最近の成果

ここでは、最近の研究成果をイラストとともに紹介しています。 より詳しい研究成果や報告書、過去の計画の成果などはこちらをご覧下さい
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令和2年度の成果

これらの図は下記の報告書に掲載されているものです。


【2021年2月の福島県沖の地震,3月の宮城県沖の地震と東北地方太平洋沖地震との関係】
(a) 2011年東北沖地震後に地震活動が活発化した領域(赤)と静穏化した領域(青)の概略。最近発生したM7前後の余震を星印で示す。(b) 2011年東北沖地震発生後に地震活動が活発化した領域の模式図。主たる地震の破壊域を赤色および黒色,断層の滑り方向を桃色矢印,応力の向きを緑色矢印で示す。

【測地観測データに基づく内陸地震長期評価手法の開発:本州・四国・九州への適用】
GNSS観測データに基づく内陸地震の長期評価について,昨年度の西日本に加え,東日本へも手法を適用した。本年度の成果により,新潟-神戸ひずみ集中帯,南関東・伊豆地方,奥羽脊梁山地で地震発生確率が高いことが新たに分かった。

【伊豆大島山頂噴火時のマグマの斜長石量と噴出量の関係】
文献データを再整理したところ,20世紀の伊豆大島山頂噴火では,数ヶ月から数10年の時間スケールで見ると,比較的大きな噴火の噴出物の斜長石量と噴出量は逆相関の関係になっている可能性が示された。すなわち,噴出量の予測のための指標として斜長石量が使える可能性があることがわかった。

【沿岸巨礫の分布を用いた古津波の評価】
沖縄県久高島の岩礁に堆積する巨礫の分布は,台風などの高潮によって現在の分布になっていることが分かった。過去に津波が発生していたとしても,岩礁が形成された時代(3500年前)以降,Mw8.3を超えるような地震・津波は発生していないと推察される(Minamidate et al., Sci. Rep., 2020に加筆)。

【史料から明らかになった明応東海地震前の地震活動】
同時代の信頼できる史料である京都・奈良の日記と東海地方の年代記を比較検討して,その時代の地震活動について調べた結果,1498年明応東海地震の5年前に京都・奈良から静岡県浜松地域にかけて大きな地震が頻発していたことが明らかになった。これは東海地震の前の地震活動を理解する上でも重要な情報である(史料出典:大倉精神文化研究所附属図書館,愛知学院大学図書館情報センター)。

【光ファイバーケーブルとDASによる火山性地震の震源決定】
通信用の光ファイバーケーブルを振動センサーとして利用する新手法を用いて,吾妻山で火山性地震の震源推定を行った。通常の震源推定は,地震計観測網(上図の+印)の地震波の到達時間差を解析して行われる。光ファイバーケーブルを利用して推定した震源は,既存の方法による推定結果ともよく合うことが示された。この観測手法は遠隔操作が可能であることや,光ファイバーケーブルは埋設されており噴火時でも火山灰や火山弾による損傷のリスクが少ないため,火山での運用に適している(Nishimura et al., Sci. Rep., 2021に加筆)。

【2016年熊本地震前後の地震活動度の変化:応力・間隙流体圧との関係】
2016年熊本地震前の地下の間隙流体圧力場,熊本地震による応力場の変化から求めた各地のΔCFSと熊本地震前後の地震活動度の変化を比較した。間隙流体圧係数は,間隙流体圧の静水圧からのずれを,静岩圧と静水圧の差で規格化した無次元量である。右図の〇は評価点での地震活動度の変化である。ΔCFSが正となる場所では熊本地震後の地震活動が活発になったことに加え,ΔCFSが負となる地域でも,間隙流体圧のレベルが地震前から高かった地域で地震活動度が上昇していること等が明らかになった(Nakagomi et al., Earth Planet. Space, 2021に加筆)。

【再解析により明らかになった1952年と2003年十勝沖地震の震源過程の違い】
1952年十勝沖地震,2003年十勝沖地震について,これまでの観測記録を集めて再解析した結果,2つの地震が異なる特徴を持つことが明らかになった。☆は初期破壊の位置。1952年十勝地震では,2003年十勝沖地震と同様の滑り域(図中の白い□)に加え,厚岸沖(図中の灰色の□)でも滑りが生じていたことが明らかになった(Kobayashi et al., JGR, 2021に加筆)。

【地震シナリオの不確実性を考慮した津波波高の確率論的評価】
解析対象地域である四国地方・淡路島周辺での地形の解像度を段階的に上げ,2次元差分法を用いた解析を実施し,対象とした5点(左図)を含む25箇所における最大波高を計算した。その際,断層パラメータには内閣府南海トラフの巨大地震モデル検討会による「断層パラメータ_ケース03」を基本とし,滑り角と滑り量に±25%までの変動を与えた。その中での25例の計算結果を基礎データとしたサロゲートモデルを用いて,滑り角と滑り量のばらつきを考慮した場合の最大波高の確率分布を求めた結果,各観測点の分布の特徴が異なること(右上図)や,最大波高の近似を工夫した提案手法では,モデルのパラメータ(モード数)を増やすごとに従来の手法と比べて誤差(RMSE)が減少し,推定精度が向上すること(右下図)がわかった。

【複合災害を想定した避難行動実験】
北海道稚内市を対象地域として,地震による津波と土砂災害との複合災害を想定した避難行動実験の結果。地図上の赤点があらかじめ指定された避難経路を示し,グラフは平均歩行速度及び分断発生時のグループ間距離を示している。津波のみを想定した場合,道の駅わっかないから避難場所(地図中の緑丸)へ8分以内に移動が完了し,津波到達までの時間的余裕がある(左の地図とグラフ)。一方,地震により土砂崩れが発生し,当初目標としていた避難場所へ移動できないことを想定した場合,歩行速度は津波のみの場合と大きくは変わらず, A地点で二つのグループに分かれ,グループ間の差はB地点でさらに広がった。そして,その差は別の避難所(地図中の緑四角)へ移動するまでに縮まらなかった。最終的に,遅い方のグループの避難完了までに14分以上を要した。

【S-net導入前後の震源分布の比較】
気象庁は,2020年9月から,S-netの地震観測データを取り込んだ一元化震源処理のルーチン業務を開始した。東北日本の震源分布について,S-netのデータ導入前(2018年1月から2020年8月まで,薄青)とS-net導入後(2020年9月から2020年12月まで,黒)を比較すると,S-netデータを用いた震源決定では震源の深さが系統的に浅くなる傾向があることがわかった。S-net導入により海域の地震観測点が増えたことにより,従来よりも精度よく震源の推定ができるようになったと考えられる。