グループ4 災害対応と復興時の社会の脆弱性の克服の研究実施計画

代表者 名古屋大学 海津正倫 LIPI: Deni Hidayati

日本側メンバー インドネシア側メンバー

地震・津波などの災害に対する社会の脆弱性とは,ハードウェアや行政の対応力不足だけでなく,居住者の心の備えの不足,災害発生時における情報伝達の不備,文化的・宗教的背景に根ざした災害の受容度の低さなどをさすといってよいであろう.インドネシアにおいてこれらを強化するためには,地域社会における内在的な論理をまず解明し,彼らの情報伝達の方式や地震・津波に対する心理的な受け止め方を理解して災害への対応策を検討することが重要である.本課題ではこれらの問題を調査研究し,社会の脆弱性の克服への指針を与える.

災害の発生・復旧・復興において,情報伝達の持つ意味は大きい.「災害時の情報伝達と被災者の心理」グループは災害の情報が住民達にどのように伝わったか,また,メディア環境や情報行動実態がどのようなものであったかを実際の災害を事例に検討して,より有効な情報伝達についての提言策を検討する.また,それらの結果に基づき,警報システムが具備すべき要件,それを補強する防災教育の要件,災害情報の内容面等の検討を行う.

「地域文化に即した防災・復興概念」のグループは,災害対応過程を災害記事にもとづいて,保険,通信,銀行,建設,農林水産,保健衛生,宗教などに整理し,当時の担当者や被災地住民に聞き取り調査等を行うことで,分野・業界ごとの復興過程を多面的に明らかにし,住民の防災・復興情報に対するニーズを明らかにすると共に,調査結果を地域住民に還元する.

一方,災害時とその後の対応には住民組織の対応が重要な役割を果たすが,この点から,「コミュニティに立脚した災害対策の構築」グループは,文献調査による理論的位置づけをふまえて,フィールド調査・統計データの活用にもとづいてコミュニティに立脚した災害対策の構築に係る支援策の検討をおこなう.

また,「地域・産業の災害復興」のグループは長期災害復旧・復興研究のフレームワークを定め2004 年インド洋津波災害からの長期復旧時系列の開発を行う。そして、災害からの復旧・復興を達成する際の鍵となるライフライン,生業,すまいに関する復旧・復興施策のあり方ならびに災害に強い社会を構築する上でのこれらのあり方を生活再建プロセスに重点をおいて明らかにする.

グループ4


4-1 コミュニティに立脚した災害対策の構築

課題担当者 名古屋大学: 田中重好 LIPI: Deny Hidayati

日本側メンバー インドネシア側メンバー

グループ4-1 インドネシアの地域社会に自主的な災害対策メカニズムを確立するため、バンダアチェとジョグジャカルタで地震・津波災害からの復旧における地域社会の役割と地域社会の脆弱性の変化の調査、地域社会の役割の包括的な調査、ならびに日本の津波被災地における比較調査を二国間で共同して行い、地域の状況に応じた効果的な減災を提案する。また、これらの共同現地調査と研究者間の議論を通して二国間のアカデミックなネットワークを構築する。


4-2 地域文化に即した防災・復興概念

課題担当者 京都大学: 山本博之 LIPI: Makmuri Sukarno

日本側メンバー インドネシア側メンバー

グループ4-2 スマトラ島アチェ州で2004 年の津波災害の報道記事を収集しデータベースを構築、2007 年にM8.4 地震が沖合で発生したブンクル(Bengkulu)州と西スマトラ州についても現地調査を行う。インドネシアと日本でデータベース構築のワークショップを行い、これらの成果として構築された報道記事のデータベースをインドネシア側に提供する。これらのデータベースを元に復興過程を多面的に分析し、地域文化に即した住民の防災・復興情報に対するニーズを明らかにする。


4-3 地域・産業の災害復興

課題担当者 京都大学防災研究所: 牧 紀男 UNSYIAH: Muhammad Dirhamsya

日本側メンバー インドネシア側メンバー

グループ4-3 バンダアチェにおける復旧過程の共同調査と課題の抽出、神戸の長期復旧過程に関する共同調査、日本側の知見の紹介を通して長期復旧研究のフレームワークを定め、写真、文書、聞き取りなどを分類した2004 年インド洋津波災害からの長期復旧時系列(Long Term Recovery Time Line)の開発を行う。また、この共同調査を通してインドネシアにおける長期復旧研究のコミュニティの形成を支援する。


4-4 災害発生時の情報伝達と被災者の心理

課題担当者 東京大学: 田中 淳 UI: Dicky Pelupessy

日本側メンバー インドネシア側メンバー

グループ4-4

2007 年6 月に発生した津波サイレンの誤動作により
パニックを起こして逃げまどう住民(新聞記事より)

住民の確実な避難を実現するには心理学的な分析を活用して情報伝達の方法を改善していく必要がある。また、避難の風習を確立し継承していく必要がある。ケルート(Kelud)火山噴火避難を調査対象とし、インドネシアの国家災害警報センター( National Disaster Warning Center)等の公的機関、メディア、避難対象地域住民にアンケートと面談を行う。その結果から、広報の媒体、情報の伝達と避難の過程、噴火警報と住民の反応の課題、住民の警報の理解と受け止め方を調査し、それらを踏まえた警報伝達システムを提案する。洪水や津波への適用性の検討と公的機関とメディアによる評価をへて成案を提示する。