じていることがわかった。つまり、ソリダス直下(T/Tm > 0.94)の固体状態において、多結晶体の減衰が顕著に増大し、また、粘性の活性化エネルギーも顕著に増大することがわかった。しかも、融点で0.4%程度の微少なメルトしか生成しない試料でもこの固体状態での変化は大きく、メルトによる直接的な影響を遥かに凌ぐ。上部マントルに存在し得るメルト量は、地球化学的制約条件から1%未満であると予想されているが、部分溶融の影響に対する従来の理解では、上部マントルで観測される地震波低速度域を微少量のメルトで定量的に説明することは困難であった。本研究の成果は、地球化学と地震学の結果を整合的に説明することを可能にするものとして重要である。実際、海洋リソスフェアの地震波速度及び温度構造から得られた横波速度の温度依存性は、カンラン岩のソリダス直下で急激な速度低下を示す(Priestley and McKenzie, 2013)。本実験データから得られた非弾性モデルは、この速度低下をほぼ定量的に説明することに成功した。融点直下における物性変化の詳しいメカニズムはまだ解明できていないが、粒界構造の無秩序化(プリメルティング)によるものと推測している。

 

3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

地球上部マントルで観測される地震波速度異方性は,弾性異方性を持つかんらん石の結晶軸選択配向(CPO)が主要な原因と考えられている.一般的に,CPOは粒子回転を生む転位クリープによって発達すると説明される。最近,我々は,これまでCPOが発達しないと考えられてきた拡散クリープ下におけるCPOの発現を実験的に示した。この結果を元に、リソスフェアとアセノスフェアの粘性率構造をかんらん石多結晶体の拡散クリープ則から推定する試みを行っている。拡散クリープは、大きな粒径依存性を持ち、また、粒径は粒成長によって変化することから、クリープと粒成長のカップリングを解く必要がある。粒界の法線方向が圧縮軸に向いている粒界から垂直方向にある粒界に向けて原子が拡散することで変形が進行する。それに対して、多相系での粒成長は、第一相粒子の粒成長を阻害している第二相粒子のオストワルド成長に伴う比較的小さな第二相粒子の消滅によって生じる。第二相粒子の成長・消滅には第二相粒子間の距離に相当する原子拡散が必要であり、変形と粒成長は駆動力が外因か内因かで異なるものの、律速する拡散プロセスが共通となる可能性がある。その予想を元に、フォルステライト+20 vol%エンスタタイト二相系のクリープ速度と粒成長速度を様々な温度で測定し(Nakakoji et al. 2018 JGR)、両者の速度が共通の元素の拡散で決定されていることを示した(Nakakoji & Hiraga 2018 JGR)。クリープと粒成長のカップリングによって、クリープの見かけ活性化エネルギーが、クリープ自身の活性化エネルギーの1/4になる。この結果を海洋リソスフェアに適用したところ、海洋島周辺でのリソスフェアの変形から推定されてきた“弱い” リソスフェア(700˚Cで1022 Pa·s程度)および粘性率の“弱い”温度(深度)依存性(~100 kJ/mol)と整合的であることを示した。我々のモデルは、海洋島のような大きな荷重がリソスフェアに局所的に負荷されると、その下でせん断帯が形成され、そのせん断帯中では、温度(深度)に応じた粒径分布構造が作られる。その際、700˚C付近では、10ミクロン程度、1350 ˚Cでは、2 mmとなり、それぞれの粒径は、海洋底から採取されたマイロナイトおよびマントルゼノリスの粒径に対応する。したがって、リソスフェア底の温度(深度)で、マントル岩の粘性率はせん断帯およびその周囲で同程度になり、せん断帯はそれ以上の深さには伸展しない。これは、リソスフェアとアセノスフェアの変形様式とも整合する。

3.1.3 大気・海洋現象が引き起こす固体地球の弾性振動現象

大量の地震計・気圧計・水圧計などのデータを丹念に解析し,ノイズと思われていた記録の中から新たな振動現象を探り当て,その謎の解明を目指している.その際,大気-海洋-固体地球の大きな枠組みで現象を捉える事が重要である.

(3-1) 脈動実体波に関する研究

 2014 年 12 月 9 日爆弾低気圧が大西洋で発生しイギリスやアイルランドに被害をもたらした. その際に海洋波浪により発生した P 波は地球深部を伝播し日本にまで到達した.観測された P 波の振幅は 0.1μm と一見小さいが,同じ地域で起こったマグニチュード 6 の地震にも匹敵す る.このような海洋波浪起源の地震波は,近年地球内部構造を調べる上で注目されている.そこで,嵐による海洋波浪が励起する脈動 S 波を初めて検出し,観測データから嵐がどのように地震波(P 波・S 波などの実体波)を励起しているかを明らかにした. 大西洋で発生した爆弾低気圧時の日本の地震計記録を解析し,爆弾低気圧によって励起され た周期 5-10 秒の P 波・S 波を検出し,震源位置と強さを推定した.低気圧の移動にともない 震源は海底の等深線に沿って移動している事が分かった.同様の脈動実体波の検出を系統的に行い普遍的に存在することを示した.

 本研究は、遠く離れた嵐によって励起された地震波を使って嵐直下の地球内部構造が推定で きる可能性を示している.地震、観測点ともに存在しない海洋直下の構造を推定できる可能性 を意味し,地球内部構造に対して大きな知見を与える可能性がある.

(3-2)海洋島の地震計記録から海洋外部重力波活動を推定する

 海洋島に設置された広帯域地震計のノイズレベルを解析してみると、しばしば周期100秒から数100程度のブロードなピークが観測される。原因として海洋外部重力波起源だと考えられているが、定性的な議論が中心となっている。最近、津波(物理的には海洋外部重力波と同一の減少)の伝搬にともなう海洋島の弾性変形(Nishida et al.,2019)の定量的な評価できろことがわかってきた。しかし津波は物理的には外部重力波であるが、平面波を仮定していたため、そのままではその活動の見積もりに使うことは出来ない。そこで、津波に対して開発した手法をランダムに励起された海洋重力波に対して拡張し、海洋外部重力波の定量的な議論の可能性を示した。

3.12.8 インターン学生の受け入れ・国際共同研究

理学部によるサマーインターンシッププログラム(UTRIP)の学生(インド)を6月から8月の6週間受け入れた.また,フランスIPGPの大学院生を9月から12月の3ヶ月間受け入れた.

国際深海科学掘削計画(IODP)による南海トラフ地震発生帯掘削(NanTroSEIZE)による第358次航海に共同首席研究者として乗船し,熊野沖南海トラフ地震発生帯固着域への掘削を行った.またチリカトリカ大学等と共同で,JAMSTECの調査船「みらい」を用いた,チリ三重会合点の地球物理・地質学的調査を実施した.

3.12.7 古い地震・津波の研究

(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究

地震研究所や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている.東北地方太平洋沖や日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について地震・津波波形記録を用いて断層パラメータの検証を行った.また,1944年東南海地震と1945年三河地震に対して,地震後に東京帝国大学が行ったアンケート調査の資料から,震度分布の検討を行った.最近の地震観測網による地震学データとの比較に基づき古い地震の震源・メカニズムを決定する新たな手法を構築し,明治・大正期の大地震に適用した.

(2) 史料に基づく古地震・津波の研究

2017年度から地震研究所と史料編纂所の部局間連携機構として「地震火山史料連携機構」が設置された.この機構では,地震研究所で刊行されてきた『新収日本地震史料』等の史料集を電子化した上で,原本もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っているほか,各地の日記などに書かれた被害を伴わない地震も含めた「日記史料有感地震データベース」を作成している.これらの史料・データベースに基づいた歴史地震の研究を行っている.また,歴史地震の震源域を有感地震の時空間分布から制約できる可能性を,気象庁震度データベースを用いることで示した.

1855年安政江戸地震に関して,関東地域で新たな史料調査を行い,神奈川宿についての詳細な被害分布を明らかにした.また,全国スケールでの震度分布を推定した.再検討した震度分布と三次元減衰構造を考慮した震度計算との比較から,この地震は地殻内地震・太平洋プレート上面・太平洋プレート内部で発生した可能性は低く,フィリピン海プレートに関連する地震であった可能性が高いことを明らかにした.

(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究

三陸沿岸宮古市において津波堆積物の調査を行い,浜堤背後の湿地で過去2000年間に発生した17層のイベント堆積物を発見した(図3.12.7).2011年東北地方太平洋沖地震の津波堆積物の特徴を考慮して,これらのイベント堆積物の起源を推定した.福島県南相馬市でも2011年及び過去に発生した津波堆積物を調査し,粒度分析・化学成分分析・年代測定などを行って,これらの起源を検討している.また,これらの津波堆積物データに対して津波による土砂移動モデルを適用し,2011年東北地方太平洋沖地震・869年貞観地震の震源モデルの検討を行った.さらに,7300年前に東シナ海で発生した鬼界アカホヤ噴火に伴う津波の規模と発生メカニズムを推定するため,地質データの解析に加えてカルデラ崩壊と火砕流の流入による津波シミュレーションを行った.

琉球海溝沿いの宮古島(2か所),伊良部島(1か所),石垣島(2か所),西表島(3か所),波照間島(1か所)で,サンゴのマイクロアトールの形状・年代から過去の水面変動を復元するため,試料の採取を行った.

3.12.6 巨大地震・津波の研究

津波データや測地データ,地震データを用いて,世界の巨大地震の断層運動の詳細や津波の発生過程について調査している. 中南米で発生した1960年チリ地震, 2015年イヤペル地震, 2017年メキシコ地震やニュージーランド周辺で2009年,2016年に発生した地震などについて,主に津波データから断層面上のすべり分布の推定や太平洋を横断する津波の特性の解明を行った. 津波観測点の最適化配置,津波波形の時間逆転による解析,津波波形のインバージョン手法やデータ同化の改良など,津波波形を用いる解析手法の開発をおこなった.

北海道・東北地方を中心とする日本海東縁部で津波の発生が予測される断層モデルを抽出し,様々なパラメータに基づいたシナリオ型津波シミュレーションを行った.日本海の自由振動について,その特性を調べて分類したほか,日本海東縁部の断層について,モード解を用いてそれらの津波励起特性を調べた.あらたに開発した分散性津波の波線追跡法と従来の津波差分計算法を用いて,2015年に鳥島近海で発生した火山性津波地震が,海底カルデラ内部で大きな隆起現象を伴っていたことを示した.さらに,2009年,2017年にケルマデック諸島で発生した火山性津波地震についても,その発生機構を調べている.

3.12.5 日本列島の地震活動を予測するモデルの作成(CSEP-Japan)

 地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,すでに先行して同種の研究CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,2008年にCSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスが実現され,提案されている地震予測モデルは160を超え, CSEPに参加している研究機関の中でも最多である.

 2018年度においては、2019年1月28日から29日にかけて地震活動予測検証実験に関わる研究集会を実施し,活発な議論を行った.