カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.12.1 全国の地震データ流通とデータベース

(1) 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet

新しい大学間の全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetを各大学や防災科研との共同研究として開発した.JDXnet は,衛星回線に代わって,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めたシステムを運用している.2015年度末にSINET4がSINET5に更新され,JGN-Xはサービスを終了して2016年7月に新たなJGNがスタートしたのを受けて,本センターでは, NII並びにNICTの担当者と綿密に協議して移行を行った.2017年度は,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを構築し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を進めた.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.

(2) J-array システム

新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.またその中から,M7 以上の大地震についての記録を選んでDVDを毎年作成し,全国の研究者に提供している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,QEDメールの終了により新たな地震情報の取得を行い自動化システムを改良している.2017年度は,2016年分の記録を選んでDVDを発刊した.

(3) 全国地震波形データベース利用システム HARVEST

各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2017年においては,一部ソフトウェアの修正が必要となり,各地域の地震活動のみの提供を行った.

(4) チャネル情報管理システム

チャネル情報管理システム(CIMS)は,全国の大学や防災科研,気象庁などの各機関の地震観測点の情報を分散管理するデータベースである.各機関が管理する観測点の情報をCIMS に入力すれば,自動的に他機関に転送されて更新されるため,他機関の観測点の変更情報を迅速にかつ正確に利用できるようになる.2007年10 月からこのシステムを運用している.今年度は,将来的なこの仕組みの構成についての検討も開始した.

(5) 緊急地震速報の伝達と利活用

気象庁に予報業務許可申請(地震動) を行い,予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTnet やSINET 等のネットワークを介して緊急地震速報の伝達を行っている.学内で,緊急地震速報の仕組みや技術的限界を周知し,利用するための必要な事柄を検討し,Web コンテンツと同様なアクセスのみで緊急地震速報を簡便に受信できるようにし,端末表示装置の開発も行った.2011年からは情報学環総合防災情報研究センターと共同で,学内に複数の配信サーバを設置して,全学に緊急地震速報を提供している.また2012年度からは,学内の放送設備に接続して緊急地震速報を放送する装置を開発して,まず2012年度に理学部,工学部,地震研究所,本部棟に設置され,続いて2013年度には,駒場Ⅰキャンパス,白金キャンパス,など遠隔のキャンパスにも設置された.2014年度は,残る柏キャンパスにも設置されて,2015年度には,本郷キャンパス広域放送設備に接続して,本郷キャンパスの主要な建物のほぼすべてに緊急地震速報を放送可能にした.また,それまで独自システムを使っていた附属病院においても,2015年度末に,本システムによる緊急地震速報の放送に移行され,全学的な利用がさらに進んだ.また東京大学本部の防災訓練,理学部や工学部,地震研等の部局の防災訓練,駒場キャンパスや柏キャンパスの防災訓練,医科研や附属病院における防災訓練などにおいて,本装置による緊急地震速報の訓練放送が広く活用されている.さらに,2014年度には情報学環総合防災情報研究センターと共同で,緊急地震速報によるエレベータ制御装置を開発し,2015年2月23日に安田講堂のエレベータ1台に設置した.その後,2016年8月29日には地震研究所2号館の2台のエレベータに,2016年12月3日には東大本部棟建物の3台のエレベータに設置して利用開始されている.2017年度は全学のエレベータに普及を図るべく,東京大学環境報告書2017に「緊急地震速報を活用したエレベータの地震時安全性の向上」について報告した.また、気象庁が運用開始するPLUM法に対応するために、緊急地震速報の受信アプリなどの改善を実施した。

3.12 地震火山情報センター

教授 佐竹健治(センター長), 木下正高, 鷹野澄(兼務)
准教授 鶴岡弘
特任研究員 五島朋子, Aditya GUSMAN, Md Jakir HOSSEN, 中村亮一, 尾形良彦,山田昌樹,Lingling YE
外来研究員 Zhihao CHEN, 石辺岳男, 室谷智子, 中川茂樹, Patricio Alejandoro WINCKER GREZ
JSPS外国人特別研究員 Iyan MULIA
学術支援職員 Bhola PANTA
技術補佐員 源由紀子
大学院生 何東政(D3), 楠本聡(D3), 呉逸飛(D2), 三反畑修(D1), 王宇晨(M1)
インターンシップ研修生 Nabilt Jill MOGGIANO ABURTO, Polina BEREZINA, Paula Alejandra NAVARRETE DIAZ, Marco QUIROZ

3.11.7 スロー地震学プロジェクト

 スロー地震とは,普通の地震に比べてゆっくりした断層すべり現象の総称であり,揺れを生じない,または揺れ方がゆっくりで振幅が小さい.このような奇妙な地震が,2000年前後に日本全国に展開された地震・GNSS観測網によって発見され,その後,環太平洋の各沈み込み帯でも次々と見つかってきた.スロー地震は巨大地震震源域を取り囲むように分布し,種類の異なるスロー地震がしばしば同時に同じ場所,あるいは隣の場所で起こる.つまり,スロー地震同士には,強い相互作用が働いている.したがって,巨大地震震源域の周囲でスロー地震が頻発すると,地震発生の場が次第に変化し,地震発生に繋がるかもしれない.そのため,スロー地震に対する理解を深めることは非常に重要である.そこで,スロー地震による低速変形と普通の地震つまり高速すべりとの関係性を含め,これらの地震現象を統一的に理解することを目指す目的で,科学研究費新学術領域研究「スロー地震学」プロジェクトが2016年より5年計画で開始した.スロー地震研究は,まだ20年にも満たない.基本的な発生様式も分から無いことが多い.地下深部にある発生場所の物質・物理条件はまだ不明である.さらに,その支配物理法則は定性的にも分からないことばかりである.そのようなスロー地震の謎を解き明かすため,旧来の地震学・測地学だけではなく,地質学,物理学などのアプローチを結合し,スロー地震の発生様式,発生環境,発生原理の解明に向けて,6つの計画研究,A01「海陸機動的観測に基づくスロー地震発生様式の解明」,A02「測地観測によるスロー地震の物理像の解明」,B01「スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,B02「スロー地震の地質学的描像と摩擦・水理特性の解明」,C01「低速変形から高速すべりまでの地球科学的モデル構築」,C02「非平衡物理学に基づくスロー地震と通常の地震の統一的理解」において研究を進め,さらに,総括班と国際活動支援班を置いて,プロジェクト全体のマネジメントと国際的な研究推進活動を行なう.地震研究所では,観測開発基盤センターの他,地震予知研究センター,地震火山情報センター,数理系研究部門,地球計測系研究部門など複数の部門・センターにおいて横断的にプロジェクトを推進するとともに,東大理学系研究科,神戸大学,筑波大学などを含む全国の多くの研究機関と共同で研究を実施している.

 観測開発基盤センターでは,今年度,超低周波地震の検出精度を向上させるため,四国西部・九州東部において広帯域地震計の設置・観測継続を行ったとともに,南海トラフ近傍で発生する浅部スロー地震を様々な帯域で捉えるため,海底圧力計・地震計を日向灘に展開した.

3.11.6 強震動観測研究

(1) 定常的な強震観測網の運用

伊豆・駿河湾地域や足柄平野などにおける高密度の強震観測網を中心とした観測研究を,強震計観測センターの時代から継続して行っている.伊豆駿河湾の観測網は東海地方での大規模地震発生を想定して,地域を代表する露岩上に設置されている.一方,足柄平野の観測網は表層地質による強震動への影響を評価することを主目的として1987年度に設置され,国際的なテストサイトとしても位置づけられている.定常的な強震観測網では,地盤特性の把握を目的としたボアホール観測に加え,地盤と建物の同時観測も実施している.

(2) 他機関との共同強震観測

強震動の生成過程や,建物の挙動の調査研究等を目的とした強震観測を,信州大学・福井大学などの他大学・他機関と共同で実施している.これらの共同強震観測は,長野盆地や諏訪盆地にも展開されており,2014年長野県北部の地震などの記録が得られ,公開された.

(3) 臨時強震観測の実施

開発された機動観測用強震計は,微動観測にも対応可能な増幅器を併せ持ち,共同利用の枠組みなどを通して機器の貸し出しが可能な体制を取っている. 2016年熊本地震後に震源域周辺において臨時強震観測を他機関と共同で行った他,拠点間連携研究による小田原地域や東京湾岸地域の共同観測に参加した.

(4) 強震観測データベースの公開

2007年度より,観測された強震動記録のアーカイブと公開を行うデータベースシステムの開発を進め,そのシステムを用いて1980年以降のデータ公開を開始し,以後,引き続き公開を行っている( http://smsd.eri.u-tokyo.ac.jp/smad/ ).また,1964年新潟地震の川岸町においてSMAC型強震計で観測されたデジタイズ記録を公開した他,1956年から1995年兵庫県南部地震までのSMAC型強震計記録の画像データを公開した.

3.11.5 新たな観測手法の研究

地震・火山現象を理解するためには地下深部の観測が不可欠であるが,機器を設置できるのは地球全体の規模からすると地表に近いごく一部の領域にすぎない.そのため観測機器の精度の向上や観測範囲の拡大を目指して,レーザー干渉計などの光計測を用いた新たな観測機器の開発に取り組んでいる.レーザー干渉計は高精度・低ドリフトの変位センサーであり,地震・地殻変動観測機器へ組み込むことにより観測装置の高精度化や装置の小型化ができる.また光を用いた計測手法は,半導体素子では観測が難しい地下深部・惑星探査など極限環境での高精度観測を可能にする.

(1) 長基線レーザー伸縮計による広帯域ひずみ観測

レーザー伸縮計は地殻変動から数十Hz の地震波まで広いタイムスケールの地動を観測できる.岐阜県の神岡鉱山(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設)の地下1000 m のサイトにおいて,独自開発した波長安定化レーザーを組み込んだ100 mレーザー伸縮計を用いて,世界最高感度のひずみ観測を継続している.これまでに,地球潮汐を利用した観測ひずみとregionalひずみ場の関係の定式化,間隙水圧と関連した季節変動ひずみの検出,地球自由振動の観測,遠地地震に伴うひずみステップを用いた測地学的な地震モーメントの推定などを行った.近地~遠地にわたる多様な規模の地震に伴うひずみステップが飽和せず取得され,レーザー干渉計の広帯域・広レンジ計測が実証された.この技術に基づき,神岡で進められている重力波望遠鏡建設計画(KAGRA)と連携し,1桁以上スケールアップした長さ1500mのレーザー伸縮計をKAGRAトンネル内に建設し,観測を開始した.100mレーザー伸縮計よりも高い分解能で地球潮汐やひずみステップが観測されている.今後,地震学と測地学にまたがるタイムスケールの現象の解析などをすすめる.

(2) 光ファイバーリンク方式の観測装置の開発

レーザー干渉計の光源とセンサーを光ファイバーでつなぐことによりセンサー部を無電源化し,地下深部や惑星探査など極限環境(高温・極低温・高放射線など)で使用可能な高精度観測装置を実現できる.その一つとして,小型広帯域地震計の開発を行っている.この地震計は小型長周期振り子の変位検出部としてレーザー干渉計を使用し,光ファイバーでレーザー光を導入することにより耐環境性を高めている.試作機は,広帯域地震計(STS1 型) と同等の検出性能が確認された.干渉計部分は-50℃~ 340℃の温度範囲で動作することが確認されている.この地震計を地下深部観測および惑星探査に利用することを検討している.

(3) 小型絶対重力計の開発研究

絶対重力計は地殻変動や物質移動(マグマ移動・地下水の変動など)を実測する有効な手段である.火山観測など野外で機動的に使用でき、また複数の装置を使った観測網を構築できるような小型絶対重力計を開発している.小型で必要な精度が得られるように高精度なレーザー干渉信号の取得法や地面振動ノイズの補正機構を導入し,従来の市販装置の約2/3 のサイズの実証機を開発した.霧島火山観測所(宮崎県)などで試験観測を行い,設計精度10-8m/s2が得られることを確認した.この実証機をもとに民間企業と共同で製品化を進めている.また,観測網を構築するために長距離伝送できる通信波長帯光源(波長1.5μm帯)を用いた動作試験を実施した.国立天文台江刺地球潮汐観測施設(岩手県) においては,東北地方太平洋沖地震後の重力変化を継続的に観測している.

(4) 海底探査用重力偏差計の開発

海底鉱床の探査手法として重力異常を検出する方法の研究を行っている.広い空間スケールをとらえる重力計に加え,空間微分を測定する重力偏差計を併用することにより狭い範囲に局在化した鉱床のマッピングができる.無定位振り子と光センサーを組み合わせた重力偏差計を製作し,典型的な海底鉱床が検知できるレベルである7E (エトベス= [10-9/s2]) の性能を陸上試験で確認した.自律型無人潜水機(AUV) に重力計とともに搭載し2017年6月に実証試験を行い,海中移動体上で正常に動作することが確認された.取得されたデータに基づき探査手法の精度評価等を実施した.

(5) 人工衛星搭載型加速度計の惑星重力探査への応用

宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究として,2016年に地震計・重力計の加速度計測技術を応用した衛星搭載型加速度計の開発を行った.1つの参照マスを6自由度制御する方式の試作機を製作し,3成分の加速度が同時検出できることが示され,弾道飛行する機内の微小重力下でも正常に動作することが確認された.この装置2台を組み合わせ重力偏差計として,低高度人工衛星による地球重力場観測や惑星・小天体の内部密度構造探査への応用を検討した.後者としてJAXAで検討されている火星衛星探査機(MMX)の搭載機器として重力偏差計を提案し,通常用いられるドップラー計測法では検知できない小さいスケールの地下密度分布を低高度の軌道から測定できる新たな手法という評価を得た.ただし,MMX探査機の軌道の不確実性(工学的制約)から,MMXの搭載機器としては不採択となった.

3.11.4 電磁気的観測研究

(1)八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測

八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した.これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.

気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,従来から八ヶ岳地球電磁気観測所の地磁気データを定期的に提供してきたが,2017年度のデータ提供から毎日,前日分のデータを自動で送付する仕組みの運用を開始した.

地磁気データから確定値を算出するアルゴリズムの開発のうち,基線値月値と局舎変化計室内センサー温度との相関を同定し,基線値の補間方法を開発した.

2016年度から2ヵ年にわたる局舎の営繕で,コンクリートの凍害防止や外壁の再塗装によって今後の安定した観測の継続を期した.

(2)東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測

東海地方の各観測点で以下の項目の連続観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.

(2-1)清川観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(2-2)河津観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測

(2-3)富士宮観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測

(2-4)奥山観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(2-5)俵峰観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測,電場観測

(2-6)相良観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測,電場観測

(2-7)舟ヶ久保観測点:プロトン磁力計による全磁力観測,フラックスゲート3成分磁力計による3成分磁場観測

(2-8)春野観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(2-9)小浜観測点:プロトン磁力計による全磁力観測

(3)その他の地殻活動域における連続観測

(3-1)デジタルコンパスデータを用いた偏角変化連続観測の試み

2014年6月に開始した,浅間山に設置された4台のボアホール型傾斜計に内蔵されたデジタルコンパスが計測する偏角データ(毎秒値,分解能0.01度)の収録を継続した.八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測から得られる偏角値を参照した,偏角差1時間平均値・1日平均値は,火山活動が活動的ではない期間,山頂付近の高温な1地点を除き,安定した値を示すことが確認できた.

(3-2)沖縄県石垣島・西表島における地磁気連続観測

2014年度に全磁力観測を,2015年度に地磁気変化3成分観測を開始した石垣島,西表島における地磁気連続観測を継続した.石垣島における3成分変化の安定した毎秒値収録が実現し,八ヶ岳地球電磁気観測所における地磁気変化と同期した,地磁気脈動的な周期2分以下の地磁気変化が検出できるようになった.

(4)関連する研究

神岡の重力波望遠鏡(KAGRA)サイトにおけるシューマン共振の観測を宇宙線研究所,東京工業大学などと共同で実施した2016年度のデータの内,磁場変動の振幅が観測坑内において坑外よりも大きかった結果の原因について,重力波観測用金属製真空ダクトに誘導される電流に起因する可能性を,空間の2次元近似による誘導電流の計算から定量的に示した.

 2011年東北地方太平洋沖地震に約2ヶ月先行して,岩手県内で地磁気日変化鉛直成分に異常が見られたとして,この異常と地震との関連を示唆した先行研究(Xu et al., 2013ほか)に対して,同一データの再解析を行った結果,この異常は地磁気日変化3成分間の結合と,グローバルな地磁気日変化の擾乱によって説明可能で,地震と関連づけられる異常ではない可能性を示した.

 

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究を観測,実験,理論の各手法で行っている.本センターでは,このうち火山現象を観測から捉え,火山噴火予測を目指す研究を,火山噴火予知研究センター等と協力して実施している.当センターでは主として観測基盤の充実を担っている.具体的には,これまでの噴火予知計画で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.火山研究においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,場合によっては10年以上の準備段階を経て噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することが重要である.それにより,噴火前兆現象の発現に大きく依存する経験則による火山噴火予測を,前兆現象の科学的な理解に基づく科学的な火山噴火予測に近づけることができる.そのため,精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.先に挙げた5火山において,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここではそれぞれの火山における観測研究の意義を述べる.研究成果については,火山噴火予知研究センター及び地震火山噴火予知研究推進センターの報告との重複を避けて記述した.

(1) 浅間山

浅間山では,広帯域地震,短周期地震, GNSS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では無線 LANの中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,地震研まで光ファイバーを利用した高速回線を用いて伝送されている.山頂付近の観測点は光ファイバーに直結している.また,観測点の通信状況などに応じて VSATやフレッツ回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山では,2004年の中規模な噴火以降,2009年と2015年に極めて小さな噴火を繰り返している.それぞれの噴火前に,浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測から捉えられ,深部からのマグマの供給が捉えられている.また,それぞれの噴火前から,火山ガスの放出量が増加すると共に,マグマ溜まりから火口へ通じる火山ガスの流路の内,浅部にある隘路にあたる部分がガスの流入により膨張してガスの放出により収縮する際に発生する長周期の地震動(VLP)が観測されている.VLPの発生頻度と火山活動の大きさは,大局的には比例しているが,細かく見ると若干の差異が見られる.これらの観測されている地盤変動,VLPの活動,火山ガスの放出量などの観測事象と,次に起こる噴火の規模の関連を明らかにして,噴火の規模の予測に結び付く研究を進めることが,浅間山における観測研究の意義のひとつである.

(2) 伊豆大島

伊豆大島では,1986-87年の噴火から30年が経過し,明治以降の平均噴火間隔が30~40年であることから,次の噴火が近いと考えられ,噴火に至る諸現象が現在地下で進行していると考えられている.これらの現象のいくつかは各種観測装置から明らかになりつつある.現在,伊豆大島には24点からなる地震観測網と 14点からなる GNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.地震観測点の内 4点は広帯域地震観測も行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化し,最新の研究成果を出すために必要な精度の高いデータが得られなくなったため,2003~2004年に一気に更新した.この更新以降,10年以上の期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データが着々と蓄積されている.更に,プロトン磁力計による全磁力の連続観測,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測を実施している.これらの各観測点のデータは,三原山山頂付近では無線 LANを通じて伊豆大島観測所にデータを集約し,その後フレッツ回線を用いて当研究所まで伝送している.山麓の観測点の多くはフレッツ回線を通じて直接当研究所までデータ転送を行って効率的なデータ収集に努めている.

来るべき活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討され,そのうち広帯域地震計観測点,火山ガス観測点各1点の候補地を選定した.また,カルデラ内にある大深度の観測井を再利用し,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分を捉える新たな観測装置を設置する目的で,三原西観測点の深度1000m井戸の中に設置されている老朽化して故障している観測機器の引き上げを試みたが,途中でケーブルが引き上げられなくなり作業を中断している.

前回の噴火では,マグマに含まれる高温の揮発性成分の上昇で地下浅部の温度上昇による熱消磁,電気伝導度の変化が噴火に先行して起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,山頂噴火に至った.次回の噴火もこのような経過を辿る可能性が高いが,現時点では前回の噴火前に見られた現象は観測されていない.しかし,10年余りの精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,このような現象が発現する前段階と考えられる以下のことが明らかになってきた.

伊豆大島では,1~3年周期で山体の膨張と収縮が繰り返しつつも,長期的にはマグマ蓄積に起因する山体膨張が進んでいる.また,山頂直下及び山体周辺部で多数の火山性地震が発生している.この火山性地震の活動度とマグマ蓄積による地盤変動にきわめて良い相関があることがわかってきた.特に,カルデラ直下の浅部で発生する火山性地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,山体収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,地震を起こす断層面での法線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなることを示している.観測された地震活動度は,地震研究で良く用いられるモデル(速度状態依存測)でうまく説明できることが明らかになった.伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くに位置し,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力が作用している.そのため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.2011年以降は地盤変動の大きさと比較して地震活動度が高い状態が続いている.更に,2013年以降は,カルデラ直下の浅部で発生する地震の活動度か潮汐と統計学的に有意に相関を持つことが明らかになってきた.この現象も地盤変動との相関と同様に,震源域で潮汐応力が伸張場になる時に地震が相対的に多く発生することが明らかになった.これらの原因として考えられる仮説として,震源域での間隙圧の上昇が挙げられる.マグマの上昇に先行して,マグマ溜まりから揮発性成分が上昇し,それが震源域に達することにより間隙圧が増加すれば,地震活動は全体として相対的に活発になる.同時に,潮汐との相関が良くなることが同じモデルを用いて示される.更に,このような間隙圧の上昇の直後に,地震の規模別頻度分布(G-R則のb値)も一時的に上昇したことが明らかになった.このような地震活動度の時間変化が,近い将来に全磁力観測による熱消磁や電気伝導度の変化として現われ,最終的に噴火に至ることになれば,上記の仮説は証明できたことになり,火山噴火予測の重要な鍵であるにもかかわらず,これまでその検出方法がなかったマグマの揮発性成分の上昇が火山性地震の活動度から推定できる可能性を示せる.これは,火山性地震と言う最も重要な噴火前兆現象の科学的な理解をもたらし,科学的な火山噴火予測に一歩近づけると期待できる.

(3) 富士山

富士山では10点からなる常設の地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.この内 5点は地表設置型広帯域地震計, 3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々なテレメータ方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は,火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.残念ながら,2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4) 霧島山

2011年1月に霧島・新燃岳が爆発的噴火を発生し,霧島山周辺の観測点が強化された.2017年10月には,再び新燃岳が噴火し,火山活動が活発な状態を維持して現在に至っている.地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測,GNSS観測,全磁力観測,空振観測を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などと協力して進めている.

GNSSによる観測から2011年1月の噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まりに徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止している.更に,2013年8月から2014年10月まで,再度マグマが蓄積したが,その後,停止した.

一方,2014年8月以降,えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.これらは硫黄山付近での水蒸気噴火の発生する可能性を示すことから,震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設して観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドと協力し,噴気温度を測定する態勢を作り,測定を継続している.この活動は2017年9月以降,低下した.

さらに,2011年7月からマグマ溜まりが再度膨張を始め,火山活動の活発化が懸念されていたところ,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中にBanded Tremor, Gliding Tremor, Chugging Event等色々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.その後も新燃岳の活動は継続し,現在に至っている.

新燃岳噴火と再噴火及び硫黄山の熱水活動は,いずれも同じマグマ溜まりの膨張後に発生しており,共通の深部のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑な火山システムであると考えられる.新燃岳噴火,再噴火及び硫黄山付近での熱水活動は,一連の火山活動として捉えられ,噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究に発展させることを目指す.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は時期により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたってMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月と2016年11月に実施した.その差から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定される.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.

近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火がそれほど遠くないと思われる三宅島では,広帯域地震観測点の設置等により,噴火前後で発生する流体移動を捉えるための観測計画が進められている.

(6) その他の火山

桜島では2008年以来昭和火口での噴火が続き,マグマの供給源である姶良カルデラの膨張も長期に継続していることから,近い将来の大規模噴火発生の可能性も考慮に入れる必要がある.桜島は噴火頻度が高く,観測作業においても危険が大きいため,火口2㎞以内には人の立ち入りが禁じられている.一方で,火口近傍は火山活動を捉える格好の場所であるので,各種センターを設置する意義は大きい.無人ヘリコプターを用いて火口近傍に地震計,GNSS受信機を設置し,観測を継続している.山頂付近の地震計とGPSの回収および再設置を行うとともに,桜島南斜面の安永火口内に空振計を設置している.これらの観測は,火山噴火予知研究センターとの協力の下に実施されている.

3.11.2 海域における観測研究

(1) 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画による海底観測

(1-1) 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には,震源域の一部に,海底地震計が設置されており,本震発生直後から,海底地震計を追加設置し,余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では,本震直後から余震活動が低調であることがわかった.また,震源域南部では,太平洋プレートに,フィリピン海プレートが接触していることが推定されているが,この領域では余震が少ないことから,本震時の破壊がこの付近で停止したことが示唆された.その後2011年9月からは,主に長期観測型海底地震計を用いて,震源域における長期観測を実施している.

地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測は,プレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで,2013 年9 月に,東京大学大気海洋研究所研究船白鳳丸により,長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,モニタリング観測を2014年10月まで実施した.さらに,2015年5月には,震源域最北部の青森県沖に,長期観測型海底地震計を設置して,海底地震観測を,2016年5月まで実施した.また,2014年10月から2016年10月まで,科学研究費助成事業(特別推進研究)「深海調査で迫るプレート境界浅部すべりの謎~その過去・現在」と連携して,広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測を実施した.2016年10月からは,同じく特別推進研究と連携して,小スパンアレイによる観測を福島沖において実施している.2017年は,宮城県沖で観測を行っていた小スパンアレイ1組を回収し,福島県沖における小スパンアレイによる観測を継続した.福島県沖における観測では,新規開発した小型広帯域海底地震計を3台設置し,小スパンアレイと併せて,広域観測網も構築していることが特徴である.一方,長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測に関しては,長期にわたるモニタリングを目的として,引き続き観測を実施している.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(1-2) 宮城県沖における構造探査実験

2011年東北沖地震震源域北限付近である北緯39 度付近の日本海溝陸側斜面下では,東北沖地震発生前には,微小地震活動度の高い領域と低い領域があることが知られており,1996 年と2001 年に,海底地震計とエアガンを用いた構造探査実験が行われている.その結果,微小地震活動が活発な領域では,プレート境界からの地震波反射強度が弱く,非活発な領域では反射強度が強いという結果が得られている.これはプレート境界面における含水量の違いによるものと解釈されており,含水量が大きいプレート境界では反射強度が強く,またプレート間の摩擦強度が小さいために地震活動が低調であると考えられている.東北沖地震の発生を受け,断層すべりによるプレート境界の特性変化を抽出する目的で,2001年に行った構造調査と同一地点に海底地震計を設置し,同一測線において,2013年にエアガン発震を行った. 地震波走時を用いた構造調査では,それぞれの測線におけるP波速度構造断面とプレート境界の深さを求めた.また反射強度の変化について,2001年と2013年で取得されたデータを比較するための解析を進めているが,東北沖地震の前後において反射波の強度に一部差異が見られ,プレート境界の特性が変化している可能性があることが示唆されている.2014年には,さらに海溝軸に近い領域で構造調査を行ったが,地震波速度構造断面を求め,構造と地震活動との関係を調べるために,現在もデータ解析中である.なお,この観測研究は,北海道大学,東北大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

 (1-3) 房総半島南部における長期海底地殻変動観測

房総沖スロースリップ領域において,海底における地殻変動を検出することを目的として,海底精密水圧計による観測を実施している.2016年に,4台の海底水圧計が設置されており,2017年は引き続き観測を継続した.2017年は,海底精密水圧計による観測を継続した.用いている海底水圧計は約2年間の連続収録が可能である.また,次世代広帯域地震傾斜計1台が設置されており,2017年に回収を試みたが,来年度以降に再試行することとした.回収した海底精密水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示された.2013年12月から2014年1月の房総沖スロースリップの活動期間を含むデータから,スロースリップに伴う約2cmの上下変動が検出された.さらに,この結果と陸上GNSSデータを用いてスロースリップのすべり分布を求めた.なお,この観測研究は,千葉大学との共同研究である.

 (1-4) 南西諸島海溝北部における長期海底地震観測

南西諸島海溝域では,島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は,海域に長期観測型海底地震計を設置して,プレート境界3次元形状などを明らかにするとともに,活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.2017年は,前年に投入した長期観測型海底地震計を回収するとともに,予め準備した長期観測型海底地震計をほぼ同一位置に再設置した.2015年7月以降はトカラ東方海域における繰り返し定常観測を実施している.なお,この観測研究は,京大防災研,鹿児島大学,長崎大学との共同研究である.

(1-5) ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測

ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯では,平均しておよそ2 年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6 年周期程度で規模の大きなイベントが起こっている.そこで,スロースリップおよびそれに付随する地震活動を把握することを目的に,2014年5月から2015年6月にかけて,海底地震計と海底精密圧力計を用いた観測を実施した.観測期間中に陸上の測地観測網から比較的大規模なスロースリップイベントが発生したことが確認されていたが,イベント発生時に海底に設置されていた海底精密圧力計の記録から,そのプレート境界面におけるすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このスロースリップイベントが終了する時期から,決まった領域で微動の発生が始まり,さらに2週間ほど連続している可能性が示唆された.なお,この観測研究は,東北大学,京大防災研, UCSC(USA),LDEO(USA),University of Colorado at Boulder(USA)との共同研究である.2017年11月には,ヒクランギ沈み込み帯全域にわたる構造を調べるため,海底地震計を設置してエアガン発震を行った.なおこの調査研究は海洋研究開発機構,GNS Science(ニュージーランド),UTIG(米国),USC(米国),ICL(英国)との共同研究である.

 (1-6) 伊豆小笠原西之島付近における海底地震観測

小笠原諸島・西之島は,2013年11月に噴火活動を開始して新しい島が形成され,溶岩流出によって急速に成長した.このような離島での噴火活動を把握するために,西之島近傍において,長期観測型海底地震計を用いたモニタリング観測を,科学研究費助成事業(基盤研究(A))「遠隔操作の多項目観測による西之島形成プロセスの解明」と連携して,実施している.長期観測型海底地震計は,2015年2月に設置され,2015年10月に回収・再設置を行い,海底地震観測を継続した.2016年は,5月および10月に回収・再設置を行い,西之島近海での海底地震観測を継続した.さらに,2017年は,5月に回収・再設置を行い,観測を継続している.得られた記録には,噴火とみられる噴煙活動と対応した波形が収録されており,2回の噴火期間の火山活動を把握することができた.なお,この観測研究は,気象庁,海上保安庁,海洋研究開発機構との共同研究である.

(1-7) 宮崎県沖日向灘における長期海底地震地殻変動観測

宮崎県沖日向灘では,活発な低周波微動活動が確認されている.深部スロースリップからの類推として,低周波微動の発生に併せて浅部スロースリップが発生していると予想されている.そこで,その存在が予想される浅部スロースリップイベントの海底観測による直接検出を目的として同海域において,広帯域海底地震計,長期観測型海底地震計および海底精密水圧計による観測を,科学研究費助成事業(新学術領域研究)「スロー地震学」と連携して開始した.さらに,すべりの空間分布を推定するとともに,浅部微動や浅部超低周波地震の詳細な時空間発展や地球潮汐応答等の活動様式を明らかにし,これらの現象のスケーリングや相互関係性の評価を行うことなども目的である.2017年3月に船舶を用いて海底観測測器の設置を行い,観測を開始した.観測は1年半程度の連続観測を予定している,なお,この観測研究は,京都大学との共同研究である.

(2) 文部科学省委託事業による海底地震調査観測研究

(2-1) 日本海地震・津波調査プロジェクト

日本海沿岸地域において,津波・地震対策の基礎として,津波波高・強震動予測を実施する必要がある.そのため,2013年から開始された8ヶ年のプロジェクトにより構造調査などの調査観測が実施されている.その一環として,日本海下の深部構造を求め,モデリングに貢献するために,広帯域海底地震計及び長期観測型海底地震計を用いた,地震モニタリング観測を行っている.2017年は7月と9月に,日本海盆に海底地震計を設置した.この観測は,日本海下で発生する深発地震,世界各地で発生する遠地地震を観測する.そのため,観測期間を長く取る必要があり,2018年以降は同一地点で海底地震計の回収・設置を繰り返す予定である.2016年までに大和海盆で得られた観測データは現在解析中であり,海洋プレートの構造を解明するための研究が進められている.

(2-2) 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト

東北沖地震の発生を受けて,南海トラフで発生する巨大地震についても,最大規模の地震を想定する必要性があり,地震発生の連動の範囲や地震や津波の時空間的な広がりを見積もる必要がある.そのために,南海トラフから南西諸島海溝にかけて,広帯域海底地震観測を2013年から8カ年の予定で実施している.得られたデータよりトラフ付近の低周波イベントの解明と地震活動の詳細な把握を行うことが目的である.2017年2月には、宮崎県沖に設置されていた広帯域海底地震計と長期観測型海底地震計,および海底精密水圧計を回収し,同海域に精密水圧計搭載型を含む長期観測型海底地震計を設置して,観測を継続した.本航海で設置した海底地震計の一部には,小型広帯域海底地震計を用いた.さらに,7月には,1月に設置した観測測器を回収し,種子島東方沖に長期観測型海底地震計を設置し,観測を開始した.なお,この観測研究は,京都大学防災研究所,海洋研究開発機構と連携して行っている.

(2-3) 海洋鉱物資源広域探査システム開発

自律型無人探査機に代表される海中移動体に搭載して,重力データを取得する移動体搭載型海中重力計システムの開発を実施している.2012年に陸上における試験測定を行い,2014年8月には,鉱床の存在が推定されている中部沖縄トラフ伊是名海穴にて,実証試験観測を実施した.2015年8月には,伊豆小笠原ベヨネーズ海丘および中部沖縄トラフ伊是名海穴にて,試験観測を実施した.その結果,海中重力計,重力偏差計ともに,連続したデータを取得し,伊是名海穴南部の高解像度重力異常分布を作成した.2016年は,移動体搭載型重力計システムと国立研究開発法人海洋研究開発機構の深海巡航探査機「うらしま」を用いた実証試験観測を引き続き実施した.実証試験観測は,7月末から8月初めにかけて,伊豆小笠原ベヨネーズ海丘および明神海丘にて実施し,定高度航行による重力値計測の他に,重力偏差計のための測線を設定し,計測を行った.その結果を用いて,ベヨネーズ海丘および明神海丘の重力異常分布図を作成した.2017年は,「うらしま」を用いた実証試験観測を伊豆小笠原海域で実施する計画であったが,天候の影響により,6月に相模湾にて,実証試験観測を実施し,海中重力計および海中重力偏差計ともに良好なデータが得られた.特に,海中重力計に関しては,航行方法による測定精度の違いについて,再確認することができた.

(3)共同研究による海底観測研究

(3-1) 南西諸島における広帯域地震計による低周波地震・微動モニタリング研究

南西諸島域では,島弧全体にわたって,浅部プレート境界において,低周波微動,超低周波地震,短期的スロースリップの活動が活発であることがわかってきた.これらの低周波イベントは,プレートのカップリングと密接に関連していると考えられている.そこで,低周波イベント活動および微小地震を含む地震活動の正確な把握を目的として,南西諸島海溝域における海底地震観測を2015年から開始した.南西諸島域の大部分は海域となっており,常設の地震観測点が少ないために,海底観測点を追加することにより,効果的な地震観測網を構築できる.観測域には,島嶼観測網からスロースリップや低周波イベントの発生が推定されている南西諸島海溝中部とした.2015年1月に広帯域海底地震計,長期観測型海底地震計を設置して,観測を開始した.本観測では,一部の海底地震計に,固有周期20秒の地震計を用いていることが特徴である.また,全体の活動を把握するために,広域の地震観測網を構築した.広域観測網での観測は,2016年8月まで継続した.同一観測航海において,微動活動が活発な奄美大島東方海域に,観測点間隔30km程度の観測網を新たに構築し,観測を開始した.2017年は,8月に前年に設置した海底地震計を回収し,同一領域に海底地震計を設置した.これまでに回収されたデータには,低周波微動と超低周波地震活動が記録されている.なお,本研究は,公益財団法人地震予知総合研究振興会,京都大学防災研究所との共同研究である.

(3-2) メキシコ太平洋沿岸部ゲレロギャップにおける長期海底地震・圧力観測

メキシコ太平洋沿岸部は,ココスプレートが北米プレートに沈み込んでおり,プレート境界型巨大地震が発生する.しかし,ゲレロ州の沖合(ゲレロギャップ)は,近年大きな地震の発生が見られない一方,スロースリップが4年程度の間隔で繰り返して発生していることが知られている.プレート間歪みをスロースリップのみで解消しているわけではなく,将来巨大地震発生の可能性があると考えられている.そこで,ゲレロギャップ下のプレート間固着を明らかにすることを目的として,同領域において海底地震地殻変動観測網を構築した.2017年11月に,長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を,メキシコ国立自治大学(UNAM)所属研究船El Pumaを用いて設置した.観測領域は,海溝沿いに約120km,直行方向に約50kmである.なお,本研究は,平成28年度から開始された国際科学技術共同研究推進事業,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「メキシコ沿岸部の巨大地震・津波災害の軽減に向けた総合的研究」の一環として,京都大学,東北大学,UNAM(メキシコ)との共同研究として行われた.

(3-3) 南九州における制御震源地殻構造探査実験

南九州では,フィリピン海プレートが日向灘で九州の下に沈み込んでおり,島弧である九州では活発な火山活動が見られる.さらに背弧側である東シナ海は沖縄トラフの北端に位置する.このような地域の地殻活動を理解するために,島弧の地殻構造を明らかにすることが重要である.また,活発な火山活動を伴う姶良カルデラの詳細な地下構造を明らかにすることは,火山噴火の理解を進めるために必要である.これらの目的のために,2017年11月に南九州を横断する海陸構造探査実験が行われた.海域では,海底地震計を1kmから2.5kmの間隔で設置し,陸上の発破による制御震源を観測した.設置した海底地震計は,構造探査実験終了後に回収された.今後得られたデータ解析を行う予定である.なお,本探査実験は,北海道大学,東北大学,京都大学,九州大学,鹿児島大学との共同研究である.

(3-4) 日本海溝横断構造探査および海底地震計機器比較試験

太平洋プレートが日本列島下に沈み込む日本海溝近傍では,沈み込み始める前から外縁隆起帯に代表される構造変化が認められる.このような構造変化をプレート沈み込み前から,沈み込み後まで連続的に捉えるため,日本海溝を横断する測線で海底地震計とエアガンによる構造探査を2017年に実施した.日本海溝域は水深6,000mを超える大深度域であるため,従来型の海底地震計に加え,地震研究所で開発した超深海型海底地震計を併せて展開した.また,これまで多種の海底地震計が開発・運用されているが,それぞれの計器特性の差異は必ずしも明らかではない.そのため,短周期型から広帯域型まで含む4種類の海底地震計をそれぞれ近傍に設置し,比較観測を行った.なお,本観測研究は海洋研究開発機構との共同研究である.

(4) 海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発

(4-1) ICTを用いた光ケーブル式海底地震・津波観測システムの三陸沖への設置

これまでの光ケーブル海底地震・津波観測システムは,海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面での欠点がある.そのため,データ伝送とシステム制御にICTを用いたシステムを新たに開発し,その1号機を新潟県粟島近海に設置した.このシステムは,データ通信の冗長性を備え,より低コストで,小型・軽量であることが特徴である.2号機に関しては,既設の三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測システムの更新システムとして,開発・製作した.2号機は,地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点設置し,全長は約110 kmである.拡張ポートは,PoE I/Fを用いており,設置後,無人探査機などにより,新たなセンサーを接続できる.観測装置は30 kmまたは40 kmの間隔であり,設置時には,拡張ポートにデジタル出力型高精度水圧計を接続した.2015年9月に,岩手県釜石市沖へ2号機の設置を行った.システムの設置は,通信用海底ケーブル設置に用いられている海底ケーブル敷設船を利用した.このシステムの設置により,釜石市沖は,三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測既設システムと併せて,空間的に高密度なリアルタイム海底地震・津波観測網が構築された.2017年4月には,波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.アースの強化としては沖合数十mにアース電極を設置し、これまでに利用していた汀線部アースと並列に接続した。その結果、給電電圧の変動はほぼ無くなり、安定した運用ができるようになった.

(4-2)小型広帯域海底地震計の開発

長期観測型海底地震計は,実用化され,多数の実績を持っており,繰り返し観測の手法により,モニタリング観測が可能となった.この長期観測型海底地震計の地震計センサーは,三成分高感度短周期速度計であり,その固有周波数は1Hzである.通常の地震観測には,十分な帯域であるが,近年着目されている浅部低周波微動や超低周波地震を観測するには,やや帯域が不足である.近年,小型で低消費電力であり,固有周期が20秒または120秒である広帯域地震計が利用可能になってきた.そこで,この地震計センサーを長期観測型海底地震計に組み込むために,新しくレベリング装置を開発し,小型広帯域海底地震計を試作した.2017年は,固有周期20秒のNanometrics社Trillium Compact Broadband Seismometer を,製作したレベリング装置に搭載して,試験観測を実施した.新規開発した小型広帯域海底地震計は、2017年2月に日向灘に設置され、同年7月に回収された。回収した記録には、超低周波地震がS/N比よく記録されていた。

(4-3) センサー埋設型海底地震・傾斜計の開発研究

地震研究所海半球観測研究センターにおいて開発された地震計センサーを海底下に埋設する地震観測システムを利用して,海底で傾斜を計測するシステムを,海半球観測研究センターと共同して,開発・実用化を進めている.

(4-4) 海底地震計波形データ解析のための手法開発

海底地震計の波形データは,海底に積もった柔らかい堆積層や,海底,海表面に由来する多重反射・変換波が卓越し,複雑になる.このため,目的とする深部の構造(モホ面やリソスフェア・アセノスフェア境界など)で生じる変換波の情報を抽出することが困難となる.多重反射波の影響を考慮に入れつつ,深部構造を求めるための波形処理手法ならびに波形インバージョン手法を開発中である.

3.11.1 陸域地震・地殻変動観測研究

(1) 陸域における地震観測

(1-1) 広域的地震観測

関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.名古屋大学から移管された長野県大鹿村の大鹿観測点は,2017年12月14日から短周期地震計のデータ送信を開始した.この観測点は,糸魚川―静岡構造線南部に位置し,中央構造線のすぐ近傍にあり,それらの構造線に関連した断層の活動と地震活動との関係を知ることで,内陸における地震発生を理解するのに必要な観測点である.

全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.

 (1-2) 臨時集中観測

日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行ってきた.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まり,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムでデータを収集している.

長野県北部では,2016年6月~7月頃に風吹岳大池付近を震源とした群発地震が発生した.この地域は,糸魚川―静岡構造線の北端に位置し,北北東―南南西の走向に活断層が連なる地域であり,地殻内の震源も同様な方向に分布していた.南隣に位置する神城断層では,2014年にM6.7の地震が発生し,そのときも,この地域では若干の地震活動が観測されていた.今回の地震活動は,とても浅いことと徐々に活動域が広がっていることから,震源地の近傍に臨時観測点を4点設置し,詳細な震源分布を得ることができた.その結果,この群発地震活動は,深さが2~5㎞に分布するが,神城断層の断層面上には位置せず,2014年の地震とは直接的な関係が無いようであった.地震活動域は,第四紀に活動があったと考えられている風吹岳周辺に集中していて,風吹岳の火山活動との関連が示唆される.その後,地震活動度が低下したため,小谷村の施設内に残してあったテレメータ観測点は,2017年5月に撤収した.

 (2) 地殻変動観測

 南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.観測は1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山,弥彦及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置された深い縦坑を用いたボアホールや横坑での観測によって実施されている.前者においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,後者においては,最近開発されたボアホール地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計から構成されている)あるいは水管傾斜計を用いて観測を継続している.得られた観測データについては,2018 年2 月に開催された地震予知連絡会において富士川,弥彦及び鋸山における観測結果を報告した.2018年2月の地震予知連に提出した鋸山観測所の記録を図3.11.1に示す.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.

 2016年4月16日に発生した熊本地震においては,「GPS大学連合」としてGNSS余効変動調査を実施している.地震研からは震源域南西延長上の3点において観測点を設置して観測を継続している.

 (3) 2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答

2011年東北地方太平洋沖地震の後,大きな余効変動が観測されており,それに伴い日本列島でも活発な地殻活動が観測されている.そのため,東北地方から関東地方にかけての地域において,地震観測をはじめとするさまざまな分野にわたる総合観測及び東北日本弧の地殻・マントル構造を明らかにするとともにレオロジーモデルの構築を行い,観測データと得られたモデルに基づくシミュレーション結果との比較を通じて,今後の内陸地震や火山噴火の発生ポテンシャルの評価を目指す総合的研究を,地震予知研究センター・地震火山噴火予知研究推進センターと共同で実施しているところである.本年度は,阿武隈山地に展開された63点の臨時稠密地震観測網の自然地震データから逆VSP(Vertical Seismic Profile)解析による地殻内のS波反射面のイメージング解析を行った(地震予知研究センターの章参照).

(4) 茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

 本センターは,地震予知研究センター・地震火山噴火予知研究推進センターと共同で,2011年の東北地方太平洋沖地震により誘発された茨城県北部・福島県南東部の地震活動とその時空間発展を明らかにするために,約60点の臨時地震観測点を展開し維持している.これらの観測点の連続波形記録の統合処理を行い,2011年7月から2017年3月までに発生した地震に対しては相対走時差データを用いて詳細な震源再決定を行った.得られた震源分布から,当該領域の変形機構の地域性が見られることがわかた.(地震予知研究センターの章参照).

(5) 紀伊半島南部におけるプレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出

 スロースリップイベントや深部低周波微動等の多様なプレート間の滑り現象を規定する地下構造異常の抽出を目的とした観測研究を,地震予知研究センター・地震火山噴火予知研究推進センターと共同で実施している. 2017年は,深部低周波微動活動が不明瞭な領域の紀伊半島中央部で稠密自然地震観測を実施した.臨時地震観測点は,和歌山県紀の川市から串本町に至る約90㎞の測線上の90カ所に設置した.また,測線下の詳細なP波速度構造や沈み込むプレート・島弧モホ面の形状を把握するために,制御震源地殻構造探査を実施した.(地震予知研究センターの章参照).

(6) スロー地震モニタリング

西南日本に発生する深部低周波微動・深部超低周波地震は,プレート境界のすべり現象であるスロー地震のうち地震波を放出する現象であり,プレート間カップリングを考える上でも重要である. 西南日本で発生するスロー地震のうち,深部超低周波地震のマッチドフィルター法による自動検出システムを構築し,2004-2017年の活動推移や長期SSEへの応答性を解明した(Baba et al. 2018).豊後水道で長期SSEが発生した時に豊後水道での深部超低周波地震活動が活性化すること,その活性化領域が2010年と2014年では異なり,長期 SSEの大きさや活動範囲を反映することなどが分かった.また,豊後水道から愛媛県西部にかけて,2014年後半以降に深部超低周波地震活動が低下しており,プレート間の固着強度が長期的に変化している可能性を示した(図3.11.2).同様の解析を紀伊・東海地方でも行ったが,超低周波地震の検出数自体が少なく,明瞭な活動度の時間変化は見られなかった.

深部低周波微動発生域では,短期的SSEを伴う微動活動の他に,遠地地震の表面波によってトリガーされる誘発微動が知られている.その詳細な活動様式を解明する目的で,マッチドフィルター法による誘発微動の検出を継続的に行なった.短期的SSEに伴う微動活動と誘発微動の振幅は,紀伊半島北東部では変わらないのに対し,四国西部では誘発微動の振幅が大きくなる傾向にあることを示した.

「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明」において,愛媛県南部及び高知県西部の合計3点における広帯域地震計臨時観測を継続するため,不具合の見られる地震計の交換などを行った.また,大分県東部及び愛媛県西部に広帯域地震計観測点を新たに3箇所設置した.南海トラフ近傍で発生する浅部超低周波地震と内陸下で発生する深部超低周波地震の解析をそれぞれ行った結果,サイズの統計分布が普通の地震とは異なることが分かった.さらに,浅部と深部では超低周波地震の特徴的な大きさが異なり,内陸の深部超低周波地震の方が検出が難しく直上での観測が重要になることなどを示した.

(7) 鳥取県西部地震震源域における稠密地震観測

鳥取県西部および島根県東部地域では,京都大学・九州大学等と共同で,臨時地震観測点を展開した.この地域は,2000年鳥取県西部地震(M7.3)の震源域で,その震源域を取り囲み,約1km間隔の1000ヶ所に設置した超稠密地震観測である.地震計は上下動成分だけであるが,その約8割の地点においては,携帯電話(FOMA網)を利用してデータ伝送を行った.ただし,消費電力を抑えるため,1日に4回(6時間ごと)にまとめて伝送することにして,単一乾電池48個だけで1年間稼働させる予定である.100Hzサンプリングで,24bitの分解能でAD変換し,連続収録したデータは,現地のSDカードでも蓄積させている.設置場所は,主に道路脇や民家の軒先で,センサーは埋設するか露岩等に接着剤で固定した.

ほとんどの観測点で,順調にデータが収録されていて,それらを用いた自動処理の結果では,観測網内であればM-1程度の極微小地震まで収録できている.震源分布は,2000年鳥取県西部地震直後の余震分布と同様に,主に北北西―南南東走向に連なり,その走向に直交する分布がいくつか見られる.震源域の南部では分布の幅は狭く,震源域の北部では枝分かれして広がるといった震源分布の特徴は,地震発生から約18年経過した現在も同様に見られる.ノイズレベルが低く,S/Nが良好であるため,P波の初動がうまく検知でき,その押し引き分布から発震機構解を精度よく決めることができた.予察的な解析によると,2000年鳥取県西部地震の震源断層とは異なる走向の断層面を持った地震が見られた.さらに,この地震を発生させた応力軸の方向に対して,必ずしも整合的な地震だけが起きているわけではなく,正断層も含む様々な発震機構の地震が観測された.これらの地震活動と,地表面で見られる地質断層との比較等から,地殻内の地震断層の分布やそれを作り出す応力場の状態等を推定し,断層の発達過程の理解に資する情報を得ている.

地震計は,主に物理探査に用いられてきた固有周期4.5Hzと2.0Hzの上下動地震計であるが,遠地の大地震から伝播した周期数秒の地震波をとらえることができた(適切なフィルタを用いると).その波群には,初動P波や初動S波だけでなく,様々な後続波が含まれていた.それらの波群の到来方向は,必ずしも震源方向と一致するとは限らず,別の方向から伝播したり,平面波でなかったりしていて,この地域の地下構造の不均質に起因するものと考えている.振動継続時間も地域によって異なり,地盤の違いを知ることができる情報が取得された.

(8) 汎用的な利用が可能な稠密地震観測網の開発

地域ごとの不均質な揺れを知るために,加速度計を用いた地震観測システムの開発研究を行っている.その場所の揺れは,地盤構造や建築物等の違いによって異なり,被害に差が生じることが知られている.この差を考慮した耐震対策の優先順位や効果的な救援・復旧手段を講ずるためには,多くの地点で揺れを測って,あらかじめ揺れの特性を知っておく必要がある.そこで,小型軽量で設置が容易な安価な地震計を開発することを目的として,MEMSのデータを収録する安価な装置を開発している.

今年度は,FOMA回線を利用して,データを伝送する仕組みを開発し,地震研究所の地下室で試験観測を行った.低消費電力にしたため,単三乾電池4本で3ヶ月間稼動する.既存の地震計の波形記録との比較を行った結果,数gal以上の振動であれば,既存の地震計とほぼ同じ波形を記録することができた.しかし,まだノイズレベルは高く,特に100Hzサンプリングではノイズが大きいため,ノイズレベルの低いMEMSを探している.

(9) 地殻活動モニタリングシステム構築

 地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.

3.11 観測開発基盤センター

教授 新谷昌人,岩崎貴哉(センター長),加藤照之(兼任),纐纈一起(兼任),森田裕一,中井俊一(兼任),小原一成,篠原雅尚,歌田久司(兼任)
准教授 平賀岳彦(兼任),望月公廣(兼任),酒井慎一,鶴岡弘(兼任)
助教 悪原岳,蔵下英司(兼任),前田拓人,小河勉,高森昭光(兼任),山田知朗(兼任),竹尾明子
特任研究員 石原丈実,加納将行
技術補佐員 五十嵐仁美,安部恵子,長田志保,藤田園美,工藤佳菜子,二瓶陽子
外来研究員 大橋正健,勝間田明男,川北優子,高橋弘毅,内田直希,  POIATA Natalia
大学院生 栗原 亮,出口雄大,堀井憲一,金谷希美,酒井浩考,高橋大和,馬場慧,疋田朗

 観測開発基盤センターは平成22年4月の地震研究所改組に伴って設立され,地震火山観測機器及び分析装置の維持・管理・活用等の研究支援,観測機器・技術開発支援及び地震火山観測研究・技術開発研究を推進することを目的としている.本センターでは,観測所等の観測拠点とテレメータ観測網を維持・活用するとともにデータ伝送・流通システムの研究開発を図り,地震・地殻変動・火山・電磁気現象に関する広範な観測研究を進めている.これらの観測研究には,新たな観測システムの開発が不可欠である.このような技術開発を観測研究ともに推進していることが本センターの大きな特徴である.