研究テーマ
各年度の研究紹介パンフレットはこちらになります.
過去の研究テーマ 2014-2024
はじめに
火山の噴火機構や,それに伴う波動現象について,研究をしています.火山噴火は,基本的には熱流体力学現象と捉えることができますが,マグマには流体と固体の間を遷移する性質があります.「固体の流動」は,マントル対流など固体地球科学の重要課題のひとつですが,火山では,「流体の破壊」が問題となります.その実体について,理論,実験をもとに研究を行って来ました.また,活動的な火山では,多様な振動現象が地震・地殻変動や空振(音波)として観測されます.私たちは,日常生活において,音に含まれる様々な情報を聞きとっていますが,火山の音に対するヒヤリング能力はまだ高くありません.フィールドで火山の音を観測しつつ,モデル実験を行い,火山の音の意味を理解しようと試みています.
火山噴火模擬実験と圧力変動の理解
火山の噴火は,マグマに融けていたガスが発泡し,膨張することによって駆動されます.噴火に至るメカニズムの一つとして,地下で異なる温度や組成をもったマグマが混合することが考えられています.このプロセスや,それに伴う諸現象の観測について理解を深め,また,広く伝える道具として,ペットボトルを用いた火山噴火模擬実験を行っています.この実験では,クエン酸を含む水飴と重曹を含む水飴を混合し,化学反応によって発泡を誘発します.
下の動画は,次世代火山研究者育成プログラムの一環として九州大学で開催した実験講義での実験結果です.深いマグマだまりと浅いマグマだまりそれぞれの圧力変化(緑と水色の線)や,地上での音波(赤色の線)を画像とともに計測しました.圧力変化は,地殻変動の観測に,音波は空振観測に対応します.実際の火山では見ることのできないマグマだまりや火道の状態が観察でき,想像が膨らみます.簡単な実験でも,条件を変えることで,いろいろなタイプの噴火や変動が見られ,まだまだ完全に理解や制御ができていません.
その他の噴火実験動画はこちら
人工衛星データを用いた噴火活動の理解や火山のモニタリング
人工衛星は,24時間365日常に地球上を観測しています.このため,地上の観測点(空振計や地震計など)が乏しい場所や,噴煙の目視が難しい夜間であっても,火山や噴火活動を捉えることができる観測手段として利用されています.
日本の静止気象衛星ひまわりは,日本やカムチャツカ,東南アジア,南アジア地域全域を10分に1回観測(スキャン)しています.この観測データから,噴火による噴煙がどのように変化していったのか,周囲より非常に高温のもの(溶岩など)がいつ地表に現れたか,などの情報を得ることができます.私たちは近傍に観測点がなかった火山噴火について,この衛星観測データを解析し,遠地の地上観測データとも比較することで,より詳細な噴火推移を明らかにしました.さらに,衛星データの解析手法を改良することで,噴煙の中や下の状況を知ることができることも分かってきました.左の図は,2022年トンガのHunga Tonga-Hunga Ha❛apai火山での大規模噴火で形成された噴煙を上空から捉えた衛星画像です.画像の中心に新たな噴出が見えます.
これらを応用し,日本の火山活動の状況はもちろん,海外の機関とも協力し海域火山の活動監視などにも取り組んでいます.(堀内)
DASを用いた海域火山観測
海底火山や火山島の火山といった海域火山は,観測点の設置が難しく,観測網の整備が遅れています.我々は,光ファイバーを地震計として用いるDAS(Distributed Acoustic Sensing)技術に注目し,トンガにおいて,通信用海底ケーブルを用いた海底火山の観測を行っています.DASを用いることで,従来の地震計では不可能であった稠密な観測が可能となります. 一方で,DASは従来の地震計とは異なる特性を持っており,既存の手法を使って地震の解析をすることは困難な場合があります.そのため,DASの特性を活かしつつ,火山で起こる微弱な地震活動を捉えるための解析手法の開発に取り組んでいます.(中尾)