カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.3.7 高温マグマプロセス解明に向けた物質科学的研究

プレート収斂域での火成活動において,部分溶融によるメルトの発生からメルトの上昇・冷却・定置といった一連の過程がどのような時間スケールで進行するのかを明らかにすることは,大陸地殻-マントル間での物質的・化学的分化の過程を理解する上で重要である.こうしたマグマ活動の中でも,特に高温(>600℃)でのプロセスに時間軸を設定する上で鍵となる手法が高い閉鎖温度(約900℃)を持つジルコン鉱物のウラン・トリウム系列年代測定法である.物質科学系研究部門・坂田研究室ではジルコン鉱物から得られる時間情報の高精度化を進めると共に,従来法では得ることのできなかったメルトの発生から鉱物晶出までの期間を定量化する新たな年代測定法の開発を進めている.さらに,マグマ溜まり中での温度や化学組成の変化を追跡する目的で鉱物中の微小領域(15-30μm)からチタンや希土類元素を精確に定量する技術を確立した.こうした年代・元素分析を国内の第四紀火山噴出物(三瓶火山,戸賀火山,霧ヶ峰等)や深成岩体(黒部川,大崩山,遠野等)の試料に適用し,数千年ー1万年程度の時間分解能でマグマ中の温度変化や化学組成変化を復元することに成功した.

また現存する物質的記録が極めて少ないとされる地球誕生から最初の5億年間(冥王代)の地殻の化学進化を解明する研究も進めており,西部オーストラリアより採取した礫岩中のジルコン鉱物の大量分析を行った.その結果,500粒子以上の冥王代ジルコンを発見し,化学組成分析やモデル計算を進めている.特にこれまで冥王代ジルコンでも報告数の少なかった42-44億年前のジルコンも数十粒子集積しており,今後はジルコン中のアパタイト包有物の水素同位体分析と合わせることで,初期地球表層の水と当時のマグマ活動がどのように関連していたのかを解明していきたいと考えている.

3.4.7 構造物の総合観測ネットワークの構築と損傷度評価

巨大地震が発生した場合,早急に損傷を受けた建物の損傷度を評価し,建物の継続利用の可否を評価する必要がある.そこで本研究では,比較的安価の加速度計を設置し,建物の地震時応答を計測して,等価線形化法を用いた損傷度評価システムの開発を進めている.等価線形化法とは,建物に作用している力と変形の関係を等価一自由度に縮約してその耐震性能を評価する方法である.このシステムの有効性を実証するため,既存構造物に実際に設置して,計測を続けている.観測建物は,中層事務所ビル,学校建物,低層木造歴史建造物,低層戸建て住宅,60m級通信用鉄塔などである.東北地方太平洋沖地震の際に観測された,8階建てSRC学校建物の性能曲線を見ると,剛性低下が見受けられるが,詳細な被害調査の結果,連層耐震壁脚部に軽微なひび割れが確認された.また,地震研究所1号館の観測記録から,東北地方太平洋沖地震の際に免震装置が有効に作用したことを確認した.

更に,非構造材を含めた建物の継続利用性を判断するシステムの構築を目指し,「首都圏を中心としたレジリエンス 総合力向上プロジェクト サブプロジェクトC:非構造部材を含む構造物の崩壊余裕度に関するデータ収集・整備 課題②災害拠点建物の安全度即時評価および継続使用性即時判定」の一環として,天井や窓,外装タイル仕上げなどを有する実物に近い実大建物(鉄筋コンクリート造3階建て)を建設し,E-Defenseを用いて振動破壊実験を実施した。その結果を従来の目視に拠る「被災度区分判定」および地震保険の損害率算定の結果と比較し,構造被害自動判定結果の妥当性を検証した。 [図3.4.7]。

3.6.8 実験・理論,シミュレーション,地質学的手法に基づく火山の基礎研究

(1) 噴火のダイナミクスの解明を目指した実験と理論研究

 マグマ破砕過程を「粘弾性流体の破壊現象」と位置づけ,定量的モデル化に向けた粘弾性構成方程式の構築と数値計算手法の開発を進めた.そのためのモデル物質として,ポリウレタンフォームを用い,その発泡・硬化過程におけるレオロジーの計測を行った,その結果,気泡を含む粘性流体の特徴を持つレオロジーから,粘弾性,弾性へと遷移する様子が定量的に観察された.また,その途上でゲル化という現象がみられた.これまでマグマのレオロジーとしては考慮されていなかった挙動であるが,結晶を含むマグマの流動から破壊への遷移において重要な役割を果たしている可能性がある.一方,同じポリウレタンフォームを用いて伸長実験を行い,カルデラ噴火の際に噴出する発泡マグマに特有な構造として知られている,一様に伸長した気泡構造を再現することに成功した.この実験データを用いて,これまで開発してきた気泡変形計算プログラムの検証を行った.計算は単一気泡の変形理論を用いているが,発泡度が60%を超えるような試料に対しても,多数の気泡の平均的な変形度の歪みや歪み速度依存性は再現できることを示した.その結果,噴火の火道流モデルから得られる歪み速度プロファイルと,噴出物の気泡変形度を定量的に関係づけることが可能となり,最も新しいカルデラ噴火であるタウポ火山の1800年前の噴火に対して応用した.

(2) 火山噴煙ダイナミクスのシミュレーション研究

 爆発的火山噴火で見られる噴煙柱・火砕流の噴煙ダイナミクスと,火山灰輸送・堆積プロセスの解明を目指し,数値モデルの開発とそれを用いた大規模シミュレーション研究を進めている.桜島火山では気象レーダーを用いた火山噴煙観測が整備され,噴煙高度の高精度データが得られるようになってきた.火山噴煙高度観測から噴出条件を推定することを目的に,風のない理想的な場での噴煙挙動を3次元大規模シミュレーションのパラメータスタディを実施した.その結果,噴煙高度は火口での噴出率に加え,噴火継続時間にも依存することを捉えた.桜島火山で見られるような瞬間的爆発噴火の噴煙挙動に関しては,パリ地球物理研究所(IPGP)の協力のもと室内実験研究も進めている.また,フィリピン・ピナツボ1991年噴火や新燃岳2011年噴火のような長時間継続する噴火の噴煙ダイナミクス・火山灰輸送プロセスの理解を目的に,これまでにない広範囲の高精度シミュレーションに挑戦している.

(3) 大規模噴火に関する研究

 南九州鬼界カルデラで7.3 kaに発生した超巨大噴火(鬼界アカホヤ噴火)は,完新世における地球上最大規模の噴火である.鬼界火山の活動履歴やアカホヤ噴火の推移については近年理解が進みつつあるが,未解決の問題も残されている.その中の一つに長浜溶岩(流紋岩質溶岩)の年代問題がある.薩摩硫黄島西部の基盤を構成する長浜溶岩が,カルデラ形成期以前の古い時代(数十万年前)の溶岩であるとする説と,上位の堆積物との層序関係から鬼界アカホヤ噴火の前駆的活動で生じたものとする説があり,年代学的な検討が十分に行われていないことが長年問題となっていた.そこで,長浜溶岩の実態を明らかにするために,長浜溶岩上の海抜約60m地点でボーリング掘削を実施した.この掘削は北海道大学と共同で2018年1~12月に行われ,306.6mの掘削試料を得ることに成功した.このコアの解析の結果,地表から約11mまでは鬼界アカホヤ噴火とそれ以降の若いテフラからなるが,それ以深は長浜溶岩が深度 190m(水深 130mに相当)まで続き,その直下の深度 190-230mでは岩層が一変し,貝殻を含む粗粒砂質層を主体とした海成の地層になることがわかった.さらに下位(230m以深)には斜長石斑晶に富む複数枚の安山岩質溶岩が存在する.そこで長浜溶岩直下の砂層に含まれる複数の貝殻の14C年代測定を行ったところ,7000~8300 calBP の年代値が得られた.これにより,長浜溶岩の活動が鬼界アカホヤ噴火に先行する活動(少なくとも1000年以内)であったことがはじめて地質学的・年代学的に明らかになった.長浜溶岩とアカホヤ噴火の岩石学的関係,大規模噴火に先行する溶岩流活動の役割など,巨大噴火のマグマシステム像を今後検討していく.また,長浜溶岩より深い深度で回収された溶岩については,全岩化学組成で高MgO値を示す安山岩質溶岩であり,現在の地上に露出する鬼界カルデラの噴出物とは対比できない特徴を持つことも明らかになった.ただし,薩摩硫黄島西部カルデラ壁付近で2015-2016年に実施したボーリング掘削では,高MgO値を示す類似の溶岩が深度100m付近から採取されている.高Mg安山岩と他の噴出物との関係はまだ明確ではないものの,鬼界カルデラのマグマの進化の理解において重要な鍵となる可能性があり,今後さらに詳しく解析を進める.

3.6.7 新たな観測手法の開発

(1) 火山の空振モニタリング手法の開発

 火山噴火に伴う空振の波形や振幅を正確に計測するため,新しい空振計を開発している企業や工学系の研究者らと協力し,小型・低消費電力マイクロフォンやMEMSセンサー,高精度気圧計の比較試験および火山地域における長期評価試験を行い,必要な改良を進めた.また,より効率のよい空振アレイ観測の方法として,従来のアレイ観測よりも一桁空間スケールの小さい,10メートルサイズの3要素アレイの開発を行い,さらに,地上2~4m程度の高さに1要素加えることによって,方位角だけでなく仰角の分解能が向上させられることを示した.山体の大きな火山の効率的な空振モニタリングのため,複数の観測点において,それぞれ2台のセンサーを数m離して設置する手法を試みた.ネバドデルルイス火山(コロンビア)では,山頂火口から数km離れた3つの観測点で得られた2年間のデータを解析し,微噴火に伴う微弱な空振の検出効率を調べた.また,冬季の富士山でも3つの観測点で運用をし,雪崩によるものと思われる空振を検出した.いずれにおいても,単独のセンサーを分散させた観測よりも,検出効率が飛躍的に向上することを示した.

(2) 無人ヘリやドローンを活用した火口近傍観測システムの開発と応用

 活動的な火山において,観測者を危険にさらすことなく火口周辺での様々な観測を実施することを目的として,2008年から無人ヘリを用いた火口近傍観測システムの開発を進めている.汎用の無線ラジコンヘリを火山観測に利用するため,様々な火山での飛行実績を積むとともに,観測に必要な様々な周辺機器,静止画・動画撮影用の機器を搭載するための専用雲台,地震計やGPS観測装置をヘリから降下設置するウインチ,無人ヘリ設置用の地震計モジュール,GPSモジュールなどの開発を進めてきた.口之永良部島では2015年4月に火口近傍の4箇所に地震計を設置した.この地震計は2015年5月の噴火で失われたが2015年9月に再度5点を設置した.観測データから2015年5月29日の噴火に先行して火口近傍で地震が急増していたこと,単色地震も増加していたことがわかった.また,可視画像・熱映像・電磁気・ガス等の多項目データから,活動の大きな変化も捉えられた.火口に接近して得られたガスの分析により脱ガス時の見かけ平衡温度も推定された.2016年6月には,火口から1.5km内が警戒範囲となっている西之島において,気象庁と共同で無人ヘリ(船上より離発着および制御)により活動・噴出物の観察および岩石試料の採取を行った.また,2009年から2017年にかけて,桜島山頂付近に地震計およびGPS受信機を設置した.桜島山頂の地震計の一部は2019年末時点において稼働中である.

 無人ヘリコプターによる空中磁気測量も精力的に行っている.2011年霧島新燃岳噴火後の山体の帯磁状態の変化を把握するため,2011年5月,11月,2013年11月,2014年10月,2015年11月,2017年11月,2018年11月の計7回,新燃岳およびその西側,およそ3㎞四方の領域において,繰り返し空中磁気測量を実施した.測線間隔および対地高度はおおよそ100mで一定として測定フライトを実施した.プログラムした航路に沿って正確に測定飛行できることは繰り返し測量にとって大きな利点である.解析の結果,新燃岳火口内の溶岩は平均として4.0 A/m帯磁したと想定すると観測された全磁力データをよく説明することが判り,火口に蓄積された溶岩が熱拡散過程で順調に冷却している様子を明確にとらえることに成功した.また,三宅島においては,今後の火山活動を把握するための基礎資料とするために無人ヘリを用いた詳細な空中磁気測量を2014年5月と2016年11月に実施し,2017年度に解析を進めた結果,山体北側で負,南側で正の変化を検出した.その後,2019年6月にも実施している.2019年にもう一度予定していた測定は天候不良により延期されたが,2020年度早々に実施予定である.2018年1月 に噴火した草津本白根山においても無人ヘリによる空中磁気測量を実施し,過去有人機により得られたデータとの比較解析を進めている.

 電動モーターを動力源とするいわゆる「ドローン」の性能が近年大幅に向上し,火山観測において活用できるレベルに達しつつある.火山センターではドローンを活用した火山観測も進めている.新燃岳においては,ドローンによる火口内への接近撮影を実施し,西之島においては船上から飛ばしたドローンによる画像撮影と試料採取を実施した.霧島硫黄山ではドローンによる繰り返し空中磁気測量の活用実験を開始し,2019年に複数回の測定を実施した.その結果,無人ヘリよりも低廉かつ機動的に観測を実施できることが確認できた.

(3) 衛星技術を活用した火山活動の把握

 2009年よりJAXAと共同でGCOM-C衛星のSGLI画像を利用したリアルタイム火山観測システムの開発に取り組んでいる.SGLIは分解能が250mと比較的高く,溶岩流の拡大や火砕流の発生等,噴火状況の変化を高頻度で捉えることができる.このSGLI画像により2018年に起きたハワイ島,キラウエア火山の噴火解析を行い,溶岩流拡大状況の時間変化や噴火初期の割れ目火口等捉えることができることを確認した.また,2014年に打上げられたひまわり8号画像を用いたリアルタイム火山観測システムの改良と試験運用を進めている.ひまわり8号の赤外バンドは,分解能2㎞であるが全球の観測頻度が10分毎と,極めて時間分解能の高い熱異常観測を行うことができる.このひまわり8号のデータにより,西之島噴火の第2期にあたる2017年噴火やインドネシア・ラウン火山2015年噴火等の解析を行った.この内,ラウン火山の噴火では,溶岩流噴出ステージが2つに分かれること,短時間スケール(日)で見ると噴出率は基本的にほぼ一定であることが判った.これは噴出的噴火の一つの特徴と考えられた.また,噴火の開始や再活発化に先行して,前兆的な熱異常が発生していることがわかった.他方,ひまわり8号の1.6µm,2.3µmバンドの夜間画像において,春分および秋分期を中心とする約6ヶ月間,特異な熱異常が広範に現れ,火山熱異常観測の大きな妨げになることを見出した.ひまわり8号データの年および日変化の検討から,この熱異常は太陽迷光の影響による見かけの熱異常であることを明らかにすると共に,補正方法の検討を行った.考案した補正方法により,年間を通じて1.6µm,2.3µmバンドを火山の熱異常観測に利用することが可能となった.

3.6.1 火山噴火予知センターの活動の概要

 火山センターでは,火山やその深部で進行する現象の素過程や基本原理を解き明かし火山噴火予知の基礎を築くことを目指して,火山や噴火に関連した諸現象の研究を行っている.その基本的な研究方針は地震研究所の2009年サイエンスプランで掲げられた「火山活動の統合的解明と噴火予測」および科学技術学術審議会による2019年1月に出された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)の推進について(建議)」に基づいている.

 本センターは2004年度に「火山観測の将来構想」を作成し,その中で主たる観測対象とする火山を3つに分類し,a)観測網を強化し研究成果を上げるべき火山として,浅間山,伊豆大島の2火山を,b)研究成果が短期的には大きく望めないが,将来のために観測を継続・改良すべき火山として,三宅島・富士山・霧島山の3火山を,c)他機関が既に観測網を整備している等の理由で基本的には撤退する火山として草津白根火山を挙げた.全国の火山噴火予知研究コミュニティーで了解を得つつ,この構想に基づいて順次更新・整備を進めてきた結果,浅間山・伊豆半島では多項目観測網の強化が進み,霧島山では広帯域地震観測網を火山帯に集中することができた.富士山の観測は着実に継続しており,三宅島については次の噴火に備えた観測網の強化が進む.また草津白根火山については撤退を完了した.2010年度以降は,観測所等の施設は観測開発基盤センターに移管されたが,同センターの火山担当教員との協力・共同の元に研究方針に沿った整備を進めている.
 観測網の強化・整備は一段落したと言えるが,観測を担うことのできる人材が急速に減少しつつあり,現状の観測網をこれまでどおりに維持することは相当な困難を伴う.これは地震研に限らず全国的な傾向であり,国内の火山観測における大学の役割を見直す時期が来ていると考えられる.伊豆大島や三宅島等次の噴火が切迫する火山を念頭に置きつつ,新たな火山観測研究の将来構想を早急にまとめる必要がある.

 本センターの観測研究の対象となっている火山の近年の活動は以下のとおりである.浅間山では2004年の活発な活動以降に大きな活動は無く,2008年,2009年,2015,2019年に弱い噴火が発生したのみである.しかしながら,2019年8月に発生した小噴火は活動度が極めて低い状態で発生したものであり,気象庁の噴火警戒レベルは1であった.この不意打ちともいえる噴火は観測点維持における安全管理の問題に影響を及ぼしている.伊豆大島は顕著な活動は無いものの,マグマ蓄積を示す基線長の伸びは継続している.富士山では目立った活動は無い.霧島連山・新燃岳では2011年1月26日に約300年ぶりの本格的な準プリニー式噴火が発生し,それ以降は活動度の高い状態が継続している.2017年10月に新燃岳が再噴火し,2018年3月に溶岩が山頂火口から北西に流れ下った.爆発的な噴火活動 は2018年6月まで続いた.霧島硫黄山では2018年4月に小規模な水蒸気噴火が発生し,活発な噴気活動が2019年中も続いている.口永良部島では2015年5月に全島避難となる噴火が発生し,その後2017年,2018,2019年にも爆発的噴火が散発的に発生している.草津本白根山では2018年1月に小規模な水蒸気噴火が発生した.伊豆・小笠原諸島の西之島で2013年11月から始まった噴火は,周辺の浅海を溶岩で埋め立て新しい火山島を作り出し,約2年の活動を経て一旦終息したが,2017年4月と2018年8月に再度活発化し溶岩流出により西方と南方への拡大が進んだ.2019年12月には再度溶岩流出が始まり,島の拡大が続いている.

 本センターでは主たる観測対象火山以外についても様々な観測研究を行っており,新たな火山活動があれば国内外を問わず観測あるいは調査研究を実施している.また,実験・理論,シミュレーション,地質学,物質科学的手法等に基づく火山の基礎研究も実施している.以下,火山毎および研究手法毎に,最近の主たる研究成果を紹介する.

3.7.4 深海底を含む西太平洋地域への地震・電磁気・測地観測網の展開・維持とデータ公開

(1) 地震・電磁気・測地観測網(海半球観測ネットワーク)の展開・維持

(1-1) 海洋島地震観測網

ジャヤプラ(インドネシア),パラパト(インドネシア),デジャン(韓国),ポナペ(ミクロネシア),マジュロ(ミクロネシア),犬山(日本),石垣(日本),パラオ(パラオ),バギオ(フィリッピン),父島(日本),カメンスコエ(ロシア),サパ(ベトナム),ハイフォン(ベトナム),ビン(ベトナム)の9ヵ国14定常観測点における観測を, 海洋研究開発機構と共同で継続した.このうちマジュロ(ミクロネシア),父島(日本),カメンスコエ(ロシア)を除く11観測点からはリアルタイムで地震波形データを収集した.

(1-2) 海洋島電磁気観測網

ポナペ(ミクロネシア連邦),アテーレ(トンガ王国),モンテンルパ(フィリピン),カンチャナブリ(タイ),ワンカイヨ(ペルー),南鳥島の各観測点における地磁気3成分と全磁力の観測を継続した.マジュロ(マーシャル諸島)観測点については,新観測点での観測再開について,現地協力機関と協議をしている.絶対観測値を用いて2015年以降の地磁気三成分確定値の検討を開始した.また,2017 年までの観測値の公開準備を行った.

(1-3) 海底ケーブルネットワークによる電位差観測

フィリピン-グアム,二宮沖-グアム(TPC-1),グアム-沖縄(TPC-2),上海沖-苓北(上海ケーブル)の海底ケーブルについて電位差観測を継続し,これらの電位差に含まれる長期変動成分の解析を継続して行った.特に,電位差成分の永年変動(時間1階微分)に着目し,短期主磁場変動の地磁気ジャークや海流変動との関連を調査した.また,電位差変動から地下電気伝導度構造の推定を目的として,海洋潮汐による電磁誘導の数値モデリングを開始した.

(2) 海半球観測網を補完する長期アレイ観測

(2-1) 海底地震観測

海底観測網直下の構造を浅部から深部まで決定する「広帯域海底地震探査」の手法開発を継続して行った.周期3–30秒においては地震波干渉法を,周期30–100秒においては遠地地震のアレイ解析手法をもちいることで,地震波異方性も含めた深さ10–150 kmの構造の定量的な議論が,浅部の構造を仮定せずに行うことが可能となった.既存の海底観測アレイにこの手法を適用する中で,使用するデータの選別の重要性が明らかになった.

 広帯域海底地震計(BBOBS)の鉛直成分に混入する水平動成分起源の傾斜ノイズ除去方法を適用し,その有効性を明らかにした.周期20秒以上で本ノイズ除去は効果的であり,「ふつうの海洋マントル計画」で得たデータに適用した結果では15–20 dBの改善が見られた.
 Oldest1地震観測では,鉛直成分ノイズを低減するために従来1×1 mであったBBOBSの錘の底面積を2×2 mに拡張し,さらに精密な圧力変化を記録するために微差圧計(DPG)を追加した.鉛直成分に混入するコンプライアンスノイズ(内部重力波による海底圧力変動に起因)は,圧力データを用いたノイズ除去が有効であるが,Oldest1で得られた記録に適用し,周期50-300秒の周期帯で最大15dBの改善が見られた.
 また,「ふつうの海洋マントル計画」によって,BBOBSでは,エアガンによる人工地震探査の信号を300–900 km離れた地点で観測できる性能を有していることが明らかになった.このことは,地殻構造探査を目的としてきたエアガンを用いた海底人工地震探査で,海洋リソスフェアの構造探査が可能であることを示しており,この研究を推進すべく海洋研究開発機構との間に共同研究契約(OBS地震探査による海洋プレート構造研究)を締結した.2017年2–3月, 2018年7月に日本海溝のアウターライズ域で実施された人工地震探査において,複数種類のOBSによる同時比較観測を実施し,各OBSの特性を明らかにした.
 本センターが実施した海底地震観測の記録は,「ふつうの海洋マントル計画」までの記録がOHPデータセンターより公開済みである.

(2-3) 陸上電磁気観測

1998年以来,中国地震局地質研究所の協力を得て中国東北部吉林省中部および遼寧省西部・中部においてネットワークMT観測を行ってきた.そのデータの解析から,マントル遷移層の深さで電気伝導度が他地域に比べて有意に高くなる傾向が認められた.2007年より,この異常域の空間的な広がりを調べるために,中国全域にわたる既存磁場データの解析を始め,周期1日から100日程度の鉛直-水平磁場間の応答関数推定を試み,誤差の小さい良好な応答関数が推定できることを確認した.その応答関数に基づき,1次元層構造を仮定した構造推定を試みた.その結果,中国東北部の広域にわたってマントル遷移層が高い電気伝導度をもつことが明らかとなった.しかし一方で,特に低磁気緯度地域で,下部マントルに至 るまで異常に低電気伝導度となる結果が得られた.このため,応答関数に対する3次元効果を見積もっているところである(地震予知研究センターと共同).

(3) 海半球ネットワークデータの編集・公開

Boulder Real Time Technologies社のAntelopeというソフトウェアを用い,オーストラリア地質調査所,台湾中央研究院地球化学研究所,及びIRISとリアルタイムデータ交換を継続した. インドネシアの国内観測点, ADPCの観測点のデータの取得を継続した.
 超伝導重力計データの公開を継続した. 海洋研究開発機構と共同で,広帯域地震データ,GPSデータ,電磁気データの公開を継続した.

3.7.3 最先端の地球物理海底観測システムの開発

(1) 次世代の海底地震・測地観測システムの開発

本所において共に海域地震観測を行う観測開発基盤センターと共同し,海底地震観測の高度化として複数次元での観測帯域拡大を進めている.現在,広帯域地震観測での機器の高機能化,機動的海底観測での測地学的帯域への拡大,および水深6000 mを越える超深海域での地震観測の実現,の3項目を具体的課題として機器開発を実行中である.

 広帯域海底地震計(BBOBS)の平均的ノイズレベルを評価すると,長周期側での水平動のノイズレベルが陸上観測点での統計的上限に対して数倍以上高い.この対策として,低背なセンサー部をデータ記録部から独立させ海底面に突入させて自己埋設する構造の新型広帯域海底地震計(BBOBS-NX)を,ROV等の潜水艇による支援(設置・回収時)を要する運用方式で実用化した.2010年以降での複数の観測結果から,陸上観測点並のノイズレベルが確保できることを確認した.更に,このBBOBS-NXと同等の観測がROVを使用せず,自律動作により可能となる次世代機(NX-2G)の開発研究を科研費基盤研究(A)の補助を受け2015年から進めた.2016年10月にNX-2G試験機での実海域試験を実施,2017年4月に福島県沖日本海溝陸側斜面にて,既設置のBBOBS近傍にNX-2G試験機を設置,長期試験観測を開始し,2018年10月に無事回収し,回収時の動作をROVで観察した[図3.7.4].設置時の自律動作状態は,自撮りの深海用ビデオカメラで記録していた.水平動ノイズレベルの低減が同地点でのBBOBSに対して充分では無かったがその要因はつかめており,改良後の再試験を今後実施する計画である.
 また,BBOBS-NXを基に,機動的に広帯域地震・傾斜同時観測を行うBBOBST-NXの開発・実用化を進めると共に,海底での条件次第ではこれまでのBBOBSでも傾斜変動が計測可能であることも,複数地点での試験的観測データにより分かってきた.使用している広帯域地震センサーの長期間での安定性には問題は無さそうで,観測対象次第では有用と考えられる.上記のNX-2Gでも傾斜観測は可能であり,機動的で高密度な海底地震・地殻変動観測アレイの実現性が出てきた.

(2) 最先端の海底電場観測装置(EFOS)の開発

電磁気探査の到達可能深度は,測定する電磁場変動の周期によって制御される(表皮効果).OBEM観測データのインバージョンによる最大探査深度は,周期1日以上で電場のS/Nが悪くなるために上部マントルの数百kmに限定される.新しい長基線電場観測装置(EFOS)は,長いケーブル(EFOS-6は6km,EFOS-2は2km)を海底に展張して良質な長周期電場データを取得する目的で開発された.上記「ふつうの海洋マントル計画」では,海域Aに合計3台のEFOS-2と1台のEFOS-6を設置し,2014年9月に3台のEFOS-2を,2015年9月に1台のEFOS-6を回収した.観測点NM16に設置したEFOS-2[図3.7.5]とOBEMの電場データのノイズスペクトルを比較すると,105秒よりも長い周期でEFOS-2のノイズが約1桁低いことが示された.このデータを用いて遷移層の電気伝導度を求め,地震波のレシーバ関数解析結果と統合して,遷移層に存在しうる水の量の上限を推定することができた.

 今後進めるべき方向の一つは,EFOSによる観測を世界中の様々な海域で実施して,遷移層の水のグローバルな分布を明らかにすることであろう.しかし現状のEFOSは,設置および回収に無人探査機(ROV)を必要とし,このことがEFOS観測のグローバル展開を困難にする要因となっている.現在のEFOSは耐圧容器にガラス球を用いているために深海有人探査機での取り扱いができない.2017年度はこの点を改善して有人探査機でも扱えるよう,耐圧容器を金属製に変更した.2018年度および2019年度には,科研費基盤研究(B)により有人探査機による展張・回収システムを検討し,作成した.このシステムを有人潜水調査船「しんかい6500」により2019年8月に小笠原海盆に設置し,1年間の実証観測を行う予定であったが,台風による海況不良のため,機器設置を行うことができなかった.機器開発を継続し,実証観測の機会を再度獲得することを目指す.
 深海でのEFOSの設置・回収作業が可能な有人/無人探査機は世界中を見ても,極めて数が限られる.一方,マニピュレータがないため複雑な作業はできないが,深海底でケーブルを展張する機能はある各種曳航体が使用可能な研究船は,多くの国で保有している.これらの曳航体を用いた設置・回収が可能になれば,EFOSによる観測の機会が格段に増えることが期待される.そこで我々は,深海曳航体(ディープトウ)によって設置/回収できるよう,EFOSの全面的設計変更を行い,このシステムについても本格的な開発を進めてゆく予定である.

3.8.1 素粒子検出デバイスの開発研究

(a) ミュオグラフィ検出器 - 並列ミュオグラフィの強化

 2006年に地震研究所が火山内部を世界に先駆けて描き出して以来,ミュオグラフィは急速に世界に広まりつつある.ミュオグラフィとは,宇宙線に含まれる高エネルギー素粒子・ミューオンの強い透過力を利用して,キロメートルを超えるサイズの巨大物体内部を透視し,その内部の密度構造を可視化する技術である.これまで第2世代システムのノイズ低減能力を強化することで2013年に薩摩硫黄島で発生した噴火において,マグマの昇降をとらえることに成功しているが,薩摩硫黄島は小規模火山として位置付けられるため,ミュオグラフィを桜島のような中規模火山に適用しようとすると,より厚い岩盤を通り抜けることができる極めて低強度のミューオンを一定時間内にできるだけ多く記録する必要がある.そのために2014年に設置された桜島ミュオグラフィ観測所(SMO)を観測装置の並列化により継続的に強化してきた.
 2015年から2017年にかけて学術交流協定,知的財産協定など種々の協定を締結してきたハンガリー科学アカデミーウィグナー物理学研究センターとの協働により,2017年には軽量高解像度ミュオグラフィ観測システム(Multi-wire-proportional-chamber-based Muography Observation System; MMOS)を開発した.これは軽量でありながらも第2世代システム以上の高いノイズ低減能力と従来技術を一桁以上凌駕する解像力を実現した.ただ,有感面積が不十分であったため,2018~2019年にかけて口径を順次拡大し,現在では5.9㎡となっている.2019年度はこれをさらに拡大し,2020年に入るまでに総有感面積は9㎡に到達した(図3.8.1).また,2019年度には並列化に起因する故障率を低減する目的で複数台の観測装置すべての通信系統を無線化することで通信故障率が軽減されたが,2020年度は電気系統においても,安定運用を妨げる要因があることが明らかとなり,その対策を講じている.
 一方,並列化の段階で得られたデータについても解析・解釈が進んだ.2017年終わりから2018年初めにかけて桜島における噴火が昭和火口から南岳火口へと推移したが,それに合わせて観測された昭和火口底直下における直径200m程度の密度上昇現象について考察を行い,それがプラグ様の物体であることが分かった.(図3.8.2).このプラグが昭和火口の噴火終焉に伴い形成されたものなのか,あるいは南岳火口の活発化に伴って形成されつつあるものなのかについては,今後の解析によって示唆を得られることが期待され,切迫性評価にどう活用できるか引き続き火山学の各分野の研究者とさらに連携して検討していく.

(b) ボアホール設置型ラジオグラフィー

 宇宙線ミューオンは上空からのみ飛来する.したがって,断層破砕帯や地滑り面等の地下構造を透視するためには,測定対象を見上げるように,ミューオン検出器を地下深く掘削坑(ボアホール)等に埋設することが必要となる.しかし,ボアホールのような狭隘な空間では,センサーの有効面積を大きくとることが困難であり,ミューオン・フラックスは限られた量しか得られないので,それを有効に活用する観測技術の開発が不可欠となる.
 2014年度までに,跡津川断層(岐阜県飛騨市の山中)近傍に掘削された最大深度350mのボアホールを利用して,深度100mまでのミューオン・フラックスデータを取得した(図3.8.3).その解析結果では,断層破砕帯の走行方向に有意なフラックス増加を検出し,それが深度50mから95mにかけて存在する破砕帯沿いに期待される空隙率の増加と整合することが見出された.また,断層の傾斜角が従来のモデル(~90°)とは異なり,約70°であることも判明した.これを受け,2015年度は検出器の高感度化・高分解能化のため,新型の検出器を製作した.新型検出器は,方位角方向8方向に分割された二層のシンチレーターで構成され,方位角方向に分解能を有する.また,検出器内の構成要素の配置を最適化し,シンチレーターの面積を最大化することで幾何学的に計算される検出器のアクセプタンスは約3倍となった.更に,電源供給を除く全ての装置を検出器筐体中に収め,超低消費電力データ収集エレクトロニクスを採用した.これらの改良により,検出器の感度・分解能および観測作業性が大きく向上した.
 2017年度は,断層の三次元構造決定に向けたデータ収集を深度180mまでの各深度において長期間にわたり行った.2018年度は,取得したデータについて詳細な解析を進める一方で,素粒子相互作用シミュレータGeant4を用いた,検出器および周辺地形を含めたシミュレーションツールを開発した.2019年度は,測定データから検出器のミューオンに対する正確な応答や,チャンネル間のクロストーク等の検出器較正情報を引き出し,この特性に合わせてミューオン事象再構成手法を改善した.図3.8.3に検出器外観,深度10mにおける各方向のミューオン数測定値とその期待値との比較,深度20-100mにおける各方向の平均密度を示す.断層破砕帯の低密度層より浅いと想定される深度10mでは,測定ミューオン数は期待値と3%で一致した.また本解析手法により,深度10-100mにおいて各方向の平均密度を得た.浅部における平均密度や,深くなるにつれて平均密度が下がる傾向は,既存の他測定結果と矛盾はない.方向ごとの密度のばらつきには,周辺地形の不理解に起因する物が含まれていると考えており,現在調査中である.今後,さらに詳細なデータ解析を進め,各深さの測定値と期待値との比較から,断層の三次元構造探査を進める.
 更にこれらと並行して第三世代検出器の開発に着手し,現行検出器では実現されなかった仰角方向分解能の実現と方位角方向分解能向上のため,シンチレーター構成および光検出器の変更とデータ収集エレクトロニクスの改良を進めている.来年度以降,跡津川断層で試験を行なった後,房総半島南部の石堂断層の測定を行なう予定である.

3.3.6 地球ダイナミクス:水と固体地球の相互作用

太陽系の岩石惑星の中でも,地球は,海と陸,活発な地震・火山活動,プレート運動と大陸移動,地球磁場を有し,生命を宿す「にぎやかな惑星」である.なぜ兄弟惑星である火星や金星と異なりこれほど活発で多様性に富むのか,その仕組み・鍵の一つは水にあると考えている.物質科学系研究部門・岩森研究室では,これらのユニークな地球の営み(=地球ダイナミクス)について,特に水と固体地球の相互作用に注目しながら,温泉や火山の調査,室内分析,データ統計解析,数値シミュレーションなど,さまざまなフィールドや手法を組み合わせて研究している.2018-2019年には,

  • 日本列島全域の火山岩同位体組成の多変量統計解析(独立成分分析およびクラスタ分析)に基づき,沈み込んだプレートやマントルの様子がどのように列島沿いに変化するかを定量的にとらえた.具体的には,(1)日本列島のマグマが大きく東西で異なること,(2)さらに東西それぞれが,異なるスラブ由来成分(スラブ流体によりもたらされる成分)に対応する島弧セグメントや,「含水プルーム」にともなうスポット的な火成活動に分類されること,(3)マントルウエッジ自体の組成も,島弧沿いに明瞭な変化があり,比較的親水成分に富むIndian-typeに類似するマントルと,比較的親水成分に乏しいPacific-typeに類似するマントルが入り組んで分布すること,(4)(3)の入り組み方は,マントル対流の流れを反映している可能性があること,などが分かった.
  • 島弧下のマントル対流-流体分布―温度・粘性分布を考慮した地殻変動の数値シミュレーションに基づき,2011年東北地方太平洋沖地震前の大きな地殻変動の原因を突き止めた.大地震直前まで加速しつつあった海岸域の沈降と,直後から現在も続く急激で大きな隆起が,マントル深部を含めた大規模な日本列島全体の粘弾性応答に対応することが明らかとなった.この指標に基づき,海岸域の沈降が加速している地域(例えば北海道東部)は,大地震が迫っている可能性があることを指摘した.