カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.12.4 高密度強震観測データベース

(1) 首都圏強震動総合ネットワークSK-net の構築と運用

首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計1064 観測点(図3.12.4)の強震波形データを収集し,公開するシステムである.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位のグラフおよび最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルを SK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2018年度は43名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2019年3月までに収集されたデータを順次利用可能にしている.

自治体の震度計の更新により収集システムも更新が必要となり,5自治体については,新しい波形収集装置を開発してオンライン収集を継続し,残りの県についてもオフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.

東北地方太平洋沖地震については,本震や余震の波形データ量が膨大なため,一部の県でオンライン収集が困難な事態が発生した.現地の震度計からのデータ回収を実施してデータベースに格納した結果,786の観測点からの波形データがホームページで公開されている.

3.12.3 地震データ解析とその公開

本センターではWWWサーバを立ち上げ,地震・火山等の情報提供を行ってきた.アウトリーチ室(現広報アウトリーチ室)が設置されてからは,本センターはそれをサポートしている.また,観測開発基盤センターとともに年2回,気象庁において地震波形自動処理の技術移転のための研修を行っている.

(1) 地震カタログ解析システム等

研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している(図3.12.3) .

利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.2017年においては,気象庁一元化自動震源を取り込んだシステムのプロトタイプを開発した.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーサイトを運用し,大学等の研究者に継続して提供している.2011年からは,International Seismological Centre (ISC)で維持・管理されているISC Bulletinデータベースのミラーを構築・維持している.

(2) 長周期波動場のリアルタイムモニタリングGRiD MT

全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MT(図3.12.4)を開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2018年においては,世界の地震については168個,日本の地震については116個のモーメントテンソル解を決定した.

(3) 古い地震記象の利活用

地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震記象委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.

このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.今年度は,1923年関東地震や1946年南海地震を初めとする国内主要地震の世界各地の地震波形記録や,1940年代の地震研究所管轄の観測点のすす書き記録を電子化した.WWSSN フィルムの長期保存のためのファイリングや,劣化が始まっている筑波地震観測所HES記録の修復作業も行っている.また,濃尾地震や鳥取地震等の過去の大地震のアンケート調査や報告書などの資料のPDF化を行い,公開すべく準備を行っている.2017年においては,和歌山観測所ペン書記録の連続波形画像を閲覧できるシステムを開発し,猿谷・熊野・甲斐川の3観測点を公開した.

3.12.2 全国共同利用並列計算機システムの提供

本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2015年3月にシステム更新を実施し,現在はSGI UV 2000/ICE-Xシステム(図3.12.2)が稼働している.このシステムは,並列計算サーバとして288ソケット(3456Core)/18.4TB メモリ,高速計算サーバとして128ソケット(1024Core)/8TBメモリ,それらのフロントエンドサーバとして8ソケット(64Core)/1TB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている.システムは,例年毎月平均120~150 名が利用しており,そのうちの4 ~ 5 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者や中級の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.

3.12.1 全国の地震データ流通とデータベース

(1) 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet

新しい大学間の全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetを各大学や防災科研との共同研究として開発した.JDXnet は,衛星回線に代わって,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めたシステムを運用している.2015年度末にSINET4がSINET5に更新され,JGN-Xはサービスを終了して2016年7月に新たなJGNがスタートしたのを受けて,本センターでは, NII並びにNICTの担当者と綿密に協議して移行を行った.2018年度は,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを引き続き運用し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を継続した.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.

(2) J-array システム

新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.またその中から,M7 以上の大地震についての記録を選んでDVDを毎年作成し,全国の研究者に提供している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,USGSのWebページから地震情報を自動的に収集するシステムを新たに開発して自動化システムを改良した.2018年度は,2017年分の記録を選んでデータベース化を進めた.

(3) 全国地震波形データベース利用システム HARVEST

各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2018年においては,各地域の地震活動のみの提供を継続して行った.

(4) チャネル情報管理システム

チャネル情報管理システム(CIMS)は,全国の大学や防災科研,気象庁などの各機関の地震観測点の情報を分散管理するデータベースである.各機関が管理する観測点の情報をCIMS に入力すれば,自動的に他機関に転送されて更新されるため,他機関の観測点の変更情報を迅速にかつ正確に利用できるようになる.2007年10 月からこのシステムを運用している.今年度も,将来的なこの仕組みの構成についてメタデータ管理の総合的な観点から検討した.

(5) 緊急地震速報の伝達と利活用

気象庁に予報業務許可申請(地震動) を行い,予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTNET やSINET 等のネットワークを介して緊急地震速報の伝達を行っている.学内で,緊急地震速報の仕組みや技術的限界を周知し,利用するための必要な事柄を検討し,Web コンテンツと同様なアクセスのみで緊急地震速報を簡便に受信できるようにし,端末表示装置の開発も行った.2011年からは情報学環総合防災情報研究センターと共同で,学内に複数の配信サーバを設置して,全学に緊急地震速報を提供している.また2012年度からは,学内の放送設備に接続して緊急地震速報を放送する装置を開発して,まず2012年度に理学部,工学部,地震研究所,本部棟に設置され,続いて2013年度には,駒場Ⅰキャンパス,白金キャンパス,など遠隔のキャンパスにも設置された.2014年度は,残る柏キャンパスにも設置されて,2015年度には,本郷キャンパス広域放送設備に接続して,本郷キャンパスの主要な建物のほぼすべてに緊急地震速報を放送可能にした.また,それまで独自システムを使っていた附属病院においても,2015年度末に,本システムによる緊急地震速報の放送に移行され,全学的な利用がさらに進んだ.また東京大学本部の防災訓練,理学部や工学部,地震研等の部局の防災訓練,駒場キャンパスや柏キャンパスの防災訓練,医科研や附属病院における防災訓練などにおいて,本装置による緊急地震速報の訓練放送が広く活用されている.さらに,2014年度には情報学環総合防災情報研究センターと共同で,緊急地震速報によるエレベータ制御装置を開発し,2015年2月23日に安田講堂のエレベータ1台に設置した.その後,2016年8月29日には地震研究所2号館の2台のエレベータに,2016年12月3日には東大本部棟建物の3台のエレベータに設置して利用開始されている.2017年度は全学のエレベータに普及を図るべく,東京大学環境報告書2017に「緊急地震速報を活用したエレベータの地震時安全性の向上」について報告した.また、気象庁が運用開始するPLUM法に対応するために、緊急地震速報の受信アプリなどの改善を実施した。2018年においては,サーバシステムのシステムアップデートを実施した。

3.12 地震火山情報センター

教授 佐竹健治(センター長), 木下正高
准教授 鶴岡弘
講師 中川茂樹
特任研究員 五島朋子,Tungcheng HO,中村亮一, 尾形良彦,山田昌樹,Lingling YE
外来研究員 Zhihao CHEN, 石辺岳男, 室谷智子, 岨 康輝
JSPS外国人特別研究員 Iyan MULIA
学術支援職員 Bhola PANTA
技術補佐員 源由紀子
大学院生 楠本聡(D3), 呉逸飛(D3), 三反畑修(D2), 王宇晨(D1)
インターンシップ研修生 Ashutosh CHOUDHARY, Sophie DEBAECKER

3.11.7 スロー地震学プロジェクト

 スロー地震とは,普通の地震に比べてゆっくりした断層すべり現象の総称であり,揺れを生じない,または揺れ方がゆっくりで振幅が小さい.このような奇妙な地震が,2000年前後に日本全国に展開された地震・GNSS観測網によって発見され,その後,環太平洋の各沈み込み帯でも次々と見つかってきた.スロー地震は巨大地震震源域を取り囲むように分布し,種類の異なるスロー地震がしばしば同時に同じ場所,あるいは隣の場所で起こる.つまり,スロー地震同士には,強い相互作用が働いている.したがって,巨大地震震源域の周囲でスロー地震が頻発すると,地震発生の場が次第に変化し,地震発生に繋がるかもしれない.そのため,スロー地震に対する理解を深めることは非常に重要である.そこで,スロー地震による低速変形と普通の地震つまり高速すべりとの関係性を含め,これらの地震現象を統一的に理解することを目指す目的で,科学研究費新学術領域研究「スロー地震学」プロジェクトが2016年より5年計画で開始した.スロー地震研究は,まだ20年にも満たない.基本的な発生様式も分から無いことが多い.地下深部にある発生場所の物質・物理条件はまだ不明である.さらに,その支配物理法則は定性的にも分からないことばかりである.そのようなスロー地震の謎を解き明かすため,旧来の地震学・測地学だけではなく,地質学,物理学などのアプローチを結合し,スロー地震の発生様式,発生環境,発生原理の解明に向けて,6つの計画研究,A01「海陸機動的観測に基づくスロー地震発生様式の解明」,A02「測地観測によるスロー地震の物理像の解明」,B01「スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,B02「スロー地震の地質学的描像と摩擦・水理特性の解明」,C01「低速変形から高速すべりまでの地球科学的モデル構築」,C02「非平衡物理学に基づくスロー地震と通常の地震の統一的理解」において研究を進め,さらに,総括班と国際活動支援班を置いて,プロジェクト全体のマネジメントと国際的な研究推進活動を行なう.地震研究所では,観測開発基盤センターの他,地震予知研究センター,地震火山情報センター,数理系研究部門など複数の部門・センターにおいて横断的にプロジェクトを推進するとともに,東大大学院理学系研究科,神戸大学,筑波大学などを含む全国の多くの研究機関と共同で研究を実施している.

 観測開発基盤センターでは,今年度,超低周波地震の検出精度を向上させるため,四国西部・九州東部において既に設置されている広帯域地震計の観測継続を行ったとともに,来年度以降に予定されている大規模稠密アレイ観測の準備作業を行なった.また,南海トラフ近傍で発生する浅部スロー地震を様々な帯域で捉えるため,日向灘において海底圧力計・地震計の改修・再設置を行なった.

3.11.6 強震動観測研究

(1) 定常的な強震観測網の運用

伊豆・駿河湾地域や足柄平野などにおける高密度の強震観測網を中心とした観測研究を,強震計観測センターの時代から継続して行っている.伊豆駿河湾の観測網は東海地方での大規模地震発生を想定して,地域を代表する露岩上に設置されている.一方,足柄平野の観測網は表層地質による強震動への影響を評価することを主目的として1987年度に設置され,国際的なテストサイトとしても位置づけられている.定常的な強震観測網では,地盤特性の把握を目的としたボアホール観測に加え,地盤と建物の同時観測も実施している.

(2) 他機関との共同強震観測

強震動の生成過程や,建物の挙動の調査研究等を目的とした強震観測を,信州大学・福井大学などの他大学・他機関と共同で実施している.これらの共同強震観測は,長野盆地や諏訪盆地にも展開されており,2014年長野県北部の地震などの記録が得られ,公開された.

(3) 臨時強震観測の実施

開発された機動観測用強震計は,微動観測にも対応可能な増幅器を併せ持ち,共同利用の枠組みなどを通して機器の貸し出しが可能な体制を取っている. 2016年熊本地震後に震源域周辺において臨時強震観測を他機関と共同で行った他,拠点間連携研究による小田原地域や東京湾岸地域の共同観測に参加した.

(4) 強震観測データベースの公開

2007年度より,観測された強震動記録のアーカイブと公開を行うデータベースシステムの開発を進め,そのシステムを用いて1980年以降のデータ公開を開始し,以後,引き続き公開を行っている( http://smsd.eri.u-tokyo.ac.jp/smad/ ).また,1964年新潟地震の川岸町においてSMAC型強震計で観測されたデジタイズ記録を公開した他,1956年から1995年兵庫県南部地震までのSMAC型強震計記録の画像データを公開した.

3.11.5 新たな観測手法の研究

地震・火山現象を理解するためには地下深部の観測が不可欠であるが,機器を設置できるのは地球全体の規模からすると地表に近いごく一部の領域にすぎない.そのため観測機器の精度の向上や観測範囲の拡大を目指して,レーザー干渉計などの光計測を用いた新たな観測機器の開発に取り組んでいる.レーザー干渉計は高精度・低ドリフトの変位センサーであり,地震・地殻変動観測機器へ組み込むことにより観測装置の高精度化や装置の小型化ができる.また光を用いた計測手法は,半導体素子では観測が難しい地下深部・惑星探査など極限環境での高精度観測を可能にする.

(1) 長基線レーザー伸縮計による広帯域ひずみ観測

レーザー伸縮計は地殻変動から数十Hz の地震波まで広いタイムスケールの地動を観測できる.岐阜県の神岡鉱山(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設)の地下1000 m のサイトにおいて,独自開発した波長安定化レーザーを組み込んだ100 mレーザー伸縮計を用いて,世界最高感度のひずみ観測を継続している.これまでに,地球潮汐を利用した観測ひずみとregionalひずみ場の関係の定式化,間隙水圧と関連した季節変動ひずみの検出,地球自由振動の観測,遠地地震に伴うひずみステップを用いた測地学的な地震モーメントの推定などを行った.近地~遠地にわたる多様な規模の地震に伴うひずみステップが飽和せず取得され,レーザー干渉計の広帯域・広レンジ計測が実証された.この技術に基づき,神岡で進められている重力波望遠鏡建設計画(KAGRA)と連携し,1桁以上スケールアップした長さ1500mのレーザー伸縮計をKAGRAトンネル内に建設し,2016年8月から観測を行っている.100mレーザー伸縮計よりも高い分解能で地球潮汐やひずみステップが観測されている.これらの装置を用いて地震学と測地学にまたがるタイムスケールの現象の解析などを継続する.

(2) 光ファイバーリンク方式の観測装置の開発

レーザー干渉計の光源とセンサーを光ファイバーでつなぐことによりセンサー部を無電源化し,地下深部や惑星探査など極限環境(高温・極低温・高放射線など)で使用可能な高精度観測装置を実現できる.その一つとして,小型広帯域地震計の開発を行っている.この地震計は小型長周期振り子の変位検出部としてレーザー干渉計を使用し,光ファイバーでレーザー光を導入することにより耐環境性を高めている.試作機は,広帯域地震計(STS1 型) と同等の検出性能が確認された.干渉計部分は-50℃~ 340℃の温度範囲で動作することが確認されている.この地震計を地下深部観測および惑星探査に利用することを検討している.

(3) 小型絶対重力計の開発研究

絶対重力計は地殻変動や物質移動(マグマ移動・地下水の変動など)を観測する有効な手段である.火山観測など野外で機動的に使用でき,また複数の装置を使った観測網を構築できるような小型絶対重力計を開発している.小型で必要な精度が得られるように高精度なレーザー干渉信号の取得法や地面振動ノイズの補正機構を導入し,従来の市販装置の約2/3 のサイズの実証機を開発した.霧島火山観測所(宮崎県),蔵王観測所(宮城県,東北大)などで試験観測を行い,設計精度10-8m/s2が得られることを確認した.この実証機をもとに民間企業と共同で製品化を進めている.また,観測網を構築するために長距離伝送できる通信波長帯光源(波長1.5μm帯)を用いた動作試験を東北大・電気通信研究所と共同で実施し,長距離伝送による精度劣化などは生じないことがわかった.国立天文台江刺地球潮汐観測施設(岩手県) においては,東北地方太平洋沖地震後の重力変化を継続的に観測している.

 (4) 重力偏差計の海底・月惑星・小天体探査への応用

地下構造を探査する方法として,広い空間スケールの重力場(重力加速度)をとらえる重力計に加え,その空間微分を測定する重力偏差計を併用することにより狭い範囲に局在化した鉱床などの密度異常のマッピングができる.海底鉱床の探査手法として,無定位振り子と光センサーを組み合わせた加速度計2台によって構成される重力偏差計を製作し,自律型無人潜水機(AUV) に重力計とともに搭載し,海中移動体上で探査を行ってきた.重力偏差計についてはAUVの揺動が観測限界を決める主因になっており,補正を試みている.一方,月惑星や小天体などの天体の内部構造はいまだ十分な探査が行われておらず,着陸機あるいは周回機からの観測に重力偏差計を用いれば従来の重力加速度の観測よりも高い分解能が得られることがモデル計算によって示されている.JAXAで検討されている火星衛星探査機(MMX)の搭載機器として重力偏差計を提案したものの探査機の軌道の制限から採択にはいたらなかった.それでも小天体に対する重力偏差観測の有効性は認識され,今後は国立天文台と共同で,小天体などを対象とした内部構造探査を目指した開発を進める予定である.

3.11.4 電磁気的観測研究

(1)八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測

八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した.これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.また記録計室内での気温・気圧・湿度計測のオンライン化と局舎敷地内へのwebカメラ設置による画像での敷地内の状態の定時監視,庁舎へのwebカメラ設置による気象条件の常時監視により,無人観測所の保守効率を向上した.

気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,従来から八ヶ岳地球電磁気観測所の地磁気データを定期的に提供してきたが,2017年度のデータ提供から開始した,前日分のデータを毎日自動で送付する仕組みの運用を継続した.

(2)東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測

東海地方の10観測点(清川,河津,富士宮,奥山,俵峰,相良,舟ヶ久保,春野,相良,小浜)における地球電磁気連続観測,伊豆地方の14観測点(網代,御石ヶ沢,大崎,湯川,浮橋,奥野,菅引,新井,玖須美元和田,岡,手石島,与望島,川奈,池)における全磁力観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.特に富士宮観測点は全磁力観測用プロトン磁力計と地磁気3成分変化観測用フラックスゲート磁力計を更新し,後者はGPS時計に同期した毎秒値が得られるようになったため,今後の地磁気変化の詳細な検討が可能となった.

(3)その他の地殻活動域における連続観測

(3-1)デジタルコンパスデータを用いた偏角変化連続観測の試み

2014年6月に開始した,浅間山に設置された4台のボアホール型傾斜計に内蔵されたデジタルコンパスが計測する偏角データ(毎秒値,分解能0.01度)の収録を継続した.八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測から得られる偏角値を参照した,偏角差1時間平均値・1日平均値は,火山活動が活動的ではない期間,山頂付近の高温な1地点を除き,安定した値を示すことが確認できた.特に2017年秋から2018年秋にかけて,偏角差が火口南東側の2点で減少し,火口南西側の1点で増加する傾向が見られ,火口直下の温度低下に伴う正帯磁の傾向を表す可能性を示す結果が得られるようになった.

(3-2)沖縄県石垣島・西表島における地磁気連続観測

2014年度に全磁力観測を,2015年度に地磁気変化3成分観測を開始した石垣島,西表島における地磁気連続観測を継続した.

(4)関連する研究

 気象庁地磁気観測所と国土地理院による全国15箇所の地磁気連続観測地点のデータ及びIGRFから,2005年から2014年までの10年間の地磁気変化毎日値を表現する,水平成分で約2nT,鉛直成分で約3nTの平均精度の日本列島規模の地磁気変化モデルを作成した.

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が関係大臣に建議する研究計画「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画」に基づき,全国の中枢となって地震・火山観測研究計画を多くの大学・研究機関と協力して推進している.この研究計画に基づき,火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究も行っている.当センターは主として火山観測基盤の充実を担って,火山噴火予知研究センター等と協力して観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山研究においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,場合によっては10年以上の準備段階を経て噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することが重要である.そのような科学的な火山現象の解明から,噴火の前兆現象に大きく依存する経験則による現在の火山噴火予測を,より普遍的な科学的な火山噴火予測に発展させることができると考えている.その実現には精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.このような考え方は,約40年前から始まった火山噴火予測研究に関する最初の建議である「火山噴火予知計画」から引き継がれ,現在に至っている.

特に,本研究所ではこれまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここではそれぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.具体的な研究成果については,火山噴火予知研究センター及び地震火山噴火予知研究推進センターの報告との重複を避けて記述した.

(1) 浅間山

浅間山では,広帯域地震,短周期地震, GNSS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では自前のLANの中継あるいは自前の光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山では,2004年の中規模な噴火以降,2009年と2015年に極めて小さな噴火を繰り返している.それぞれの噴火前に,浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測から捉えられ,深部からのマグマの供給が捉えられている.また,それぞれの噴火前から,火山ガスの放出量が増加すると共に,マグマ溜まりから火口へ通じる火山ガスの流路の内,浅部にある隘路にあたる部分がガスの流入により膨張してガスの放出により収縮する際に発生する長周期の地震動(VLP)が観測されている.VLPの発生頻度と火山活動の大きさは,大局的には比例しているが,細かく見ると若干の差異が見られる.これらの観測されている地盤変動,VLPの活動,火山ガスの放出量などの観測事象と,次に起こる噴火の規模の関連を明らかにして,噴火の規模の予測に結び付く研究を進めることが,浅間山における観測研究の意義のひとつである.

(2) 伊豆大島

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から30年以上が経過し,明治以降の平均噴火間隔が30~40年であることから,次の噴火が近いと予想され,噴火に至る諸現象が現在地下で進行していると考えられている.これらの現象のいくつかは各種観測装置から明らかになりつつある.現在,伊豆大島には24点からなる地震観測網と 14点からなる GNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.地震観測点の内 4点は広帯域地震観測も行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化して,最新の研究成果を出すために必要な精度のデータが得られなくなったため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降,約15年の期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データが着々と蓄積されている.更に,プロトン磁力計による全磁力の連続観測,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.これらの各観測のデータは,三原山山頂付近では無線 LANを通じて伊豆大島観測所にデータを集約し,その後インターネット回線を用いて当研究所まで伝送している.また,山麓の観測点の多くは回線を直接当研究所までインターネット回線でデータ転送を行っている.このように,各観測点の立地を考慮して効率的なデータ収集に努めている.

来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討され,このうち,土壌火山ガス連続観測装置は2018年9月に三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で設置した.また,広帯域地震計観測点1点を追加して設置する準備を行っている.さらに,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉える新たな観測装置を設置する目的で,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸の中の老朽化して故障している観測機器を引き上げて大深度の観測井の再利用を試みているが,途中でケーブルが引き上げられなくなり作業を中断している.

前回の噴火では,マグマに含まれる高温の揮発性成分がマグマに先行して地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,山頂噴火に至った.このようなマグマの粘性の低い火山においては,次回の噴火も同様な経過を辿る可能性が高い.現時点では,前回の噴火前に見られた上記の現象は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.しかし,10年余りの精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,上記のような現象が発現する前段階と考えられる以下の現象が発生していることが明らかになってきた.

伊豆大島では,1~3年周期で山体の膨張と収縮が繰り返しつつも,長期的にはマグマ蓄積に起因する山体膨張が進んでいる.また,山頂直下及び山体から少し離れた島の沿岸部周辺で多数の火山性地震が発生している.この火山性地震の活動度とマグマ蓄積による地盤変動にきわめて良い相関があることがわかってきた.特に,カルデラ直下の浅部で発生する火山性地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,山体収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,地震を起こす断層面での法線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなることを示している.観測された地震活動度は,地震研究で良く用いられるモデル(速度状態依存測)でうまく説明できることが明らかになった.伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くに位置し,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力が作用している.そのため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.2011年以降は地盤変動の大きさと比較して地震活動度が高い状態が続いている.更に,2013年以降は,カルデラ直下の浅部で発生する地震の活動度が潮汐と統計学的に有意に相関を持つことが明らかになってきた.具体的には,震源域で潮汐応力が伸張場になる時に地震が相対的に多く発生することが明らかになった.これらの原因として考えられる仮説として,震源域での間隙圧の上昇により地震活動度が上昇したことが挙げられる.マグマの上昇に先行して,マグマ溜まりから揮発性成分が上昇し,それが震源域に達することにより間隙圧が増加すれば,地震活動は全体として相対的に活発になる.同時に,潮汐との相関が良くなることが同じモデルを用いて示される.更に,この時期に,地震の規模別頻度分布(G-R則のb値)も一時的に上昇したことが明らかになった.このような地震活動度の時間変化が,近い将来に全磁力観測による熱消磁や電気伝導度の変化としても現われ,最終的に噴火に至ることになれば,上記の仮説は証明できたことになる.つまり,火山噴火予測の重要な鍵であるにもかかわらず,これまでその検出方法がなかったマグマの揮発性成分の上昇が火山性地震の活動度から推定できる可能性があることを実証できると考えている.これは,火山性地震と言う最も重要な噴火前兆現象の科学的な理解の発展をもたらし,より科学的な火山噴火予測に一歩近づけるものに発展できると期待できる.

(3) 富士山

富士山では10点からなる常設の地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.この内 5点は地表設置型広帯域地震計, 3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は,火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.残念ながら,2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4) 霧島山

2011年1月に霧島・新燃岳が爆発的噴火を発生し,霧島山周辺の観測点が強化された.2017年10月には,再び新燃岳が噴火し,火山活動が活発な状態を維持して現在に至っている.地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測,GNSS観測,全磁力観測,空振観測を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などの他大学と協力して進めている.

GNSSによる観測から2011年1月の噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止している.以下に述べるように,この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが明らかになってきた.

2013年8月から2014年10月まで,再度深部マグマが膨張し,その後,停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.これらは硫黄山付近での水蒸気噴火の発生する可能性を示すことから,震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設して観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドと協力し,噴気温度を測定する態勢を作り,測定を継続している.この活動は2017年9月以降,一旦は低下した.

2017年7月から深部マグマ溜まりが膨張を始め,火山活動の活発化が懸念されていたところ,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中にBanded Tremor, Gliding Tremor, Chugging Event等色々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続し,一旦活動が低下した.2018年3月1日から噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.これも現在は小康状態になっている.さらに,硫黄山では,2018年1月頃から熱活動が再度活発になり,4月19日には小規模な水蒸気噴火となった.

このように霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳,硫黄山の活動が活発になることが,10年余りの観測から明らかになった.深部マグマ溜まりの膨張は2018年8月に停止したが,12月から膨張しはじめ,現在も膨張が継続していろ.このことから,今後も新燃岳,硫黄山で噴火が発生する可能性がある.

このように,新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりの膨張後に発生しており,共通の深部のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑な火山システムであると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えらる.このように霧島山は2つの噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究に発展させることを目指す必要がある.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は時期により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたって2012年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月と2016年11月に実施した.その差から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定される.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.さらに,2019年度には,再度MT観測を実施する計画を立てている.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火がそれほど遠くないと思われる.噴火前後で発生する流体移動を捉えることが火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.