火山灰サンプルから見た,霧島山新燃岳2011 年噴火の推移と2008 年以降の先駆的活動

 

鈴木由希 · 長井雅史 · 前野深 · 安田敦 · 外西奈津美 · 嶋野岳人 · 市原美恵 · 金子隆之 · 中田節也

Earth Planets Space, 65, 591–607, doi :10.5047/eps.2013.02.004, 2013

火山灰サンプルから見た,霧島山新燃岳2011 年噴火の推移と2008 年以降の先駆的活動

2011年の火山活動と2008年8月〜2010年6月の先駆的活動について,火山灰構成粒子の特徴·構成比·粒径分布,並びに,火山灰のバルク組成(全体の平均組成)をまとめた論文である.ここでは主な成果を紹介する.火山灰とは,直径が2mm以下の粒子からなる火山噴出物のことを指す.噴火直前までマグマであった”本質物質(マグマ物質)”と,火山体を構成していた”類質物質”という異なる起源の粒子があり,それらの比率は噴火へのマグマの寄与の度合いによって変化する.

マグマの寄与が大きい “マグマ噴火” では,火山灰と一緒に,マグマそのものが数cm大の軽石として噴出したり,溶岩として流出する.しかし多くの火山活動は,火山灰のみを放出する小規模噴火で始まり,また小規模噴火で終わることが多い(新燃岳では,それぞれ,2008年8月〜2011年1月19日と,2011年6月から8月; 図1).特に活動初期の火山灰についてマグマ物質の有無や量を調べることは,上昇しつつあるマグマの深度や規模を判断し,今後の活動を予測する上で極めて重要である.

新燃岳の2008年以降の噴火について,気象庁や鹿児島大等の協力を得ながら,火山灰即時観察を継続してきた.そのため2011年1月19日の噴火で初めてマグマ物質が出現したことを,同年1月26日以降の本格的なマグマ噴火の前に,見いだすことが出来た (http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/ul/EVENT/201101_Shinmoe_Material-1.pdf;  8 vol%の軽石粒子;図2).2011年活動終期の火山灰についてもマグマ物質の存在を確認し(図2),さらに,噴火への外来水の関与の有無も考慮することで,2010年6月までを水蒸気爆発期,2011年1月19日をマグマ水蒸気爆発,2011年6月から8月をマグマ水蒸気爆発期,と定義した(図1).

図1 火山灰から推定された2011年と先行的活動の特徴.各ステージの火山灰の特徴を四角枠に示している.写真のソースについては,論文参照(オープンアクセス).

図1 火山灰から推定された2011年と先行的活動の特徴.各ステージの火山灰の特徴を四角枠に示している.写真のソースについては,論文参照(オープンアクセス).

構成物に関する興味深いデータがある.マグマ物質が同量のサンプルについて,2011年1月末の最盛期前後で比較すると,新鮮溶岩/変質物質の比率が増加しているように見える(図2).これは, 1)火山体の変質部は破壊され易く,活動初期に選択的に噴出物になった,2)2011年1月末に火口に溶岩が定置した(図1),ことの双方の影響を見ているのかもしれない.

図2 火山灰構成物の時間変化(主に250-500m径;オープンアクセスの論文参照).ローズカラーは全て2011年のマグマに由来するカテゴリーである.すなわち,噴火毎のマグマ物質(軽石とスコリア)や,2011年1月末に火口に定置した溶岩(図1)由来の粒子である.2011年6〜8月については,火口溶岩の変質が進んでいたため(図1),溶岩粒子の分類は試みていない.

図2 火山灰構成物の時間変化(主に250-500μm径;オープンアクセスの論文参照).ローズカラーは全て2011年のマグマに由来するカテゴリーである.すなわち,噴火毎のマグマ物質(軽石とスコリア)や,2011年1月末に火口に定置した溶岩(図1)由来の粒子である.2011年6〜8月については,火口溶岩の変質が進んでいたため(図1),溶岩粒子の分類は試みていない.

 2011年1月19日の噴火を境にして,火山灰バルク組成と遊離結晶(結晶のみからなる火山灰中の粒子)の種類に変化が見られる.これは,2011年に活動したマグマと,火山体構成岩石(過去噴火の噴出物)との系統差によって引き起こされた.バルクSiO2量は,2011年1月19日を境にして低下する(図3).これは火山体の平均的なSiO2量に比べ,2011年のマグマのSiO2量が低い事(図3)を反映している.遊離結晶は2010年までは両輝石+斜長石+Fe-Ti酸化物であるが,2011年1月19日以降は,これに,かんらん石が加わる(図1).これは,過去噴出物にはかんらん石斑晶がないか,あっても数百ミクロン程度までであるのに対し,2011年のマグマには1mm前後の斑晶が存在することで引き起こされた現象である.

図3 火山灰と岩石試料のバルクデータ.岩石について,2011年活動はSuzuki et al. (2013, JVGR), 過去噴火は田島•他(2013)のデータを引用.2011年噴火の岩石試料のSiO2平均量は,(白色軽石の噴出物に占める割合が5%未満であるので),57-58wt. %程度とみられる.一方,過去噴火については,59-63wt. %に集中する.K2O量が岩石試料に比べ火山灰で系統的に乏しいのは,SiO2に富みK2Oに乏しい変質物質を含有している影響である(論文参照;オープンアクセス)

図3 火山灰と岩石試料のバルクデータ.岩石について,2011年活動はSuzuki et al. (2013, JVGR), 過去噴火は田島•他(2013)のデータを引用.2011年噴火の岩石試料のSiO2平均量は,(白色軽石の噴出物に占める割合が5%未満であるので),57-58wt. %程度とみられる.一方,過去噴火については,59-63wt. %に集中する.K2O量が岩石試料に比べ火山灰で系統的に乏しいのは,SiO2に富みK2Oに乏しい変質物質を含有している影響である(論文参照;オープンアクセス)