プロジェクトの概要

インドネシアは日本と似た地震・火山国である。インドネシアにおける地震火山の総合防災策を同国と共同研究し、日本の長年の実績を実態に即して適用することにより、同国の災害軽減に貢献する。同時に、日本列島と似た沈み込み帯を総合研究することで多くの知見が得られ、日本の防災にも貢献する。

インドネシアの火山

プロジェクトは(独)科学技術振興機構(JST)と(独)国際協力機構(JICA)の共同事業である地球規模課題対応国際科学技術協力事業の枠組みもとで実施される。すなわち、国内における研究活動はJSTが支援し、インドネシアにおける研究活動はインドネシア側の機関による研究活動も含めてJICAが支援する。実施期間は平成21年度より3年間を予定している。

日本側の研究代表者は東京大学地震研究所の佐竹健治教授、インドネシア側代表者はインドネシア科学院(LIPI)のDr. Hery Harjono である。

共同研究の背景

日本とインドネシアの共通点

地震・火山の現象とその防災に関して,日本とインドネシアは共通点が多い.両国とも環太平洋火山帯に位置し,プレート境界や内陸活断層で大地震が発生すること,百を超える活火山が存在しそのほとんどが人口密集地に近いこと,また,これらの自然災害の調査・研究,対策が国家の主要課題として取り組まれ,対応する国の機関が多くの省庁にまたがっていることなどである.

研究の進展

2004年12月26日にインドネシアスマトラ島沖地震インド洋大津波災害では、犠牲者の出身国は50カ国以上に及び、とりわけインドネシアでは17万人を超える死者・行方不明者が生じた.我が国では、この地震・津波直後の2005年1-3月に科研費突発災害研究・科学技術振興調整費緊急研究が実施され、引き続き,2005年度からは振興調整費「災害軽減科学技術の国際連携への提言」(1年間)及び「スマトラ型巨大地震・津波被害の軽減策」(3年間)が実施された.そして後者では,理学・工学・社会学の広範な関係研究者の緊密な連携により多大な成果を挙げることができることが示された。

インドネシアにおける地震火山津波防災の切迫性

このような研究の進展のさなかにも,インドネシアでは2005年3月にニアス島地震,2006年5月にメラピ火山噴火,同月にバントゥール県地震,同年7月にジャワ島南方沖津波地震などと地殻活動が引き続き高いレベルで続いており,インドネシアとしても地震火山津波防災には国家の重要な施策として取り組まざるを得ない状況になっている.

共同研究を行うことの意義

インドネシアは日本と似た地震・火山国であることから,共同研究を行うことは双方にメリットがある.まず,日本では,地震・火山噴火の観測・予測や防災技術について長年の実績があり,これらをインドネシアの実態に即して適用することにより,インドネシアの災害軽減に貢献する.同時に,日本列島と似ている沈み込み帯での研究を実施することにより,比較研究ができることは日本にとってもメリットがある.たとえば,2004年スマトラ島沖地震のような超巨大地震が,日本の南海トラフでも発生するのかどうかは,日本にとっても重要な関心事である.129の活火山を有し噴火発生頻度も高いインドネシアは,火山噴火予測にとって世界でもっとも適したフィールドである.

さらに、災害に関するソフト的なアプローチからの研究はインドネシアではごく少数の研究者によってしか行われておらず,我が国においても阪神淡路大震災以降に体系的に取り組まれるようになって歴史が浅い。両国の研究者が共同して事例を研究し成果を共有する意義は大きい.

研究成果の効果的社会実装へのチャレンジ

研究成果を効果的に社会還元して実際の防災に生かすためには,多分野・多機関からのトップダウンとボトムアップによる連携が重要である.日本では,地震・火山噴火予知に関して,地震調査研究推進本部などのトップダウンのシステムによる省庁間の調整と,研究者からのボトムアップによるシステム(地震・火山噴火予知協議会)とによって研究を推進している.本研究を通じて日本のボトムアップのシステムを紹介し,インドネシアの実情に合わせた研究の連携・成果の社会還元のシステムが形成されるように支援する.

共同研究の目的と成果目標 (Purpose and Outputs)

(1)目的(上位目標)

本研究の最終的な目的は,日本・インドネシアの両国において,地震や火山噴火による災害を軽減することである.自然災害による被害は,自然現象(ハザード)と社会の脆弱性によって発生する.地震や火山噴火などの自然現象については,その発生を防ぐことはできないが,調査や観測に基づいて予測を行うことは可能になりつつある.社会の脆弱性については,外力を軽減する工学的(ハード)なアプローチと,人と社会の対応力についての社会学的(ソフト)なアプローチがある.真の防災を実現するためにはこれらの研究及び研究者の学際的な連携と研究成果を実践に移す体制が必要である.

そこで本研究では,①地震・津波の発生機構の解明と予測,②火山噴火予測と活動評価手法,③災害に強い社会基盤の構築,④災害対応と復興時の社会の脆弱性の克服,⑤防災教育推進と意識向上の5つのサブグループに分け,緊密な連携のもとに学際的・総合的な共同研究を実施する.さらに,これらの研究成果を社会還元するため⑥研究成果を生かすための行政との連携というグループも設ける.

(2) 目標(プロジェクト目標)

① 地震・津波の発生機構の解明と予測

スマトラ島からジャワ島にかけての地域においてプレート間カップリングの不均質を明らかにすると共に,過去の地震の繰り返し周期の解明を通じて将来の地震及び津波地震の発生の危険度を明らかにする.また,この分野は日本がインドネシアをリードしている分野であることから,インドネシアの研究者のレベル向上を図る.一方日本側はインドネシアと日本のプレート沈み込み帯の比較を通じて沈み込み過程の多様性についての新たな知見を得ることを目標とする.

② 火山噴火予測と活動評価手法

インドネシアにおける火山の研究が格段に進み,直前予測と中長期予測の実験を通じて火山の爆発過程の解明を進めると共に,インドネシアにおける火山活動評価手法を明らかにする.インドネシアにおける火山研究の成果は日本の火山研究に対しても新たな知見を与えることができると期待される.

③ 災害に強い社会基盤の構築

ハードウェア的アプローチからは,植生の利用を通じた津波災害軽減を図ると共に,津波ハザードマップの高度利用化を通じてインドネシア沿岸地域における安全・安心な社会基盤の構築に寄与する.インドネシアに適した地盤調査法や液状化の面的予測法の構築に基づく地盤災害ハザードマップの作成やPPバンドの普及方策の展開によってインドネシアの地震災害に対しても安全・安心な社会基盤の構築に寄与する.

④ 災害対応と復興時の社会の脆弱性の克服

インドネシアの地域社会や宗教的背景に基づく社会の脆弱性に光をあて,問題点を明らかにすると共に,情報伝達のありかたや心理学的な側面の研究を通じて地域社会や個人の地震火山災害に対する脆弱性の克服に寄与する.また,災害発生後の効果的な復興について有益な提言を行う.これらの研究を通してインドネシアの社会学研究者と防災分野との連携が強化する。

⑤ 防災教育推進と意識向上

インドネシアに適した防災教育啓発手法の開発,科学的知見と被災体験を活かす教材の開発,ならびに衛星回線を活用した遠隔教育手法の開発を行い,実践的に検証して普及を目指す.

⑥ 研究成果を生かすための行政との連携

地域社会に研究成果を還元し,教育・啓発や訓練を通じてより安全・安心な社会を構築するための研究と実践活動がインドネシアの研究者によって主体的に実施されるようになる.

また,全課題を通じて,参加研究者とインドネシア政府関係者が強い連携と情報共有を実現することにより,インドネシアにおける地震・津波・火山の防災研究・防災施策を推進するための自立的な組織を確立する.

共同研究の実施計画(活動) (Project Activities)

共同研究は6つのグループに分かれて互いに密接な連携を取りながら実施される。

グループ1 地震・津波の発生機構の解明と予測

地震・津波の発生機構の解明と予測に関しては,津波堆積物・活断層の調査に基づく過去の地震・津波の履歴と将来の長期予測,GPS観測による現在の地殻応力状態の監視,海底調査による海底活断層の調査,将来の地震による強震動や津波の予測シミュレーションを実施する.

グループ2 火山噴火予測と活動評価手法

インドネシアには百以上の活火山があることから,噴火様式や前兆現象出現のプロセスは多様である.そこで,ジャワ島のスメル火山・グントール火山をフィールドとした直前予測・中長期予測,その他の火山も含めた大規模噴火の頻度に関する研究を実施し,火山活動評価手法の提言を行う.

グループ3 災害に強い社会基盤の構築

災害に強い社会基盤の構築に関して,日本とインドネシアでは社会基盤整備状況が大きく異なる.災害抑止・軽減のための工学(ハード)的な基盤が未整備なため,脆弱な建物の被害や地盤災害が頻発する.インドネシア各地に適応できる復旧・復興の視点を入れた社会基盤開発が必要であることから,ハザードマップを基盤に,地域性を生かした土地利用・規制ならびに防災施設と避難体制の整備を目指す

グループ4 災害対応と復興時の社会の脆弱性の克服

災害対応と復興時の社会の脆弱性の克服では,インドネシア社会の文化的・宗教的背景に基づく防災・復興概念と災害時における情報伝達と被災者心理の特徴を理解することにより,コミュニティに立脚した災害対策を構築する研究を実施すると共に,よりよい地域・産業の復興策を研究し提言する

グループ5 防災教育推進と意識向上

防災教育推進と意識向上に関しては,インドネシアに適した防災教育啓発手法,教材,さらには教育手法の開発を行い,実践的に検証して普及を目指す.

グループ6 研究成果を生かすための行政との連携

以上の研究を研究者間の緊密な連携と情報共有のもとに実施するため,日本・インドネシアの研究者とインドネシア政府の研究行政関係者による「インドネシア地震火山防災研究協議会」(仮称)を構成して連携を推進し,インドネシア側によって主体的に運営され研究成果を同国の防災施策に継続して生かせる体制を構築することを究極の目的とする.

プロジェクト全体像