水を含んだプレートの沈み込みシミュレーション

中尾篤史(1)・岩森光(1,2,3)・中久喜伴益(4)・鈴木雄治郎(1)・中村仁美(2,3,5,6)

(1)東大地震研 (2)海洋研究開発機構 (3)東工大理 (4)広島大理 (5)産総研 (6)千葉工業大

Geophysical Research Letters, 45 , 5336-5343 (2018)

https://doi.org/10.1029/2017GL076953

地球表面は、プレートと呼ばれる、水平運動をする数十枚の岩盤で覆われています。日本列島のようにプレート同士が重なりあう地域では、一方が地球深部へと沈み込み、もう片方はそれに乗り上げます。プレートの沈み込みは、火山・地震活動や地殻変動などの様々な地学現象の要因であるため、その挙動を理解することが重要です。特に、水を含んだプレートが沈み込むことで、どのような経路で地球深部に水が運ばれ、岩石の強度・密度を下げるのか、その結果、どのようなプレートの動きや周囲のマントルの流れが生まれるのかを解明する必要があります。そこで本研究では、2次元流体力学シミュレーションによって、水を含んだプレートによる地球内部への水の運搬・プレート運動・マントルの流れを同時に計算し、沈み込みにおける水の影響を調べました。

沈み込むプレートの上面に水を含む領域を仮定し、その厚さを変えたシミュレーションを行いました。図1のカラーコンターは輸送される水の量を示しており、水がプレートとともに地球内部に運ばれ、その一部が脱水反応にともなって周囲のマントルや乗り上げるプレートに移動していることが分かります。含水領域の厚さが27.5 kmの場合には(図1a)、プレートは急勾配で沈み込み、下部マントル(660 km以深)まで到達します。一方、含水領域の厚さが15 kmの場合には(図1b)、前者に比べプレート中に含まれる水が少ない(軽い領域が小さい)ため、プレートの平均密度が大きくなり、沈み込み速度が増大します。この場合、プレートの自重によって、乗り上げるプレートの加水(弱化)領域(水色コンター部分)が強く引き伸ばされます。その結果、沈み込み地点(図1bの矢印)が後方(図の左側)に移動することで沈み込み角度が緩くなり、上部/下部マントル境界付近 (地下660 km) にプレートが滞留します。地震波・GPS等の観測データに基づくと、東北日本の沈み込みがこれに当たると考えられます。

以上のように、本研究によって、プレートに含まれる水の量が沈み込んだ後のプレート形状やマントルの流れを支配する要因のひとつであることを初めて明らかにしました。水の影響を考慮することにより、東北日本を含む様々な沈み込み様式の違いを説明できる可能性があります。

図1. 2次元数値シミュレーションの結果。マントルの温度分布(白線)、マントルの流れ(黄色・水色の破線)、輸送される水の量(カラーコンター)を同時に計算しました。沈み込むプレート中の含水領域の厚さが (a) 27.5 kmの場合と、(b) 15 kmの場合とで、沈み込んだプレートの形状や発生するマントルの流れが大きく変化することがわかります。