Plans and Achievements 計画と成果

成果のまとめ

令和5年度の成果のまとめ

これらの図は下記の報告書に掲載されているものです。

【海溝・トラフ軸近傍のプレート境界固着状態の推定】※5年間の主な成果

左図はアムールプレートに対する各観測点の年間移動量を,方向とともに赤矢印で示す。南海トラフより外側(南東側)では,これまで知られているプレート相対運動と同じであるが,内側(北西側)ではその約6割程度の移動が観測された。右図は千島海溝根室沖に設置された観測点のオホーツクプレートに対する年間移動量を赤矢印で示す。海溝より内側(北西側)でプレート収束速度と同程度の年間約7 cmの移動が観測された。これらの結果は,いずれの領域でもプレート境界浅部ではプレートが固着しており,この固着域の周りではひずみが蓄積していることを示す(右下図参照)。

【水蒸気噴火の準備過程を捉えるための火山熱水系構造モデル】※5年間の主な成果

草津白根山の湯釜火口北側の噴気について,3He/40Ar比に基づきマグマ発泡度の変化が検出された。発泡度変化のタイミングは浅部熱水だまりの膨張・収縮とよく一致しており,同火山の活動の活発化を駆動するマグマ~浅部活動の物質科学的なつながりが確認できた。3He/40Ar*比(40Ar*はマグマ由来の40Arを意味する)というこれまで使われていなかった指標が火山活動活発化と関係していること,さらにマグマの発泡で説明できることを示した。草津白根山のような熱水が卓越している火山の活動活発化にマグマ(おそらく熱水系より深部)の寄与を示唆した意義もある。希ガスなので複雑な反応を考える必要がなく,今後,火山活動モニタリングの指標の一つとして活用が期待できる。

【スロー地震の総合解析による南海地震の固着域へ向かうスロースリップの長距離移動】※5年間の主な成果

左で示すように鹿児島沖から四国沖にかけての南海トラフのプレート境界で複数の種類のスロー地震を捉え,それらが深部と浅部,別々の時間スケールで長距離移動する様子がわかった。左の図で示すa~kの領域について,深部低周波微動,GNSS 観測から得られた変位,繰り返し地震のすべり量,浅部超低周波地震の回数を時間変化として中央の図のように並べると,1ヶ月程度で南から北に向かって移動している様子がみえる。これらの南海トラフ沿いのスロースリップの移動についてまとめたイメージを右に示す。

【火山活発化指数(VUI)による火山活動評価の試み】※5年間の主な成果

観測データに基づいて火山活動を定量的に評価する方法のひとつとして,火山活発化指数(VUI)を十勝岳,雌阿寒岳,吾妻山,草津白根山,阿蘇山に適用した。多項目のデータを統合するため特定の観測に評価が偏重せず,算出方法が単純であるため自動化も可能である。

【南海トラフにおける後発地震の発生確率評価】※5年間の主な成果

M8クラス以上(半割れ)及びM7クラス(一部割れ)の地震発生後に後発する地震の発生確率を,南海トラフにおける地震発生履歴を考慮し,評価を行った。例えばM8クラス以上の地震発生から1週間以内に,M8以上の後発地震が発生する確率は約2%~77%,平時の約100~3,600倍と算出される。

【複合災害を想定した避難行動実験】※5年間の主な成果

北海道稚内市を対象地域として,地震による津波と土砂災害との複合災害を想定した避難行動実験の結果。地図上の赤点があらかじめ指定された避難経路を示し,グラフは平均歩行速度及び分断発生時のグループ間距離を示している。津波のみを想定した場合,道の駅わっかないから避難場所(地図中の緑丸)へ8分以内に移動が完了し,津波到達までの時間的余裕がある(左の地図とグラフ)。一方,地震により土砂崩れが発生し,当初目標としていた避難場所へ移動できないことを想定した場合,歩行速度は津波のみの場合と大きくは変わらず, A地点で二つのグループに分かれ,グループ間の差はB地点でさらに広がった。そして,その差は別の避難所(地図中の緑四角)へ移動するまでに縮まらなかった。最終的に,遅い方のグループの避難完了までに14分以上を要した。

【高速な断層推定】※5年間の主な成果

REGARDによる2021年3月20日に発生した宮城沖地震の地殻変動から断層パラメータを推定したもの。左は断層パラメータの事後確率分布,右は推定された矩形断層モデルの位置とその広がりの不確実性を示す。左の青線は中央値で,右上にその数値を示す。東北大学で開発された推定パラメータの不確実性を評価できるプログラムを国土地理院に技術移転した。従来法からの置き換えに向け,試験運用中である。

【 S-net導入前後の震源分布の比較】※5年間の主な成果

気象庁の一元化震源処理のルーチン業務にS-netの地震観測データが取り込まれた。東北日本を例に,S-netのデータ導入前(2018年1月から2020年8月まで,薄青)とS-net導入後(2020年9月から2020年12月まで,黒)を比較すると,S-netデータを用いた場合に震源の深さが系統的に浅くなる傾向があることがわかった。S-net導入により海域の地震観測点が増え,従来よりも精度よく震源の推定ができるようになったと考えられる。

【2023年5月5日能登半島北東部の地震M6.5のすべり分布モデル】※令和5年度の成果

2023年5月5日能登半島北東部の地震M6.5のすべり分布モデル(南東方向に傾斜した矩形内のカラーコンター)。左は2023年5月5日に発生したM6.5の地震より前1年間の震源分布を丸で示す(丸の大きさはマグニチュードに対応し,M2.0以上を示す。また,丸の中の色は深さに対応している)。M6.5の地震の主破壊(コンターの赤色が濃い部分)は破壊開始点(星)より北の浅部に進行した。この地震以前の群発地震活動は,深さ10〜14 kmで発生していた。右はM6.5の地震発生後から同日に発生したM5.9の地震発生前まで約7時間の震源分布を丸で示す。M5.9の地震はM6.5の地震と同じ面上の,約5 km下で発生した。

【2024年1月1日能登半島で発生した地震(M7.6)の地表変位】※令和5年度の成果

干渉SARの2.5次元解析により求められており,左は準上下方向,右は準東西方向の成分を示す。能登半島北部の広い範囲で隆起が検出され,その値は輪島市西部では約4 mとなった。

【史料等に基づく相模トラフの巨大地震(関東地震)の候補と2023年現在の地震発生確率】※令和5年度の成果

(a)史料ならびに古地震学的証拠から得られた1703年元禄関東地震以前に発生した関東地震の候補の詳細(1~4),1703年元禄関東地震及び1923年大正関東地震の際の津波の高さ(5~6)。(b)関東地震の候補とその地震規模。(c)関東地震の可能性がある地震の候補の組み合わせを変えて,Brownian Passage Time(BPT)分布を仮定し,今後30年間の関東地震の発生確率及びその時間変化を計算した結果。例えば,②正応,④明応,⑤元禄,⑥大正の4地震の組み合わせを考えると,平均発生間隔は210±7年となり,最も規則的に発生していることになる。この場合,今後30年間の発生確率は,前回地震から160年間はほとんど0 %であるが,その後急に増加し,前回地震から204年(西暦2127年)頃にはほぼ100 %となる。6地震全てを考慮した場合,発生間隔は209±117年とばらつきが大きい。この場合の今後30年間の発生確率は,現時点(地震発生後100年)で既に19 %とポアソン過程 (13 %)よりも高い。

【災害痕跡GISの表示例】※令和5年度の成果

地震・火山噴火・水害に関わる災害痕跡地点(橙・赤・青のピン)と,災害痕跡が検出されなかった地点(緑ピン),及び,史料から推定した震度(数字のアイコン)を表示している。

【鬼界海底カルデラからの噴出量推定とマグマ供給系進化】※令和5年度の成果

反射法地震探査により得られた層構造と噴出物との対比から,2回の大規模火砕流噴火に相当する堆積物が海底に厚く堆積しており,噴出量は71 km3以上であると推定された。噴出物の分析からは,(1)マグマの起源物質の変化が起きたこと,(2)鬼界アカホヤ噴火直後には出残りマグマが活動し,その後に新たな珪長質マグマと, より深部からの苦鉄質マグマによる供給系が形成され, 海底の巨大溶岩ドームや薩摩硫黄島の活動を引き起こしていること, (3)海底の溶岩ドームではマグマ混合はほとんど起こっていないことなどが明らかになった。

【地球内部の物質構造イメージングの方法】※令和5年度の成果

地球内部の地震波伝播速度と電気伝導度を統合解析することにより,岩石と液体の種類,量比,分布形状を推定する手法を開発した。この手法を用いることにより,地殻とマントル最上部の構造イメージングが大きく進み,地震・火山活動のしくみの理解に資すると期待される。

【相模トラフ沿いの応力蓄積と2023年現在の地震破壊シナリオ】※令和5年度の成果

(a)GNSSデータから推定された応力蓄積速度。(b)過去の大地震を考慮した2023年時点での応力蓄積分布。元禄地震以来320年経過している安房パッチに応力が蓄積している。(c)2023年時点で発生しうる地震のすべり分布。房総半島沖の安房パッチでは,2023年時点でもMw7.8程度の大地震が発生しうる。

【測地データと地震活動度から求めた内陸域での地震発生確率】※令和5年度の成果

2005年〜2009年に観測されたGNSSデータに基づくひずみ分布から推定した内陸地殻に蓄積されるモーメント率と,過去の地震活動記録に基づく各地の背景地震活動データから,MJMA6.0以上の地殻内地震の30年発生確率を求め,その分布を色で示した。赤い色の地域ほど,発生確率が高く見積もられた。平均変位速度が速い活断層では,余震の継続時間が短い傾向が見られた。

【南海トラフ沿いのスロー地震活動を規定するタービダイト】※令和5年度の成果

南海トラフに沿って沈み込む深海堆積物を調査した結果,砂層に富むタービダイト(反射法探査測線上の桃,緑,橙色の領域)が,スロー地震活動の静穏域(水色の丸がない領域),すなわちプレート間固着の強い領域(赤のグラデーションが濃い領域)に集中して分布することを発見した。透水性の優れたタービダイトがプレート境界断層の間隙水圧を低下させることで,断層面のせん断強度が大きくなり,スロー地震活動が静穏化した可能性を示唆する。

【重力測定による伏在断層の推定と震度予測】※令和5年度の成果

仙台平野南部において,反射法地震探査で確認されている伏在活断層に伴った重力変化を追跡した結果,伏在活断層による重力変化の分布が明らかになり,この断層の連続性が明らかになった。また,この断層の活動から各地の震度分布を予想したところ,断層の浅部延長と山地に挟まれた帯状の領域では震度7程度が推定された。

【建物被害による平均損失率(構造種別ごと)】※令和5年度の成果

南海トラフ沿いの巨大地震が発生した際に生じる高知県及び大阪府における構造種別ごとの建物損失率の期待値を示す。最大値は,高知県では木造で60 %,RC造とS造で30 %,大阪府では木造で35 %,RC造とS造で20 %程度である。

【日本における学校・地域での防災教育実践の特徴に基づく「防災基礎力を向上させるための教育実践」のあり方】※令和5年度の成果

防災の基礎となる 8 つの能力について,現在学校や地域で実践されている防災教育がどの能力を向上させるものであるかを調査した(左図)。その結果,「地震・津波・火山を科学的に理解する」「気象災害を過去の被害を踏まえて理解する」「平時に被害を出さない方法を知る」,及び「地図などを用いて地域で起こる災害を知る」を向上させるための教育が相対的に少ししか実践されていないことが明らかとなった。この結果を体系的に整理することで,防災基礎力を向上させるための教育実践のあり方を提案した(右図)。本研究の成果は,文部科学省が発行した「実践的な防災教育の手引き(小学生編)」に活用され,社会実装・社会普及を実現した。

【降灰予測シミュレーションにおける風速場・噴出物量の重要性】※令和5年度の成果

鹿児島市街地に影響が及ぶ風速場(2018年7月15日)において桜島南岳山頂火口において大規模噴火が発生した場合における降灰危険度予測(右上,右下)。降灰危険度予測を基に避難すべき範囲の余長の持たせ方の変化(左上,左下)。噴火の24時間前予測では余長域が広いが,現時点予測では余長域が狭くなるように設定されている(左図の赤色の範囲)。