カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.5 地震予知研究センター

教授 平田直(センター長),佐藤比呂志,上嶋誠,山野誠,岩崎貴哉(兼任),加藤尚之(兼任),小原一成(兼任),篠原雅尚(兼任)
准教授 石山達也,加納靖之,加藤愛太郎,望月公廣,飯高隆(兼任),酒井慎一(兼任)
助教 福田淳一,蔵下英司,西山昭仁,山田知朗,五十嵐俊博(兼任)
特任助教 橋間昭徳,吉光奈奈
特任研究員 CLARINGBOULD Johan, 畑真紀,片桐昭彦,加藤直子,水野嶺,椎名高裕,大塚浩二,VAN HORNE Anne
学術支援職員 柳澤恭子
外来研究員 濱元栄起,HUANG Qinghua,伊藤谷生,笠原敬司,川北優子,川村喜一郎,PANAYOTOPOULOS Yannis,臼井嘉哉,Zlotnicki Jacques
大学院生 佐々木肯太(M1),上田拓(M2),池口直毅(D2),米島慎二(D3)
地震研究生 JIANG Meiling
インターンシップ研修生 山谷里奈

3.3 物質科学系研究部門

教授 武井(小屋口) 康子(部門主任),中井俊一
准教授 平賀岳彦, 安田敦
助教 三部賢治, 三浦弥生
特任研究員 小泉早苗, Thomas Ferrand, 山内 初希
技術補佐員 今野沙世
大学院生 末善健太(D3), 谷部功将(D3),  佐々木 勇人(D2),岡本篤(D1), 岩橋 くるみ (M1), 諸澤 直香(M1), 角田明博(M1), 安藤 照浩 (M1)
インターンシップ研究生 大野 正貴, 小澤 恭弘, 劉 青雲

本部門では,物質や物性の研究を通じて,固体地球内部の構造やダイナミクスの素過程を明らかにすることを目指している.地球に留まらず,太陽系内外で の諸現象も研究対象にしている.理論,室内モデル実験,超高圧実験,元素・同位体分析など様々な方法に基づいて研究を行っており,その 内容は多岐にわたる.本年度における概要を以下に示す.

3.2.5 高度な観測機器を開発するための研究

(a) 長基線レーザー伸縮計の開発(観測開発基盤センターと兼務)

  神岡鉱山地下に建設した全長1.5 kmの基線をもつレーザー伸縮計の研究開発を継続している。また、気象研との共同研究として静岡県浜松市に設置された400 mレーザー伸縮計の光源を神岡で用いているのと同方式の周波数安定化レーザーに更新して中断していた観測を再始動した。これらの伸縮計を用いて実際に地震イベントなどの観測を行うとともに、光源の周波数安定度の評価に取り組んでいる。今年度はそのために必要となる参照レーザーの詳細なノイズ解析を行い低ノイズ化した上で、浜松市の観測サイトで周波数安定度の評価実験を開始した。引き続き神岡の1.5 kmひずみ計でも評価を行う計画である。

(b) 反磁性を利用した小型傾斜計の開発

  反磁性体と組み合わせることによって、受動的に浮上させた永久磁石を基準とした傾斜計の研究開発を行っている。これは前年度までの重力計の研究を発展させたものである。傾斜計では浮上体(参照振り子)にはたらく水平面内での復元力を小さくすることによって傾斜に対する感度を高めることができる。前年度までの研究で、磁石と浮上体の形状や配置を工夫することによってこのような状態は容易に実現可能であることがわかった。今年度は山梨県立産業技術短期大の研究者と連携して傾斜計に用いる浮上体のモデル化および具体的な設計を行った上で、傾斜計の試作を行い、基礎的な特性の評価を行った。

(c) 精密機械工作技術を用いた小型傾斜計の開発

  海底ボアホールや陸域の深部ボアホール,あるいは海底面など,観測例の乏しい「観測フロンティア」での傾斜観測を目的とした小型傾斜計の研究開発を行っている.開発した小型・長周期の折りたたみ振り子を核とした傾斜計を製作し,実際に坑内ボアホールでの観測を継続している.これまでに得られたデータを分析することにより,長期ドリフト特性について良好な結果を得た.今年度は機器更新などを行い観測を維持してデータの蓄積を行っている。

3.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(a) 巨大なSSEのシミュレーション

  数理部門,及び産総研と連携して,熱水環境下の実験でみられる長い特性時間をもつ強度回復プロセスが地震発生域の深部延長での大きなゆっくり滑りイベント(SSE)を産み出しうることを二次元弾性体中で行ったシミュレーショで示してきた.このシミュレーションにおける破壊条件は脆性域の物性で決まるはずだが,実際には遷移領域の摩擦物性を変えることによって,破壊に必要な震源核のサイズを大きくすることができた.シミュレートされた震源核の滑り分布を精査することによって,この一見おかしな結果が,応力集中への寄与効率の低い震源核中央部が遷移領域で大きくなれる(滑り分布が標準的な楕円型より中央部がぺったりとした長餅形になる)からであることがわかった.摩擦物性の空間勾配のある様々な場合で大きな震源核が可能だと考えられる.

3.2.3 地震,地殻変動等の最先端観測や新しい観測の試み

(a) 南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験

  南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサを設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行ってきた.採掘前線の10m程度前方に形成する,厚味が2-3m,さしわたし20m程度の大規模な板状の微小破壊集団について,採掘前線が到達すると活動を停止し,さらに前方な新たに同様な活動が現れることから,動的な巨視的剪断滑り(鉱山における大地震)の準備過程である可能性を指摘していた.今回,鉱山会社,南アフリカWitwatersrand大学との共同研究によって当該鉱区の岩質,破壊のマッピング,岩石試料の強度試験を行い,この仮説を支持する結果を得た.さらに,剪断応力の高まりは,ほぼ水平な採掘スロットの上下に対称に起きるはずであるのに,観測された微小破壊集団は,採掘スロット下側での最大応力面から期待される方向をもって採掘スロットのはるか上まで延びていることが謎であったが,スロットの上下を構成する岩石の強度が大く違うことに起因するとの結論を得た.鉱床を挾んで上下で岩質が大きく違うのはよくあることで,この知識は採掘の安全性を高めるために有用であると期待される.

3.2.2 精密な重力観測に基づく研究

(a) 長野県松代における精密重力観測

  長野県松代において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を行っている.重力計の記録から,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震のあと,年間およそ10マイクロガルという大きなレートで重力が減少を続けていることが明らかになった.この観測点は,地震の震源域からは400km以上離れており,GEONETによるGNSSデータから推定される上下変動は比較的小さいにもかかわらず,このように大きな重力変化が見られるのは,地震のあと継続しているアフタースリップあるいは粘弾性緩和による地下の密度変化をとらえていると考えられる.この現象を詳しく調べるため,より震源域に近い東北地方において新たに重力連続観測を展開するための準備を行っている.

(b) 沖縄県石垣島における精密重力観測

  沖縄県石垣島において,2012年から超伝導重力計による重力連続観測を行なっている.この地域の地下では,約半年に一度,スロースリップが発生していることがわかっている.この観測では,地下の高圧流体がスロースリップの発生にどのように関わっているかを,重力をとおして解明することを目的としている.この場所では,大気・海洋・地下水が相互作用を及ぼしあい,重力に複雑な影響を及ぼしていることがわかってきた.それを効果的に補正するため,周辺地域において水文観測や重力サーベイを繰り返し実施している.

(c) 霧島火山における精密重力観測

  2018年には,霧島火山(宮崎県・鹿児島県)において,超伝導重力計による観測を開始した.火山の活動,とくにマグマの移動にかかわる地下の密度変化を,精密な重力観測からモニターすることが目的である.この観測地点に特有の,火山地域に特徴的な信号がとらえられ始めている.

(d) 積雪重量の観測技術の開発

  重力観測の精度が上がるにつれ,観測点周辺の環境要因,とくに水文学的な影響が顕著に現れるようになる.降雨および積雪による影響をモデリングするための数値モデルを開発したほか,積雪質量のその場測定のためのPETボトルを使った簡易式積雪重量計を開発して日本海側各地において精度検証のための実験を行っている.

3.2.1 地球波動現象としての地震・津波の研究

(a) 地震波解析から迅速に津波を予測するための研究

2018年12月アナク・クラカトア火山の山体崩壊による土砂の海中突入により,スンダ海峡周辺に津波が発生した.山体崩壊現象はインドネシア国内のみならず、アジア・オセアニア地域で周期20-100秒の地震波として記録された.地震波は津波被害が発生する20-30分前に記録されており,山体崩壊のような巨大地滑りが引き起こす津波警報が,長周期地震波の迅速な解析から可能となること示唆している.

3.2 地球計測系研究部門

教授 新谷昌人(兼任),大久保修平(兼任),吉田真吾(兼任)
准教授 今西祐一,中谷正生(部門主任),綿田辰吾
助教 高森昭光,西山竜一
大学院生 石田隼人(M1)

地球計測系研究部門では,波動場の観測と理論から地震や津波の理解を深める研究,精密な重力観測に基づいて地球内部で起きている現象を解明する研究,最先端の地震観測や地殻変動観測等によって地震発生や火山活動などを詳細に解析する研究,観測や室内実験のデータと理論を結びつける研究,超精密機械工作やレーザー干渉など最先端の技術を用いた高度な観測機器を開発するための研究などを進めている.

3.1.2 火山現象の数理的研究

爆発的噴火から溶岩ドーム噴火までの多様な火山噴火現象の統一的理解と,観測データに基づく噴火条件の推定手法の確立を目指し,理論的研究と数値実験を行っている.具体的な研究課題としては,火山噴煙・火砕流のダイナミックスを対象とした大規模シミュレーション研究,および,火道におけるマグマ上昇に関する理論的研究を進めている.

火山噴煙については,近年,気象レーダーや人工衛星を用いた観測によって噴煙高度やその拡大が高精度で測定されるようになってきた.そこで,これらの観測データから火口での噴出条件や噴火強度を推定するモデルの開発と,鍵となる物理過程を表すパラメータの決定を目的とし,3次元噴煙モデルを用いて様々な噴火条件・大気条件に関する大規模数値シミュレーションを進めている.実際の噴火で多項目的に得られた観測データ・野外調査データを整合的かつ定量的に説明することを目的として,カルデラを形成するような超大規模噴火の仮想的な事例,大規模噴火のフィリピン・ピナツボ火山の1991年噴火事例,中規模噴火のインドネシア・ケルート火山の2014年噴火事例,小規模噴火の霧島山新燃岳の2011年噴火事例,水蒸気噴火の御嶽山2014年噴火事例,マグマ水蒸気噴火の口之永良部島2015年噴火事例といった幅広い代表的噴火事例に関する再現シミュレーション研究を進めている.

火道流については,1次元火道流モデルを用いて,爆発的噴火における噴火様式の推移に対する火口形状の影響,および溶岩ドーム噴火から爆発的噴火への遷移に対するマグマの脱ガスや結晶化の影響を系統的に評価した.1次元火道流モデルと火山周辺の地殻変動観測や噴出率観測データを組み合わせることによって噴火の推移予測を行うデータ同化の理論的枠組みの構築を進めた.さらに,1次元火道流モデルと3次元噴煙柱ダイナミクスモデルを組み合わせることによって,噴煙柱崩壊による火砕流の発生条件を決定した.

3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 津波のグリーン関数・梶浦フィルターの級数表現式の導出究

地震に伴う海底地殻変動は,海面変動を引き起こし,そこを源として津波が発生する.非圧縮非粘性流体を仮定し,一様の水深hのモデルを考える.海底面において上下変動が発生した時,瞬時に応答する海面における上下変動は,海底面デルタ関数入力に対する海面変動を表すグリーン関数G (無次元量)の畳込みで表される.Gは梶浦フィルター(Kajiura 1963)として広く津波研究において利用されている. 梶浦フィルターの積分表現は0次の第1種Bessel関数を含むので,実際の津波研究においては数値計算に便利な級数表現がもっぱら利用されている.通常の学術論文では計算過程を全て記述しないのが普通であるが,必ずしも多くの人が式の導出をできるわけではない.計算過程を解説することは有益と思い,ここでは積分表現から出発し,1/cosh(x)を指数関数で級数展開し項別積分を行い,級数表現式に至る導出の計算過程を全て示した.

(1-2) 地震の即時重力変化の研究

重力場変動は光速で伝搬するため, 従来の地震波検知を用いた地震計ネットワークによる地震アラートシステムと比較して10秒以上早く,地震発生を検知することが可能になる.これは,人々の避難などの安全面だけでなく,発電所・工場・データセンタの退避状態への移行といった社会的インフラストラクチャの甚大な被害を回避するために貴重な時間となる.我々は,地震発生後「即時」に生じる重力変化の検出を目指して,先行する二つの研究結果と直接比較可能な形で2011年M9東北地震の重力計・地震計・傾斜計の「加速度記録」の再解析を行っている.

(1-3) 地震活動のフォワードモデル

「即時地震重力変化」の検出に挑戦し,観測データの解析と理論モデル構築の両方を行った.データ解析では,意に反して「既存理論モデルから予測される重力信号がデータ中に同定できない」結果となったが,それを説明する新たな観測モデル(無限媒質中では即時重力と慣性力が完全キャンセルしセンサー出力がゼロになる)を提案した.これを定量的に評価した所,非常に説得力のある結果を得た.重力観測に基づく検出の限界を明確に示し,これを受け重力歪み計による検出の方向性を示した.

(1-4) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られているが,大地震は低頻度なので,このような現象を定量的経験則として確立することは容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明することにより,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指している.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,地震活動の背後にある物理過程に関する研究を行っている.例えば,余震のカスケード過程を平均場近似することによって大森則を導出し,指数とc値の定量的表現を与えることができるが,その背後ではサドルノード分岐が本質的役割を果たしていることを解明した.カスケード相互作用系が局所的になるとダイナミクスはより不安定になり,大森則的なベキ則から指数関数的な挙動に移りかわる.その一方,局所破壊基準に確率的な規則を採用すると,確率強度のパラメタに依存して大森則の指数が連続的に変化することも発見した.